【完結】燃えゆく大地を高潔な君と~オメガの兵士は上官アルファと共に往く~

秋良

文字の大きさ
14 / 110
第一章

13. 余暇

しおりを挟む


 朝食時にアドルフの訪問があったため、朝食を食べ終わった頃にはそろそろ就業開始時間が近づいていた。レオンスは朝食を食べ終わったら、すぐに貯蔵庫へ行けるように支度を済ませてきた。アメデもそのまま行けるとのことだったので、二人揃って貯蔵庫へ向かう。
 あらかじめ振り分けておいた担当分について再確認をしたのち、二人は午前中は黙々と作業をこなしていった。

 そうして、あっという間に午前が過ぎ、午後になる。
 昼食の時間は各班、各担当に任されているため、レオンスとアメデは少しだけ早めの昼食をとったのち、貯蔵庫でオーレリーの合流を待っていた。

「レオンス、アメデ、お疲れ様」

 柔らかな声と共にやってきたのは、オーレリーだ。その声の軽やかさに、レオンスとアメデは安堵の息をつく。
 
「オーレリー、よく来たね」
「よかった、顔色がよくなってる」

 昨日、レオンスが様子を見に行ったときに真冬の新雪のように真っ白になってしまっていた顔は、血色がだいぶ良くなっている。足取りもしっかりしているので、息苦しさや目眩もなさそうだ。
 市販の抑制剤では、服用していても発情期は倦怠感や熱っぽさでぼーっとしやすいが、オーレリーにそのような雰囲気は見られない。副作用はあれど、オーレリーにも支給されている新薬の効き目はしっかりあるようだ。

「昨日はごめんね。ありがとう」
「気にするなって。体調が落ち着いたんなら良かった」

 申し訳なさそうにするオーレリーに、本当に気にしてないのだと伝えられるよう、レオンスはできるだけ堅くない言葉で返す。数日ぶりにオーレリーの元気な顔が見られてよかった。

「そうそう、持ちつ持たれつだよ。来てくれてありがとう。待ってたよ」

 アメデもにこにこと答える。二人にあたたかく迎えられたことで、オーレリーはそれ以上気にする素振りは見せなかった。代わりに春の木漏れ日のような笑顔を返してくれる。
 これで心の澱が残ることもなさそうだ。そのことに、レオンスも自然と笑みが溢れた。

「それじゃあ、午後も頑張っていこうか。でも無理せずに。何かあったら声をかけあおう」
「うん、了解。オーレリー、気になることがあればいつでも言ってね」
「ありがとう。僕の分のリスト、貰える?」

 レオンスはオーレリーに、彼が担当していた分のリストが記された紙を渡した。オーレリー用に残しておいたものだ。もしオーレリーが来られなかったらレオンスが今日中に終わらせようと思ってたものだ。
 それを受け取ると、オーレリーの愛らしい顔はキリッと切り替わり、真剣な顔つきになった。だが、次の瞬間にぽかんと口を開く。

「えっ、すごい。ほとんど終わってる」

 驚きの声をあげるオーレリー。
 それに、アメデはチラッとレオンスを見る。実は午前中にもアメデに似たような反応をされ、もっと言えばレオンスはアメデに散々呆れられたのだ。
 
「あーそれね。実はさ、レオンスが頑張ってくれたみたい」
「たまたま早く目が覚めたから、進めておいただけだ。大したことじゃないよ。ほら、それより早く始めよう。オーレリーが来てくれたから、午後の作業はもっと捗りそうだからさ」

 じろりとアメデが睨んできたので、レオンスは目を逸らしながら、アメデにも伝えた当たり障りのなさそうな理由——レオンスとしては優しい嘘を含めた言い訳——を述べながら、二人に作業開始を促すのだった。





 終業時間まであと二時間足らずという頃、レオンスたちが請け負っていた作業はひと通り終わった。
 オーレリーが午後に来てくれたおかげだな、とレオンスは思っていた。今日はレオンスもアメデも、そしてオーレリーも体調に問題はなく、しっかりと作業に集中できたことも大きい。

(作業が終わらなくて、オーレリーが気に病んだら……って思ってたけど、ちゃんと終わってよかった。責任感じたら可哀想だもんな。早く終わったから、オーレリーは早く上がれないかジャン班長に訊いてみるか)

 レオンスはそんなことを考えながら、三人で、まずは次の作業担当者に完了報告に行った。「お疲れ様」と労いの言葉を貰い、その足で今度は班長のジャンにも報告にも行く。
 すると、レオンスが相談するよりも前に、今日はオーレリーだけでなく全員上がってよいとの返答を貰った。なんとも思いやりのある班長だ。

 そんなわけで、終業時間まであと一時間半という頃、レオンスは要塞内をふらふらとしていた。

 オーレリーはアドルフと部屋で夕食をとる予定なので、ジャンへの報告後はすぐに部屋へ戻っていった。おそらく今日は一日中部屋でアドルフが待ってくれているのだろう。今日の午後、彼は意欲的に働いてくれていたが、発情期なので新薬の効果を正しく得るためには毎日一度の性交が必要だ。変な勘繰りはしないが、明日も彼の体調が良いことをレオンスは願った。

 アメデも、ジャンへの報告後は息抜きをしに行くとのことで、レオンスとは別行動だ。もしかしたら伴侶の仕事ぶりを見に行ったのかもしれない。
 ここは曲がりなりにも戦地なので、アメデもオーレリーも彼らのパートナーも、人前では過度にいちゃついたりはしない。しかし、戦地だからこそ愛する人の無事を自分の目で確認しておきたい心情は誰もが理解できた。だから彼らのささやかな逢瀬や、互いの姿を見ては安堵する彼らの横顔を見て、ひと時の安らぎを得る者はいても咎める者は一人としていなかった。

 レオンスは、いつしか厩舎へと足を向けていた。
 厩舎には、騎馬班の兵の相棒や、馬車を引く馬たちが暮らしている。厩舎や馬の管理は騎馬班の管轄だが、レオンスが所属する支援班は拠点各所の修繕や確認を行なっているので、厩舎にも何度か足を運んだことがある。

 騎馬班はアルファの兵士が多い。班長もアルファだし、オーレリーの恋人であるアドルフもアルファだ。ベータの兵士もたくさんいるが、他の班に比べてアルファの比率が高かった。それだけ騎馬で戦うのには技術を要するし、戦の要となる強者つわものが必要とされる班なのだ。
 なので、厩舎は騎馬班と会う確率が自然と高いため、レオンスは特に用事がなく体調が芳しくないときは立ち寄らないように気をつけている。それはアメデもオーレリーも同じだった。

 今日は用事はないが、体調も良いのでレオンスは馬を見に来たのだ。
 手伝えることがあれば手伝えるし、厩舎の横には第七と第九部隊の支援班が世話をする家畜たちの畜舎があるので、そちらに顔を出してもいい。
 それに、馬を見ると心が癒される。そんな思いもあって、レオンスは厩舎のほうへとやって来た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

洗濯日和!!!

松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。 Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。 ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。 ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。 巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。 12話一旦完結からの17話完結。 卒業旅行番外編。 (素敵な表紙はpome様。感謝しかありません) ※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。 ※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。 ※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。

処理中です...