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嬉しい
しおりを挟むその日から、青木くんは毎日わたしに
話しかけてくれるようになりました。
「ゆかりん何読んでんだ?」
わたしは手元の本から、青木くんに視線を
移しました。
「『ひまわり色のわたし』です。」
「それ映画にもなってたよな!めっちゃ感動したよ!」
青木くんは『ひまわり色のわたし』について
熱弁します。
頷きながら話を聞いているとショートカットの髪の女子が近づいてきました。
「あ、あの、私も『ひまわり色のわたし』読んでる……」
控えめに声を掛けてきたのは藤田さんです。
わたしのことをこのクラスで唯一『藍原さん』と呼んでくれていた人です。
「そうなんですね」
わたしは嬉しくなりました。
「「藍原さん
ゆかりん が笑った?!」」
「えっ?」
笑ってた?
わたしは唇の箸を触ります。
ちょっと口角が上がっているのがわかりました。
笑ったのなんていつぶりでしょうか。
「藍原さんって笑うと可愛いんだね」
藤田さんが微笑みました。
クラスがざわめきます。
「あのロボットが笑った?」
「可愛いじゃん」
佐藤さんは面白くなさそうな顔をしています。
「あの藍原が可愛いですって!?ふざけるのも大概にしてよね」
「でも可愛かったよな」
その一言でクラスの主導権は青木くんに
握られました。
そしてわたしの元に三人の女子が集まります。
「今までごめんね」
「ゆかりんって呼んでいい?」
「藍原さん意外と可愛いじゃん」
わたしは三人の女子達に囲まれて困惑します。
「はいはい、お前らそこまで!」
青木くんがわたしたちの間に割って入ります。
「ゆかりんが困ってるだろ?」
すると三人はハッとした表情になりました。
「ごめんねー」一人が謝り
「後でライン交換しよ」
「あ、わたしも!」と二人が言いました。
嬉しい。またこの感情が湧いてきます。
「あの……わたしもLINE交換したい……な」
わたしはにっこり笑いました。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
それから、わたしたちはすぐに仲良くなりました。
三人でいるとき、
楽しいという感情も芽生え始めました。
クラスメイトも『ロボット』ではなく
『藍原さん』と呼んでくれるようになりました。
青木くんは「変わったね」とわたしを
見て言いました。
「変わった?わたしがですか?」
そう尋ねると青木くんは頷きました。
「最初はさ、無表情で何を言っても心が動かなかっただろ?でも、今は感情が芽生えて表情豊かだ。俺
嬉しいよ。」
にっこり笑う彼にドキッとします。
「青木くんのおかげですよ」
わたしは微笑みます。
青木くん、ありがとう。
こんなわたしを変えてくれて。
母との関係修復はまだできていないけれど
わたしが感情を出したことで、母は
一緒に食卓で夕食を食べてくれるようになりました。
本当は辛かった。
母がわたしを無視する現状が。
クラスメイトがわたしのことをロボットと呼ぶ
現状が。
声が気持ち悪いわたしが。
でも、青木くんと出会えたことで
わたしは変わり、周囲も変わりました。
「可愛い声だね」
そう言ってくれたその時から。
わたしの声は気持ち悪くない。
そう言ってくれた気がして
自信がついたのです。
ありがとう。
今まで枯れていたと思っていた感情は
実は心の奥深くに閉じ込められていました。
「ありがとうございます」
そう言って笑うと
「2回もいわなくて良いから」と青木くんはわたしに
笑い返しました。
終わり
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