隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中

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人生最高の瞬間

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 完全に油断していた。
 まさか、関さんがその身をゆだねてくるとは思いもよらなかった。

 こんな小っちゃくて、髪もサラサラしていて……つやも芸術的だ。てか、このクリームっぽい色は地毛なのだろうか……って、なにを真面目に観察しているんだ俺は!

「…………っ!」
「有馬くんのひざの上……気持ちい」

「せ、関さん……。こ、これは……いったい」
「……あ。ごめん、わたしってば……なぜか体が勝手に」


 急いで起き上がる関さんは恥ずかしそう俺から離れた。すげぇ慌ててる。俺は今になって心音が高鳴った。
 十秒にも満たない、刹那的なひざまくらだったけど人生最高の瞬間だった。

 ひざまくらされるより、する方が実は幸福なのかもしれない。


「いや、嬉しかったよ。十分癒された」
「じゃ、じゃあ……次は有馬くんの番だね。ほら、ここ」

 ひざの上へおいでと視線で誘惑してくる関さん。そんな子猫みたいな目で見られると……弱いぞ。

 だが、周囲に人通りも増えてきた。
 他人の視線がちょっとな。

「こ、今度でいいよ。さっき関さんをひざまくらできて俺は満足だから」
「それはその不可抗力というか……! なんか、ごめん……」

 関さんは謝りながらも顔を真っ赤にした。なんて可愛いんだ。


 気を取り直して寄り道を続けた。


 鬼塚公園をゆっくりと歩き、まだ知らないお互いのことを話した。


「俺はこの公園の近所に住んでる。ここから徒歩五分の場所に家があるから、いつでも寄れるよ」
「有馬くんの家ってそんな近いんだ。学校も近くて羨ましいな~」

「学校が近いとズル休みし辛くて大変なんだよね」
「あー、それはるかもね」


 散歩道を歩いていると、犬の散歩をしている主婦とすれ違う。犬は、なぜか俺の方へ寄ってきて甘えてきた。このパターンがかれこれ五回は繰り返されていた。


「おぉ、柴犬のライコウじゃないか……よしよし」
「わ~、有馬くんって犬に好かれてるよね。さっきから凄い」
「なぜか知らないけど昔から動物の方から寄ってくるんだ。そのせいか分からないけど、人間の友達はいなかったけど……」


 悲しいかな、動物の友達は多かった。これが人間の方に振り切っていれば、また違った人生があったかもしれない。けど、今はこれで良かったと思う。
 そうでなければ関さんと出会うことがなかったかもしれない。


「そうだ、関さんもライコウを撫でるといいよ」
「か、噛まない?」

「大丈夫だよ。ライコウは賢くて可愛いんだぞ、ほら!」


 よ~しよしと俺はライコウを撫でまくる。
 めちゃくちゃ嬉しそうに甘えてくるライコウ。本当に可愛いな、柴犬は。

 今度は関さんに撫でてもらう。


「い、いくよ」
「そんな怯えなくても大丈夫だよ。さあ、手を伸ばして」

「うん……」


 慎重に手を伸ばす関さん――だったが。



『ガウガウガウガウッ!!!』



 いつも温厚なライコウが目つきを変えて吠えまくった。



「ひぃやぁぁぁあっ!!」


 驚いて俺の背中に避難する関さん。なんてこった、ライコウが吠えるなんて……。こんな光景初めて見たぞ。

 その後も何度も挑戦するが、ライコウはとうとう威嚇いかくを始めていた。だめだ、こりゃ。


「関さんって、まさか……」
「うぅ……。犬も猫も好きなんだけどね、でもいつも嫌われちゃうの……」


 そ、そんな欠点があったなんて知らなかったぞ。前に会った時、子猫を助けていたけど……あれは生後間もない感じだったからな。たまたまセーフだったわけか。


「俺、動物に嫌われるタイプの人、はじめて見たよ」
「……穴があったら入りたい」


 しょんぼりする関さんは、頭を抱えてしまった。
 なんとかしてあげたいけどなぁ。
 むぅ、帰ったら調べてみるかな。


 一周回って鬼塚公園を出た。


 すると、ちょうど親父が目の前を歩いていやがった。


「ちょ、親父!!」

「……純!! し、しまった!!」

「逃げるんじゃねえ、クソ親父!」


 俺は親父の腕を掴み確保した。
 十七時三十六分、緊急逮捕だ。もう逃がさないぞ!


「……くそっ」
「なんで悔しがるんだよ。……丁度いい、関さんもいるから三人で話し合おう」

「なんだ、純。咲良さくらちゃんとデートしていたのか」
「デ、デート言うな。いや、間違ってはいないけどさ」

「許嫁の件、そんなに気になるか」
「あたりまえだ! いったい、関さんのお父さんと何を約束したんだ」

「よかろう。話してやらんでもない。ただし……」
「ただし?」


 親父は真剣な眼差しで俺と関さんを見た。なんだ、この重苦しい空気。いったい、どんな条件を突きつけてくるんだ……?
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