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第155話 スーパービギナー

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 風の帝国キリエの中央噴水広場。そこにあるベンチで、ネーブルの話に耳をかたむけていた。

「――昔から不器用でね~」

 どうやらこの初心者少女、ネーブルは幼少から冒険に憧れていたらしいが、あまりの不器用さに何度もパーティやらギルドを追放されていたらしい。


「それでも諦めずに初心者ながら努力した――と」
「そ。未だに初心者クラスだけど、でも、今はそれに誇りさえ感じてる。わたし、このままスーパー・・・・ビギナー・・・・になろうと思う」


「スーパービギナー?」


 聞いた事のない単語だった。
 頭を傾げていると、俺の隣にピッタリくっ付いているフォースが口を開いた。


「初心者の上位職。言うなれば、超初心者・・・・。通常の初心者と違って、一点特化型だから、極めればかなり強い。夢幻騎士に匹敵する」


 なるほど。騎士とか魔法使い、弓職や鍛冶屋とかあるけど、超初心者なんてクラスは初耳だったな。それから、フォースはもう一言付け足した。


「でも、その境地に到達するのに困難を極める」
「難易度が高いんだな」
「うん、修羅の道」


 そりゃ、骨の折れる。
 でも、面白そうだ。このネーブルがどう成長するか、どのような道を極めるのか、それを俺は見てみたいと思った。


 ――となれば。


「ユメ様~」


 立ち上がろうとしたその時、修道服に身を包んだ銀髪の少女が俺の前に現れた。この天使のような可愛い声の少女は間違いない。


「ゼファ、おかえり。買い物は済んだかい」
「はい、ユメ様とフォースちゃんのお洋服、それと冒険用の回復ポーション、状態異常回復ポーション、モンスター忌避ポーションとか」


 指で数える仕草がいちいち可愛い。
 驚くべき事に、ネーブルもそりゃ美人の容姿とか大きな胸のせいか、冒険者の視線を集めていたが――ゼファが来た瞬間、彼女へ移った。
 やっぱり、聖女の美貌は最強すぎるな。


「あの~、この美しい金色の髪の女の子は……」

「わたしは、ネーブルよ。さっきそこの酒場でユメに助けられてね。話を聞いて貰っていたの。貴女……もしかして、有名な聖女様? わぁ、凄いわね、肌綺麗すぎでしょ」

「よ、よろしくお願いしますね、ネーブル様」


 やや困惑しながらも、ゼファとネーブルは握手を交わした。それから、俺は手を鳴らし、提案した。


「ネーブル、とりあえずさ、暫定でいい……俺のパーティに入らないか?」
「え……ユメの? 誘ってくれるの?」

「ああ、ここまで聞いたんだ。今更見捨てるなんて真似も出来ないよ。ネーブルが良ければ、だけどな」

 ネーブルは、ややうつむいて――けれど、少し涙を目尻に溜めて、嬉しそうに「よろしく」と俺に微笑んだ。

「よろしくな」
「パーティに誘ってくれてありがとう、ユメ。わたし、人生で初めてパーティに誘って貰った……。今まで自分から声掛けしていたから……すっごく嬉しい。フォースちゃん、ゼファさんもよろしく」


「よろしく」
 フォースは短くだが返事をした。
 ほう?


「よろしくお願いしますね、ネーブル様」
 ゼファは柔らかい表情で。



「決まりだな。じゃあ、借りてる宿屋へ戻ろうか」


 ◆


 宿屋・グラドナス。
 そこが現在の拠点だった。

 木造の落ち着きのある喫茶店風で、内装もその昔の名残があるらしい。そのせいか、なかなか予約の取れない人気宿なのだが、実はこれはフォースの要望だった。

「ユメってお金持ちなんだ……こんな良いところに宿泊とか」

 ネーブルがポカンとしていた。

「これでも勇者だからな、今まで数多の高難易度ダンジョンとか攻略していたし、お金にはそれほど困ってないよ」
「そ、そう……本当に凄い」

「それじゃ、行こうか」


 自室に戻り、案内した。

 部屋に入ると、ネーブルが開口一番に驚く。


「え、この部屋広すぎない!? 窓でかっ……ベッドの数多すぎ、テーブル広い。あと、高級のお菓子とかお茶とか!」
「そ。VIPルームだからね。ベッドが四つもあるんだよ。俺、フォース、ゼファ、ネーブルで丁度いいわけだ」

「…………」


 驚愕するネーブルさん。そっか、今までこういう経験はなかったみたいだな。


「ててて、ていうか……ユメと同じ部屋? フォースちゃんとかゼファさんは……その、恥ずかしいとか、嫌だ~とかないの?」


「ない」
 やっぱり即答のフォース。


「ありませんね。ユメ様は、とっても紳士な方なのですよ。わたくしは、心より信頼しております」

「……す、凄い信頼関係なのね」


 圧倒されるネーブルは、落ち着きがなかった。まあ、確かに初日でいきなり同じ部屋ってのもアレか。

「しゃーない。俺は外で寝るよ」
「絶対ダメ」

 フォースが怒った表情で俺の服を引っ張った。そんな、ぎゅぅっと力をめられると、困った。

「分かった分かった。ほら、抱っこしてやるから」

「いい。ゼファに抱っこしてもらう」

 珍しく俺ではなく、ゼファに飛びつく小さき魔法使い。そういえば、最近はゼファにも甘えるようになったな。良い傾向だ。


 フォースを全身で包み込むゼファは、もはや聖母の域だった。……ちょっと羨ましいな。なんて二人を眺めていれば、ネーブルが慌てて言った。


「そ、その、わたしも今日から一員なのだから、いち早く慣れるよう努力するわ。だから、気にしないで」
「無理はしなくていいからな。じゃ、しばらく休憩ね」

「う、うん」


 しかし、この後が大変だった――…。
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