オタク君に優しくなったギャルさん

たかしモドキ

文字の大きさ
8 / 18

【8】苦手なチョコミント

しおりを挟む
彼女の事を一目で判断できなかったのは、
ほんの数日まで、彼女の印象を決定していた、
しっとりとした黒髪ストレートが、
カールした茶髪へと変貌していたからだ。

「やっと見つけた。かなた。こんな所で何してるの?」

「ゆりか。久しぶり」

ギャルさんも、この姿になった名切さんを見るのは、初めてなのか、
やや、他人行儀な態度だ。

「久しぶりじゃないよ。
 かなた、何してたの?
 ずっと電話も無視するし」

「ごめんね。ちょっと忙しくて」

「神崎さんも、坂上くんも、かなたと連絡つかないって」

「あ~うん。また連絡返しておくね」

「何それ……ちょっとどうしたの?かなた」

居た堪れない。
僕は、二人の会話を、ただ気配を消して見守る事しか出来ない。
色々と情報が多過ぎて、僕じゃ全く太刀打ちできそうにない。

そう思っていると、唇にヒヤリとした感触。
ツンとしたハッカの様な香りが漂う。

ギャルさんが、突然、僕の口に食べかけのチョコミントを当てがってきた。

え?なに!?どゆこと!!??

「ねぇ。ゆりか。私が言ってもね。
 説得力がないかもだけど……」

「なによ……ていうか、その喋り方なに?
 やっぱおかしいよ。かなた」

「うん。でも、聞いて。
 家の人がきっと心配してる。
 もう、家に帰りなよ」

ギャルさんの言葉で、名切さんの顔が強張る。
眉間にしわを寄せて、目の周りが強い怒りで硬くなっている。

どうやら、口ぶりから察するに、名切さんは家出中みたいだ。

「別にさ……そんな事、言われる筋合いないんだけど。
 かなたも、いつも外泊してるじゃない」

「そうだね。でもね。頭の悪い私と違って
 ゆりかは、分別の分かる頭の良い子だよ
 きっと、罪悪感でいっぱいだと思うけどな」

「ねぇ。ちょっと待ってよ。
 かなた変すぎるよ?ダルい事言い過ぎ」

「うん。ダルい事言ってごめんね」

やっぱり何かおかしい。
いつもの二人では考えられない雰囲気だ。

僕は、あまり二人の事が分かっていない。
普段、二人がどんな会話をしていて、
どれだけお互いのことを理解しているのか、
想像もできない。

でも、今の二人はいつもと違う。

二人の『いつも』を知らない僕でも、
そう断言出来るほどに。

「何かあるなら言ってよ。私、かなたの事わかんないよ」

名切さんは、とても不安定に見えた。
家出中というシュチュエーションと、
いつもと違うギャルさんに不安を感じているのだろう。

ギャルさんは、そんな名切さんをゆっくりと見つめてから、
スッと立ち上がり。一歩、前へ出た。

「ゆりか」

「なに?」

「私は、あなたの事、大好きだよ」

ブワっと汗が吹き出る。
なんの関係もない僕がそうなるのだから、
言われた本人は、もっとだろう。

名切さんの顔が、鼻先から頬に向かい
ゆっくりと赤くなっていく。

「なっ……何なのよ。いきなり……
 かなた……あなた、今日死ぬの?」

「…………」

名切さんの問い掛けに、押し黙るギャルさん。
そして、なぜか僕を見ている。
どうして、今、こちらを見るのだろう。
頼むから、僕の方を見ないでほしい。

「ていうか、君は……オタク君はなに?
 なんでここに居るの?」

「僕は、無害な生き物です。
 アイスを食べるだけが取り柄の虫です」

飛び火されたらたまらない。
僕はできるだけ穏便にしようと、
俯いて小さい動作で、アイスをかじった。

あっ……しまった、これギャルさんのアイスだ。

「おいしい?」

そんな僕を見て、ニッコリと笑うギャルさんに、
なぜだか、守られている様な安心を覚えた。

「……はい」

苦手なチョコミントが、好きになりそうです。

「かなたがキモくなったのはさ……オタク君のせいなんだ?」

「え?」

「……マジで意味わからない。何なの?君」

うわ!うわうわ!!
あの真面目な名切さんが怒ってる!!

めっちゃ怒ってる!!

どうしよう!どうしよう!!
僕が悪いのか!?

「オタク君じゃないよ。真響くんだよ」

ピシャッと。

まるで扉を閉める様に、名切さんと僕の間に割って入るギャルさん。
その口調は、食堂で僕をたしなめた時と同じ姿勢だ。

「はぁ!?かなただってさ!!イジってさ!!
 キモいって面白がってたじゃん!!!
 急になんなの!!……私さ……なんかした?……ねぇ……」

大きな瞳に、小さな雫。
名切さんの水晶の様な瞳が、潤んで
とうとう涙声になってきた。

名切さんは、それを手で隠しながら背中を向けた。
誰だって泣いている所を、人に見られたくは無いものだ。

ギャルさんは、それをじーっと見つめていた。
そして、ゆっくり名切さんに近づいて、
体全体で包み込む様に、背中から彼女を抱きしめた。

「大丈夫。大好きだよ。
 ゆりかは、優しい子だもん。
 お父さんと、お母さんの事、辛いね。
 家に居づらいもんね」

「う~!!かなたが、私を泣かした!!」

「うん。ごめんね。
 私、不安だよね。
 でも大丈夫だよ。
 きちんと話しようね」

僕は何が何やらわからなくて、
完全に呆気にとられている。

「ごめん。真響くん
 今は、ゆりかに時間を使ってあげたいから
 今日は帰るね」

そう言って、二人は仲良く手を繋ぎながら繁華街へと消えて行った。

一人残された僕は、ミントグリーンが手に垂れてくるのを、
ペロペロと舌で舐めてから、悪い気が起きる前に、一気に頬張って済ませる。

「う~ん。爽やかだなぁ」

さて!!帰ってゲームでもしよう!!!
現実逃避が得意な僕だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...