4 / 23
4.メイドとお嬢様
しおりを挟む
アデレイドの離れは、広い庭の奥で遊歩道から外れた場所に立っていて周りの足場も悪いため、老齢の侯爵夫妻が来ることはない。
屋敷にひかれている電話の子機を置き、内線で連絡が取れるようにされたので、管理をハイジに任せた召使いたちは、誰も離れに近づこうとしなかった。
ハイジは、アデレイドが用意した地味で暗い色のお仕着せを着てメイドキャップを被らされ、中学を卒業したその日から彼女の専属メイドとして働いた。
離れでは、大人の目が行き届かないとわかると、高校に進学したアデレイドは、学院の宿題をハイジに押し付けるようになった。
「宿題は、ご自分でなさるべきじゃないですか?」
ハイジがやんわり断っても、アデレイドは意に返さない。
「いいじゃない、やっておいてよ。あなたは私のメイドでしょ? 言うことを聞きなさい。私は忙しいのよ」
アデレイドは携帯ゲーム機を手に持っている。ハイジに勉強を押し付けて、彼女はゲームをするつもりなのだ。
中学校でも、携帯ゲームで楽しそうに遊んでいる友達を見ていたが、触ったことがないハイジには何が面白いのかわからない。
その上、アデレイドはハイジに上流階級の作法を教えようとする。
「侯爵令嬢である私に仕えるのだから、まともな作法ができるようにしなさいよ」
侯爵夫妻が夜会に出席して留守の時は、離れで一緒に食事をするように強要され、上品にできるまで厳しく躾けられた。
「私には、不要な作法だと思いますが」
「私の練習にもなるのだから、つべこべ言わずにやりなさい」
口答えししても、最終的には「私の言うことを聞きなさい」と言われて拒否ができない。
手渡される給料は、国で定められている最低賃金の半分だ。それでアデレイドのわがままに付き合わされるのは割にあわない。ハイジは、自分勝手で傲慢な彼女のことがだんだんと嫌いになっていった。
メイドになってしばらくすると、アデレイドが「放課後に友人たちを招待するからキッチンに隠れているように」と言いつけた。
「私は、自分の部屋に戻っていましょうか」
ハイジが言うと、アデレイドは「だめよ」と即座に却下する。
「ハイジには、大事な用があるから、絶対に離れにいるのよ」
どんな用事があるのか見当もつかないが、アデレイドの命令だから仕方がない。
(双子であることを隠したいのなら、私はいないほうがいいと思うのに)
ハイジは、ため息をつきながら、アデレイドが帰ってくるまでに掃除を済ませ、キッチンでお茶の準備を整えた。
やがて、複数の友人と一緒に帰ってきたアデレイドは、彼らを応接室に通したあとでキッチンにやってくる。
「お茶は私が入れるから、ハイジはこっちにきて」
彼女は、ハイジを応接室の隣にある部屋に連れて行く。
ここはアデレイドが書斎として使っていて、机や本棚の他に休憩用の長椅子やテレビもある。
アデレイドがテレビのスイッチを入れると、応接室の様子が映った。
「これは?」
「隠しカメラをセットしてあるの。あなたは、ここでこれを見ていなさい」
応接室のソファーセットの正面にある飾り棚には、いろんな小物が並べてあって、そこに置いている人形に仕掛けているらしい。部屋の中が全部見渡せて、友人たちの声がはっきりと聴きとれる高性能のマイクも付いているようだ。
「何のためにですか?」
ハイジが聞いてもアデレイドはろくに答えてくれない。
「それは後で説明するわ。ともかく、私やあの人たちのことをしっかりと観察していなさい」
ハイジを長椅子に座らせて、彼女は応接室に戻っていった。
ハイジはため息をついて、画面を見る。ティーセットを持って入っていったアデレイドが、男女四人の友人たちに機嫌よくお茶を振る舞っていた。
「アデレイド嬢が自らお茶を入れるだなんて、メイドはどうしたの?」
不思議そうに尋ねる友人に、アデレイドが平然と答えている。
