半透明の彼女

藤川みはな

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初めてだけど最後のデート

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「理人くん、見て!可愛いイルカちゃん」

わたしはガラスごしに笑ったような顔のイルカと見つめあっていた。

今日は最後のデート。
初めてだけど。

だから、今日はわたしが行きたかった水族館に連れてきてもらったの。

初めての水族館に大はしゃぎしているわたしを
理人くんは静かに見つめている。

「可愛いね」
理人くんが笑ってちょっとドキッとする。

わたしは気恥ずかしくなって
イワシの魚群を見つめた。

あっ、そういえばもうすぐイルカショーの時間だ。

「理人くん、次イルカショー行こ!」

わたしは理人くんの手を掴んでイルカショーの会場に向かった。


「きゃーー!!」
イルカの水飛沫にわたしは声を上げる。
幽霊だから水はかかっても濡れないんだけど、
理人くんが抱きしめるようにして庇ってくれた。
理人くん、優しい!
キュンとしてしまう。

「大丈夫?」

「う、うん大丈夫だよ、ありがとう」

にっこり笑う。

それにしてもすごいな
イルカってあんなに賢いんだね!
合図しただけで、ジャンプしたり
泳いだり。

わたしは終始感動していたのだった。 


ふと気づくと夕日に空が染まっていた。
それと同時にわたしの体も金色に輝く。

もうすぐ時間だ。
それが分かると胸がぎゅっと締め付けられる。

「美花ちゃん」

理人くんが振り返り、悲しそうな顔をした。

そんな顔しないで理人くん。

「ごめんね。もう少し一緒にいたかったけど
そろそろ時間みたい。」

明るい声を出すけどそれとは裏腹に
温かいものが頬を伝う。

キラキラしたものがわたしの体から風に乗って消えていく。

理人くんはわたしに近づき指で涙を拭った。

「謝らないでよ。消えないで美花ちゃん」

それは無理だ。
だけど、それを言葉にすることはできなくて
わたしは唇を噛み締めた。

わたしの手はもう消えている。
時間がない。

「理人くん、今日はありがとう。楽しかったよ
わたしが消えても、他の人と幸せになるんだよ」

ずっと一緒に生きたかった。
それができたら、どんなに良かっただろう。

「バカ言わないでくれよ!!」

大きな声にわたしは驚く。
理人くんは今まで大声を出したことがなかった。

「ずっと一緒にいてよ」

悲しげな顔に、わたしも悲しくなった。

わたしは理人くんの唇にキスを落とす。

「ずっと見てるから、理人くんが結婚して、一生を終えるまで。一緒にいるも同然だから。

好きだよ、理人くん」

理人くんが泣きそうな顔になる。

「僕も……美花ちゃんのこと好きだよ」

泣きながら笑う、理人くんにわたしは
にっこり笑った。

「じゃあね」

そう言い終わると同時にわたしは消えた。

理人くん

幸せになってね。

それが、わたしの幸せだから。

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