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5 現れた魔獣
しおりを挟む現れたのはサルを巨大化したような魔獣だった。
全身を白い体毛に覆われており、人族の大柄な男よりも大きいだろう。
シルバーモンキーだ。
深い森に住む魔獣で、そこまで強くは無い。冒険者ギルドがシルバーモンキーに付けているランクをスーは知らないが、シルバーモンキーのランクはC~Dだ。ただ手先が器用で悪知恵が働く分、厄介な魔獣だとされている。
魔獣は自分と相手の力量差を本能で知ることができる。
だから無用な戦いはしない。死ぬと分かっている相手とは戦わない。弱い者は逃げるだけだ。
スーも本能で相手の強さが分かった。
いくらレベルアップをしたスライムだとは言っても、無限の強さをスーは備えてはいない。
目の前に現れたシルバーモンキーと同等。下手をすれば劣るだろう。
ご主人様のために戦う意思はある。だが、最悪なことにシルバーモンキーは1匹ではなかった。
3匹いた。大きな個体と一回り小さな個体が2匹。もしかしたら母親と子ども達なのかもしれない。
確実に勝てない。
逃げるべきだ。本能がそう告げる。
スーはティナを触手で抱え上げると、ジリジリと距離を取っていく。
「うわぁっ。くるなぁっ、くるんじゃねぇぇ」
動けない男が悲鳴を上げ、両手で何とか逃げようともがき続けている。騒げば騒ぐほど魔獣に気づかれるのが早いというのに。
シルバーモンキー達は、騒ぐ男と馬車に繋がれたまま逃げることが出来ずにもがいている馬に気づき、一気に襲い掛かる。
男の悲鳴と馬のいななきが辺りに響き渡る。
シルバーモンキー達が、こちらに気づいていない隙にとスーは逃げ出した。
スイカの大きさしかないスーが、小柄とはいえ人族のティナを抱え上げているのだ、安定することができず、そこまでスビートが出ない。
それに深い森の中を進むのだから、ティナを木々にぶつけるわけにはいかない。人族のティナは脆いのだから。
それでも必死に飛び跳ねながら走る。
ガササッ。
だがすぐに気配が迫ってきた。シルバーモンキーが追いついて来たのだ。
ティナを抱え上げたままスーは振り返る。
追って来ているのは1匹。
子どものようだ。他の2匹に獲物を取られ、あぶれてティナの匂いを追ってきたのだろう。
近くにあった窪みに、そっとティナを降ろす。
ご主人様を護ってみせる!
食べるためだけに存在していたスーに戦闘経験など無い。だが、そんなことを嘆いている暇は無い。
シルバーモンキーと対峙する。
だがシルバーモンキーはスーのことなど眼中には無い。スライムの存在などいないものと一緒だからだ。
スーを無視したままティナへと襲い掛かる。
そんなことはさせない!
スーはシルバーモンキーへと渾身の力で体当たりを食らわせる。
ギギャギャャ。
まさかスライムが攻撃してくるなど思ってもいなかったシルバーモンキーは、無防備なまま横へと吹っ飛び、近くの木にぶち当たった。
木は倒れこそしなかったが幹には大きな亀裂が入る。シルバーモンキーは盛大な鳴き声を上げた。
シルバーモンキーは頭がいいらしい。だからこそ油断していたのだ、スライムが攻撃してくるなどあり得ないと。
相手の力量を知ろうとすらしなかったのだろう。
地団駄を踏んで怒り狂うシルバーモンキーへと一気に近づくと、スーは触手を叩きつける。
攻撃してくる相手がいるのに、怒っている暇など無いと、なぜ分からないのか。
触手はシルバーモンキーの顔面にヒットした。
スライムは物を食べる時に消化液を出す。それは身体のどの部分からも出すことができる。
スーは触手の先に、粘度を上げた消化液を出しており、シルバーモンキーの両目を覆うようにベッタリと貼り付いた。
両目を塞がれたシルバーモンキーは、触手を剥がそうと暴れるが、そうはさせない。力を籠めそのまま押さえ付ける。
(ぐわぁっ)
シルバーモンキーは目が見えないまま暴れ、その鋭い爪が触手を切断した。凄まじい痛みがスーを襲う。
スーは痛みを堪えながらシルバーモンキーと距離を取る。
切断された触手は、スーの元へと戻ることはなく、シルバーモンキーの両目を覆ったままだ。
スライムの身体に血は流れていない。
だから触手を切断されたスーが血を流すことは無い。だが血の代わりともいえる消化液が流れ出てしまう。失いすぎると死んでしまう。
切断された部分から消化液が流れ出るのを触手の先を結ぶことで止める。そのため触手をこれ以上伸ばすことも、身体へ戻すことも出来なくなった。
使えるのは残りの触手1本。
スーの触手はしなやかな鞭のようで、自由自在に動かすことができる。
だが硬化させることはできない。相手に突き刺すことも切りつけることもできないのだ。
広く伸ばして盾のようにすることもできるが、シルバーモンキーの爪でなら簡単に切り裂かれてしまうだろう。
スーはシルバーモンキーの出方を伺う。
ギギャギャッッ。
シルバーモンキーは、激しくのたうち回っていた。
両手を使い貼り付いた触手を取ろうともがくが、触手はスーの本体から離れたために固さを失いゼリー状になっている。
両目をこするようなシルバーモンキーの行為は、触手をはぎ取るどころか塗り広める結果になってしまっている。
触手に含まれた消化液。それもレベルアップをしたスーの消化液は、他のスライムよりも強力だった。“シュー” という音と共に、シルバーモンキーの両目を消化しており、白い煙が上がっている。
激痛が襲っているのだろう、シルバーモンキーは苦しみのたうち回る。こちらを気にする余裕は無いようだ。
スーは残りの触手を伸ばし、木の枝を折る。
そして一気にシルバーモンキーへと近づくと、渾身の力で腹部目がけて突き立てる。
ギギャッッー!!
シルバーモンキーに乗り上げるようにして、何度も何度も突きたてる。
辺りにシルバーモンキーの絶叫が響き渡り、シルバーモンキーはこと切れた。
スーとシルバーモンキーの力量は同じ位だったろう。だがスーをただのスライムだと見誤った時点でシルバーモンキーは負けていたのだ。
あっけないほど簡単にシルバーモンキーを倒すことができた。
ホッとしたが、早くここから逃げなければならない。
スーが倒したのは1匹だけ。それも子どもの方だ。シルバーモンキーの断末魔を聞いた母親や兄弟が、いつ来るかも分からない。
ティナを抱え上げるのに、1本の触手では安定が取りづらい。それでも何とか触手を巻き付けるようにして持ち上げようとした、その時……。
ピロロローーン!!
スーの頭の中で、聞いたことのある音が鳴り響いたのだった。
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