「社交界デビューしたら、王宮に伺候する機会が増えるわ。王宮のお茶会で高貴な方々にお茶を入れなければいけないこともあるから、その時に失敗しないために、あなたたちで練習させていただいているの。いかがかしら?」
「うん、上手に入れられているよ。さすがはフォールコン侯爵家のご令嬢だ」
男の友人が感心するように言い、周りも同調していた。
格式の高さだけでつながっているような彼らは、お互いの由緒ある家柄を誉めあい、友人というよりは取り巻きようだ。
のぞきの趣味などないのに、見ているように命令されて、ハイジにはまったく関係のない話を延々と聞かされてうんざりとした。
やがて取り巻きたちが帰っていき、誰もいなくなった応接室を片付けていると、アデレイドがやって来る。
「これからもお友達をここに呼ぶから、毎回ちゃんと見ているのよ。いずれあなたには私の代わりを務めてもらうわ」
「どういうことですか?」
「あなたが私になって、お友達をもてなしなさい」
「はあ? 何を言っているの?」
ハイジがびっくりして素で言うと、アデレイドはにやりと笑う。
「あなたと私は一卵性双生児よ。同じ髪型のかつらをつければ、私とそっくりになるじゃない」
「私はあなたと同じ格好をするなんて、もう二度とごめんだわ」
子供の頃のことを思い出して、ハイジはそっぽを向いた。
「昔の失敗は繰り返さないから安心しなさい。私に双子の姉妹がいることは、この家のもの以外は知らないことだから、あなたが私のふりをしたって、誰も気が付かないわ」
どうやら、アデレイドはハイジを身代わりにして取り巻きたちの相手をさせたいようだ。
「何のためにそんなことをするのですか?」
「だって、おじい様がこの離れにいるのは夕食の時間までって決めたから、お友達の相手をしていたら、好きなゲームをする時間がなくなっちゃうのよ」
付き合いで、時々取り巻きをお茶に誘わなければいけないらしい。屋敷では侯爵夫人が煩く召使いたちの目もあるから自由にプレイできないらしく、携帯ゲームにはまっているアデレイドは、離れにいる時はできるだけゲームをしていたいという。ゲームのために取り巻きの相手すらハイジを身代わりにさせようというアデレイドの考えに呆気に取られてしまった。
「あなたは私のメイドでしょう。言うことを聞きなさい」
都合が悪くなると、アデレイドはすぐにそう言う。そうなるとハイジは彼女の言うことを聞かざるを得ない。
いくら腹立たしく思っても、ハイジはアデレイドのメイドとして侯爵家においてもらっているのだから、彼女に逆らえば追い出されてしまうだろう。わずかな給金でも、お金をもらわないことには、ここを追い出された後の、生活のめどが立たないのだ。
「――わかりました」
ハイジが了承すると、アデレイドはほっと息をつく。
「かつらは私のほうで作らせておくわ。出来上がるまで、私のふりができるように、勉強していなさいよ。友達に双子だってことがばれたら承知しないわよ」
そういってかつらが出来上がるまで、アデレイドは何度もハイジに取り巻きたちとの茶話会を見せつけた。
アデレイドが用意したかつらは、本物の人毛で作られた最高級品だった。それをつけるだけで、まるでハイジの髪が本当に伸びたかのように見える。
子供の頃、髪を長く伸ばせないことを悲しく思っていたハイジは、その長い金髪のかつらで複雑な心境になった。
そんな気持ちにも気づかないアデレイドは、何着も作らせたハイジのお仕着せに着替え、クローゼットのそばに置いている姿見を見ながらメイドキャップに自分の長い髪を隠している。
「学校帰りだから、制服でいいわ。私も画面を注意して見ておくけど、交代したくなったら咳払いでもしなさい」
アデレイドは、学院の制服も予備で新たに作ったようで、ハイジにそれを着るように命令する。
「さあ、早くしなさい」
アデレイドにせかされ、しぶしぶと制服に着替えたハイジは、かつらをかぶって応接室へ向かった。
