じだんだ!

ゆきだるま

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第一章 〜尾行から始まるバイオレンス〜

その5

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1







「で、何か進展はあったの?」







 金曜日の午後9時半、俺達は車塚晶に呼び出されていた。呼び出された場所は外から全く見えない廃ビルの一室。俺がこの前『ここ暗いよ! こえーよ!』と文句を言ったからか薄暗いながらも灯りがつけられていた。どこから引っ張ってきたのか、ドアの外から天井まで伸びるケーブルの先にバイクのヘッドライトがぶら下がっている。…どっからそんなもん持ってきたんだよ。







「いやぁ、なんつーか、なあ?」



「お、おう、あるというかないと言うか…」







 しどろもどろに答える俺達の態度は演技だ。と、いうのも先日、晶さんの『美園裕太の弱点を探してこい』という命令に嫌気が差し、本人の了解をとりわざとそれっぽい弱点を作る作戦に出た。内容はこうだ。







 ゆーくんを女装(マジで可愛い)させ、その写真を撮影する。それを俺がゆーくんのパソコンから偶然見つけたことにして晶さんに渡す。それをばら撒かれたくなければ今後一切由美ちゃんに近づかないことって条件でお互い手を打とうって流れ。



 ゆーくんはこの作戦に、グレた由美ちゃんが心配だから今後一切絡まないという部分に難色をしめしていたが、それに関してはほとぼりが冷めてから、俺達が由美ちゃんに接触し、その時また対策を考えることを約束して納得してもらった。







「あんの? ないの? どっち?」







 イライラと腕を組みながら言う晶さん。…怖い、マジで怖い。







「いや、まあ、あるっちゃある、…けどさあ、人のプライバシーっていうか、なあ?」







「おー、俺らがバラしたってなったらゆーくん2もわりーしよ…」







 歯切れ悪くもったいぶる。んー、いい演技なんじゃないの? …これ終わったら演劇部



入ろうかな。  







「…言え!」







 …! 晶さんが右手で俺の胸ぐらを掴み力を入れる。浮いてる!浮いてる!







「ちょ、う、浮いてる、言う! 言うから離して!」







 恐怖で仕方なく白状させられてる風の俺の演…、いや、本当に怖い。







 力を緩め、ストン、と降ろされる。







「で、何見つけたのよ?」







「…これ」







 俺は嫌そうにスマホのディスプレイを彼女の方へと向ける。そこには女装して恥ずかしそうに自分の肩を抱いたポーズのゆーくん。恥じらった表情とゆるふわなスカートが相まって最高にセクシー、…だと昨日は思ったが、冷静にこれがゆーくんだと考えると結構キモいな…。ゴメンよゆーくん。







「は? 誰これ? こんなん別、…に、ん? これあいつ?」







「あ、ああ、ゆーくんが風呂入ってる間にパソコンから見つけてさ…」







 もっともらしい見つけ方を告げる。明さんは『へぇ…』とでも言いたげに口の端を釣り上げる。…うむ、信じてるみたいだ。







「はーはーはー、なるほどねー。これは中々じゃないの! ふんふん…、これをばら撒かれたりしたらあいつこの辺にいられないわね。…しかしやっぱりあいつ、あたしの思ったとーりの変態ヤローだったみたいね? うわっ、キモっ」







 まるでゴキブリでも口に入ったのかってくらいに嫌そうに吐き捨てる晶さん。…ゴメンよゆーくん。







「な、やべーだろ? 流石にこんな性癖のプライバシーを暴くようなマネはエロアドバイザーを生業とする俺としては気が引けんだけどよ? …まあ今回はしゃーねーか」







 葛藤してるけど妥協したって意思表示をスラスラと喋る雅人。…ちょっとざーとらしいよ。







「じゃ、データをあたしのスマホに送りなさい」







「…わかった。ま、これでこの件が終わるなら仕方ないか。実際の被害は晶さんに知られるだけで済むわけだし」







 画像フォルダにアクセスしようとスマホを操作する俺に晶さんが、







「は? 何言ってんの? ばら撒くに決まってんじゃない。その方があいつこの辺歩けなくなるから由美も安全じゃない? あたしの後輩にも話回るから何人かは『このカマやろー!』とか言ってしばいたりもするだろうし」







