偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ

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偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・43

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 12月の最後の日。
 その日は朝からルームウェアで過ごす。夜まで…いや1月に入っても3日間はスーツを着ないこと。そうニグレドに約束させられた。ちょっとした仕事はいいが、ペントハウスでだらだら過ごすんだとも釘をさされた。
 こうした「休み」をとるのは、いつぶりだろうか。実際、メテオラに来てからはなかったかもしれない。それは休んだとしてもすることがなかったからでもある。
 昼食後、リビングでゆっくりコーヒーを飲みながらタブレットで新聞を読む。横では私の肩に頭をもたせかけてダラリとソファに身を崩し、モバイルでピコピコ音をさせているニグレドがいた。彼は髪に櫛さえ入れておらず、かきあげられてはいたが毛先はバラバラと寝癖をつけたままだった。
 それを微笑ましく見てしまう。
 スーツでキリッとした彼も好きだが、こうした寛ぐ彼も好きだった。警戒心の高いニグレドがぐうたら気を抜いているのは、私だけが特別なものを見ている気になる。
「そう言えば、いつも熱心に何かしているが…何をしているんだ?」
「ん? パズルだ」
 モバイルの画面を見たままニグレドが言う。彼の手元を見れば、バラバラに並んだカラフルなブロックをあっちこっちと入れ替えていた。
「なんだ、なかなか古典的なゲームをしていたんだな」
「意外か?」
 ニグレドの指が器用にパズルを解いていく。
「お前も暇なのか?」
「暇でいい、休みだ」
 あ、そうか。そうだった。
 なら何をしてもいいのか。だからと言って何をするのかは思いつかず、私はニグレドの髪に頬を擦り付けていた。時折、一筋だけ白い毛が生えている髪に不思議だなと思いながらキスをしていると、ニグレドのパズルをする手が止まり始める。
 キスをせずじっとしているとまた手が動き始めるが、キスすると止まる。面白くてからかってしまう。
「邪魔してるだけか? それとも誘ってるのか?」
 ニグレドが顎を上げて私をようやく見た。返事は曖昧にして笑いかけた。
「どうしてここだけ白いんだ?」
「生まれた時からだ」
「スラッシュってあだ名はこの髪があるからだろ?」
 確かに黒髪にスラッシュを入れたように見える。指でなぞると、ニグレドは目を細める。彼はどうやら私に頭を撫でられるのが好きみたいで。
「多分な。俺が決めたわけじゃない」
 ニグレドはモバイルを机に放ると、私の膝に頭を乗せた。そのまま髪を指で櫛づくと心地良さそうにしていた。じっと隻眼で見上げつつ。
「ここは。どうしたんだ?」
 眼帯を撫でる。聞きたくても聞けなかったひとつだ。
「大昔、ひとにやっちまった」
 ニグレドは何でもないふうに言う。
「やった? あげたってことか?」
「まだ若い頃に、人狼狩りの人間に酷く追い回されたことがあってな。それを助けてくれた奴が対価に欲しいと言ってきた」
「そんなことが…でも何故、その人物は人狼の目玉を欲しがったんだ?」
「わからん。聞かなかった。ただ錬金術師のような格好をしていた。そいつは俺を北欧の森に逃し、それからは会ってない。人間か別の種族かもわからねえな。もうずいぶん昔のことだ」
 彼の眼帯を撫でる。そっとその下に指を入れて歪になっている瞼を撫でた。きちんと閉じられてはいるがまつ毛はなく、やはり眼窩に丸みはなかった。
「痛くはない?」
「ああ」
「そうか」
 ホッとする。だがニグレドは付け加えた。
「たまに、疼くが」
「疼く? 辛いのか?」
「寒いとな。皮膚が冷えるとじわじわと沁みるような。だから眼帯をしてる」
 知らなかった。
「ならもっと裏が暖かい眼帯を…」
「いいんだよ、これで。変に細工すると汗で蒸れて痒くなる。隠れてるだけでいい」
「そうか…」
 しばらく眼帯下の傷を撫でていたが、そっとめくり、傷をあらわにする。嫌がるかと思ったが、ニグレドはじっとしていた。取った眼帯はサイドボードに置き、潰れてしまった方の目を撫でる。
 彼はやはり心地よさそうにしていた。
「不気味じゃねえか?」
「気にならない。ただ、痛いと聞いて不憫だなと」
「慣れてる。問題ない」
 それでもどうにかしてやれないかと考えてしまう。それを察知したのか、ニグレドは少し笑うと、
「ならたまにこうして撫でてくれ」
 そう言った。
「気持ちいい? こうされてるのは」
 髪や頬を撫でる。彼の手が私の膝をさする。
「ああ」
 目を閉じ、私の腹に額を擦り付けた。
 屈んでその潰れた瞼にキスをする。ニグレドが小さく息を漏らす。
「これは?」
「……もっといい」
「たくさんしてやる」
 チュッチュとリップ音をさせ、傷に口づけた。くすぐったいのか低く笑い、それでも逃げてはいかなかった。
 ニグレドがムクリと身体を起こす。そのまま隻眼を目で追っていたら、すぐに唇が奪われた。
「ん…」
 甘いキスに、すぐとろける。広い背中に腕を回して撫でる。彼の大きな手が髪を撫でてくる。キスをされながら頭を撫でられるのが好きだった。安らぐ。彼もだろうか?
「まだ昼だが…ベッド行くか?」
 キスの合間にニグレドが囁く。
「あ、今日は年越しだから…夜に…」
「何だ、夜になんかあるのか」
「……年を越えながら…その」
 誰かと抱き合って年を越した記憶はない。だがあまりにもわかりやすい願いで、少し恥ずかしくなった。
 ニグレドにまた初心だと言われるだろうか。
 間近で見つめている、隻眼。
 それは鋭いけれど優しげで。
「……お前、ホントに可愛いな」
 そう言われて、私は頬が熱くなるのを感じた。
 俯くと、クックッと低く笑う声がして、身体を抱き上げられた。彼の首に無意識に縋ると
「安心しな、夜もちゃんと可愛がってやるからよ」
 そう言って、ニグレドは私を寝室へとさらった。





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