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7.覚えておけよ<翼竜との遭遇戦>

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河は蛇行だこうする。
蛇行だこうと『ヘビ』と書かれてくらいにぐにょぐにょ・・・・・・だ。
西に進むと思えば、いつの間にか南に向かっていた。
西南ではなく、南だ。
規模が大き過ぎて気付かなかった。
大河沿いに進めば間違いないと思っていた私が馬鹿だった。
もっと早く気付けよ。
再び北西に進路が変わり、西南に曲がった所で河を離れて、森をショートカットするつもりで西に進路を取った。

河から離れると翼竜がいる山が近くに感じられた。
海から10日ほど観察したが、翼竜は山から出ない。
山に近づかなければ、危険はない。
2~3年もすれば、魔石狩りに行ってやろうなどと考えていた。
翼竜程度、本来なら私の敵ではないのだ。
そんな訳で翼竜に特別な警戒がなかったのも事実だ。
所詮、翼竜如きだ。

河沿いから外れると山が近く、すでに彼らの領域に入っているとは思っていなかった。
森は鬱蒼と木々が生えて、辺りがまったく見えない。
クーちゃんのマップ機能を頼りにしているが、進んでいる方向が間違っていないか位にしか役に立たない。
一度、領内を1周すれば、どこにいるか判る便利な機能なんだけどね。
行った事のない場所では役に立たない。

“くぅ、くぅ、くぅ”

クゥちゃんが俺は護衛で案内係じゃないと苦情を言う。
知っていた。
ずっと地図と睨めっこしている訳じゃない。
見ていなかった。
そうでなきゃ、太陽の位置を見て南に向かって歩いていると気付いていたよ。
それに護衛と言うけど、ここの敵はクゥちゃんより強く、護衛としても今一なんだよね。
クゥちゃんがファイティングポーズを取って、ボクサーのように拳を振る。
でも、可愛らしいであって強そうに見えない。
そういう見た目に私が造ったからね。

しばらく歩いたので索敵魔法を放った。
魔席無しの魔獣が消えた。
魔石持ちの魔獣が逃げて行く。
私の魔石が・・・・・・・・・・・・。
これからは索敵魔法の距離を絞り、回数を減らした方がいいかもしれない?

 ◇◇◇

薬草を採取しながら、1日30kmを走破した。
朝起きると、3時間歩いて、1時間の作業、1時間のお昼寝だ。
昼からも3時間歩いて、夕食にスープを食べると、デザートの葛湯を飲んで就寝する。
木にもたれて寝るのも慣れたモノだ。
睡眠時間は16時間で、4時間おきに空腹で目が覚めるので、栄養サプリを飲んでは就寝を繰り返す。
お昼寝を入れると1日17時間は寝ている。
ポーションの消化も早くなり、お腹がすぐに空く。
道中はイカや貝の干物を噛んで歩いている。
食べるのは厳禁だ。
おやつタイムに葛湯を飲む。
残念ながら、まだ固形物は受け付けない。
生後1ヶ月と少しだ。
こんなモノか。

ぐわぁ、森の頭上で翼竜の鳴き声が聞こえた。
山に近づき過ぎた?
距離を狭めた索敵で森から突き出したような岩場を見つけた。
肉体強化で軽く跳びながら、岩場の小山を登って行った。
森から出ると視界が広がった。
目の前に山が見え、思っていた以上に近づき過ぎたようだ。
上空を旋回する翼竜が私も見つけた。

刹那!?
急降下してくると鋭い爪をこちらに向ける。
私は身を翻すと鋭い爪を避けて、すれ違い様に首元を目掛けて木槍を投げつけた。
翼竜の羽に傘が破れたような大穴が空いた。
ちぃ、私は舌を打つ。
この体は修練がなっていない。

ぐわぁぁぁ、翼竜が羽を破られて怒っている。
スキルを身に付けられない私は修練で体を自由に操れないと能力が発揮できない。
神力で身体能力が桁違いに上がっているが、赤子のステータスを一桁上げても人並み以下だ。
翼竜程度に苦戦する自分が情けない。
竜族である翼竜の爪は守護霊獣クーちゃんの防御結界を破っていた。
仲間が寄って来た。

「少女一人に五匹かがりとは卑怯だぞ」

私の抗議を聞き入れて貰えない。
卑怯な奴らだ。
間髪を入れずに横から次の爪が襲って来たので、ショートソードに神力と魔力を這わせて聖剣並に威力を引き上げて対抗する。
自分から転がって爪を避けると剣を横に振って爪を切った。
もっと早く動かないのか?
すれ違い様に翼を斬ってからスラリと躱したいのが、実際は避けるのが精一杯だ。
懐に飛ぶのも怖い。
クーちゃんが結界を再構成したが気休めでしかない。

グギャ!
爪を切られた翼竜と羽に穴を開けられた翼竜がけたたましい声で怒りを露わにする。
自分の方が強者と思われているのが腹立たしい。
私は岩場の頂上から、そのままゴロゴロと転がって岩場の端から落ちる。
もちろん、ワザとだ。
落ちながら体勢を取り戻し、ピョンピョンと絶壁の岩を蹴って跳ねた。