 ピタ、と手を止める。…失念していた。こいつは由美ちゃんにゆーくんを近づけないために弱みを探していたのだ。弱みをばら撒いたほうが好都合なら隠しておく手はない。



 しかしこのまま画像を渡してしまえばゆーくんはこの街で経油たいと呼ばれ、意味もなく不良に殴られたり引きこもりになってしまう。…俺のせいで。







 しかし、今更嫌だと言ったところで力づくでもデータを奪われてしまう。…あれしかないか。







「うわー、そんなひどいことすんの? ま、仕方ないのかも知れないけど、出来れば穏便に済まして欲しかったな。やだなー、ゆーくんに悪いなー…」







 これは画像渡しちゃだめなやつだ…、なので我ながら白々しいかと思いつつも出来るだけ喋って時間を稼ぐ。







「今更そんなん聞かないわよ? あたしはあんな奴どーなろーと知ったこっちゃないし、早く送りなさい?」







 …よし、おっけー







「やだなー、ゆうくんごめんよ? …はい、送信したよ」







「由美を怖がらせるあいつが悪いのよ? ま、大怪我させたりはしないように後輩にも言っとくし。じゃ、とりあえず画像をシゲに転送して…、ってまだ来てないけど?」







「え? 送ったけど? ちょいまってよ? あ! 間違えて消しちゃった!」







 



「は?」







「い、いやー、間違えて長押ししちゃってたのかな…、その、が、画像あれしかなかったのに」







 ……!



 







 グイッ、…と胸ぐらを捕まれ今度は持ち上げられるのでは泣く後ろに押される。背骨が軋むほど反り返理ながら晶さんの方を見ると、先程までの、脅しているけどどこか冗談っぽい気配はなく、睨み殺すという言葉がまさに適切な鋭い視線をこちらに送る。







「わざとでしょ? ねぇ、なめてんの?」







「い、いや、その…、ちがくて、間違えて…」







「ね? 騙しとーせるとでも思ってんの? もうあんた殺すから」







「ちょ、ちょっと待てよ! 健二も悪気があったわけじゃねーべ?」







 慌てて止めに入る雅人は晶さんに鋭い視線を向けられビクッと固まる。







「あんたも殺すから、どーせグルなんでしょ? あたしが甘い奴だとでも思った? あんたらがヘタレだと思って甘い顔してりゃなめてくれるじゃない?」







「ちょ、待ってよ…、俺たちゃ別に元々手伝う義務なかったじゃん? 脅してやらされてんのにそこまで責任感じなきゃいけないとは思わないだろ? そりゃ画像消したのはわざとだけどさ、けどそれはなめてるとかってより、ゆーくんに悪いと思ったからじゃん、な?」







 必死に弁明する俺を掴む力が少し緩められた。







「ま、それもそうね。元々あんたらに責任はないんだもんね? じゃ、もういいわ。あとはあたしがやるからあんたらは帰っていいわよ? ただし、あの男の周りちょろちょろしてたらとばっちり食うことになるから今日は家でおとなしくしてなさい」







「ちょ、どーする気だよ」







「あんたらには関係ない、…邪魔したらマジに殺すから」











 俺たちを睨む彼女の視線には、邪魔すると本当にただでは済まさないという意思が見て取れた。そんな気迫に俺達が固まっているのを横目に晶さんはゆっくりと部屋を出ていった。







「……悪い雅人、新製品のアレある?」



「あ? あー、あるけどあんなもん何に使うんだよ?」



「保険だよ」







2







 …プルルル.



