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8 ルロイ
しおりを挟む「なあジル。好きな人と離れたくない時は、どうすればいいのか知っているか?」
俺は仲の良いジルに聞いてみる。
ジルは俺より1歳年上の11歳。
親父さんの仕事の関係で、色々な場所に住んでいたことがあり、とても物知りだ。
最近、俺が元住んでいた借家に家族で越して来た。俺とはすぐに仲良くなった。
「簡単だぜ、結婚すればいいんだ」
「結婚? 結婚って、どうすればできる?」
「役場に行って、籍を入れればいいんだって。従兄妹のあんちゃんが言ってた。あんちゃんは先月結婚したんだ」
「そうなんだ……。で、籍ってなんだ?」
「よく分かんないけど、役場に行って、この人と結婚しますって言えば、籍を入れてくれるんじゃないか?」
そうか、役場に行けばいいのか。
トニー兄ちゃんに一緒に役場に行こうって、言ってみようかな。
俺はトニー兄ちゃんと、ずっとずっと一緒にいたいんだもん。トニー兄ちゃんと結婚したいなぁ。
俺は一生懸命お手伝いを頑張っている。それぐらいしか、俺がアピールできることは無いから。
俺は役に立つって分かってもらって、トニー兄ちゃんから、ずっと一緒にいてもいいって思ってもらわなきゃいけない。
だけど、どれも上手くできない。
掃除も皿洗いも失敗ばかりだ。かえってトニー兄ちゃんの手を煩わせてしまっている。とうとう包丁は取り上げられてしまった。
それなのにトニー兄ちゃんは、いつも俺を褒めてくれるし、大喜びしてくれる。
ぜんぜんお手伝いになっていないのに。
このままじゃ駄目だ。何かないだろうか、俺が役に立てること。
俺がいて良かったって思ってもらえること……。
そうだ! トニー兄ちゃんはよく俺の頭を撫でながら『ルロイに肉を食わせてやりたいなぁ』って、言っている。
トニー兄ちゃんが作ってくれる食事は、全部が美味しくて、俺は別に肉を食べたいなんて思わないけど、トニー兄ちゃんは肉好きなのだろう。
じゃあ俺が肉を捕ってきたらいいんじゃないか?
肉を捕ってくれば、俺のことを役に立つって思ってくれるかもしれない。
俺は薪を細かくするために使う小刀を手に取り “魔の森” へと向かう。森へは村を出て30分くらい歩けば着く。
トニー兄ちゃんからは森には危ないから近づくなって、何度も言われている。
森の中には魔獣がいるから。
魔獣とは森に溢れている魔素を身体に取り込んだ動物のことだ。魔獣は凶暴で全てが肉食だから人間は餌だから襲ってくる。
でも、魔素が無い場所には行かないらしく、森からは出てこない。森に近づきさえしなければ魔獣を恐れる必要は無い。
それに人間は魔素を取り込むことはできないから魔獣にはならないって、トニー兄ちゃんが教えてくれた。
魔獣を捕らえるのも仕留めるのも非常に難しい。だけど魔獣の肉は旨い……らしい。高級品だから食べたことは無いけど。
今まで魔獣を見たことはないし、凶暴って聞くから怖い。でも大丈夫だ、俺なら出来る。トニー兄ちゃんのためなら出来る。俺は小刀をグッと握りしめると自分に言い聞かせる。
森に入ってすぐの所に一角ウサギがいた。見た目ですぐに分かった。
一角ウサギは群れを作る習性があるって聞いていたけど、ありがたいことに1匹だけみたいだ。
一角ウサギは俺に気づくと、すぐに突進してくる。
真っ白で柔らかそうな毛に包まれていて可愛らしいけど、真っ赤な目はギラギラしているし、噛みつこうと思っているのか、大きく開けた口には牙が見える。
俺は突き立ててくる角を小刀でなんとかかわす。
それからはあまり記憶に無い。
もう必死だった。
小刀をメチャクチャに振り回す。襲ってくる一角ウサギを何とかかわすけど、手や足を何度も角がかすめ血が出る。服が何カ所も破れる。
気が付いたらボロボロになった一角ウサギが倒れていた。
やった! 倒すことができた。
血抜きをしなければいけないことは知っていたけど、やり方は分からない。それにこのまま森の中にいると、他の魔獣がくるかもしれない。
俺は一角ウサギを抱えると、村へと戻る。
川の近くの木に血が出なくなるまで一角ウサギを吊るす。もういいかと思う頃には、随分と遅い時間になってしまっていた。
「どっ、どうしたんだっ! 怪我かっ、怪我をしたのか?」
「大丈夫、ほとんど返り血だし、俺は擦り傷だから。それよりも、コレ」
家に帰るとトニー兄ちゃんが俺の帰りが遅いからと心配してくれていた。手には上着をもっているから、俺を探しに出ようとしてくれていたのかもしれない。
俺は嬉しくて、心がムズムズする。気恥ずかしくて、ぶっきらぼうに手に持っていた一角ウサギを差し出す。
「ごめん。ごめんなっ。お前のことを気遣ってやれなかった! ルロイ、お前は何も心配しなくていいんだ。お前は、まだ小さな子どもで、何もできなくても、何もしなくてもいいんだ。俺はお前を追い出したりしない。俺はお前を売ったりしないっ」
上着と一角ウサギを手から落とすと、いきなりトニー兄ちゃんが俺を抱きしめてくれる。
「いいの? だって俺、何にも役に立ってないよ」
トニー兄ちゃんは泣いているみたいだ。どうして泣いているの?
俺が危ないことをしたから、俺のことを心配してくれているの?
何の役にもたたない俺でも、ずっと一緒にいてくれるの? 本当に?
「一緒にいてくれるだけでいいんだ。俺はお前のことが大切なんだ。大切で大好きだから一緒にいてほしいんだ。一緒にいてくれるだけでいいんだよ」
「お、俺のことが好き……?」
俺が信じなかったと思ったのか、トニー兄ちゃんが大きく頷いてくれる。
俺のことを好きだって!
嬉しい。嬉しくて堪らない。
トニー兄ちゃんと一緒にいられる。だから絶対に結婚する! 入籍する!
そう心に誓ったのだった。
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