63 / 64
第63話 100,000EXPが盗まれた [番外編]
しおりを挟む
「レイジ! 困ったのじゃ!」
帝国アイギスのほのぼのとした街をルシアと共に歩き、まったり露店巡りしていると困り顔のブレアが突然現れ、俺に縋りついてきた。
「ブレア、どうしたの?」
「経験値クリスタルが盗まれた……! 盗られてしまったのじゃ……! しかも、一個で100,000EXPもあるヤツじゃ!」
「なんだって!? 最近作った高経験値クリスタルか。いや、それより、ケガとかないか?」
俺はまず、大切な仲間であるブレアの身体を気にした。するとブレアは動きを止め、ブワツと涙目に。
「レ……レイジ、経験値クリスタルの事ではなく、こんな情けない自分を心配してくれるのか……」
「当たり前だろう。……うん、ケガはなさそうだな。けど、一応ヒールして貰っておこう。ルシア、頼めるか」
俺が頼む前にもヒールの準備していたルシアは、ブレアに治癒魔法を施した。ふわぁっと聖女の力が包む。
「ありがとう、ルシア」
「いえ、これくらいはお安い御用です。それより、ブレアさんは大丈夫ですか? 強盗被害に遭ったんです……?」
ルシアが訊くと、ブレアは思い出したように慌てて詳しい状況を話した。
「そうなのじゃ……! ヤツは青髪で、騎士の格好をしておったぞい。……恐らく、ケラウノス騎士団の関係者だと思う」
「騎士……となると、ケラウノスだろうな。分かったよ、俺が探してみるから、ブレアは戻ってくれ。ルシア、行こう」
「ええ」
◆
この帝国アイギスは、かなり広い。
広大ゆえ、歩いていれば日が暮れるし、走るとルシアを置いて行ってしまう。よって、この手段しかないだろうと俺は考えた。
「ルシア、すまないが……こうさせてもらうよ」
「きゃ!?」
お姫様抱っこだ。
「ごめんな。これで屋根に飛び乗って行った方が早いと思うんだ。その、嫌なら……降ろすけど」
「そんな事、絶対にありません。わたしは、レイジさんと一緒がいいんです……!」
ぎゅっ……と、ルシアは俺の首に腕を回す。もう離さないと欲張りさんになっている。だが、それがいい。
やる気がアップしたところで、俺は脚をバネにして一気に民家の屋根へ――上手く飛び乗りて着地する。
「――おぉ、眺めがいいな」
「わぁ……レイジさん、こんな凄い跳躍が出来るようになっていたんですね。三大騎士様のようにカッコイイ……」
「まぁ日々修行しまくっているからな。ほら、ルシアを守る為に頑張らないとだから」
そう本音を言うと、ルシアは嬉しそうに俺の頬にキスを。ますますやる気が出た!!
「え、えーっと……とりあえず、強盗を」
「お任せください。聖女には『遠見スキル』があるんです。この見晴らしの良い場所なら、かなり有効的かと」
遠見スキルか。支援・補助用であり、主にフィールドダンジョンでモンスターの索敵に使うものだが、もちろん街とかでも有効だ。
次第にルシアの瞳が緑色に耀く。
どうやらサーチ中のようだな。
「どうだ?」
「――いました。南ですね」
「逃げる気か……」
南といえば、国の外へ通じる玄関口。
犯人は国外逃亡でもする気か?
◆
一気に加速していくと、数分ほどで南門へ到着した。ルシアはずっと瞼を閉じて、震えていた。ちょっと怖い思いをさせてしまったかも。
「大丈夫か、ルシア。ごめんね」
「いえ、いいんです」
「じゃあ降ろすね」
「ありがとうございます」
ルシアを立たせ、経験値クリスタル強盗の犯人を追う。
「ルシア、追えるか? 青髪の男だ」
「青髪の騎士さんはそう何人もいないはずですから……ええ、いました」
どうやら特定できたようだ。
あっちです、と指をさしてくれた。そこへ視線を辿っていくと――いた、いやがった!! アイツだ。間違いない。今にも門を抜けようとしている青髪の騎士。
俺は刀を鞘から抜き――一気に加速、青髪の男の前に出た。
「――――うあぁッ!?」
「そこのアンタ。待ちな」
「……お、お前は……げぇッ! レ、レイジ・ハークネス!!」
「ほう、俺はアンタを知らないけどな」
「はは……そうだろうよ! オレは『ノン』の兄だからなあ! アイツの無念を晴らすために、経験値クリスタルを奪って、強くなってやるんだ!!」
……ノンの兄だって?