友達付き合いなど皆無のハイジは、アデレイドの取り巻きたちとおしゃべりをしていても口数が少ない。それでも、一生懸命アデレイドのふりをして彼らとの会話に調子を合わせた。
「そういえば、アデレイド様。この前デニスと喫茶店で一緒にいなかった?」
「え?」
デニスという、ハイジにとっては初めて聞く名前を出されて焦った。
「私も、学院の裏庭で二人がいるのを見かけたことがあったわ。どうしたの?」
訊ねられても答えられないので、ハイジは咳ばらいをする。風邪でも引いたのかと、取り巻きたちが心配するだけで、アデレイドは来てくれない。
「デニスって、特進クラスにいる平民だろう? 入学式で総代を務めていたけど、付きまとわれているのなら、私たちが文句を言ってやるぞ」
男性の取り巻きが勇ましく言ってくれるが、アデレイドとデニスの関係など全くわからない。何度咳払いしてもアデレイドが助けてくれそうにないので、ハイジは自分で何とかしようと思った。
「ありがとう。――それより、学校の勉強のことなんだけれど……」
話題を変えて、取り巻きたちの気を反らせる。
「問題集でわからないところがあるから教えてくださる?」
ハイジが問題集を取りに行く振りをしてさりげなく書斎へ行くと、アデレイドは携帯ゲームに熱中していた。
「咳払いをしたのに、どうして交代してくれないのですか?」
「あら、あなたがいるのに私が応接室へ行けるわけないじゃない」
「じゃあ、この後はお嬢様がお相手をして差し上げてください」
ハイジが制服を脱ごうとすると、アデレイドが「だめよ」と制止する。
「話題を反らしてうまく切り抜けたじゃない。もうそろそろみんなの帰る時間だし、このまま最後まで続けなさい」
困っているハイジに気が付いていた癖に助けてくれなかったのだ。露骨に嫌そうな顔をしても、アデレイドは「命令よ」という。ハイジは大きくため息をつくと、仕方なく問題集を持って応接室に戻った。
それからも、取り巻きが離れに来るたび、ハイジは”アデレイド”になって相手をさせられた。
屋敷にひかれている電話の子機を置き、内線で連絡が取れるようにされたので、管理をハイジに任せた召使いたちは、誰も離れに近づこうとしなかった。
ハイジは、アデレイドが用意した地味で暗い色のお仕着せを着てメイドキャップを被らされ、中学を卒業したその日から彼女の専属メイドとして働いた。
離れでは、大人の目が行き届かないとわかると、高校に進学したアデレイドは、学院の宿題をハイジに押し付けるようになった。
「宿題は、ご自分でなさるべきじゃないですか?」
ハイジがやんわり断っても、アデレイドは意に返さない。
「いいじゃない、やっておいてよ。あなたは私のメイドでしょ? 言うことを聞きなさい。私は忙しいのよ」
アデレイドは携帯ゲーム機を手に持っている。ハイジに勉強を押し付けて、彼女はゲームをするつもりなのだ。
中学校でも、携帯ゲームで楽しそうに遊んでいる友達を見ていたが、触ったことがないハイジには何が面白いのかわからない。
その上、アデレイドはハイジに上流階級の作法を教えようとする。
「侯爵令嬢である私に仕えるのだから、まともな作法ができるようにしなさいよ」
侯爵夫妻が夜会に出席して留守の時は、離れで一緒に食事をするように強要され、上品にできるまで厳しく躾けられた。
「私には、不要な作法だと思いますが」
「私の練習にもなるのだから、つべこべ言わずにやりなさい」
口答えししても、最終的には「私の言うことを聞きなさい」と言われて拒否ができない。
手渡される給料は、国で定められている最低賃金の半分だ。それでアデレイドのわがままに付き合わされるのは割にあわない。ハイジは、自分勝手で傲慢な彼女のことがだんだんと嫌いになっていった。
メイドになってしばらくすると、アデレイドが「放課後に友人たちを招待するからキッチンに隠れているように」と言いつけた。
「私は、自分の部屋に戻っていましょうか」
