いつかは君を

ゆきだるま

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第七話

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最近残酷だよな? 

 何がかって言うと、インターネット。 

 こないだ見た『女子社員に聞いた!うっとうしいオッサンランキング』ってやつで第一位が“武勇伝を語るオッサン”だったんだ。 

「特にワル自慢とかありえないと思う。そんなんがカッコイイと思ってんの?それがもうかっこ悪い」 

「女の子相手に自慢なんてそれがもうすでにダサい。そんなの聞かされたらもう上司として尊敬できないと思う。やめたほうがいい」 

「つまらい話を聞かされるとご飯が不味くなる」 

 ひどいと思わないか?人間さ、自分で『あれ?俺ちょっとすごいことしたんじゃない?』って思ったら人に話しちゃうよな? 

 そりゃあ、かっこいいことじゃあないけどさ、それくらいのカッコ悪さがあったって優しく見守ってくれてもいいじゃないか…… 

              1 
    
「でさ、こう、掴みかかって来たんだ、こーんなでっかいやつが!だから俺は機転を利かして逆に!相手の力を利用して……」 

 時は昼休み、午前の授業から開放され、食事の喜びを噛みしめる学生のひしめき合う食堂で、俺は先日いじめっこ中学生をしばき倒した話を延々と同級生に語り聞かせていた。 

「ついに中学生殴って喜ぶようになりやがったのか……。いつもヤンキーとすれ違うたびに壁と会話しだしてたもんなお前……。けどやめとけよそういうのは、かっこ悪いから……。 っていうか休み時間のたびに同じ話しすんのやめろよ……まじで」 

 心底嫌そうな顔をしながらクラスメイトの村上が返事をしてくれる。そんな嫌そうにしなくても……。ネットのアンケートに答える女子社員みたいなやつだな。 

「まあまあそういうなよ、ほんと大変だったんだから愚痴くらい聞いてくれたっていいじゃんか。中学生ってもこーんなでっかいやつだったし?俺も中学生殴るのはちょっと気が引けたけど?友達のピンチをほっとくわけにもいかないし?仕方なく?いやーほんと大変だったよ」 

 隣でうどんを啜る村上はめんどくさそうに「そうか……」と言うとそれっきりこっちを向かなくなった。 
 なんて冷たいやつなんだ。怖そうなやつには秒速で謝り、担任の先生に事あるごとにパシられている俺が珍しく頑張ったというのに…… 

「ほんとさ、なんての?いざって時は人間動けるもんだね。なんかこう、いつもより怖くなくなるっていうか、アドレナリンっての?あれほんとに……」 

「黙れ」 

「いや、ほんとにさ、アドレナリンっての?普通だったら痛いことがあんましおふっ……」 

村上は黙って俺の脇腹を殴り、うどんを啜ることに戻った。俺もそれ以上喋らずに村上に分けてもらったうどんのつゆをかけた白米(向かい側に座り300円もする定食を食べる木村にもらった)を食べる作業に戻った。 

 そんな怒らなてもいいじゃないか…… 

でも、ご飯とうどんつゆありがとう。 


     2 
 授業が全て終わり、さて帰ろうかと廊下を歩いていると、前方に担任の梅田京子先生が見えた。 

 梅田先生は基本的には早く仕事を終わらせて家でネトゲをすることに命をかけるダメ人間だが、1年のころからたまに相談に乗ってくれる優しい先生だ。 

 ボロいジャージを着てだらし無く歩くその姿はとても25歳の女性には見えない。 

 結婚とかしたくないのかな…… 

 という心配を1年の頃はしていたが、実は結構モテる(本人が言っていた)らしい。オタサーの姫とかそういう感じなのかもしれない。先生がそれはちょっと嫌だなあ…… 

「吉田くーん、ちょっと来てくれる?」 

 失礼なことを考えていると声をかけられた。この少しトーンの軽い呼び方は怒られる時もしくは用事を押し付けられる時の呼びかけ方だ。 

「ごめん、今日は無理!帰って塾があるんだ。すぐ帰らないと」 

「そう、吉田くんのお母さんからゼッタイ塾には行かせないって聞いてるけど?中学校の時塾で女の先生に怒られたくてわざと宿題を忘れたりしてたって?もう、かまってちゃんなんだから」 


 ……進路指導室にはほとんど汚れていない長テーブルとパイプ椅子がおかれていた。普段のボロい机とは違い、なんだかそわそわする。 

「吉田くん、なんで呼び出されたかわかる?」 

 人を追い詰める時の梅田先生はいつもニッコリと微笑む。この嗜虐的な笑みが俺は嫌いじゃない。別にマゾってわけじゃないよ、なんかちょっと可愛いんだ。ほんとだよ? 

