前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ

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恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
ああ、恥ずかしいったら、恥ずかしい。

自室のベッドの上で、身を捩り恥ずかしがっているのは、フィオナ・アーバン。
わら束を思わせる髪に金茶の瞳。
小さな森を領地に持つ男爵家の娘だ。

何なの、何なのフィオナは、どんだけ恥かきっ子だったのよっ。
何で気づかないのよっ!
穴があったら入りたい。いや、穴を自らがマントルぐらいまで掘って、マグマに焼かれてしまいたい。

フィオナは前世を思い出した。
それも、お手軽にだ。
何かドラマチックなことがあったわけでも、ケガや病気をしたわけでもない。
いつものように、お風呂に入って頭を洗おうとした、その瞬間に大量の記憶が蘇ったのだ。
なんとかお風呂から出てきたものの、その日から3日間、フィオナは寝込んでしまった。


フィオナの前世は、白井雪子という平凡な女性だった。
そんなにハッキリと詳細までは思い出せてはいないのだが、短大を卒業し、零細企業で働いていた記憶がある。
ただのおばちゃんで子どもは3人。
だが残念なことに、夫や子どものことをはっきりとは思い出せてはいない。
子どもが男の子二人と女の子一人だったことや、どんな子たちだったかぐらいは思い出せたのだが、夫に関しては、夫がいたんだということぐらいしか思い出せない。
夫婦仲が悪かったのだろうか?

15歳のフィオナとその倍以上を生きてきた雪子では、雪子のこころの方が、強かった。
雪子の魂にフィオナが入り込んだ。
雪子の記憶の一部がフィオナになった。そんな感覚だ。

今までのフィオナのやらかしを雪子は身を捩りながら思い出す。
フィオナは、王立タイダール学園という学校に在籍している。
全寮制のこの学園は、王族や貴族、ごく一握りの選ばれた平民以外通うことのできない、王家が運営している、お貴族様学園だ。
15歳から18歳までの3年間、貴族の子息子女は義務として、この学園で学ばなければならない。
フィオナも一応は貴族令嬢なので半年前から通っているのだが…

学園は上、学生に身分の上下は無いとしている。
白々しいほどの建前なのだが、自分の領地から余り出たことがなく、他の貴族とも関りがなかったフィオナは、それを丸っと本気で信じてしまった。

学園に入学すると、王子や公爵令嬢が親し気に挨拶などをしてくれるものだから、フィオナは、斜め上に勘違いしてしまったのだ。

公爵令嬢は自分と友人になりたいのだと。
王子は自分と親しくなりたいのだ。もしかしたら私に気があるのかもしれないと。

フィオナは世間知らずのお嬢さんだ。
だが、世間知らずと常識無しは違う。

フィオナは鏡を見たことが無いのか。
美貌など有りはしない。10人中5番目か6番目くらいの容姿。
群衆に紛れてしまう中肉中背のスタイル。
取り得は五体満足。
貴族令嬢だから、家庭教師にある程度の教育は受けてきた。だが、物覚えはそこそこ。
家庭教師に褒められたことは、あまりない。
その上、領地もろくろく持たない男爵家の娘。

こんなスペックで、何故、公爵令嬢の友人に選ばれるなんて思えたのか。
こんなスペックで、何故、王子が自分に気があるなんて思えたのか。

自分を顧みないフィオナは、痛い女になってしまっていた。
王子にいつもまとわり付いて、あろうことかしなだれかかり、腕をからめていた。
王子がお茶をしていることを嗅ぎ付けると、そこに突進し、許可も得ずに、自分も無理やり参加していた。
王子を名前で呼び、たしなめられても気にも留めない。
王子に身を寄せ、鼻にかかったような下っ足らずの話し方をしていた。
困惑する王子の顔も、怒りを表す公爵令嬢の顔も、馬鹿にしたように笑っている王子の側近の顔も。
気づかなかった。気づこうとしなかった。
全て自分に都合のいいように解釈してしまっていたのだ。

は・ず・か・し・いーーーっ!!
身を捩って捩って、捩りすぎて、内臓が出てきそうだわ。
前世を思い出す前の自分を穴を掘って埋めてしまいたいが、それも叶わない。ただ身を捩って自分の黒歴史に身もだえるしかないのだった。


いけない、いけない、このまま身を捩っているだけでは、先に進めない。
何とか気を取り直す。
3日間も学園を休んでいたのだ、そろそろ授業に出なければならない。
ふと、鏡台の上にある大量の化粧品を見て、フィオナは何度目かの溜息をつく。
この標準パーツの目と鼻と口しかない顔にどんなに化粧品を塗りたくったところで、改善は見込めないのに。

化粧の技術がそれこそ飛びぬけているのなら、どうにかなるかもしれないが、前世を思い出すまでのフィオナは、それこそ白い塗り壁のような化粧をしていた。
顔はただ白く。唇はただ赤く。
あ、また穴を掘りたくなってきた。
いかんいかん。このままでは埒が明かない。いつまでたっても学園に行きつけない。

さて、ドレスを着替えようと、作り付けのクローゼットを開けて、フィオナは、またもガックリと膝を着く。
が半分出たようなドレスしかなーーいっ。
ボインでもないのに。ささやかなお胸さんなのに。
脇肉や腹肉を寄せまくって、無理やり偽造してまで、何故に、こんなドレスをわざわざ着なければならなかったのか。

何とかクローゼットの中を探り出し、奥の奥に押しやられていた制服を取り出す。
この学園は、制服はあるが、基本好きなドレスを着ていいことになっている。
こんな乳が半分出たようなドレスを着るぐらいなら、制服一択だ。
今までの体形を知っているクラスメート達からは、胸の高低差に気付かれるかも知れないが、しょうがない。
真実はいつも一つだ。


何とか心を奮い立たせ、学園へと挑もうとするフィオナだった。



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