廃ビルを離れた俺達は、ゆうくんの安否を確認するべく電話をかける。







「もしもし、どうたった?」







「ごめん、やばいことになった! 晶さん多分ユーくんのことボコりに来る! ゆーくん今どこ?」







「え? なんで? 今家だけど出ない方がいいかな?」







 家かー。家には家族もいて乗り込みにくいだろうから安全っちゃ安全なんだけど……、張り込まれても鬱陶しいし、今日の奴の感じだと家族関係無しで踏み込んで逝く可能性が無いとも……。







「説明は後でする! 家かー、なんかあの勢いだとドア蹴破って入ってきそうな感じなんたよね…、車で出かけらんないかな?」







「出せるけど…、健二くん達今どこ?」







 俺たちは廃ビルを出てすぐの住宅地を、ゆーくん家に向かって歩いているので、晶さんの進むルートと被っている可能性がある。なので出来れば俺たちを拾っている暇があるなら一人で逃げたほうが安全だろう。







「いや、俺達は別に狙われてないから一人で遠くに逃げたほうがいい!」







「この状況で一人は怖いからついてきてくれると…、今どこにいるの?」







 このヘタレが……、しかし、同じくヘタレの俺からすると気持ちは痛いほど分かる。しばかれるかも知れない状況で一人で冷静に行動するなんてとてもじゃないが出来はしない。となると、多少のリスクはあっても一緒に公道したほうが安全か……、車ならいざって時無茶やって逃げれないことも無いだろうし。







「…しょーがないなぁ、今第三公園の前らへんに居るよ」







「じゃ、そのまま大通りに向かって歩いてて、5分で行くから」







 当たり前だが、晶さん・由美ちゃん・ゆーくんは同じ中学の校区内に住んでいるため、家が近所だ。また、先程まで居た廃ビルも、この中学の生徒のたまり場なので彼らの家から近いのである。



 



「わかった」







「…どーだった?」







 心配そうに訊く雅人。やつもなんだかんだヘタレだし、なんだかんだゆーくんを気にっているから心配なのだろう。







「家に居たみたいだったから出てくるように言ったよ、今から俺たち拾いに来るって」







「あー、それがいいだろ。このままゆーくんが家に居たら、なんかあいつドア蹴破ってゆーくんのかーちゃん弾き飛ばしてでも殴り込みそうな気がするよ」







「あ! ゆーくんのかーちゃんとか危なくない?」







 流石にそこまで外道なことをするような相手ではないとは思うけど、まあ、ゆーくんが家にいたところで追い返せるわけないし(メチャ弱いだろ多分)、どちらにせよ今は逃げたほうがいい。







「…いや、流石にいないとわかれば諦めんだろ、…どっちにせよ家にいるよりゃましだろ」







 などと雅人と話していると、後ろから白いヘッドライトが迫る。振り返るとこの間一度乗せてもらったトヨタクラウンの窓からゆーくんが顔を出す。パールホワイトの車体にリムの深いメッキホイールとかなり下げられた車高が少々目立つが、歩いて移動するよりはマシだろう。



 



「乗って」







 言われるがままに俺が助手席に、雅人は後部座席へと乗り込む。シートベルトを締めると俺は訊いた。







「どこ逃げるよ? って言ってもちょっと遠く行ったらバレないよね流石に。晶さん徒歩だし」







「どーだろ? あの女、盗んだバイクで走り出してる系の後輩とかいっぱいいそうだろ」







 彼女、変にヤンキー臭い場所に呼び出してくるし、後輩がどうとか言ってたし、当の由美ちゃんだってそっち系っぽい感じの子だし、アレ系の世界の住人なんだろうなあ。やだなあ。



 



「…確かに。どこいこうか?」







「つってもとりあえず市内から出た方がいいよね? それ系のやつら地元の地理とか強そうだし」







 なぜだかはわからないが、ヤンキー系のやつらって地元が大好きなんだよね。同じ中学のそれ系のやつらもそうだったし、テレビとかでも地元のイベントで大はしゃぎしてるし。よくはわからんが地元を警戒したほうがいいだろう。







 



「だろーな。っても俺らも道知らねーしな…どうすっか?」







「とりあえず北の方行った方がいいんじゃない? 信号少ない山の方がいいだろうし。ゆそれでいける?」







 見通しがいい道路では、隠れる場所もなく危険な気もするが、それでも信号の多い市街地で他の車に引っかかり身動きが取れなくなるよりはマシだろう。



 