「んー、進路のこと?大丈夫、俺、大学行くよ。成績も悪くないしどっか入れるだろ」 

「どっか入れるって……将来を決めることなんだからもっと……いえ、今はいいわ、吉田くん、昨日中学生殴ったでしょ?」 

え?なんでバレんの?チクられたの?いじめっ子のくせに……! 停学?やべえな、今年あんま休んではないから進級は大丈夫だと思うけど、停学とやだなー……先生毎日家まで来るらしいし……課題とかもいっぱい出されるらしいし…… 

「やだなー、俺がそんなことするわけないじゃん! 人畜無害で優等生なことだけが長所の俺がさー、俺が学校で人殴ってるとこ見たことないだろ? ははは……」 

「あたしもそう思うわ。でもね、電話があったのよ、その子の通う中学校から……うちの制服を着た、背が低い、ニホンザルみたいな髪の毛した男の子がうちの生徒を殴ったって」 

「や、やだなー、それ俺じゃないって、背は低いかもしれないけど、髪型だっておしゃれだし、そんなニホンザルとか、そいつどんなダセぇ頭してんだよ。しかし可哀想だよねその中学生もさ、そんなかっこ悪いやつに殴られるなんて、あははは……」 

 やべぇ、いや、証拠はないはずだ。それだけじゃ特定はできない。先生だって疑わしきは罰するなんて中世みたいな方式で俺を罰したりはしないだろう。っていうかチクっただけに飽き足らず、俺のハイセンスな髪型をニホンザルだと……失礼な、え? ほんとにダセぇのか俺の髪型……サルみたいなのか…… 

 乾いた笑いをする俺を梅田先生はまっすぐに見つめ 

「え? その髪の色ってニホンザルの写真見ながら脱色したんじゃなかったの? ……じゃなくて、吉田くん、今日学校で自慢しまくってたでしょう。大体の先生は知ってるわよ?」 

「え? あー、あ、あれは、嘘だよ、ワルに憧れる年頃っていうかさ、嘘の武勇伝でかっこつけて見たかったっていうか……あるよね、そういうこと……」 

 梅田先生の俺を見つめる瞳はどこか心配そうな色を含んでいる。このめんどくさがりの先生にこんなに心配をかけるなんてちょっと悪い気がしてきたな……でも、停学になるのはなあ……それに、俺じゃなかったって思ったほうが先生だって安心できるっていうか、優しい嘘っていうか。 

「吉田くん、別に処分しようとかそういうのじゃないのよ。その子達が同じ学校の子いじめてるのをとめるためだったみたいだって見てた人が言ってたみたいだし。そんな危ないやり方は感心できないけど、他の先生にはちゃんと悪いようにならないように言っといてあげるわ。ただ……」 

 梅田先生……いい人だなあ。俺が卒業したら結婚してくれないかな?こんな格好してるけど実は顔は可愛いしね。……正直にいうか。 

「ごめん……殴ったよ。ごめんよ、隠そうとして……けどさ、友達も危ないことになりそうな感じだったしさ。もうやんないよ。知ってるだろ先生、俺が校内随一のヘタレだって」 

「もう、やってしまったことは仕方ないけれど、そうじゃないの。中学校から連絡があったのは、殴られた子が言いつけたからとかそんなのじゃなくて、その子達が学校で吉田くんのこと探し出して殺してやるって話してたから気を付けて欲しいって話だったの。その子達、年上の悪い先輩とも付き合ってるらしくて、危ないから加害者の生徒になるべく家から出ないように言ってくれって」 

 ……まじか、どうしよう。あいつらマジかよ! 自分達が悪いくせに……。まあそんなん通じるやつがいたいけな同級生をいじめたりはしないか。 

「そ、そうなんだ……。 やだなあ、もうしばらく引きこもってようかな? 特例で3学期残り全部休んでもダブらないとかならない……?」 

「ごめんね、それはちょっと無理よ。なるべく人通りの多い道通って下校して、危ないと思ったらすぐに警察か学校に連絡しなさい。吉田くんもお年頃だから、殴られそうだからって大人に助けてもらうの嫌だとは思うけれど、間違っても自分でなんとかしようなんて思っちゃダメよ」 

「わかってるよ! 俺はね、自分の命が死ぬほど大事なんだ。殺されないためならどんなカッコ悪いことだってゲスいことだってするよ!」 

 とは言ったもののどうしよう? 自分で言うとおり、学校や警察に電話することに躊躇はないが、果たしてそれは間に合うのだろうか? 何人かで囲んだら人一人死なすのにそんなに時間ってかからないんじゃないかな…… まあ普通は『捕まるかも?』って可能性がある時に人殴ったりはしないだろうけれど、普通じゃない奴らだったらどうしよう……」 
  
「そうだったわね。吉田くんのそういうところは安心できるわ。本当に怖がりさんだものね。けれど、本当に気を付けてね」 

「うん、わかったよ、先生ありがとう」 

 まだ俺はこの時事態を少し甘く見ていた。昨日の中学生本人もそんなにヤバそうな奴じゃなかったし、家から学校だってそんなに遠くはないし、家までバレてるわけじゃないし。 
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