ハイジが言うと、アデレイドは「だめよ」と即座に却下する。
「ハイジには、大事な用があるから、絶対に離れにいるのよ」
どんな用事があるのか見当もつかないが、アデレイドの命令だから仕方がない。
(双子であることを隠したいのなら、私はいないほうがいいと思うのに)
ハイジは、ため息をつきながら、アデレイドが帰ってくるまでに掃除を済ませ、キッチンでお茶の準備を整えた。
やがて、複数の友人と一緒に帰ってきたアデレイドは、彼らを応接室に通したあとでキッチンにやってくる。
「お茶は私が入れるから、ハイジはこっちにきて」
彼女は、ハイジを応接室の隣にある部屋に連れて行く。
ここはアデレイドが書斎として使っていて、机や本棚の他に休憩用の長椅子やテレビもある。
アデレイドがテレビのスイッチを入れると、応接室の様子が映った。
「これは?」
「隠しカメラをセットしてあるの。あなたは、ここでこれを見ていなさい」
応接室のソファーセットの正面にある飾り棚には、いろんな小物が並べてあって、そこに置いている人形に仕掛けているらしい。部屋の中が全部見渡せて、友人たちの声がはっきりと聴きとれる高性能のマイクも付いているようだ。
「何のためにですか?」
ハイジが聞いてもアデレイドはろくに答えてくれない。
「それは後で説明するわ。ともかく、私やあの人たちのことをしっかりと観察していなさい」
ハイジを長椅子に座らせて、彼女は応接室に戻っていった。
ハイジはため息をついて、画面を見る。ティーセットを持って入っていったアデレイドが、男女四人の友人たちに機嫌よくお茶を振る舞っていた。
「アデレイド嬢が自らお茶を入れるだなんて、メイドはどうしたの?」
不思議そうに尋ねる友人に、アデレイドが平然と答えている。
「社交界デビューしたら、王宮に伺候する機会が増えるわ。王宮のお茶会で高貴な方々にお茶を入れなければいけないこともあるから、その時に失敗しないために、あなたたちで練習させていただいているの。いかがかしら?」
「うん、上手に入れられているよ。さすがはフォールコン侯爵家のご令嬢だ」
男の友人が感心するように言い、周りも同調していた。
格式の高さだけでつながっているような彼らは、お互いの由緒ある家柄を誉めあい、友人というよりは取り巻きようだ。
のぞきの趣味などないのに、見ているように命令されて、ハイジにはまったく関係のない話を延々と聞かされてうんざりとした。
やがて取り巻きたちが帰っていき、誰もいなくなった応接室を片付けていると、アデレイドがやって来る。
「これからもお友達をここに呼ぶから、毎回ちゃんと見ているのよ。いずれあなたには私の代わりを務めてもらうわ」
「どういうことですか?」
「あなたが私になって、お友達をもてなしなさい」
「はあ? 何を言っているの?」
ハイジがびっくりして素で言うと、アデレイドはにやりと笑う。
「あなたと私は一卵性双生児よ。同じ髪型のかつらをつければ、私とそっくりになるじゃない」
「私はあなたと同じ格好をするなんて、もう二度とごめんだわ」
子供の頃のことを思い出して、ハイジはそっぽを向いた。
「昔の失敗は繰り返さないから安心しなさい。私に双子の姉妹がいることは、この家のもの以外は知らないことだから、あなたが私のふりをしたって、誰も気が付かないわ」
どうやら、アデレイドはハイジを身代わりにして取り巻きたちの相手をさせたいようだ。
「何のためにそんなことをするのですか?」
「だって、おじい様がこの離れにいるのは夕食の時間までって決めたから、お友達の相手をしていたら、好きなゲームをする時間がなくなっちゃうのよ」
付き合いで、時々取り巻きをお茶に誘わなければいけないらしい。屋敷では侯爵夫人が煩く召使いたちの目もあるから自由にプレイできないらしく、携帯ゲームにはまっているアデレイドは、離れにいる時はできるだけゲームをしていたいという。ゲームのために取り巻きの相手すらハイジを身代わりにさせようというアデレイドの考えに呆気に取られてしまった。
