偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ

文字の大きさ
57 / 65

偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・56

しおりを挟む






 ステラの地下にはおおよそどんな施設も作られている。
 シェルターとして建設されたものだから当たり前とは言え、未だに俺の知らない階層があってもおかしくはないとさえ思う。
 今いる訓練所もそうだ。セキュリティルームから一階下がった場所で、ただ広いだけの空間だ。不死の者達はわざわざ体を鍛える必要はない。だが、訓練は必要だ。そのための場所だと聞いた。
 俺は眼前に立った5人の吸血鬼を見ていた。
 年齢と背格好や服装は様々だった。いつもスタッフはスーツ姿で没個性だが、勤務外の集合だったからか、今は普段着でいる。耳の尖りを覗けば、人間にも見間違えそうだ。
 それほど、それぞれ個性的と言える。少し驚いたくらいだ。
 俺の隣に立っていたリリィが言う。
「彼らは皆ヴラド一族で、ロードとエルダーだ」
「何?」
「階級だ。我々は年齢で階級が決まる。エンシェント、ロード、エルダー…。つまり彼らは仲間内では若い吸血鬼と言えるだろう。ヴラド一族の長であるダリルと妻であるミナはロードだ」
 リリィが指し示した外見年齢が60歳ほどの、鼻髭を生やした白髪の男は恭しく礼をした。身なりは英国的なスーツでトレンチコートを纏っている。
 横には40歳ほどのひどく妖艶な女。ウェーブのかかった黒のロングヘアを黒い合成ウールのコート上に垂らしている。唇だけが真っ赤なルージュで彩られていた。
 さらにその横には30代、20代、20代にならんとするような若い顔まであった。皆それぞれに眉目秀麗な男で、服装は三人三様。ライダースジャケット、優男風なハーフコート、ストリートにいそうなオーバーサイズのジャンパー。だが、3人の顔はどことなく似ている気がした。
「皆、血族なのか」
「彼らは家族だ」
 俺はリリィを見た。
「珍しいだろう。吸血鬼の生殖能力は壊滅的だ。だが、彼らは3人も子を儲けている」
 ダリルと呼ばれた鼻髭がほんの少し得意げに鼻髭を引っ張る。ミナは俺に向かってウィンクをして見せた。子達は耳タコな話なのか少しウンザリした顔だった。
「そもそも吸血鬼同志の婚姻は稀ですからな。若いですがそれ故に子達も強靭な肉体を持っております」
 ダリルが俺に丁寧に言う。低い老獪な声音だ。それに俺を軽んじる響きはなかった。
 リリィが組んでいた腕を解いて、腰に手を当てる。
「彼らはいつでも警察の盾役を買って出てくれる。今回の手入れにも駆り出される予定だった。セキュリティとしては武闘派の部類で少々血の気が多いのでな、荒事担当なのだ。今回、お前の依頼で唯一志願した者達であるし」
 志願。
 人狼の元で働くことを受け入れているのは有り難いが、それはそれで変わっているなという感想も抱いた。
「人狼」
 リリィが俺を見上げて言う。
「間違うなよ、彼らは私の大切な可愛い部下なのだ。今回は貸すだけであって、お前に与える気はない」
「何度も聞いた」
「何度でも言う。レオニス様の命令故だからな」
 不機嫌を隠さない。この女、ずっと怒っていて疲れないのか。
「わかったわかった」
「何故か、警察からも手入れの折にお前の参加を求める要請が来ている。レオニス様を銃撃から守ったその腕を買ってとのことらしい。警察サイドにはすでにお前がセキュリティチームを率いることを伝えたが…調子に乗るなよ、人狼」
 いっそ、この敵愾心は清々しい。俺は水飲み鳥のように頷き続けた。
「失敗は許されない、わかったな」
「…了解」
 リリィは鋭く俺に言い、ヴラド一家の者達には「後はよろしく頼んだ」と労いの言葉をかけて去っていった。
 広い空間に残された俺と、一家はしばし妙な空気に包まれた。だがずっとそうしているわけにも――
 そこに、年若い男達が口々に言う。
「結局、アンタっていくつなんだ?」
「その眼帯の下、目ん玉あんの?」
「月見るとやっぱり狼になるのか?」
 若さ故か、それぞれ興味津々と言わんばかりの顔だった。それをダリルが子達を「こら」と咎めたが、それを内心知りたがっている気配があった。
「…定かにはもう数えていない。1700年前ぐらいだ。片目は眼球がない。月を見ても興奮はしないし、狼にもならない」
「「「ヤバ」」」
 口を揃えて言ったヤバ…の意味がどういうものかはわからなかったが、満足したということだけはわかった。次の質問が出る前に言う。
「名前を教えてくれ。ダリルとミナ以外」
 若い男達が順番に手を挙げる。
「サイラス」
「リアム」
「ノア」
 俺は頷いた。
「しばらくの間よろしく頼む」
 俺は言い、皆の顔を見た。不死同士ではあるがお互いの背中を預けることになる。こいつらは家族で荒事担当だったらしいから、阿吽の呼吸で補い合いながら任務をこなしててきたのだろう。だが、こいつらが俺をどう見ているかは測れないし、受け入れられるかもわからない。
 わかるのは、他の奴らのように俺を下に見ないことだろうか。好奇心が勝った友好的な雰囲気は感じた。
(今のところは期待せず、駒と考えるのがいいだろうな)
 そう考えたところで、またノアと名乗った三男が言った。
「頭だけ狼になれる?」
 また便宜上ダリルが「こら」と言ったが、5人とも、答えを待つように俺を見つめていた。
 やれやれ……
 吸血鬼にもいろんな奴がいるもんだ。





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...