じだんだ!

ゆきだるま

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第一章 〜尾行から始まるバイオレンス〜

その7

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1

「さて、どうしよう? なんとか言ったらどうなの? ねえ?」

  催眠ガスを天井から噴出させ、部屋に鍵をかけバリケードで車塚晶を部屋に閉じ込めた状態で交渉を持ちかけた俺達は、腕を後ろ手に結束バンドで止められ、車塚晶と不愉快な不良達に囲まれている。

 ……認識が甘かった。

 彼女には催眠ガスも一切効かず、扉をバールのようなもので壊し、コピー機を蹴りでふっ飛ばした。

 閉じ込められている間に仲間に連絡したらしく、あれよあれよという間に囲まれ、縛られた。ちなみに、車で待機していたゆーくんも発見され、縛られて俺の横で正座している。

「おい! 縛ることないだろーが! ボケ!」

 威勢よく吠える雅人は今、裸にダブルエックス(勃起がバレないようにするための革製のごっついチ○コ拘束具)だけを身に着けて縛られている。捕まったときに、敵の一人が、『おい、こいつ女だろ? おい!』と言いながらひん剥いたのだ。
 そのひん剥いた本人が言う。

「おうおう可愛いねぇ! その声で『おち○○んおっきい、……すごい』とか言ってみてよ?」

 ……こいつやべーな、マッチョでハゲでショタかよ?

「おめー性癖やばくね? ひくわー……」

「ちょ、言ってみただけだって! ネタだよネタ! ……ホントだって! みんなそんな目で俺を見るんじゃねぇよ!」
 
 仲間達も概ね俺と同じ感性だったようで、一同ハゲに警戒の目を向ける。うんうん、こいつらそんな悪い奴じゃないのかもな。

「しょーもな。で、どうしよっか? アタシを閉じ込めてガスまで吸わせてくれちゃって、あれなんだったの? 一瞬だけくらっときたけど、後遺症とか残んないでしょーね?」

「……それは大丈夫だよ。安全な催眠ガスだ」

 まあ、ホントに安全かは知らんけどね。店長から聞いただけだし、……って言ったら殺されそうだな。

「まあいいわ、で、美園が出ていけばさっきのも不問にしたげるわ」

 ふんぞり返ったような態度で言う。しかしこいつは何の権限があってこんなにも偉そうなのだろう? 強いからか? 強いからなのか? なんかだんだんムカついてきたよ。

「……あのよ、なんでそんな偉そうにできるわけ? 人ひとり街から追い出すってことがどういうことかわかってんの? なあ?」

「はあ? アタシだってそんなことしたかないわよ。けどね、誰かがやんなきゃ、誰かが怖くなきゃ、こういう奴がやりたい放題になるの」

 車塚は絞り出すように言う。その声からは何かを恐れているような、それとも何かを酷く悔いているような様子が見て取れるが、そんなもんは知ったこっちゃない。こちらにとっちゃ八つ当たり。

「どういうやつだよ? ていうかお前みたいな奴がやりたい放題やってる方が俺には問題に思えるけど? 自分がどんだけ無茶言ってるかわかってんのか?」

 誰かが誰かを裁くってのはひどく矛盾した話だ。それはこの世界にはたしかに必要なのかもしれない。だけど、今のコレが必要だなんてどうしても思えない。うまくは言えないけど、どう考えたって残酷だし、一方的だし、つまらない話だ。

 雅人もこのくだらない今が気に入らないのだろう、声を荒げ叫ぶ。

「そーだそーだ! テメェみてーチ○コも勃たねぇ女が出しゃばんじゃねーよ! おめーが諦めてくんなきゃ俺ぁソープ奢……ぐほぁ!」

 叫んでいる途中で車塚からローキックをもらう。

「……ふざけて言ってんじゃないの」

「う……」

 先ほどとは変わり、冷ややかな目を向けられる。

「……ちょっと外出てくるからよく考えておいて。帰ってきても舐めた態度のままだったら殺すから」

 淡々とした語気で言う、どうやら本気で怒っているのが伝わってきて正直失神しそうな程に恐ろしい。

「じゃ、あんたらちゃんと見張っててよ?」

「「うす!」」

 手下に言い残すと、車塚は部屋から静かに出ていった。

2

 俺達は未だガラの悪い男たちに絡まれたままで、打開策は思いつかない。ゆーくんは下を向いて何かを唱えている風なので頼れないだろうし、雅人は先ほど蹴られた部分をさすっている様子からまだ痛みが残っているのだろう。
 俺達は取り囲むのは3人。先ほど雅人をおちょくっていたマッチョのハゲは身長180程であろうか。鋭い目つきも相まってとても恐ろしく、街で見かけたら俺は柱に隠れたり、おもむろに興味のない本を頷きながら読み始めたりするだろう。二人目は、ハゲのショタコンに突っ込んでいた男で、ヒョロいが喋るたびにグルングルンと動くギョロ目がヤバさを感じさせる。3人目はツーブロックに刈り上げた短い黒髪の一見スポーツマン風の男。彼は別に悪そうな感じではないが、殴られたら骨くらい折れてしまいそう。

 ……どうしよう、三人ともめっちゃ関わりたくない、怖い! あの勘違い握力女がいない今、状況を変えるとすればベストなタイミングなのだろうが、俺達は全員縛られてるし、縛られていなくたってこんな奴らに勝てはしない。俺も雅人も、おそらくはゆーくんも腕っ節には全く期待は出来ない。