「…わかった、とりあえず北の方に進むよ」



















 それから俺たちは目立たないよう、スピードも出さず、交通ルールを守りながら車を走らせた。住宅の多いゾーンを抜け、山道に繋がる太い道に差し掛かると、前方に道路を封鎖してバイクを駐車する集団が見えた。







「んだよあいつら邪魔だなー、こんな時に道路封鎖してたむろしてんじゃねーよ」



「うーん、困ったなあ、……ここから抜けるのが一番近いんだけどな」







 雅人がめんどくさそうに言う。ん? ここからが一番近い? 不良の集団? 注意深く彼らを観察すると、彼らは長い背もたれの三段シートを装備したド派手なバイクできているにも関わらず、はしゃいだ様子もなく辺りをじっと見回している。正確にはこの道路を通る車一台一台に視線を向けている。







「ホントこっちは逃げなきゃいけな、……違う! あいつら多分あれだ! 俺ら探してる!」







 間違いないだろう。このタイミングで山奥に繋がる道路で検問をかけるというのが現状と噛合過ぎている。







「ウソ? そんな大げさな」







「ん? おい! こっちメチャ見てんぞ!」







 予想通り、俺達の乗る車を見た一人がハッとなり、バイクに跨りエンジンをかけた。







「ヤバい! ゆーくん! Uターンだ!」







「え? 道狭いなー」







 のんきな感じに言うゆーくんに少し苛立ちながら言う。







「そんな場合じゃないし! なんとかしろよ!」







「やべー! こっち来てる来てる! パラリラななボーイ達が鬼の形相だよ! 怖いよ!」







 こちらに気づいた輩共が次から次へとバイクに跨ってこちらに向かってくる。彼らの鬼気迫る表情で、『待てや!』だの『コラァ!」だの叫んでいてマジで怖い。







「うわ! こりゃマジにやべー! ゆーくん早く!」







「わかった! ちょっと踏ん張っててね。はいっ!」







 言うとゆーくんはブレーキを踏みながらハンドルを大きく右に切り、サイドブレーキを引く。車体が大きく減速し前のめりになってその後ワンテンポ遅れてタイヤを滑らせながら車体がクルリと逆を向く。







「うわっ、滑ってる滑ってる!」



「おー、ゆーくんうまいじゃねーか、上手いなら先に言えよ!」







 普段大人しいから運転もどんくさいのだろうと思っていたが、車を運転したことない俺からしてもコレは上手い。



「まあね、…と、それどころじゃなさそう、仕方ないから南から海岸線に出ようか」



「そうだな。…うわ、バイク一台来てんぞ?」



「ホントだ! ヤバい」



「…ちょっと飛ばすね」







 そう言うとゆーくんはアクセルを踏み込み、車体は加速し、バックミラーに見えるバイクのヘッドライトは次第に遠ざかっていった。























「ゆーくんすげー」



「ゆーくんすげー」







 あれからゆーくんは信号に引っかからないルートを選び、他の車を華麗に躱しながら車をドライブさせ、同県内の海岸通りまで来ていた。俺たちの地元から軽く20キロは離れているだろうか。ここまでくれば一応は安心だろう。







「いやぁ、運転は結構自信あるんだ」



「いいなー、俺も今度運転させてよ?」



「俺もおれもー」







 こんな時になんだが、ゆーくんの華麗なドライビングを見て、ちょっと憧れてしまった。ゆーくんに出来るなら俺だって練習すりゃさっきみたいなのできんじゃないの? 







「…免許取ったらね」



 免許ねー、18んなったら取ろっかな? 夜の海なんかも電車にのってまで来ようとは思わないが、月の光とビルから漏れる灯りだけがほのかに反射する海は、こうしてみていると確かに少しロマンチックだ。 



「いいじゃんちょっとくらい! ケチだなー」



「そんなんだからストーカーに間違われんだよ」



「二人とも降りてくれるかな?」



 口々に言う俺たちにゆーくんはやれやれとおどけて言う。



「うそだってば」



「そうそう、そんなマジになんなよ~、今度エロDVDあげるからさ」



  危機を脱した吊り橋効果なのか、深夜のテンションなのかはわからないが、こんな他愛のないやりとりが普段以上に暖かく感じられる。 漫画でよく、ピンチを共に乗り越えた仲間だとか、一緒に悪いことした仲間がサイコー! みたいなのあるじゃん? あれって多分マジだと思う。



 







 と、その時俺のスマホから着信音が鳴る。



 



プルルル







 ディスプレイを見ると、そこには『車塚晶』の文字。……うわー。先程までの穏やかで優しい気分とは打って変わってこの字面は俺の心を完全に冷えさせる。







「うわ~、晶さんから電話だよバレてんじゃない?」



「出なかったらよけーにあやしーべ、出ろよ?」





 確かにそーだけど、怖いし、いらんこと言ってしまいそう……、だけど、んー……。





「…しゃーないね」



 意を決した俺は少し震える指を強引に動かし、応答と書かれたアイコンを右上にスワイプした。



「…もしもし」



 



「あんた、美園と一緒に居るでしょ?」



 自身と怒りに満ち溢れた晶さんの声にいきないり核心を突かれる。



「え? いないけど」



 だ、大丈夫だ。落ち着け、俺がいないと言えばいないのだ。俺はゆーくんが今どこにいるかなんてしらないし、晶さんはバカだからごまかせる。大丈夫、絶対大丈夫……、だよね。



「じゃあ、美園の母親所有の、白のクラウン、ナンバー8○-○6の助手席に乗ってた猿顔の男は誰?」





 う、うわー……、そんなん知ってるの? どうやって調べたの? コイツ探偵かなんかかよ?? えーと、落ち着け。



「…え? い、いやー、そんなん言われても知らないし…、俺猿顔じゃないし、俺も心配んなってあれからゆーくん家まで行ったんだけど、もう居なかったんだよね」





「邪魔したら殺すって言ったわよね? …美園を引き渡して。そしたら今回はちょっと殴るだけで許してあげるから」



 いやいや、知らないって言ってんじゃん! 人の言うことちょっとは信じた方がいいと思うよ? いやまあ、嘘なんだけどさ。



「…ホントだってば」



「じゃあ今あんた少なくとも地元に居るはずよね? すぐ出てこれるわよね? 今から駅前の○ーソンに来なさいな」



 ……うん、だよねー、一緒に逃げてなかったらそうだよね? 家に帰ってるのが普通だもんね。



「ちょ…、え、っと、こんな時間から家出たらかーちゃんが怒るし…」



 そ、そう、こんな夜中に高校生が外出しちゃいけないんだぞ! いけない、…ってゆってくれ誰か! 誰か―!



「出てこなかったらお母さんをお葬式で泣かせることになるわ…」



 ……ひっ。



 ブチッ



 畳み掛けるように退路を断ち切ってくる晶さんが怖すぎて、反射的に俺は通話終了のボタンを押してしまう。





「あ、切っちゃったよ」



 

「なんで切んだよ? バレバレじゃねーか!」



 最もな意見だが、雅人は実際あの詰めっぷりを食らってないからそんなことが言えるんだ。……とはいっても、俺の対応が現状を悪くしたのは間違いない。









「いや、怖くて怖くて」



「なんて言われたの?」



 俺の言っている言葉からある程度の展開はわかっているだろうが、とりあえず向こうが言っていたことも含めてもう一度通話の詳細を二人に説明する。



「いや、それがさぁ…」







「…やべーな」



「…やばいね」



 と、二人はわかりきったどうしょうもない現状を一言で表現する。そのあとゆーくんは思いつめたような表情でこちらを向く。



「…もう僕、行ってくるよ。ごめんね、なんか迷惑かけて」



 ゆーくんは自分が原因で俺たちが怯えているのがいたたまれないのだろうが、実際巻き込まれたのは俺たちが晶さんの跡をつけたのが原因だし、車で逃げろって言ったのは俺だ。



「いやいや、俺らがゆーくん出てこさせてややこしくなったんだし! それに行くのはやばいだろ、あ、そうだ! もうこのまま東京とか行こうよ」



 もうこうなったらとことん逃げるしか無いんじゃない? 怖いし。殺されはしないだろうけど人間を片手で持ち上げるような女に思いっきり殴られたりしたら下半身不随くらいにはなっちゃうんじゃなかろうか? そうなるくらいなら今の生活を捨てて新しい土地で新しい暮らしを模索したほうが……。



