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67. クレア復学する
しおりを挟む3週間のリハビリを終え、クレアは復学することにした。
右手も回復し、何の差しさわりもなくなった。
一人不満そうにしている輩がいるが、クレアは自分のことは自分でやれることに喜びを見出している。
王宮で看病されていたクレアだったが、学園には急病のため、病院に入院していると連絡がいっていたらしい。
『このまま学園に戻らなくてもいいんじゃない』と、ライオネルは言うが、あと少しで卒業できるのだ。
中退と卒業では全然違う。後々就職して独り立ちしようと考えているクレアにとって学歴は大切だ。
それに、一番の理由はライオネルのことだ。
クレアに付き添い……というか、ベッタリのライオネルはクレアと共に学園を休んでいた。
どんなにクレアが言葉を尽くしても『クレイの側にいる』で、聞く耳を持たなかったのだ。
学園中退の王子様では外聞も悪い。
学園に復学するのは、ライオネルに学園に戻ってもらうためともいえるのだ。
学園中退の王子様では外聞も悪い。と思って復学したクレアだったが、果たしてそれは正しかったのか。
「クレア、クレア、クレア」
ライオネルが嬉しそうに、クレアの元へと駆けてくる。
クレアがリハビリを行っていた間に、何とかライオネルにクレイからクレアと呼んでもらえるように頼んだ。
ライオネルは呼びなれた『クレイ』が良かったようだったが、しぶしぶ了承してくれた。
「殿下、いきなり走るのはお止めください」
側近の言うことを聞いちゃいない。
クレアを見つけたり、クレアに会いたいと思った瞬間、ライオネルは全ての側近たちを無視して、クレアに向かって走り出すのだ。
ライオネルが学んでいるのは第1校舎、クレアがいるのは第3校舎。
結構な距離がある。
毎回毎回、全力疾走させられる護衛騎士や側近たちにすれば、いい迷惑だろう。
クレアを第1校舎で学ばせては、と意見が出たが、後少しで卒業なのだ。謹んで辞退させていただいた。
それに、第1校舎に行きたくない理由がクレアには、もう1つある。
第1校舎で学んでいるのは、王族様や高位貴族様たちだ。クレアとは身分が違いすぎる。
1度ジュリエッタに会うために行ったことがあった。
クレアが怪我を負う前にジュリエッタを人質にするという、大きな不敬を働いてしまったためだ。
その罰を受けるためクレアは自らジュリエッタの元へと足を運んだ。
今までだったら第1校舎に近づくことすらできなかったクレアだったが、背中に常時ライオネル第2王子様が張り付いているので、今では出入り自由だ。
「ジュリエッタ様、以前働いてしまいました不敬の罰を受けにまいりました。如何ようにも、お裁きください」
ジュリエッタの前で深々と頭を下げる。
これで牢屋に入れられても、クレアには何の不満もない。
ライオネルが助かって生きているのだ。
2度とライオネルに会えなくなってしまうかもしれない。それは身を切るほどに辛いが、自分のやったことに悔いは無い。
「ク、クレア様、ど、どうぞ頭を上げてくださいませ。私がクレア様を罰するなどと、そのような恐ろしいことを仰らないでっ!」
何故かジュリエッタが悲鳴のような声をあげる。
ほとんど涙目のジュリエッタの視線を辿ってみると、クレアの背後でライオネルが大魔神になっていた。
「クレアに何かするの?」
美しい貌に微笑みすら浮かべているのに、背筋が凍りそうになるのは何故なのか。
「めっ、滅相もございません。クレア様に私が罰を与えるなど、出来るはずがございませんっ」
「そう、それは良かった。
クレア、食事がまだだよ。早く食べに行こうか」
ライオネルに背中を押され、クレアは頭を捻る。
え、不敬罪無くなったの?
不思議に思いながら、ふと周りを見回すと、結構な数の生徒たちがこちらを窺っていた。
クレアのように爵位の低いものが、第1校舎に入ることすら不敬なのに、騒ぎを起こすなど以ての外だ。
どうしよう。
クレアは一人焦りだす。
「クレア、ぎゅ~」
いきなりライオネルがクレアに抱き着いた。
「ぎゃーっ!何するのよっ。
何で今なの、こんな皆の前で、やめてぇ」
「えー、いつでもハグしていいって言ったもん」
「こんな所でしていいなんて言ってない」
「言った。言ったたら言った」
周りから見たら、とんだバカップルだが、クレアにすれば真剣だ。
真剣にハグから逃れようと、ジタバタもがいている。
二人を見ている生徒たちは、思わずほっこりと胸を撫で下ろす。
小さい頃から親や周りの大人たちから言われ続けていたのだ。
『このジンギシャール国はノーシスア帝国に喰われてしまうのだ』と。
あの王妃のために、この愛するジンギシャールは無くなってしまうのだと。
無理やり娘を押し付けたノーシスア帝国は、国王に他の妃や愛妾を持つことを禁じた。
小国のジンギシャールは、大国に逆らうことはできない。
国王は愛するラーラがいながら、ラーラに地位を与えることはできなかったのだ。
イザベラが月足らずの子を産んだ時、ほぼ全ての臣下たちは思ったのだ。
ジンギシャールはノーシスア帝国に乗っ取られるのだと。
そんな絶望の中、側妃も愛妾もいないはずの国王陛下の子どもが現れたのだ。
誰からも文句が出ないほどに国王陛下にそっくりな子どもが。
臣下たちの喜びは、熱狂的といえるものだった。ジンギシャール国の将来に希望の光が差し込んだのだから。
バカップルを見守る周りの生徒たちは全てが高位貴族の子ども達だ。
ある程度は国の事情を知らされている。
親にさんざん脅されて育ってきた生徒たちは、ライオネルを救世主のように思っている。そう刷り込まれているのだ。
将来国を担うことになる高位貴族の子どもたちは、ジンギシャールを救うライオネルの臣下となるべくして教育されてきた。
学園に入学し、やっと会うことができたライオネル殿下は、整ってはいるが人形のような感情の無い顔をしていた。
喋っていても頷いていても、その顔に感情が現れることはないのだ。
痛々しい。
生徒たちの胸が痛む。
臣下として自分たちは殿下へ尽くすために存在しているのに、なんとか力になりたいと思うのに、あまりの自分たちの無力さに、忸怩たる思いが積み重なっていく。
ただ手をこまねいているだけの時にクレアが現れた。
爵位の低い男爵令嬢だという。
貴族社会に属していると、身分の高低にひどく敏感になるし、こだわる。秩序を守るということは、貴族社会を存続させていくために必要なことだからだ。
だが、ライオネル殿下の顔を見て、爵位の高低を持ち出せる者がいるだろうか。
クレア嬢をライオネル殿下から引き離そうと考える者がいるだろうか。
ライオネル殿下は笑っているのだ。それも嬉しそうに。
クレア嬢に対して、拗ねて、甘えて、わがままを言って。
嬉しいと。
臣下として、主君の幸せを願わない者はいない。
たかだか爵位の問題だ。それが何だというのだろう。
どこぞに養女に入れば済むことだ。
逆にそんな些末なことでクレア嬢を排除しようとする者が現れたなら、自分たちは、身命を賭して、お二人を守ろう。
そう思う生徒たちだった。
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