「あなたは私のメイドでしょう。言うことを聞きなさい」
都合が悪くなると、アデレイドはすぐにそう言う。そうなるとハイジは彼女の言うことを聞かざるを得ない。
いくら腹立たしく思っても、ハイジはアデレイドのメイドとして侯爵家においてもらっているのだから、彼女に逆らえば追い出されてしまうだろう。わずかな給金でも、お金をもらわないことには、ここを追い出された後の、生活のめどが立たないのだ。
「――わかりました」
ハイジが了承すると、アデレイドはほっと息をつく。
「かつらは私のほうで作らせておくわ。出来上がるまで、私のふりができるように、勉強していなさいよ。友達に双子だってことがばれたら承知しないわよ」
そういってかつらが出来上がるまで、アデレイドは何度もハイジに取り巻きたちとの茶話会を見せつけた。
アデレイドが用意したかつらは、本物の人毛で作られた最高級品だった。それをつけるだけで、まるでハイジの髪が本当に伸びたかのように見える。
子供の頃、髪を長く伸ばせないことを悲しく思っていたハイジは、その長い金髪のかつらで複雑な心境になった。
そんな気持ちにも気づかないアデレイドは、何着も作らせたハイジのお仕着せに着替え、クローゼットのそばに置いている姿見を見ながらメイドキャップに自分の長い髪を隠している。
「学校帰りだから、制服でいいわ。私も画面を注意して見ておくけど、交代したくなったら咳払いでもしなさい」
アデレイドは、学院の制服も予備で新たに作ったようで、ハイジにそれを着るように命令する。
「さあ、早くしなさい」
アデレイドにせかされ、しぶしぶと制服に着替えたハイジは、かつらをかぶって応接室へ向かった。
友達付き合いなど皆無のハイジは、アデレイドの取り巻きたちとおしゃべりをしていても口数が少ない。それでも、一生懸命アデレイドのふりをして彼らとの会話に調子を合わせた。
「そういえば、アデレイド様。この前デニスと喫茶店で一緒にいなかった?」
「え?」
デニスという、ハイジにとっては初めて聞く名前を出されて焦った。
「私も、学院の裏庭で二人がいるのを見かけたことがあったわ。どうしたの?」
訊ねられても答えられないので、ハイジは咳ばらいをする。風邪でも引いたのかと、取り巻きたちが心配するだけで、アデレイドは来てくれない。
「デニスって、特進クラスにいる平民だろう? 入学式で総代を務めていたけど、付きまとわれているのなら、私たちが文句を言ってやるぞ」
男性の取り巻きが勇ましく言ってくれるが、アデレイドとデニスの関係など全くわからない。何度咳払いしてもアデレイドが助けてくれそうにないので、ハイジは自分で何とかしようと思った。
「ありがとう。――それより、学校の勉強のことなんだけれど……」
話題を変えて、取り巻きたちの気を反らせる。
「問題集でわからないところがあるから教えてくださる?」
ハイジが問題集を取りに行く振りをしてさりげなく書斎へ行くと、アデレイドは携帯ゲームに熱中していた。
「咳払いをしたのに、どうして交代してくれないのですか?」
「あら、あなたがいるのに私が応接室へ行けるわけないじゃない」
「じゃあ、この後はお嬢様がお相手をして差し上げてください」
ハイジが制服を脱ごうとすると、アデレイドが「だめよ」と制止する。
「話題を反らしてうまく切り抜けたじゃない。もうそろそろみんなの帰る時間だし、このまま最後まで続けなさい」
困っているハイジに気が付いていた癖に助けてくれなかったのだ。露骨に嫌そうな顔をしても、アデレイドは「命令よ」という。ハイジは大きくため息をつくと、仕方なく問題集を持って応接室に戻った。
それからも、取り巻きが離れに来るたび、ハイジは”アデレイド”になって相手をさせられた。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる