ヴァイオレットは幸せですか?

藤川みはな

文字の大きさ
50 / 55
第二章

訪問者

しおりを挟む

灰色の空に白い稲妻が走る。

ゴロゴロ……ドーンッ!!!!

「きゃあっ」

咄嗟に小さく叫んでしまった。
双子の弟妹たちはわたしのドレスにしがみつく。

「うわぁぁぁぁっ!!
お姉様助けてくださいぃぃぃっ!!!」

翡翠色の瞳を潤ませるヴェルデに対して
イリスはふんっと鼻を鳴らした。

「ヴェルデは怖がりだな。
僕はこんなのちっとも怖くないぞ」

そう言いながらも小さな肩は震えている。

「むぅ。絶対嘘です!
雷が怖くない人なんかいないもん!!」

そう言い合う2人はとても可愛らしい。

「ふふふ。
ヴェルデ、イリス。大丈夫よ。
雷も家の中には入ってこないから。
お姉様と絵本でも読みましょう?」

「絵本!!
お姉様!『シンデレラ』の絵本がいいです!」

打って変わってヴェルデは瞳を輝かせた。
そんな姉を呆れたような瞳で見つめるイリス。

イリスは大人びていますからね……。

なぜヴェルデがシンデレラを知っているのかと言うとヴェルデを寝かしつけているときに
どうしても絵本の内容が思い出せず
つい話してしまったから。
それで、わたしが自作の絵本を作ったのだ。
極力、前世の知識は封印するようにしているんだけど
ついうっかり言ってしまいました……。
ヴェルデとイリスには口止めしているけど
いつバレるか……。

小さくため息をつき苦笑いを浮かべる。

「分かったわ。シンデレラのお話ね」

机の引き出しの鍵を鍵穴に差し込もうとしたとき。

「ヴァイオレット!!!」

という声と共に勢いよく扉が開いた。

「お、お父様!!」

わたしは慌てて鍵を後ろ手に隠す。

「もうっノックもせず乙女の部屋に入ってこないでくださいといつも言っているじゃないですか!」

しかし、お父様はわたしの言葉をスルーし
わたしの肩をガシリと掴んだ。
その顔は真剣そのもの。

何かあったのだろうか。

「ヴァイオレット、よく聞きなさい。
今すぐ、別荘に行くんだ」

「……えっ?」

なんで別荘へ行かなければならないのだろうか。
不安と疑問が胸をよぎる。

「お父様、何かあったのですか?」
イリスが心配そうにお父様の顔を見上げた。

「ああ、心配はいらないよ。
ただちょっと困ったことが……。
ヴァイオレット。馬車は準備しているから
早く行こう」

お父様の焦燥した表情を見て
何かあったのだと確信した。

お父様はわたしの手を掴み部屋から出ようとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!!
一体何があったんですか??
説明してくれないと分かりません!」

「ヴァイオレット……
そうこうしてる時間はないんだ。ごめんよ」

申し訳なさそうな顔をするお父様。
それを見てわたしは何も言えなくなってしまった。

〈ヴァイオレット~ なんか白い服を着た人達が
屋敷の前にいるわよ~?〉

突如、セレニテが現れて不思議そうな顔をする。

白い服の人達?

なんだろう?と考えていると
騒がしい声が近づいてきた。

「失礼する!!」

「教皇様!! 勝手に部屋に入るのは
いくらなんでも!!」
ローレンが部屋に突入してきた男性に向かって
厳しい表情を向ける。
後ろには側近のような方達が数名ほど
2列に並んでいた。

男性は60代後半だろうか。シワが目立つ顔立ちに
細くて青い瞳をしていた。長い帽子のような白を基調とした金縁の被り物の隙間からは
白髪混じりの茶髪が見えた。
服はそれに合わせて白い長袖の
足首まである衣装を纏っている。

「ああ、まずい! 間に合わなかった!!」

お父様が苦虫を噛み潰したような表情になる。

一体これはどういう状況なの?

「公爵。強引に上がり込んでしまい申し訳ない。
だが、こちらとしても火急の要件があったのだ」

男性はチラリとこちらに視線を向け、
口元に笑みを浮かべた。

「私はリュミエール教会の教皇、
アンガス・リュート。

ヴァイオレット・アゼリア嬢。
貴方を教会に聖女として迎え入れたい」

え……?

わたしが聖女……?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...