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偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・56
しおりを挟むステラの地下にはおおよそどんな施設も作られている。
シェルターとして建設されたものだから当たり前とは言え、未だに俺の知らない階層があってもおかしくはないとさえ思う。
今いる訓練所もそうだ。セキュリティルームから一階下がった場所で、ただ広いだけの空間だ。不死の者達はわざわざ体を鍛える必要はない。だが、訓練は必要だ。そのための場所だと聞いた。
俺は眼前に立った5人の吸血鬼を見ていた。
年齢と背格好や服装は様々だった。いつもスタッフはスーツ姿で没個性だが、勤務外の集合だったからか、今は普段着でいる。耳の尖りを覗けば、人間にも見間違えそうだ。
それほど、それぞれ個性的と言える。少し驚いたくらいだ。
俺の隣に立っていたリリィが言う。
「彼らは皆ヴラド一族で、ロードとエルダーだ」
「何?」
「階級だ。我々は年齢で階級が決まる。エンシェント、ロード、エルダー…。つまり彼らは仲間内では若い吸血鬼と言えるだろう。ヴラド一族の長であるダリルと妻であるミナはロードだ」
リリィが指し示した外見年齢が60歳ほどの、鼻髭を生やした白髪の男は恭しく礼をした。身なりは英国的なスーツでトレンチコートを纏っている。
横には40歳ほどのひどく妖艶な女。ウェーブのかかった黒のロングヘアを黒い合成ウールのコート上に垂らしている。唇だけが真っ赤なルージュで彩られていた。
さらにその横には30代、20代、20代にならんとするような若い顔まであった。皆それぞれに眉目秀麗な男で、服装は三人三様。ライダースジャケット、優男風なハーフコート、ストリートにいそうなオーバーサイズのジャンパー。だが、3人の顔はどことなく似ている気がした。
「皆、血族なのか」
「彼らは家族だ」
俺はリリィを見た。
「珍しいだろう。吸血鬼の生殖能力は壊滅的だ。だが、彼らは3人も子を儲けている」
ダリルと呼ばれた鼻髭がほんの少し得意げに鼻髭を引っ張る。ミナは俺に向かってウィンクをして見せた。子達は耳タコな話なのか少しウンザリした顔だった。
「そもそも吸血鬼同志の婚姻は稀ですからな。若いですがそれ故に子達も強靭な肉体を持っております」
ダリルが俺に丁寧に言う。低い老獪な声音だ。それに俺を軽んじる響きはなかった。
リリィが組んでいた腕を解いて、腰に手を当てる。
「彼らはいつでも警察の盾役を買って出てくれる。今回の手入れにも駆り出される予定だった。セキュリティとしては武闘派の部類で少々血の気が多いのでな、荒事担当なのだ。今回、お前の依頼で唯一志願した者達であるし」
志願。
人狼の元で働くことを受け入れているのは有り難いが、それはそれで変わっているなという感想も抱いた。
「人狼」
リリィが俺を見上げて言う。
「間違うなよ、彼らは私の大切な可愛い部下なのだ。今回は貸すだけであって、お前に与える気はない」
「何度も聞いた」
「何度でも言う。レオニス様の命令故だからな」
不機嫌を隠さない。この女、ずっと怒っていて疲れないのか。
「わかったわかった」
「何故か、警察からも手入れの折にお前の参加を求める要請が来ている。レオニス様を銃撃から守ったその腕を買ってとのことらしい。警察サイドにはすでにお前がセキュリティチームを率いることを伝えたが…調子に乗るなよ、人狼」
いっそ、この敵愾心は清々しい。俺は水飲み鳥のように頷き続けた。
「失敗は許されない、わかったな」
「…了解」
リリィは鋭く俺に言い、ヴラド一家の者達には「後はよろしく頼んだ」と労いの言葉をかけて去っていった。
広い空間に残された俺と、一家はしばし妙な空気に包まれた。だがずっとそうしているわけにも――
そこに、年若い男達が口々に言う。
「結局、アンタっていくつなんだ?」
「その眼帯の下、目ん玉あんの?」
「月見るとやっぱり狼になるのか?」
若さ故か、それぞれ興味津々と言わんばかりの顔だった。それをダリルが子達を「こら」と咎めたが、それを内心知りたがっている気配があった。
「…定かにはもう数えていない。1700年前ぐらいだ。片目は眼球がない。月を見ても興奮はしないし、狼にもならない」
「「「ヤバ」」」
口を揃えて言ったヤバ…の意味がどういうものかはわからなかったが、満足したということだけはわかった。次の質問が出る前に言う。
「名前を教えてくれ。ダリルとミナ以外」
若い男達が順番に手を挙げる。
「サイラス」
「リアム」
「ノア」
俺は頷いた。
「しばらくの間よろしく頼む」
俺は言い、皆の顔を見た。不死同士ではあるがお互いの背中を預けることになる。こいつらは家族で荒事担当だったらしいから、阿吽の呼吸で補い合いながら任務をこなしててきたのだろう。だが、こいつらが俺をどう見ているかは測れないし、受け入れられるかもわからない。
わかるのは、他の奴らのように俺を下に見ないことだろうか。好奇心が勝った友好的な雰囲気は感じた。
(今のところは期待せず、駒と考えるのがいいだろうな)
そう考えたところで、またノアと名乗った三男が言った。
「頭だけ狼になれる?」
また便宜上ダリルが「こら」と言ったが、5人とも、答えを待つように俺を見つめていた。
やれやれ……
吸血鬼にもいろんな奴がいるもんだ。
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