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「高橋、賭けをしようか」
「賭け?」
高橋は、俺の問いかけに不思議そうな顔をする。

「そう。高橋が俺のことを好きっていうけど、その好きが本当なのかの賭け」
「俺はミルのことが本当に好きだ。嘘じゃない」
高橋が即座に俺の言葉を否定する。
高橋は本気で言ってくれている。それは分かる。でもその本気が本当の心なのかは分からない。

「高橋が俺のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいよ。でも俺は信じられない。だから賭けだよ。お前の好きが本当なのかを知るための賭け」
俺は今、とても嫌な表情をしているだろうな。嫌な笑顔だ。
もともと平凡な顔立ちなのに、表情まで残念ならどうしようもないな。

「高橋、俺の名前を知っているか?」
「ミルだろう」
「そうじゃないよ。今の名前じゃなくて俺の前世の名前。お前のクラスメートだった俺の名前だよ」
高橋は、はっとした表情をして俺を見る。そして何かを喋ろうと口を開けては閉じる。それを何度か繰り返して、何も答えられなくて俯く。

それが答え。
俺のことを何も知らない高橋。
俺のことを好きだというくせに、俺のことを何も分かっちゃいない。

「期間はどれくらいがいいかな? 1週間? 2週間? じゃあ、10日間にしようか。10日間の間に高橋が前世の俺のことを思い出せたら高橋の勝ち。俺は高橋の愛を受け入れて、愛人だろーと嫁だろーと何にでもなってやるし、一生一緒にいてやるよ。でも思い出せなかったら俺は家に帰る」
固まったままの高橋の頬をそっと撫でる。

「高橋。それでいいだろう」

高橋は俺を好きだという。
俺も好きだよ。
ただ、この感情が恋愛感情かといわれると分からない。
ただのクラスメートとしての友情なのかもしれない。

もし俺が高橋を受け入れて、高橋のことを本当に好きになったらどうする?
俺はきっと高橋のことを愛すよ。全身全霊で愛すよ。
だって、俺も求めているから。
本当の俺を愛してくれる人を。心の底から求めているから。
高橋に身も心も依存して、高橋が俺の全てになるだろう。

そんなになった後で、高橋が気づいてしまったら。
俺を好きなんじゃなくて、自分を認めてくれる人が好きなだけだったって。
自分を認めてくれるなら、俺じゃなくてもいいって。

それに高橋の前に新たに転生者が現れるかもしれない。
俺よりも魅力的な転生者が。
高橋が新しい転生者に惹かれてしまったら。新しい転生者を愛してしまったら。
俺はどうすればいい?

俺は前世では、高橋とはただのクラスメートだった。
友達ですらなかった。
明るい高橋の周りには多くの人がいて、俺は近づくことすらできなかった。
高橋が俺に興味を持つことなんてなかった。そんな関係だったんだ。

俺は怖いよ。
愛した後に高橋を失ったら。
高橋に捨てられたら俺は生きてはいけない。
今生は辛い。生きていくのが辛い。
もう、生きていたくない。

だから高橋、俺のことを好きだなんて言わないでくれ。
俺がお前を好きになる前に。
どうか気づいてくれ。お前が好きなのは俺じゃない。
そのことに気づいてくれ。

俺が、まだ生きていけるうちに、お前の前から逃げ出したいんだよ。
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