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第一章
13. 余暇
しおりを挟む朝食時にアドルフの訪問があったため、朝食を食べ終わった頃にはそろそろ就業開始時間が近づいていた。レオンスは朝食を食べ終わったら、すぐに貯蔵庫へ行けるように支度を済ませてきた。アメデもそのまま行けるとのことだったので、二人揃って貯蔵庫へ向かう。
あらかじめ振り分けておいた担当分について再確認をしたのち、二人は午前中は黙々と作業をこなしていった。
そうして、あっという間に午前が過ぎ、午後になる。
昼食の時間は各班、各担当に任されているため、レオンスとアメデは少しだけ早めの昼食をとったのち、貯蔵庫でオーレリーの合流を待っていた。
「レオンス、アメデ、お疲れ様」
柔らかな声と共にやってきたのは、オーレリーだ。その声の軽やかさに、レオンスとアメデは安堵の息をつく。
「オーレリー、よく来たね」
「よかった、顔色がよくなってる」
昨日、レオンスが様子を見に行ったときに真冬の新雪のように真っ白になってしまっていた顔は、血色がだいぶ良くなっている。足取りもしっかりしているので、息苦しさや目眩もなさそうだ。
市販の抑制剤では、服用していても発情期は倦怠感や熱っぽさでぼーっとしやすいが、オーレリーにそのような雰囲気は見られない。副作用はあれど、オーレリーにも支給されている新薬の効き目はしっかりあるようだ。
「昨日はごめんね。ありがとう」
「気にするなって。体調が落ち着いたんなら良かった」
申し訳なさそうにするオーレリーに、本当に気にしてないのだと伝えられるよう、レオンスはできるだけ堅くない言葉で返す。数日ぶりにオーレリーの元気な顔が見られてよかった。
「そうそう、持ちつ持たれつだよ。来てくれてありがとう。待ってたよ」
アメデもにこにこと答える。二人にあたたかく迎えられたことで、オーレリーはそれ以上気にする素振りは見せなかった。代わりに春の木漏れ日のような笑顔を返してくれる。
これで心の澱が残ることもなさそうだ。そのことに、レオンスも自然と笑みが溢れた。
「それじゃあ、午後も頑張っていこうか。でも無理せずに。何かあったら声をかけあおう」
「うん、了解。オーレリー、気になることがあればいつでも言ってね」
「ありがとう。僕の分のリスト、貰える?」
レオンスはオーレリーに、彼が担当していた分のリストが記された紙を渡した。オーレリー用に残しておいたものだ。もしオーレリーが来られなかったらレオンスが今日中に終わらせようと思ってたものだ。
それを受け取ると、オーレリーの愛らしい顔はキリッと切り替わり、真剣な顔つきになった。だが、次の瞬間にぽかんと口を開く。
「えっ、すごい。ほとんど終わってる」
驚きの声をあげるオーレリー。
それに、アメデはチラッとレオンスを見る。実は午前中にもアメデに似たような反応をされ、もっと言えばレオンスはアメデに散々呆れられたのだ。
「あーそれね。実はさ、レオンスが頑張ってくれたみたい」
「たまたま早く目が覚めたから、進めておいただけだ。大したことじゃないよ。ほら、それより早く始めよう。オーレリーが来てくれたから、午後の作業はもっと捗りそうだからさ」
じろりとアメデが睨んできたので、レオンスは目を逸らしながら、アメデにも伝えた当たり障りのなさそうな理由——レオンスとしては優しい嘘を含めた言い訳——を述べながら、二人に作業開始を促すのだった。
終業時間まであと二時間足らずという頃、レオンスたちが請け負っていた作業はひと通り終わった。
オーレリーが午後に来てくれたおかげだな、とレオンスは思っていた。今日はレオンスもアメデも、そしてオーレリーも体調に問題はなく、しっかりと作業に集中できたことも大きい。
(作業が終わらなくて、オーレリーが気に病んだら……って思ってたけど、ちゃんと終わってよかった。責任感じたら可哀想だもんな。早く終わったから、オーレリーは早く上がれないかジャン班長に訊いてみるか)
レオンスはそんなことを考えながら、三人で、まずは次の作業担当者に完了報告に行った。「お疲れ様」と労いの言葉を貰い、その足で今度は班長のジャンにも報告にも行く。
すると、レオンスが相談するよりも前に、今日はオーレリーだけでなく全員上がってよいとの返答を貰った。なんとも思いやりのある班長だ。
そんなわけで、終業時間まであと一時間半という頃、レオンスは要塞内をふらふらとしていた。
オーレリーはアドルフと部屋で夕食をとる予定なので、ジャンへの報告後はすぐに部屋へ戻っていった。おそらく今日は一日中部屋でアドルフが待ってくれているのだろう。今日の午後、彼は意欲的に働いてくれていたが、発情期なので新薬の効果を正しく得るためには毎日一度の性交が必要だ。変な勘繰りはしないが、明日も彼の体調が良いことをレオンスは願った。
アメデも、ジャンへの報告後は息抜きをしに行くとのことで、レオンスとは別行動だ。もしかしたら伴侶の仕事ぶりを見に行ったのかもしれない。
ここは曲がりなりにも戦地なので、アメデもオーレリーも彼らのパートナーも、人前では過度にいちゃついたりはしない。しかし、戦地だからこそ愛する人の無事を自分の目で確認しておきたい心情は誰もが理解できた。だから彼らのささやかな逢瀬や、互いの姿を見ては安堵する彼らの横顔を見て、ひと時の安らぎを得る者はいても咎める者は一人としていなかった。
レオンスは、いつしか厩舎へと足を向けていた。
厩舎には、騎馬班の兵の相棒や、馬車を引く馬たちが暮らしている。厩舎や馬の管理は騎馬班の管轄だが、レオンスが所属する支援班は拠点各所の修繕や確認を行なっているので、厩舎にも何度か足を運んだことがある。
騎馬班はアルファの兵士が多い。班長もアルファだし、オーレリーの恋人であるアドルフもアルファだ。ベータの兵士もたくさんいるが、他の班に比べてアルファの比率が高かった。それだけ騎馬で戦うのには技術を要するし、戦の要となる強者が必要とされる班なのだ。
なので、厩舎は騎馬班と会う確率が自然と高いため、レオンスは特に用事がなく体調が芳しくないときは立ち寄らないように気をつけている。それはアメデもオーレリーも同じだった。
今日は用事はないが、体調も良いのでレオンスは馬を見に来たのだ。
手伝えることがあれば手伝えるし、厩舎の横には第七と第九部隊の支援班が世話をする家畜たちの畜舎があるので、そちらに顔を出してもいい。
それに、馬を見ると心が癒される。そんな思いもあって、レオンスは厩舎のほうへとやって来た。
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