乙女ゲームの強制力を舐めていました。このまま立派な悪役令息になってしまいそうです。

棚から現ナマ

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5 最終話

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アルバンから離れたくて、闇雲に走った俺は、大きな建物に辿り着いた。
入学式の行われる講堂みたいだ。
このまま講堂に入って式に参列しようかな。
入り口の横にはクラス分けが書かれたボードがあり、多くの生徒達が覗き込んでいる。
そういえば俺は自分のクラスをまだ知らなかった。そちらへと向かう。

「ティティ!」
「うわっ」
いきなり背後から腕を取られた。

驚いて振り返ると、息を切らせたアルバンがいた。
俺よりも足の速いアルバンが、追いつくのに少しかかったのは、馬車を降りた時点で付き添っていたアルバンの側近達から止められたのかもしれない。
振り切って来たんだろうな。少し離れた所に、こちらに向かって走ってきている側近達が見える。

俺を追って来てくれた。そのことが嬉しい。
ヒロインユリアナと攻略対象者アルバンが出会ってしまったから、ファーストイベントが発生すると思った。
アルバンとユリアナとの距離が縮まって、二人がお互いに好意を持ってしまうのだと思い込んでしまったんだ。
それが嫌で逃げ出した。
目の前でユリアナに惹かれるアルバンを見たくなかった。

「アルバン……。ユリアナはどうしたの?」
「ユリアナ? あの女子生徒がどうかしたのか? いきなり走り出したのは、ユリアナが原因なのか? もしやティティはユリアナから危害を加えられていたのか……。許せないな。絶対に許せない。もう学園には来ることは出来ないように……。いや、いっそ家ごと潰すか」
俺の問いに、アルバンは何かブツブツと独り言を呟いて、答えてはくれない。

アルバンは、そのまま考え事をしているのか俺を見ない。
ユリアナのことを考えているの? もう俺のことが嫌になった? そうだよな、俺は悪役令息になってしまったから。
乙女ゲームのストーリー通りになんかならないと、たかを括っていたのに、簡単にヒロインに暴言を吐く嫌な奴になってしまった。

怖い。
このままヒロインに意地悪をし続けてしまうことが。
だってユリアナに暴言を吐いた時、俺はスカッとしてしまったんだ。やってやったと罪悪感なんて、これっぼっちも持たなかった。
だから分かった。もうゲームの強制力からは逃げられないんだと。

アルバンだって、人を虐め続ける婚約者には愛想を尽かすだろう。今まで俺に優しくしてくれていたのに……。
このまま俺が婚約者でいると、アルバンに迷惑をかけてしまう。
それならば、いっそ……。

「アルバン、別れよう!」
取られていた腕を振り払うと、後ろに1歩さがる。
嫌だ、こんなこと言いたくない!
でもアルバンのことを思うなら、これが最善の方法なんだ。涙が溢れそうになるのを、必死で堪える。

「え? 別れようとは、別々に講堂に入ろうということかい」
「違う。婚約を解消しよう!」
「はあっ!? ティティいきなり何を言い出すんだ。婚約を解消だなんて、私はティティに何か嫌われるようなことをしてしまったのかい? ……まさか、ユリアナとかいう女生徒のせいなのか? ユリアナのことが好きになったとか言わないよな」
離れようとする俺の両肩をアルバンが掴む。強い力に肩が痛い。
いつもは余裕のある態度をしているのに、今のアルバンの表情は必死さがある。

「違うっ。ユリアナは関係無い。俺が婚約者だとアルバンに迷惑がかかってしまうんだ。俺は悪役令息だから、強制力で周りに意地悪をしてしまう。どうしても止められないんだ! このまま婚約を続けていたら、周りからアルバンが笑われてしまう。だから婚約解消しなきゃならないんだ!」
俺は叫ぶ。とうとう涙が溢れてしまって止められない。

「ああ、ティティ泣かないで。何が言いたいのか分からないけど、私のことを思って婚約解消をしようとしているんだね。ティティは婚約解消をしたくはないのだよね」
「うっ、ぐすっ。お、俺だって嫌だよぅ。アルバンと別れるなんて嫌だ。でも、そうしなきゃならないんだ。俺は悪役令息だから何をするか分からないんだ。アルバンに嫌われるに決まっている」
とうとう泣き声になってしまった俺をアルバンが強く抱きしめてくれる。
本当は離れなくちゃいけないのに、アルバンの腕の中から出たくない。

「私がティティを嫌うはずがないだろう」
「で、でも俺はユリアナに暴言を吐いてしまって……」
「さっきのユリアナのご母堂の身体的特徴のことかい? あれは暴言と言うのかな? あの時のティティは胸を張って得意げで、可愛らしくてポイントが高かったよ」
「庇ってくれなくていいんだ。俺は嫌なのに意地悪をしてしまう。これからも止められない。アルバンに迷惑をかけられない」
「ティティ、私を見て」
アルバンの胸に顔を押し付けて、泣き顔を見られないようにしていたのに、そっと顔を持ち上げられ、アルバンと目を合わせられる。

「ティティが誰かに意地悪をするのはいけないことだ。でも、そんなことで私はティティと別れないよ。それにティティが意味も無く人に意地悪をするわけはないのだから、その原因を私が取り除いてあげる。ティティが意地悪をしなくてもいいように、私がティティを護るよ」
「アルバン……。意地悪な俺のことを嫌いにならないのか?」
「なるわけないよ。私はこんなにもティティのことを愛しているのだからね」
アルバンは俺の額にキスをしてくれる。
縋ってもいいのだろうか? 悪役令息の俺が婚約者のままでは、アルバンに迷惑をかけてしまうのに。

「可愛いティティ、婚約解消なんて酷いことを言わないでくれ。ティティが私から離れてしまうなら、私の心は死んでしまう」
「本当に? アルバンは俺を嫌いにならない。俺のことが邪魔にならない?」
「当たり前だよ。ティティを嫌うことなんてないよ。それに私から離れることができるなんて思わないでね」
「ありがとうアルバン!」
俺は嬉しくてアルバンに思い切り抱き着くと、グリグリと頭を押し付ける。涙どころか鼻水までアルバンの胸に着いてしまったかもしれない。

「ああティティが可愛すぎる。このまま部屋に閉じ込めてしまいたい……。いや、いけるかもしれない。学園にはそもそも行きたがってはいなかったのだから、そこを押せば、コーリラル公爵家も反対しづらいだろう。フフフ」

「殿下の笑顔が怖い……」
「ティオリ様逃げてぇ」
アルバンが何かを呟いて、その言葉に近くにいる側近達が反応している。
だけど、嬉しくてアルバンの腕の中にいる俺の耳には入らない。

これからも乙女ゲームの強制力はあるだろう。悪役令息の俺は、残虐非道なことを仕出かしてしまうかもしれない。
それでもアルバンがいてくれるなら俺は大丈夫。
アルバンが俺のことを好きだと言ってくれるのなら、俺は乙女ゲームには負けない。

悪役令息から脱出してやる! そう確信することが出来たのだった。





――― ――― ――― ―――

これにて完結です。

続いて番外編を2編投稿します。
アルバンのお兄さん視点と、乙女ゲームがスタートした日常です(うっすらとHです)。
引き続き読んでくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。

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