「7人目の勇者」

晴樹

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第29話 第六の勇者

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「な、なんでわかったぁ!」

驚き方がオーバーリアクション。
思ったよりも変な奴だった。いい意味で。

「いや、少し考えれば分かるだろ……」

「そ、そうなのか!」

いつの間にか侵入してきた忍者は口元の布を下ろしていた。そのおかげで声がそのまま透き通って聞こえてくる。
ん? もしかしてこいつは……
口元の布を下ろしていたことによって、こもっていた声が素のままの声に変わっていた。その声はキーが高く男が発する声色ではなかった。

「お前女だったのか。てっきり男かと思ってたぞ」

思ったことをすぐに口にした。
すると、女だと知られたからか
「……もう隠しても仕方ないか」
と言って、頭を被っていた布を外した。それにより隠れていたポニーテールが美しい放物線を描きながら宙を舞った。
やはり女だった。
まさか忍者は忍者でもクノイチとは思わなかった。よくよく見てみたら腕も足も細く男の忍者とは思えないくらいスレンダーだと言うことに今頃になって気がついた。
僕の前で顔を見せたクノイチは急に
「私はモーガン国第六の勇者、霧隠ミサだ」
と水平線のような胸を張り自己紹介を始めたのだ。
僕もした方がいいのだろうか……
自己紹介をされれば返すのが当たり前。しかし面倒だ。いや、どうせ知ってるだろう僕のことを。ならしなくていいか。

「なぁミサ? 少しいいか」
名前を知ったすぐから呼び捨てでクノイチのことを呼ぶ。
「何だ?」
特にクノイチは名前を呼び捨てにされたことに対して怒ってはいないようだ。年齢的に言えば僕の方が歳上だろうか? と言えるくらいクノイチは若そうだったが大人びている印象だ。本人から聞かないと実際には分からない。でもこれから聞くことはその事ではない。
「お前はどうして僕の命を狙ったんだ?」
「ギクッ!?  そ、それは……」
とクノイチは言いにくそうにしている。僕はこれが聞きたかった。当然襲われたらその理由を知りたくなるものだ。
しかしまぁ言わなくても分かるんだがな。
クノイチがモーガン国の勇者と言う時点でエリザベスの命令であることは火を見るより確かだ。そうなると気になるのは……

「もう一つ質問いいか? お前は今までに勇者を殺したことはあるか?」

と物騒な質問をする。

「どうして勇者がそんなことを聞くのか分からないけど、私は今回が初めてだ」

とクノイチは答えた。どうやら僕の考えていた『勇者殺し』なのではないかと言う疑いは外れてしまっていたらしい。そうなると僕は1日に2人の人間に命を狙われたことになる。何て厄日なんだ。

それよりもクノイチが勇者を殺すのは今回が初めてだと言ったが、殺せてない。だから初めては失敗しているわけで、言い方がおかしいと思う。まぁ、気にしないでおこう。

僕は少し考えた。何を考えていたかというと目の前のクノイチの事だ。沈黙が少し空いたのに一向に帰ろうとしないのだ。どうやらまだ何かするつもりらしい。だから僕は考えていたのだ。何がしたいのかということを。

僕が考えているとクノイチが口を開いた。

「悪いが、そこに転がっているクナイを取ってもらえないだろうか」

と僕の足元に転がっているクナイを見ていた。僕は言われるがままそのクナイを手に取る。

「それで僕に攻撃しないでくれよ」

と注意を促しながらクナイを渡した。

「分かっている。心配するな。もう私にはお前を殺そうとは思っていない」

クノイチはそう言って僕からクナイを受け取った。

クナイを取ってやり、帰るかと思っていたのだが、帰る様子がなかった。まだ用があるのか……もう帰ってくれ。

「なぁ勇者?」
「何だ?」
「少し話さないか」

どうやら話をしたかったらしい。
話くらいならいいか。

「イイよ」

僕がそう言うとクノイチは喜んだ顔を一瞬見せた。それから僕達は各々に座り僕達の故郷、日本の話をした。まぁ主に忍者のことについて話を聞いていたので、一般市民の僕にはさっぱりわからず話を聞くだけことしか出来なかった……
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