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23.ジュリのお手軽な四次元魔法。

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赤茶けた荒れ果てた荒野が教会の裏に広がる。
森の木を切り、雪が降って積もる。
そして、雪が解けると土を流して、この赤茶けた大地が顔を出したそうだ。
その上に城壁町は建設された。
農家は土が流れないように工夫しており、放置すると赤茶けた大地が顔を出すらしい。
大地の色は家々の壁の色とよく似ていた。

イリエに町を案内された時に気が付いたのだが、西側は城壁まで家々が軒を連ねるのに対して、東側は閑散としていた。
大広場まで坂を上がるとそれがよく判った。

「どうして東側は家が少ないの?」
「井戸があるのが大通りの近くあるか、じゃなく。あるからです」
「あのね。あのね。井戸は凄く深くのぉ」
「水を取るのが大変なのぉ」

子供らは井戸から水を取る真似をしながら水汲みの大変さを私に伝えようとしていた。
緩やかに東から西に下っている。
水の魔法が使える貴族や深い井戸を掘れる大店しか東側に家を持たない。
下った貧困層は少しでも井戸の近い場所に集まり、城壁に近い教会付近は閑散としていた。

「運ぶが大変」
「一杯頑張るのぉ」
「お仕事」
「頑張る」

小さな子が水運びで頑張ると自慢した。
水運びは重労働だ。
このジュリに任せなさい。
地面に手を付けると一気に深度400mはある円柱の井戸を掘った。
ジョロジョロという音が聞こえる。
中が暗い。
光の精霊を呼んで井戸の底に降りて貰う。
地下水が流れ込んでいた。
すぐに水が貯まり、20mくらいで止まった。
こりゃ、普通の手押しポンプではくみ上げられない。
頭の中で設計図を描いて、壁に沿って一気に魔力を流し、土の魔法で造り出す。

ジャジャァ~~ン。
深井戸用手押しポンプの完成だ。
浅井戸と深井戸の弁の位置が地上か、地下かの違いだ。
長く伸びた井戸筒の先に弁を設置する事で10mの壁を越える事ができる。
正にコロンブスの卵だ。

取っ手を動かすと水が出てくるので子供らがはしゃいで水を交代で出し合った。
シスターシミナはまるで魔法を見ているように驚いている。
その魔法で造りました。
はしゃいで水を被って喜んでいるけど、その水がかなり冷たいよ。
風邪を引く。
私は薪を取り出して、焚き火を作っておく事にした。
リリーが『深井戸用手押しポンプ』に興味を持って聞いてくる。

「どういう原理なの?」
「タダの手押しポンプよ」
「教えなさい・・・・・・・・・・・・じゃなく。教えて下さい。ご主人様」

私は簡単な浅井戸ポンプの設計図を書いて見せた。
リリーの目がキラキラだ。
真空とかと理解していると思えないが、ともかく形は理解できたようだ。

「水が漏れない道具ならいいのね」
「そうね。私が作ったのは、この部分を筒の下に添えただけ」
「簡単そうに言うけど難しくない」
「魔法で造る分には難しくないわよ。でも、職人に造らせるとなると、こっちのポンプじゃないと難しいと思うわ」

休憩を貰ったリリーがそのまま何処かに消えて行った。
さて、本題だ。
子供らと畑を作る約束をした。
10m四方に魔力を流し、土の魔法で一気に開墾だ。
ジャジャァ~~ン。
もう良いって?

深度3mくらいまで砂層に変えて整地の完成だ
その上に森で回収した土を乗せる。
黒々した土が流れないように柵で覆ってある。
子供らには土を山の帯状をいくつも作って貰い、その上に種を植えて行く。
シスターシミナが聞いて来た。

「ジュリさん。魔法でやった方が早くありませんか?」
「全部やったら、子供らのする事がないじゃない。泥んこ遊びはみんな好きでしょう」
「ありがとうございます」
「イリエ。子供らがはしゃぎ過ぎて仕事をしなくならないように指導してよ」
「何で俺だけ」
「私も手伝うよ」
「うぬ」

イリエ達が私の言った通りに土を盛って山を作っていった。
最初は野菜の種から試そう。
種を解析すると、何科のどんな種かは判るのだが形や味は判らない。
家庭菜園で試すのもありだ。
今回は小松菜、キャベツ、白菜、トマトだ。
子供が泥んこ遊びをやっている間に井戸の隣に露天風呂を造っておく。
手押しポンプで自分達でも風呂を焚ける仕様だが、今回は魔法でお湯を満たす。
入り口には屋根付きの脱衣所を併設だ。
私と同じ迷彩柄の男の子は浴衣、女の子はワンピースを名札の付いた籠に入れておく。
最後に裸足の子供らに靴を用意した。
裏戸を開けて、子供らに声を掛ける。