そうか、それで青髪。
しかもケラウノス騎士団の一員だったのか。
「ノンは……殺人を犯していた。それに、ライトニング家でバケモノになって……それで自ら――」
「うるせえッ! うるせえぇッ! レイジ、お前に何が分かる!! 可愛い妹を失くした兄の気持ちが分かるか!? えぇッ!?」
「……分かるさ。俺だって両親を失くしている。だから気持ちは痛い程分かるさ」
「…………」
ピタッと動きを止めるノンの兄。俺はその隙をついて、高速移動。彼の背後に立ち、峰内をした。
「……ガハッ」
見事に決まって、ノンの兄は倒れた。
手からは100,000EXPを誇る経験値クリスタルがカラカラと音を立てて転がっていく。それをルシアが拾ってくれた。
「ノンさんのお兄さんだったのですね……。なんだか悲しいです」
「そうだな。でも、モノを盗んだ事には変わりない。情報部隊・マキマイズに引き渡すよ」
そう、窃盗の罪は確かなのだから。
◆
それから、ブレアにも強盗の件をマキマイズに話してもらい、解決した。ノンの兄はしばらくは娑婆に出られないだろう。
「本当にすまなかったのじゃ……」
「いや、ブレアの所為じゃないって。それより、引き続き経験値クリスタルの取引を頼む。もっとお金を作って、家を買いたいんだ」
「……レイジ、本当にありがとう。お主のそういう優しいところが好きじゃ」
抱きついてくるブレアの頭を撫でた。
「それじゃ、俺はルシアを待たせているから」
「うん。また露店街に顔を出すのだぞ」
指切りをして約束を交わし――、
俺はルシアの元へ。
湖のベンチに腰掛けている少女がいた。雪のような銀髪は風で揺れ、透き通るような白い肌は陽の光で煌めく。枢機卿の礼服は、華やかで目立つ。
その神々しくも無防備な後姿を、俺は眺めていた。
「……」
どの角度から見ても、ルシアは美しい。
背後から抱きしめて、彼女の名を呼ぶ。
「ルシア」
「……レイジさん」
ルシアの小さな手が俺の頬に触れる。
「今日はダンジョンへ行こう。高経験値クリスタルをいっぱい製造してさ、家を買って、一緒に暮らそう」
「はい、わたしはレイジさんと幸せに暮らしたいです」
こっち来てと手招きされ、ベンチの前へ行くと隣に座らされた。そのまま俺の頭を手で押され――ルシアの膝の上に落ちる。膝枕された。
「少しまったりしていく?」
聞き返すが無言。
顔を赤くするルシアは、顔を近づけてくる。
黙ったまま俺の唇に重ねてきた。
――そうだな、もう少しまったりしていこう。経験値クリスタルの製造はそれからでも遅くはない。
この【経験値製造スキル】は世界で唯一、俺しか使えないスキルなのだから、慌てる必要はないさ。
帝国アイギスのほのぼのとした街をルシアと共に歩き、まったり露店巡りしていると困り顔のブレアが突然現れ、俺に縋りついてきた。
「ブレア、どうしたの?」
「経験値クリスタルが盗まれた……! 盗られてしまったのじゃ……! しかも、一個で100,000EXPもあるヤツじゃ!」
「なんだって!? 最近作った高経験値クリスタルか。いや、それより、ケガとかないか?」
俺はまず、大切な仲間であるブレアの身体を気にした。するとブレアは動きを止め、ブワツと涙目に。
「レ……レイジ、経験値クリスタルの事ではなく、こんな情けない自分を心配してくれるのか……」
「当たり前だろう。……うん、ケガはなさそうだな。けど、一応ヒールして貰っておこう。ルシア、頼めるか」
俺が頼む前にもヒールの準備していたルシアは、ブレアに治癒魔法を施した。ふわぁっと聖女の力が包む。
「ありがとう、ルシア」
「いえ、これくらいはお安い御用です。それより、ブレアさんは大丈夫ですか? 強盗被害に遭ったんです……?」
ルシアが訊くと、ブレアは思い出したように慌てて詳しい状況を話した。
「そうなのじゃ……! ヤツは青髪で、騎士の格好をしておったぞい。……恐らく、ケラウノス騎士団の関係者だと思う」
「騎士……となると、ケラウノスだろうな。分かったよ、俺が探してみるから、ブレアは戻ってくれ。ルシア、行こう」
「ええ」
◆
この帝国アイギスは、かなり広い。
広大ゆえ、歩いていれば日が暮れるし、走るとルシアを置いて行ってしまう。よって、この手段しかないだろうと俺は考えた。
「ルシア、すまないが……こうさせてもらうよ」
「きゃ!?」
お姫様抱っこだ。
「ごめんな。これで屋根に飛び乗って行った方が早いと思うんだ。その、嫌なら……降ろすけど」
「そんな事、絶対にありません。わたしは、レイジさんと一緒がいいんです……!」
ぎゅっ……と、ルシアは俺の首に腕を回す。もう離さないと欲張りさんになっている。だが、それがいい。
やる気がアップしたところで、俺は脚をバネにして一気に民家の屋根へ――上手く飛び乗りて着地する。
「――おぉ、眺めがいいな」
「わぁ……レイジさん、こんな凄い跳躍が出来るようになっていたんですね。三大騎士様のようにカッコイイ……」
「まぁ日々修行しまくっているからな。ほら、ルシアを守る為に頑張らないとだから」
そう本音を言うと、ルシアは嬉しそうに俺の頬にキスを。ますますやる気が出た!!
