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4.私の夢はハンバーグ。

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この魔の森が危険だ。
索敵魔法を放つ度に五十匹以上の魔物が消えてゆく。
私を襲ってきた魔物と同類だ。
一度に襲われれば、私は助からない。
索敵で浄化できてラッキーとしか言えない。
また、生き残った魔物達が襲ってくるだけでもかなり危険だ。
今の私では魔力が持たない。
幸いな事に生き残った魔物はエリアから逃げて行くので、私は割と安全に森の奥へと歩き続けた。

生後3日程度では魔力が劇的に増えない。
加速の魔法と魔弾が数発分の魔力しかないのは変わっていない。
私も何の対策を取らない訳ではない。
まず、魔弾の代わりにミスリルの針を作った。
ミスリルは魔力を込めると、堅さと重量が増す不思議な鉱物だ。
事前に魔力を込めて魔弾の代わりにする。
これで数発の魔弾が十数発に増やす。

だが、小石を鉄やガラスに代えるのと訳が違う。
装備品のショートソードは簡単に作れたが、ミスリルの針を1本作るのに半分の魔力を食われる。
魔力回復ポーションを飲みながら休憩中に2本作るのが精一杯だった。
休憩中に少しずつ増やしてゆくしかない。

そんな些細な事より、切実な問題があった。
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるうるるるるる~~~~~とお腹が鳴る。
お腹空いた。
体が栄養を欲している。
残念ながらポーションは食料にならないらしい。
私は猛烈にハンバーグが食べたい。
鍋や包丁、まな板は作った。
だが、肝心のお肉が逃げて行った。

どうして魔の森の植物はデンプンやアミノ酸が含まれていないのかな?
私は無から有を作り出せない。
今は切実に異世界から買い物ができるスマートフォンが欲しい。
チートなアイテムが欲しい。

嘆いていた私に朗報だ。
何故か、二匹の魔物が逃げて行かない。
お肉だ。
私はゆっくり近づいて行く。
そして、目視できた所で魔物が動いた。
長い牙を持つ虎のような番いだった。
私は加速の魔法を使う。
世界に音が消え、白黒に近いスローモーションに変わる。
歩きながら私から近づいて行く。
近づくと魔物が大きいのを実感する。
前回も大きな魔物だったが、この二匹の魔物も大型トラックほどあり、背丈だけでも私の倍以上だ。

だが、特殊な能力がある訳でもない。
問題ない。
ユニコーンのようなショート転移する魔物ではない。
あれは厄介だ。
加速の世界でも転移して逃げようとする。
程度の違いはあるが、ユニコーンも加速の魔法が使えるのだろう。

心眼で魔石の位置を確認し、二匹の中央に進むとミスリルの針を両方に可能な限り、最大の威力で撃ち出した。
私の手を離れた瞬間にスローモーションの世界に溶け込む。
音のない世界だが、私の脳内ではベートーベン『運命』交響曲第五番第一楽章が流れており、ミスリルの針が魔物の分厚い皮を突き破って行くのが見えた。
そして、世界に色と音が戻ってきた。
パリーン!
魔石が割れたような音が聞こえた気がすると、ミスリルの針がどことなく飛び去った。



NOOOOO~~~!? 

一瞬で魔力“アンカー”の範囲外に消えた。
アンカーとは、その名の通りで一定の距離をつなぎ止めるモノだ。
自分の魔力を帯びたモノを呼び寄せる事ができる。
ミスリルの威力としては申し分ないが、使い捨てとなると使い方を考え直す必要がある。
私は落ち込んだ。
ショートソードは神力を這わせて、聖剣代わりに首を落とせばよかった。

まぁ、それはともかく。
クッキングタイムだ。
お肉だ。お肉だ。ハンバーグだ。

闇魔法で血抜きをして清浄魔法で瘴気を払い、生活魔法『クリーン』でお肉を綺麗にする。
包丁に神力を這わせて聖剣仕様にすると肩身のロースを切り取った。
残りの肉を闇収納で仕舞うと、切った肉をまな板台を取り出して、早速、ミンチ肉を作り、薬草を混ぜて臭みを取り出す。
塩と胡椒がない。
フライパンを取り出して、抽出した植物油を満遍なく塗るとミンチ肉を投入だ。
お肉の焼ける香りが食欲をそそる。
お皿に乗せて『いただきます』と声を上げた。

う~~~ん、微妙!?
魔物の肉は癖が強く、薬草に苦みでも完全に消せない。
牛や豚に比べると、歯が折れる黒パンと口で溶ける白パンほどの違いがあった。
それでもハンバーグだ。
もぐもぐとよく噛んでゴクリと飲み込んだ瞬間に体が喜んでいるのが判る。
お肉サイコー!
二口目、三口目で違和感を覚えた。
ヤバい。

ゲロロロッロ~~~~~~~~!?
すべて吐き出した。
絶頂から最凶な気分に落ちた。
お乳も禄に飲んでいない体に固形物は無理でした。
生後5日で固形物は早過ぎた。
この体、マジ使えない。
美味しいモノを食べられないなんて、何の為に生きているのよ。

しかも気分が悪くポーションを飲む事すらできない。
私は残り少ない魔力でヒールを掛けて気分を落ち着かせた。
そのまま木に持たれて眠った。
目を覚ますと、体力回復ポーションと魔力回復ポーションを交互に飲んで全快するまで待つ。

ハンバーグを諦めると、土鍋を取り出して肉汁を作りだ。
アクを取ると小匙で肉汁を啜った。
美味しくない。
出来た肉汁から“ドライ”の魔法でぎりぎりまで水分を飛ばす。 
肉実サプリの完成だ。
グビッと飲むと不味い。
色々と栄養が足りないが、お腹の音は少し減った気がする。

そう言えば、魔力索敵でお墓のような石碑を見つけていた。
ボロボロな感じだ。
生活魔法『クリーン』で綺麗にすると、本当に墓石のようなモノが現れた。
だが、書いてある文字が読めない。
仕方ないので、記憶を読む魔法を発動しながら石碑に触れた。
ビリッと静電気が走った。

記憶を読む神の魔法は触れる事で発動する。
感覚で表現するならば、DNAから残留思念までデーターを丸ごとコピーだ。
これで人のスキルなども盗む事ができる。
チートな魔法と思う。

天使や悪魔程度では“ビリッ”とならず、ゼリーに触れた“ネチョ”という感じだ。
石碑がガラガラと崩れて瓦礫になった。



私はしばらく周囲を警戒した。
何も起こらない。
う~~~~~~ん、触れなかった事にしよう。
すべて記憶を抹消して歩き始めた。
私の旅はまだまだ続く。
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