「行ってどうすんだよ? 金もねーし」



「仕事探そう! で、一人暮らしすんの。そんで都会の垢抜けた女の子と仲良くなって部屋に呼んじゃったりなんかしてさ」



「なるほど、そりゃいーねー、ヤりまくりじゃねーか! 縛りとかいけるオネーさんいねーかな?」

 そんな非現実的なプランにテンション高くノッてくる雅人もこの現状にものすごく怯えているのだろう。そんな俺達の空元気を知ってか知らずかゆーくんは少し悲しそうな表情で、



「…ありがとう、けど、そこまで迷惑かけられないよ。それに、状況からして脅されるだけなんじゃないの? 謝って僕が女装した写真渡せばそれで終わりだよ、きっと」



 そう提案した。その声は少し震えていて、写真渡して終わりだなんて思っちゃ居ないことを俺たちが感じ取るには十分だ。



「いやいや、ゆーくんはあん時のあいつを見てないから言えんだよ! 完全頭きちゃってんだから! 下半身不随とかにされちまうぞ?」



 後部座席から身を乗り出した雅人が声を荒げて言う。

 

「だったら尚更君たちを巻き込めないよ。元々僕が由美ちゃんに余計な干渉して始まったことだから…」



「けどよー…」



 お互いを気遣いながらも恐怖が拭い去れないまま話は平行線。実際、東京に逃げる案も、ゆーくんが一人で行く案も、前者は現実性に欠けすぎるし、後者はあまりにも危険だ。なんかないか? 考えろ……、えーっと最初はこうなって、そんで次に、…あ、突けるとしたらこの部分か。



「待て待て、もっとなんかあるじゃん? 大体晶さん、ポリにチクるって脅された時動揺したから俺らに協力求めたんじゃん? だったらまだ交渉の余地はあるだろ」



 そう、ことが大きくなった発端は、ゆーくんが脅しかけてくる晶さんに、警察に行くって脅し返したことが始まりなのだ。それでその話を俺たちに相談してきたってことは、向こうだって警察沙汰になることは恐れているのだ。……もっとも、頭に血が昇っちゃってる今、そんな冷静に損得で話つけれるかは微妙だけど。



「あるか? あのキレちまった狂犬女とか? 大体、あの夜の校舎窓ガラス壊して回ってそうな仲間たちどーすんだよ? 喋る前にボコボコいかれるだろ」



 だよなー、道路を封鎖してた土曜の夜のハイウェイダンサー系の後輩たちだってテンション高く追いかけてきてたし、見つかった瞬間ボコボコだよな現状。となると、今出ていくわけにはいかないけど、…あ、そうだ、あれ設置してたんだ、忘れてたよ。そう上手く俺たちに都合のいい展開になっているかは完全にカケだが、どうせこの切羽詰まってる状況だ。そこにかけるしかないか。――となると、あと必要なのは、時間と、度胸と場所に保険、うーん。



「…まてよ? んー…」



 少し落ち着いて考えてみる。……厳しそうではあるがこのままよりゃましだ。



「……実は今日さ、……で、……だから、……ってのはどう? 取り敢えず朝まで逃げ切りゃ仲間たちは家帰るじゃん? そんで奴の性格的にこっちから呼び出したら一人で来る…、気がするし」



 俺が今考えていることを話すのを二人共フンフンと聞く。



「なるほど、今出ていくよりゃマシか。ゆーくんもそれでいーべ?」



「それならいけるかも。ありがとう、……ごめんね、二人とも」



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