グギャ、グギャ、グギャ!
絶対に逃がすなとでも叫んでいるのだろうか?
凄い形相で急降下してきた。
獲物を逃がしてなるモノかという感じだ。
馬鹿め!
自分達が絶対的な強者だと勘違いしている。
私を追って岩場スレスレに急降下してくる五匹の翼竜を見て、ニヤリと頬を緩めた。
最後の一匹が岩場より下に入った所で、私は『加速装備!?』と唱えた。
世界が止まる。

降りてきた絶壁を急いで登る。
体力的にかなりキツいがここは我慢だ。
時間はわずか16分と40秒だ。
のんびりと山を上がっている時間はない。
岩山を登り切ると、翼竜を見下ろして私は呟いた。

「誰に喧嘩を売ったのか教えてやろう」

助走を付けて翼竜の背中を目掛けて飛んだ。
ショートソードを下に向け、急所の魔石を目掛けてグサリと刺した。
あっ、しまった。
貴重な魔石を壊した事に刺してから気が付いた。
魔石は貴重だ。
特に翼竜の魔石も質が良い。
剣を引き抜くと、翼竜の背中を蹴って次の翼竜の背中に飛ぶ。
ぐさぁ、魔石じゃなく、心臓を刺した。
確実に殺す為に首を一閃しておく。

次の一匹はちょっと遠い。
魔力“アンカー”を這わせた短槍を投げて串刺すと、自分を引き寄せる感じで背中に飛び乗る。
最近知ったが、錨を這わせた短槍は手足の延長になるらしい。
魔力で撃ち出すほどの威力はないが、通常時間に戻るよりは使い勝手がいいのに気が付いた。
あと二匹だ。

随分と急降下しているのは最初に手傷を負わされた翼竜達だ。
傷を負わされて怒っているのだろう。
倒した3匹よりかなり下にいたが、度胸を決めての紐なしバンジージャンプだ。
紐がなければ、バンジーじゃない。
細かい事は気にしない。
岩山を登り直すのに15分を掛けており、残り1分40秒で残り2匹を始末しなければならない。
脳内のカウントダウンが始まっていた。
幸いな事に残り2匹は重なって真下に居た。
落下しながら胴体から一刀両断し、もう一匹の背中に落ちる。
ドカッと着地。
びびびびびびっと衝撃が足の先から頭へと抜ける。
顔が引き攣る。
痛い、痛い、マジで痛いけど、今は痛みに耐えている暇はない。
3,2,1とカウントダウンが・・・・・・・・・・・・残りの時間が消えてゆくので、痛みも忘れて体を捻って目の前の尻尾だけでも切った。

ぐぎゃあぁぁぁぁ!
時間が戻った瞬間に翼竜がけたたましい声で鳴いた。

「そのまま他の四匹のように黙っていろ」

残る4匹は絶叫を上げる事もなく、絶命していた。
暴れる翼竜の背中で私は体を捻った?
捻れていない。
尻尾を切った反動で体は捻ってすぐさまに首を落とそうと思っていたのだが、足が言うことを聞かない。
まるで置物のようにピクリとも動かない。
翼竜がさらに暴れた。
私は足場を失って地面に落とされた。

痛い。
よく気を失わなかった。
尻尾を失った翼竜もバランスが取れずに仲良く落ちた。
横から落ちて全身打撲だ。
あっちも痛そうだが、こっちも痛い。
なんて感じている暇もない。
上から数トンの物体が4つを落ちてくる。
上半身を無理矢理に捻ってゴロゴロと転がって森の方へ回避した。
ズドン、ズドン、ズドン、スドンと落下すると、大きな土煙が私を隠した。

痛みを堪えながら傷回復ポーションを飲む。
じわっと胃が熱くなると、全身から痛みがゆっくり引いてゆく。
残りの翼竜に止めを・・・・・・・・・・・・他の死体の回収せねば!?
尻尾を切られた翼竜がギャア、ギャアと鳴き、ギュエ、ギェエ、ギェエと大きな声を上げて仲間が寄ってくる。
今度はざっと23匹だ。
魔力はほとんど使ってしまった。
傷回復ポーションを飲んだので消化されるまで5分ほどのインターバルがいる。
すぐに魔力回復ポーションを飲む事もできない。
土煙が舞っているので俺の姿は見えていないが、引いた時点で襲ってくるのは確実だった。
戦略的撤退だ。

私は痛みを堪えて這う森の中に身を隠す。
短槍を刺した一匹だけは“アンカー”で繋がっているので、影収納で隠しておいた。
こんな事ならば、すべて短槍で攻撃すればよかった。
後悔先に立たずだ。

仲間を三匹も遣られて怒っている翼竜達が集めってくる。
23匹でも最悪なのに、100匹以上も集めってきそうだ。
翼竜の誇りはないのか?
最悪だ。
私は腹這いの儘で、手と足で地面を這うように匍匐前進ほふくぜんしんで森の奥を目指す。
薬草で作った迷彩服が効果を見せる。
見つかれば助からない。
上空から見えないようにで森の中に逃げた。

『いつか仕返ししてやるぞ。覚えておけよ』(ぼそり)

私は上空の翼竜達を指差して小さな声で宣言した。
戦いに勝って戦略的撤退。
う~~~ん、情けないな。
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