 そんなことを頭の中でぐるぐるとブン回していると、ハゲが雅人の方へと近づいていく。

「おい!」

「……んだよ?」

 流石雅人、弱い癖に全くビビった様子がない。思えばこいつはいつもそうだった。明らかに自分より強いやつにも横柄な態度を取っては殴られていた。しかし、アバラを折られても顔が2倍くらいに腫れても、次の日にはケロッとしていた。その度雅人は『だからよ? せっかく身体いてーんだったらよ? 女王様もののAVが最高なんだって! ほんとに! まじで俺が男優になった気分でよー』みたいなことを言うが強がりなのか本当なのかは全くわからない。ただわかることは、こいつはすげー奴だってこと。どんな目にあったって自分を曲げずエロいことを探し求める、そんなかっこいい男なんだ。多分これからまた殴られるんだろうけど、こいつならその痛みを糧にまたオナニーに励む、そんな未来を予見させるのだ。

「おめぇ、……腕、大丈夫か?」

「あ?」

「いや、晶さんに蹴られただろ? 折れてねぇか? 折れてんのに縛ってたら腕、オシャカになっちまうからよ、ちょっと見せろよ」

 心配そうな表情でハゲは雅人に近づくと、腕を擦った。雅人はそれが痛かったのか一瞬ビクッとなったが、ハゲは胸をなでおろすように、

「……よかった、骨は大丈夫みたいだな。おめぇ、頑丈じゃねーか? え?」

 と、言いながらニカッと笑い、俺達の腕を止める結束バンドをニッパーで切ってくれる。

「全くあの人メチャクチャつえーからよ、俺らいつもヒヤヒヤすんだよ。相手死んじまうんじゃないかってよ? ほら、あの人強い上にめっちゃバ……」

「おい! やめろ! そんなこと言ってんのバラされたらやべーじゃ済まねーぞ!」

 言いかけるハゲに向かってギョロ目が窘める。……もう遅いけどね。

「いや、こいつらなら大丈夫だろ? 晶さんにビビってねぇし、悪い奴でもなさそうだろ」

「気にすんなよ、言われなくてもあの女がバカだってのはわかってるし、自分がバカなことに全く気づいてなくて指摘されたら即キレる系のバカだってのも理解してるから言わないよ」

 俺が言うと、ハゲもギョロもさわやかもやたら嬉しそうな顔になる。

「「「だよな!」」」

3

 ……30分後。

「だからヨユーなんだって! これが終わったらこいつ俺にソープ奢ってくれんだよ! したらこんなん楽勝で耐えれんべ?」

「いやいや、まさやんアンタ、その顔でどーやったら18禁の店に入れるってんだよ?」

「だろ? ほんとこいつ自分を省みないからね? よえーのにやたら態度もデカいしさ」

「いやいやそれは尊敬すんよ俺? 言うたら俺が晶さんとかヒグマに喧嘩売る感じだろ? クソ度胸じゃねぇかよ」

「じゃあさ、もうあの子に行っちゃおうよ、キムくんがあの子とヒグマを同列に扱ってたってさ? そしたらキムくん相手に暴れ出して僕ら助かるんじゃない?」

「はっはっはっ、ゆーくんも中々ひでーこと言うね?」

「やめろよー、友達だろー」

「冗談冗談、そんなことしないよ」

「「「あっはっはっは!」」」

 俺達はすっかりと打ち解けていた。

「けどよー、ほんと一旦従っとけって? どうせあの人3日もすればゆーくん追い出したの忘れんだからさ! バカだし! ……き、気持ちいい! 晶さんをバカだと言えるこの優しい世界!」

 この、俺達を心配しながらパワー系バカ女の不満を漏らすハゲは、木村拓馬という名前で、仲間からはキムと呼ばれている。近所の工業高校に通っていて、空手部に入っているらしい。

「はっはっはっ、お前も相当溜まってんね? まー俺もあの人結構キツイ時あんけどさ?」

 キムに同調するギョロ目は高島真一という名前で仲間からの呼び名はギョロ。……それ悪口じゃないか? そんな彼は夜間高校に通いながら母親と妹との暮らしを守るために鉄工所で働くナイスガイだ。

「まあそう悪口ばかり言うなよ、いいところもあるじゃないか。俺らがマジに困った時何回も助けてくれたし、なあ、マジに俺らもあんまひどいこととかしたくないしさ、この場は引いちゃくんねーか?」

 二人を窘めるこのスポーツマン風の男は宮脇一輝、あだ名はない。キムと同じ工業高校に所属していて、見た目通りラグビー部に所属しているらしい。

 話してみるとみんな気のいい奴らで、どうしてあんなアホな女に付き従っているのか謎だったが、なんか全員揉め事があった時に車塚に助けてもらい、その結果恩義と恐怖心が入り混じった感情から有事の際は手伝う関係になったらしい。

「まあわかっちゃいるんだけどさ? ムカつくじゃん? アイツの自分だけが正義みたいな態度。なんか自分が悪だと思った相手は生きてる価値もないみたいなさ?」

「あー、それは、わかるなー……、でもなー、あの人こうなったら絶対引かねぇかんなー……、どうしたもんか?」

 俺のワガママな意地に真剣に悩んでくれるキム。うーん、意地も大切だがこの優しいハゲにはあんま迷惑かけたくないな。

「おい、別にいいんじゃねーの? もう? 出ていくっつってゆーくんしばらくどっか泊まらせたらよくねー? 帰ってこれるタイミングとかこのハゲが教えてくれんだろ」

「ハゲゆーなし! 坊主だし! ま、そういうこった! その辺はうまくはやってやんよ?」

「……あ、ありがとうハ、……キムくん!」

「ハゲゆーなし!おいおいゆーくん実は口悪いだろ? ま、いいってことよ!」

「「「ありがとうハゲ!」」」

 みんなでハゲに抱きつく。

「おいおいよせよ、照れるじゃねぇか?」

「アンタらなにしてんの?」

「……え?」



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