「え、えーっと……とりあえず、強盗を」
「お任せください。聖女には『遠見スキル』があるんです。この見晴らしの良い場所なら、かなり有効的かと」
遠見スキルか。支援・補助用であり、主にフィールドダンジョンでモンスターの索敵に使うものだが、もちろん街とかでも有効だ。
次第にルシアの瞳が緑色に耀く。
どうやらサーチ中のようだな。
「どうだ?」
「――いました。南ですね」
「逃げる気か……」
南といえば、国の外へ通じる玄関口。
犯人は国外逃亡でもする気か?
◆
一気に加速していくと、数分ほどで南門へ到着した。ルシアはずっと瞼を閉じて、震えていた。ちょっと怖い思いをさせてしまったかも。
「大丈夫か、ルシア。ごめんね」
「いえ、いいんです」
「じゃあ降ろすね」
「ありがとうございます」
ルシアを立たせ、経験値クリスタル強盗の犯人を追う。
「ルシア、追えるか? 青髪の男だ」
「青髪の騎士さんはそう何人もいないはずですから……ええ、いました」
どうやら特定できたようだ。
あっちです、と指をさしてくれた。そこへ視線を辿っていくと――いた、いやがった!! アイツだ。間違いない。今にも門を抜けようとしている青髪の騎士。
俺は刀を鞘から抜き――一気に加速、青髪の男の前に出た。
「――――うあぁッ!?」
「そこのアンタ。待ちな」
「……お、お前は……げぇッ! レ、レイジ・ハークネス!!」
「ほう、俺はアンタを知らないけどな」
「はは……そうだろうよ! オレは『ノン』の兄だからなあ! アイツの無念を晴らすために、経験値クリスタルを奪って、強くなってやるんだ!!」
……ノンの兄だって?
そうか、それで青髪。
しかもケラウノス騎士団の一員だったのか。
「ノンは……殺人を犯していた。それに、ライトニング家でバケモノになって……それで自ら――」
「うるせえッ! うるせえぇッ! レイジ、お前に何が分かる!! 可愛い妹を失くした兄の気持ちが分かるか!? えぇッ!?」
「……分かるさ。俺だって両親を失くしている。だから気持ちは痛い程分かるさ」
「…………」
ピタッと動きを止めるノンの兄。俺はその隙をついて、高速移動。彼の背後に立ち、峰内をした。
「……ガハッ」
見事に決まって、ノンの兄は倒れた。
手からは100,000EXPを誇る経験値クリスタルがカラカラと音を立てて転がっていく。それをルシアが拾ってくれた。
「ノンさんのお兄さんだったのですね……。なんだか悲しいです」
「そうだな。でも、モノを盗んだ事には変わりない。情報部隊・マキマイズに引き渡すよ」
そう、窃盗の罪は確かなのだから。
◆
それから、ブレアにも強盗の件をマキマイズに話してもらい、解決した。ノンの兄はしばらくは娑婆に出られないだろう。
「本当にすまなかったのじゃ……」
「いや、ブレアの所為じゃないって。それより、引き続き経験値クリスタルの取引を頼む。もっとお金を作って、家を買いたいんだ」
「……レイジ、本当にありがとう。お主のそういう優しいところが好きじゃ」
抱きついてくるブレアの頭を撫でた。
「それじゃ、俺はルシアを待たせているから」
「うん。また露店街に顔を出すのだぞ」
指切りをして約束を交わし――、
俺はルシアの元へ。
湖のベンチに腰掛けている少女がいた。雪のような銀髪は風で揺れ、透き通るような白い肌は陽の光で煌めく。枢機卿の礼服は、華やかで目立つ。
その神々しくも無防備な後姿を、俺は眺めていた。
「……」
どの角度から見ても、ルシアは美しい。
背後から抱きしめて、彼女の名を呼ぶ。
「ルシア」
「……レイジさん」
ルシアの小さな手が俺の頬に触れる。
「今日はダンジョンへ行こう。高経験値クリスタルをいっぱい製造してさ、家を買って、一緒に暮らそう」
「はい、わたしはレイジさんと幸せに暮らしたいです」
こっち来てと手招きされ、ベンチの前へ行くと隣に座らされた。そのまま俺の頭を手で押され――ルシアの膝の上に落ちる。膝枕された。
「少しまったりしていく?」
聞き返すが無言。
顔を赤くするルシアは、顔を近づけてくる。
黙ったまま俺の唇に重ねてきた。
――そうだな、もう少しまったりしていこう。経験値クリスタルの製造はそれからでも遅くはない。
この【経験値製造スキル】は世界で唯一、俺しか使えないスキルなのだから、慌てる必要はないさ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,750
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる