偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ

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偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・57 (R)

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「そう言えば、そろそろ一年だなァ」
 御機嫌伺いで連絡してきたクリスチャンが、電話口で言う。
「何がだ?」
「何がって、お前があの人狼と出会ってからだよ」
 ああ…唐突に言うから何のことかと思ってしまった。私はひとりリビングで頷き、同意する。
「ああ。そうだ。早いものだ」
「どうだ? 仲良くしてるか?」
「そうだな、睦まじく暮らせていると…思う」
 キッチンで食後のコーヒーを淹れているニグレドの背中を見た。丁寧にドリッパーに湯を回し入れている。不意に片腕を背に回してボリボリとかいている姿を見て、それさえ微笑ましくて口角が上がる。
「いいね、いいねェ…なんか祝いでもすんのか? なんならキューブに来るか? 祝ってやるぜェ?」
 クリスチャンがそう言ったが、ニグレドは嫌がるかも知れないなと思い、丁寧に辞退した。
「少し大仕事があるからな、それが終わったら記念日を2人で祝うさ」
 私はそう言って、クリスチャンに別れを告げると電話を切った。丁度2つマグを持ってニグレドがリビングに戻ってきた。
「熱いぞ、ミルクを温め過ぎた」
「ありがとう」
 私の前にカフェラテを置き、自分はほんの少しミルクを足したブラックを啜る。私の隣に座り、ネルシャツのボタンを外す。
「冷ましてる間に…ほら」
 ニグレドは自分の首筋を撫で、私を引き寄せる。
「いいのか? 明日は警察の手入れに参加する日だぞ。あまりお前から力を奪いたくはない」
「どうってことない、これくらい。最近はそんなぐびぐび飲まねえだろ?」
「そうだが…」
 そうは言っても、彼の晒された首筋を見ると食欲が湧く。愛するひとの血潮の気配は、私にとっては極上の酒のように芳香する。ニグレドの胸板を撫でて、その逞しい首筋に唇を這わせると途端に疼き身を捩る。彼は「ほら、腹減ってんじゃねえか」と笑った。
「じゃあ少しだけ」
「遠慮するな。ちゃんと腹を満たせ」
 優しく囁くように言うニグレド。まるで母親が赤子に乳をやるように抱きしめ引き寄せられる。私はそれに身を委ねる。幸福で体が満たされ、うっとりとしてしまう。
 張りのある首の皮膚に歯を立てる。そっと差し込み、溢れる血を吸う。温かい胸の上に掌を置いて。
 美味しい。
 温かくて濃厚で、いくら飲んでも、飽きない。
 人血のように具合が悪くなることもないし、私に活力を与えてくれる愛しいひとの血。
 掌でゆっくりと鼓動する心臓を感じながら。
「ん…」
 ゆっくり味わいながら飲んでいると、ニグレドが低く呻く。
 目を開いて彼の顔を見ると、薄い唇を少し開いて、自分の犬歯を舌で探っているのが見えた。長い睫毛が震えている。
 感じてる? 気持ちいいのか?
 その艶やかな表情に、ときめく。
 腰骨に押し付けた下腹を少し揺らすと、彼の手が私の尻に触れた。ゆっくりと温かい掌が丸みを確かめるように撫でてくる。
 官能的で、私も恍惚としてしまう。
 食欲と愛欲が同時に満たされる。吸う量は抑制しながら、尻を揉まれるに任せ、私は腰を揺らす。露骨に彼の指が布越しに私の双丘の割れ目へと潜り込む。
 お返しとばかりに、彼の臍下からスエットの中に手を忍び込ませ、ピッタリとした下着の上から股間を撫でた。それはすぐに力を持ち、膨らむ。
 ニグレドは少しギョッとした様子で咳払いし、呟く。
「悪いテクを身につけたな、レオ」
 その言葉は、咎めるようであり、悦んでいるようでもあった。ウウ…と吐息混じりの唸り声を上げながらニグレドは私に身を任せてくれる。
 吸血を終え、彼の首筋を慰撫するように舐めて口づけた。傷はすぐに消えてゆく。それが少し寂しい。
「は…、ありがとう。ニル」
「腹一杯か?」
「うん……美味しかった」
「そうか」
 ご馳走様とキスをする。彼は血に濡れていた口内を綺麗にするように舌で探り、その間に私のパンツと下着をつるりと剥いてしまう。
「待って、ローション取ってくる」
「俺が濡らしてやる。……たまにはいいだろ?」
「あっ」
 ソファにうつ伏せにされ、尻だけを擡げられる。温かな柔らかい感触がぬるりと後孔に触れた。
「あっ…、あ…」
 くすぐったいような、肌が泡立つような快感。窄まりを舌で押されて無意識に腰を引いてしまうが、その度にニグレドに引き戻された。
 濡れた音をさせながら丹念に舐められる。温かい両手は私の双丘から太ももをくすぐるように撫で探り、性感を高めてくる。
「ニル…、ニル…」
 呼びながら、自身の雄を握る。こぼしてしまいそうだった。彼の片手が離れ、テーブルからコーヒーの入ったマグを持ち上げる。視界の外でそれを飲み、口の中をリセットさせたようだ。
 マグがテーブルに戻ると、ニグレドは私の腰を掴んで自分の膝に跨がせる。
「こっち向きはいや…そっちがいい」
「なら、ぐるっとしな」
 私は彼がスエットをずらしていると同時に跨ぎ直して、彼の方を向く。肩に手を置いてキスをすると、コーヒーの味がした。
「ん…、お前は俺の顔見てるのが好きなのか?」
 唇を触れ合わせたままニグレドが言う。
「お前は嫌か?」
「いや」
「ならこっちがいい」
 頭を胸に抱き込む。シャンプーの香りがする少し硬い髪に頬擦りして、一筋走る白い髪に口付けする。
 ニットを捲り、私の腰を掴むと雄先がひたりとくっつく。ぬる…と滑り、的が定まらないかと私は手を添える。
「エロいな、レオ…」
「だって…、あ…ン…」
 硬い膨らみがはいってくる。どうしても力んでしまい、ニグレドが呻く。彼が私の胸から顔を上げて、首を伸ばしてキスをした。力みをとるように、舌を吸われ…私の身体は次第に沈む。
「あっ!」
 最後はタンっ、と下から突かれて奥まで貫かれた。
「自分で動くか?」
「……、…ん…」
「気持ちよく、なってみな」
 低い声が言う。胸から見上げてくる赤い隻眼を見下ろしながら、私はゆっくり腰を揺らす。
「ん…ん…」
 ぎこちないのはわかっている。私はいつもニグレドに任せきりで、自分がどうすれば気持ちいいのかもわからないのだ。跨っても、力任せに腰を振るばかりで、上手くなったと感じることもない。
「ニル、…やり方、わからな…い…」
「気持ちよくなんねえか? …こうすると、どうだ?」
 ニグレドの手が、ソファについていた私の膝を掬い上げる。
「!…あっ!」
「いいか。……腕離さねえから、動いてみな」
「ん、…っ、ん…あ、アッ」
 ニグレドの膝の上で、前後に腰を揺らす。がっしりと二の腕を掴まれているから、安心して快感を追いかける。
「あっ! …っ、ニル…気持ち、い…っ」
「いいか。…痛くねえか?」
 短い息をつきながら、彼は優しく囁く。
 私は頷きながら、より強い快楽を求めて膝を開く。ニグレドが私を見ている。酷く卑猥な体位をしている自覚はあった。なのにもっと見られたいという欲望に自らを浸す。
「ニル…もっと見て…」
「……、…」
「私の、全部…見て…」
 隻眼がギラリと獰猛に光る。
 その瞬間がたまらない。ニグレドが私を欲しがる、その瞳。
「ア、んっ!」
 思った通り、我慢ができなくなった彼は私の身体を引き寄せソファに倒す。のしかかり、丸めた私の上から突き入れてくる。
「レオ…っ」
 切羽詰まったような、呼ぶ声。
 いつもは何にも興味がなさそうな淡白な瞳が、今は私に夢中で輝いている。瞬きさえも惜しむようにじっと見つめられ、そこに愛を湛えている。
 たまらなく愛しい。
「ニル…、ニル…っ!」
 腕を伸ばし、彼の首にしがみつく。
 ニグレドが微笑む。
 この顔は、私だけしか知らない。
 私のもの。
 だから私も、彼にしか見せない。
 私の淫らな姿は、ニグレドのものだ。



