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第63話 100,000EXPが盗まれた [番外編]

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「レイジ! 困ったのじゃ!」


 帝国アイギスのほのぼのとした街をルシアと共に歩き、まったり露店巡りしていると困り顔のブレアが突然現れ、俺にすがりついてきた。


「ブレア、どうしたの?」

「経験値クリスタルが盗まれた……! られてしまったのじゃ……! しかも、一個で100,000EXPもあるヤツじゃ!」

「なんだって!? 最近作った高経験値クリスタルか。いや、それより、ケガとかないか?」


 俺はまず、大切な仲間であるブレアの身体からだを気にした。するとブレアは動きを止め、ブワツと涙目に。


「レ……レイジ、経験値クリスタルの事ではなく、こんな情けない自分を心配してくれるのか……」

「当たり前だろう。……うん、ケガはなさそうだな。けど、一応ヒールして貰っておこう。ルシア、頼めるか」


 俺が頼む前にもヒールの準備していたルシアは、ブレアに治癒魔法を施した。ふわぁっと聖女の力が包む。


「ありがとう、ルシア」
「いえ、これくらいはお安い御用です。それより、ブレアさんは大丈夫ですか? 強盗被害にったんです……?」


 ルシアがくと、ブレアは思い出したようにあわてて詳しい状況を話した。


「そうなのじゃ……! ヤツは青髪で、騎士の格好かっこうをしておったぞい。……恐らく、ケラウノス騎士団の関係者だと思う」


「騎士……となると、ケラウノスだろうな。分かったよ、俺が探してみるから、ブレアは戻ってくれ。ルシア、行こう」

「ええ」


 ◆


 この帝国アイギスは、かなり広い。
 広大ゆえ、歩いていれば日が暮れるし、走るとルシアを置いて行ってしまう。よって、この手段しかないだろうと俺は考えた。


「ルシア、すまないが……こうさせてもらうよ」

「きゃ!?」


 お姫様抱っこだ。


「ごめんな。これで屋根に飛び乗って行った方が早いと思うんだ。その、嫌なら……降ろすけど」

「そんな事、絶対にありません。わたしは、レイジさんと一緒がいいんです……!」


 ぎゅっ……と、ルシアは俺の首に腕を回す。もう離さないと欲張りさんになっている。だが、それがいい。


 やる気がアップしたところで、俺はあしをバネにして一気に民家の屋根へ――上手く飛び乗りて着地する。


「――おぉ、ながめがいいな」
「わぁ……レイジさん、こんな凄い跳躍ジャンプが出来るようになっていたんですね。三大騎士様のようにカッコイイ……」

「まぁ日々修行しまくっているからな。ほら、ルシアを守る為に頑張らないとだから」


 そう本音を言うと、ルシアは嬉しそうに俺の頬にキスを。ますますやる気が出た!!


「え、えーっと……とりあえず、強盗を」
「お任せください。聖女には『遠見スキル』があるんです。この見晴らしの良い場所なら、かなり有効的かと」


 遠見スキルか。支援・補助用であり、主にフィールドダンジョンでモンスターの索敵に使うものだが、もちろん街とかでも有効だ。

 次第にルシアの瞳が緑色に耀かがやく。
 どうやらサーチ中のようだな。


「どうだ?」

「――いました。南ですね」

「逃げる気か……」


 南といえば、国の外へ通じる玄関口。
 犯人は国外逃亡でもする気か?


 ◆


 一気に加速していくと、数分ほどで南門へ到着した。ルシアはずっとまぶたを閉じて、震えていた。ちょっと怖い思いをさせてしまったかも。


「大丈夫か、ルシア。ごめんね」
「いえ、いいんです」
「じゃあ降ろすね」

「ありがとうございます」


 ルシアを立たせ、経験値クリスタル強盗の犯人を追う。


「ルシア、追えるか? 青髪の男だ」
「青髪の騎士さんはそう何人もいないはずですから……ええ、いました」


 どうやら特定できたようだ。

 あっちです、と指をさしてくれた。そこへ視線を辿たどっていくと――いた、いやがった!! アイツだ。間違いない。今にも門を抜けようとしている青髪の騎士。


 俺は刀をさやから抜き――一気に加速、青髪の男の前に出た。


「――――うあぁッ!?」

「そこのアンタ。待ちな」

「……お、お前は……げぇッ! レ、レイジ・ハークネス!!」


「ほう、俺はアンタを知らないけどな」


「はは……そうだろうよ! オレは『ノン』の兄だからなあ! アイツの無念を晴らすために、経験値クリスタルを奪って、強くなってやるんだ!!」


 ……ノンの兄だって?

 そうか、それで青髪。

 しかもケラウノス騎士団の一員だったのか。


「ノンは……殺人を犯していた。それに、ライトニング家でバケモノになって……それで自ら――」


「うるせえッ! うるせえぇッ! レイジ、お前に何が分かる!! 可愛い妹を失くした兄の気持ちが分かるか!? えぇッ!?」


「……分かるさ。俺だって両親を失くしている。だから気持ちは痛い程分かるさ」


「…………」


 ピタッと動きを止めるノンの兄。俺はその隙をついて、高速移動。彼の背後に立ち、峰内みねうちをした。


「……ガハッ」


 見事に決まって、ノンの兄は倒れた。
 手からは100,000EXPを誇る経験値クリスタルがカラカラと音を立てて転がっていく。それをルシアが拾ってくれた。


「ノンさんのお兄さんだったのですね……。なんだか悲しいです」
「そうだな。でも、モノを盗んだ事には変わりない。情報部隊・マキマイズに引き渡すよ」


 そう、窃盗の罪は確かなのだから。


 ◆


 それから、ブレアにも強盗の件をマキマイズに話してもらい、解決した。ノンの兄はしばらくは娑婆しゃばに出られないだろう。


「本当にすまなかったのじゃ……」
「いや、ブレアの所為せいじゃないって。それより、引き続き経験値クリスタルの取引を頼む。もっとお金を作って、家を買いたいんだ」

「……レイジ、本当にありがとう。お主のそういう優しいところが好きじゃ」


 抱きついてくるブレアの頭をでた。


「それじゃ、俺はルシアを待たせているから」
「うん。また露店街に顔を出すのだぞ」


 指切りをして約束を交わし――、
 俺はルシアの元へ。



 湖のベンチに腰掛けている少女がいた。雪のような銀髪は風で揺れ、透き通るような白い肌は陽の光で煌めく。枢機卿カーディナルの礼服は、華やかで目立つ。

 その神々しくも無防備な後姿を、俺はながめていた。


「……」


 どの角度から見ても、ルシアは美しい。


 背後から抱きしめて、彼女の名を呼ぶ。


「ルシア」
「……レイジさん」


 ルシアの小さな手が俺の頬に触れる。


「今日はダンジョンへ行こう。高経験値クリスタルをいっぱい製造してさ、家を買って、一緒に暮らそう」

「はい、わたしはレイジさんと幸せに暮らしたいです」


 こっち来てと手招きされ、ベンチの前へ行くととなりに座らされた。そのまま俺の頭を手で押され――ルシアのひざの上に落ちる。膝枕ひざまくらされた。


「少しまったりしていく?」


 聞き返すが無言。
 顔を赤くするルシアは、顔を近づけてくる。
 黙ったまま俺の唇に重ねてきた。



 ――そうだな、もう少しまったりしていこう。経験値クリスタルの製造はそれからでも遅くはない。



 この【経験値製造スキル】は世界で唯一、俺しか使えないスキルなのだから、慌てる必要はないさ。
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