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14 娼館へ向かう
ウエンツは怒り狂う。
ハウエル伯爵の屋敷から急ぎ報告に戻った騎士から、アイラが娼館に売られたと聞いたからだ。
そして怒りのまま東の歓楽街へと飛んだ。
獣人は魔法を使うことができる。
強弱の違いはあるが、ウエンツは膨大な魔力を持っており、周りの者を連れて移転の魔法を使うことができる。
12年前シーシュ国から要請があり、ケムノ村へと行かなければならなくなった時も、一刻を争うとウエンツは移転の魔法を使った。
だからこそ、魔獣が暴走する前に対処することができたのだった。
移転の魔法はとても便利で重宝するが、その反面、使用するためには、とても綿密な作業が必要になる。
移転先の選定が大切なのだ。
移転した先に、何かしらの障害物があった場合、シールドを張りながらの移転のため、ウエンツ達に被害は無いが、障害物となった物は破壊されてしまう。最悪な場合、居合わせた人や動物は亡くなることになる。
ケムノ村への移転の時も、細心の注意を払い移転した。
しかし、今回は違った、激怒したウエンツは、周りの騎士達を巻き込み、東の歓楽街へと移転した。
目標は歓楽街の入り口の大門。歓楽街の目印となる建物だった。
ウエンツ達の到着と共にシールドが展開され、大門は轟音と共に大破し、辺りに瓦礫が飛び散った。
大門周りは賑わっており、人の出入りも多かった。
何か大きなものが出現したことを、知る間もないうちに周りの者達は全員が弾き飛ばされた。瓦礫がぶつかった者も多数いた。その場は阿鼻叫喚の嵐になった。最悪、亡くなった者もいたかもしれない。
だが、そんなことをウエンツは気にする余裕はない。ハウエルから聞き出した娼館を求め、辺りを見回す。
ケバケバシイ看板を見つけた。
100メートル程先にある件の娼館に目標を定め再度移転する。
そこにアイラがいるはずのため、建物を壊すわけにはいかない、建物の入り口近くに移転する。
またも近くの建物は大破し、娼館の入り口部分も破壊されてしまった。
最初の轟音の原因を知ろうと、建物から出て来ようとしていた数名は、シールドに弾かれて吹き飛んでいった。
いきなりの衝撃に建物の中にいた者達もパニックになっている。
「アイラはどこだっ!!」
ウエンツは破壊された娼館の中へと入っていく。
辺りは混乱しており、ウエンツの質問に答える者はいない。
「アイラはどこだと聞いているっ」
近くに転がっていた男の胸ぐらを掴み、問い質すが、入り口近くにいたため、建物が壊れた時の余波を喰らったらしく、血を流しており呻くばかりで答えることができない。
「あ、あの、教育部屋だと思います」
柱の影に隠れていた娼館の女将なのだろう、中年女性がおずおずと声をかけてくる。
相手が獣人だと知り、大それたことが起こっているのだと感じている。知らぬ存ぜぬでは済ますことは出来ないと判断したようだ。
「案内しろっ」
掴んでいた男を投げ捨てると、女将へと詰め寄る。
「は、はいっ。こちらへ」
ウエンツと騎士達は、女将の案内で、アイラの元へと急ぐ。
道すがら女将は後悔する。
貴族の娘は人気がでる。だから買い受けたのだ。
獣人から弄ばれて捨てられたのだと聞いていた。生娘ではないぶん安く買い叩くことができた。
得をしたと思ったのに、まさか獣人が取り返しに来るなんて。
捨てられたのではなかったのか。
買わなきゃよかった。
娘を買ったせいで、館は壊されたうえに、娘は獣人が連れて行ってしまうのだろう。
なぜ自分が損しなければならないのか。売りに出された娘を買っただけなのに。
獣人相手に損害賠償など請求できない。そもそも訴える場所が無い。泣き寝入りしかない。
ふらつく足で教育部屋へと向かいながら、女将は、ふと気が付いた。今、娘はどうしている?
今日は客が立て込んでおり、教育係の男も忙しくしていた。ついさっき教育部屋に行ったばかりだ。
まだ教育を始めてはいないわよね? 女将は一縷の望みをかける。
獣人は、わざわざ娘を奪い返すために、ここまで来ているのだ。娘を他の男の手に渡したくないのだろう。
それなのに娘が教育されていたら……。
女将は、ゾッと背筋が凍る。
今は建物の入り口部分が壊され、男衆の何人かが巻き込まれて怪我をしている。
まだ人死には出ていない。
教育部屋へと着いたが、扉を開けるのが躊躇われる。
あれ程の轟音と振動があったのだから、真っ最中ということはないだろう。だが、どんな状況かは分からない。
どうすれば……。
部屋の前で女将は固まってしまった。扉を開けようともしない。
「この部屋なのか?」
ここにアイラがいるのだろうか?
ウエンツの問いに、女将は青い顔のまま頷いた。
ウエンツは女将を押しのけると、扉を開けようとするが、鍵がかかっている。
ドガッ!
ムカついたのか、足で扉を乱暴に蹴る。
獣人は人間の何倍もの強い力を持っている。扉は大きな音を上げ、壊れると簡単に開いた。
「アイラッ!!」
ウエンツは、部屋の中へと入って行ったのだった。
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