 一緒にシャワーを浴びて、リビングに戻ってくると、当たり前だがコーヒーは冷え切っていた。寒い時期だが身体は熱っていたから、それを飲んだ。冷めていても美味しい。
「シャツどこいったかと思ったら、何だ。お前が着てたのか」
 一足遅くニグレドがリビングに戻る。スエットだけを履いて、上は裸だった。
「ん。…いけなかったか?」
「……悪くねえ」
 マグを持っていた私の腰を引き寄せる。
「彼シャツってやつだな」
「何だそれは」
「何だ、知らねえのか」
 彼シャツなるものを教わりながら、私達は寝支度をする。なるほど、事後にサイズオーバーの恋人の服を着ること…確かに太もも半分まで隠れる丈で、ニグレドもそれが気に入ったようだ。ニコニコ…いやニヤニヤしながら眺めている。
 今や、眠るのも私のベッドになっているニグレドは歯を磨き終えると当たり前のように私の元へ来る。それがいまだにウキウキするわけだが、いつまでこんな新鮮な気持ちでいられるだろうと思いもした。
「このまま、着て眠ってもいいか?」
 先にベッドに入った私は、ニグレドを見上げて訪ねる。彼はまだ上裸だ。
「いいぜ。……やるよ、それ」
 私の横に体を滑り込ませながら言う。
「……」
「何だ、いらねえのか?」
 肩肘をつき、覗き込まれる。
「だって」
「?」
「貰ったら、私のものになるだけで、彼シャツとやらにはならないだろう?」
「……」
 私としては、ニグレドの香りがする彼のシャツを着ていたいわけで。決して欲しいわけでは…
 と、彼がキスをする。歯磨き粉の爽やかな香りがした。
「お前は可愛いな」
「え、いや、だって」
 おかしなことを言っただろうか? 何だか照れ臭くなり、熱くなる頬のまま彼を見上げていたが、ニグレドは優しく微笑んでいた。
「さ、眠れ。俺も明日は朝が早い…」
 彼が枕に頭を沈める。私はその脇の隙間に身体を埋めた。
「うん。…何時に出るんだ?」
「ヴラドファミリーとは5時にと」
「そうか、見送るよ」
「寝ててかまわん」
 私は首を振り、見送る約束をする。
「ヴラドの皆をよろしくな?」
「ああ…」
 ニグレドは目を閉じる。
 私もそれに倣う。
 それでも、寝付くまで彼の手は私の肩を優しく撫でていてくれる。私はその手が止まるのがいつかをしらなかった。先に眠ってしまうのが常だったから。
 今日もそうだった。
 私は幸せの中、眠りに落ちた。





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