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第94話 六人の権力者

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 テスラも食事へ向かった。
 また入れ替わるようにして、フォースが俺の部屋に入ってきた。だが、様子がヘンというか、顔をしかめていた。

「………………」
「ど、どうしたよ。なんか顔が怖いぞ」

「……ユメからテスラの匂いがする……」
「え……!」

 まず、あの甘い匂いが移っていたか……。

「あ、ああ……さっき俺の部屋にいたからな。それで匂いが残ったんだろう。俺じゃない、部屋だ」
「…………ほんと。じゃあ、確認する。抱っこして」

「い、いいぞ~」

 俺は、正面からフォースを抱っこした。
 すると、フォースは鼻をスンスンさせ、俺の身体に染み付いているであろう……残り香をいだ。まずい……。

「…………やっぱり、テスラと同じ。むぅ!」
「怒るなって。彼女はずっと独り身だったからさ、寂しかったんだよ」
「そうなの~。じゃあいいけど……むぅ」
「もう、ふくれるなって。ほら、いっぱい抱っこしてやるからさ」
「……うん」

 渋々しぶしぶとフォースは俺に身を預けた。

 あぶねーあぶねー。
 嫌われるところだった……。


 ――さてと、外の状況は……変わりなし。

 相変わらず猛攻が続いている。だが、こちらも兵器でどんどん敵軍を減らし、殲滅せんめつしていた。敵の数が減ると、また後からわんさか湧いて出てきていた。キリがないが、こっちもそれ以上で迎え撃っているので安全は確保できている。

「フォース、明日、敵本陣を討ちに行く。いいな」
「決着をつけるんだね。いいよ、あたしはユメについていく。みんなも来るよ、きっと」
「そうだな。みんなで行こう。そして、この悪夢から覚めるんだ」

「……分かった。ひとつ言っておくね」
「ん」


「タイムリープはもう二度と出来ない。以前、100万回行った。その間でたくさんの過去改変が起きたの。その修正も大変だった……。だから100万回掛かった。……あれは、あたしの罪。とても苦しかったけれど、でも、こうして今はユメと幸せ。だから、これ以上……過去イテ現在ミサ未来エストも壊したくない」


 フォースの『100万回の奇跡』のおかげで今がある。
 その100万回の間に何があったのかは、全てを聞いても時間も足りなければ、理解も追い付かないだろう。様々な要素や過程、因果律のうえでようやく、世界は正しく再構築され、成り立った。

 そう、この世界へ修正されるのに『100万回』だ。

 それは、とても重い。
 そんな言葉ですら足りないほどに。

「気持ちは痛いほどによく分かった。タイムリープは二度と使わない」
「良かった。使う可能性を少しでも示唆しさすれば、あたしはユメを嫌いになるところだった」
「フォースの嫌がることを強要するわけないだろう。言ったろ、100万回愛してやるって」
「うん、ユメ♡ 大好き♡」
「俺もだぞ~。今日も特等席を触っていいか」
「いいよー♡」

 いつも以上にフォースは甘えてきた。
 ……よしっ。今日は思いっきり可愛がろう。


 ◆


 俺はみんなをリビングに召集し、明日の計画を話した。

「その秘密結社・メタモルフォーゼを倒せばいいのね」
「そうだ、ネーブル。テスラが言うには、敵は六人いるらしい。そうだろ?」

「はい。各属性国の裏社会で、大きな権力を持つ人たちです。その六人の名を『アインス』、『ツヴァイ』、『ドライ』、『フィーア』、『フンフ』、『ゼクス』といいます。その中でもフィーアは、儀式の研究をしていたようで、妻を魔神にしたほどです」

 その情報は初めて聞いた。

「まて、妻を魔神だって……?」

「ええ、詳しいことは分かりませんが、魔神の名を『ディオネ』と言ったかと思います。彼女もまた『ナイトメア』の研究を進めていたと」

 そうだ。
 ディオネは確かにナイトメア研究をし、俺たちをかなり苦しめた張本人だった。……そうか、あのナイトメアも今回のも、この為に。

「ヤツ等は、最初から最後まで裏でやりたい放題やってたってわけだな」
「その通りです。そして、この戦いに勝つには、秘密結社へ突入し、彼らを倒すしかありません。ですが、彼らも一枚岩。一筋縄ではいきません」

「覚悟の上だ。よし、最後に確認する。ゼファ、ついて来てくれるか?」

 ゼファは祈るようにして、俺を真っすぐ見つめた。

「もちろんです。わたくしはユメ様を、みんなを支援いたします」
「ありがとう。次は、ネーブル。この前、負傷したし……俺としては無茶はして欲しくない。でも、無理強いもしたくない。だから……」

「ついていく。ひとりで残ってなんてられないよ。今度はそばにいるし、いざとなったらユメが守ってくれるって信じてる」

 ……考えるまでもなかったな。
 そうだ、昔も今も、これからも俺は皆を守っていくんだ。

「分かった。ぜひ来てくれ」
「うん!」

「フォース。返事は分かっているが、聞かせてくれ」
「この先の未来は、あたしのソウルフォース――『炯眼けいがん』をもってしても読み取れない。つまり、確定した未来はないの。自分で切り開いていくしかない。でも、ひとりでは無理。みんなで行こう」

「ああ、必ず勝とう。
 ……最後にテスラ。キミはもうパラドックスの住人だ。最後までついて来てくれるよな」

 拳を強く握りしめるテスラは、吹っ切れた顔で瞳を輝かせた。
 もうあのうつろはそこにはなかった。

「私は、皆さんの為に全力をくすことを誓います」


 全員の想いは受け止めた。


 デイブレイク夜明けを待ち――出陣だ。
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