「種捲きが終わったら、順番に入って行って」
「わぁ、何これ?」
「お風呂だよ」
「おっきい」

シスターシミナに声を掛けて、子供らの服を脱がせて泥を落とさせてから風呂に入れて行くようにお願いした。
手伝っていなかったリリーが帰ってくると、お風呂を見て突撃だ。
ソリンも脱がされた。
泥んこになったイリエとヨヌツには特製の水桶とタオルを渡して裏戸を閉めた。
男子禁制だ。
ちっちゃい子はギリギリOKだよ。
男女別浴という風習もないのでイリエが裏戸をバンバンと叩いて五月蠅かった。

「どうしても入りたかったら、私らが終わった後で入りなさい」
「お前の裸なんて見たくない。俺は気にしないから一緒に入れろ」
「ソリンとリリーは女の子よ」

湯船に浸かると良い気分だ。
胸の膨らみが豊かなのはシスターシミナの胸が浮いている。
ソリンがふっくらと大きくなっている程度で、リリーはぺったんこだ。

「あんたに言われたくないわ・・・・・・・・・・・・じゃなくて、ご主人様に敵いません」

敵うも何も、私はお腹がぽっこりの幼児体型だよ。
ソリンに胸がもう少しあれば、「良いではないか、良いではないか」と胸を揉んで、からかって遊ぶのだが、このメンバーでは楽しみがない。
シスターシミナに石鹸で背中を流して貰った。
脱衣所を開けると私が言う。

「私からのプレゼントだよ。字が読めない者はシスターシミナに読んで貰って」
「ジュリ、ありがとう」
「皆でありがとうございますと言いましょう」
『ありがとうございます』

中々に良い気分だ。
記念に柿の種を植えて、皆で円になってお祈りをする。

「早く芽を出せ、カキの種。出さねばはさみで、ほじくるぞ」

皆で歌った後はお昼寝だ。

柿の種は翌日に芽が出たので唄を変えた。

「早く実がなれ、カキの木よ。ならねばはさみで、ちょん切るぞ」

こうして何日も何日も子供達と歌った。
そして、そして、長い長い歳月が流れ、柿の種に実がなったとさ。
めでたし、めでたし。

「めでたしじゃないわよ」
「リリー。何を怒っているの?」
「可笑しいでしょう」
「何が可笑しいの?」

桃栗三年、柿八年、梅は酸い酸い十三年、梨はゆるゆる十五年、柚子の大馬鹿十八年、蜜柑のまぬけは二十年と言われる。
私は甘い蜜柑を食べていた。

「たった一月で蜜柑が実になるのよ。可笑しいでしょう」
「美味しいよ」
「うん、美味しい」
「甘い」

子供達は素直だ。
リリーはちょっと頭が固い。
私だって自重した。
一晩で柿の木がなったら可笑しいと思って10日ほど緩めの成長に加減した。
蜜柑に至っては1月も掛けた。
毎日、1本ずつ増やしていったので、桃、りんご、ぶどうなどの果実の実が沢山なっている。

「道具屋の爺さんが『魔女の森』って命名したわ」
「攻めて薬師の森って呼んで欲しかった」
「ご主人様は『聖樹の薬師様』と呼ばれています」
「聖樹ね」

教会の横に立っていた楠の木があった。
教会と同じくらいの高さだった木が畑と果実園の影響を受けて、二倍くらいの大きさに成長していた。
この辺りの人は私も見ると頭を下げるか、祈るようになっていた。

「それは教会が配っているポーションが原因だろう」
「タダの劣化ポーションよ」
「風邪くらいなら一発で治る。皆、喜んでいるぞ」

回復ポーション(小)擬きだ。
家庭菜園で作った薬草に魔力を込めて練り上げると、飲み薬が完成する。
魔力循環を覚えた子供らに『なんちゃってポーション』の作り方を教えた。
魔力を通す事で薬草の効果を数倍高める事ができる。
森の魔素を含む薬草を使えば、回復ポーション(小)も作れる。
これは庭の薬草なので効果は低めだ。
冒険者がポーション代わりに寄付をして持って帰る。
銅貨10枚で1本は安すぎたか?
これでもかなり暴利だ。

「10本に1本はジュリ様が作った奴があります。彼らは当りポーションと呼んでいます」
「お手本に作った奴ね」
「作った奴ね。じゃなくて、ご主人様。気が付いて下さい。本物を一本買うのも、この擬き10本を買うのも同じ値段だという事です」

回復ポーション(小)擬きなのに、回復ポーション(小)並に回復する。
手軽な回復だ。
簡単な回復ならこれで十分と思われているらしい。
偶に効果の良いが混じってお得が半端ないと言う。
知らないよ。

容器も安い。
ガラスじゃなく、子供が作った磁器だ。
窯で焼いた物と子供が土の魔法で造った物が混在する。
子供達の職業訓練だ。
最後の硬化が出来ないので私が仕上げをしているが、毎日のように木の周りで輪になって魔力循環の訓練を続けているので魔法が使える子供が増えている。

「私もまだ出来ていないのに・・・・・・・・・・・・」

魔法が使えるようになった子供らをリリーが凄く羨ましそうな顔で睨む。
子供は習得が早かった。
悔しいとリリーの顔に出ている。
平和だね。
私は甘い蜜柑を食べながら出来た果実に満足していた。
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