23 / 34
22.ご主人様になっちゃった。
しおりを挟む
猪はキングボアーという名が付いていた。
討伐報酬が金貨1枚の大物らしい。
この森には大物しかいない。
爪、牙、毛皮が貴重品であり、肉もそれなりの高値で売られ、諸々を併せて小金貨5枚で冒険ギルドが引き取ってくれた。
一番高い魔石は私が貰った。
報酬は私が6割で、イリエが2割、残る2割は運び代として冒険者の頭割と決まった。
金貨3枚の荒稼ぎだ。
イリエは小金貨9枚を受け取って震える。
リリーは明日も討伐よと、その金額の多さに変になっていた。
しばらく魔物は出ない。
索敵を最大に行なったので南に魔物は寄りつかない。
翌日、ピンポイントに傷回復ポーションの薬草を探して採取すると、次の日にポーションを制作して、その日の内に100本を納品した。
「随分と早かったな」
「特急料金が欲しいくらいね」
「残念だが、それは出せん」
言っただけだ。
領軍の被害が少なかったのか?
急いで納品する必要がないと連絡が来たそうだ。
秋の討伐もあるので納品は受け取られる。
「魔物が徘徊するのはこの領地だけはない。余裕があれば、他の領主に売る事もできる。幾らでも買い取ってくれるさ」
「じゃあ、次から20本ずつでいいわね」
「あぁ、十分だ」
「爺さん。これも買ってくれる」
リリーが出したのは薬草の運び代として払ったポーション一瓶だ。
リリーは30日分の手伝い賃をポーション一瓶で払って欲しいと頼んで来た。
命賭けで森に入っても、1日の儲けが小銀貨1枚だ。
1月頑張っても銀貨3枚にしかならない。
小金貨2枚のポーションと交換は厚かましいと思うけど・・・・・・・・・・・・と言って頭を下げた。
ポーションなんて材料費がタダだ。
問題なかった。
そして、リリーが頭を下げた理由がここで判った。
「ポーションか。小銀貨1枚と銅貨50枚でいいか」
「口止め料を含めて金貨3枚よ」
「ははは、気が触れたか?」
「至って正気よ。前回は騙されたので元を取り返したいのぉ」
人差し指を頬に当てて、軽く首を捻ったリリーの目が妖艶に光る。
逆に爺さんの顔が怒りで赤くなった。
見えない火花が散っている。
「儂に喧嘩を売る気か? これから商品の買い取りをどうするつもりだ。黙って小銀貨2枚を受け取って帰れ。それがお前らの為だ」
「私らから小金貨8枚もぼったくって、謝罪の1つもないのかしら?」
「小銭に目が眩んで、ここまで育ててやって恩も忘れたか」
「もちろん、恩を感じている。これは恩返しよ」
イリエとヨヌツが差額の事を初めて聞いたように驚いていた。
リリーは何度も下取り価格を聞いていた。
聞こえた言葉が聞こえないのは、二人の耳が難聴なのか?
ソリンは喧嘩越しのリリーの態度にオロオロしている。
「口止め料に金貨3枚など出せる訳がないだろう」
「じゃあ、2枚でいいわ。そろそろ察してくれないかしら」
「気が触れたのは察した」
「情報屋が情報を取り忘れているなんて、もう引退ね」
「何が言いたい?」
「イリエが魔物を退治して小金貨9枚を手に入れた。これまでの貯めた金を合わせれば、ヨヌツを自由民にして、冒険ギルドに登録する費用を出してもお釣りがくるのよ」
「まぁ、まさか!?」
何を察したのか知らないが、道具屋の爺さんが慌てた。
金貨1枚は1,000万円に相当する。
子供が稼げる金額ではない。
普通にしていては決して貯まらない。
1日で小銀貨1枚を稼ぐのが精一杯の子供らが稼げるお金ではない。
「ヨヌツが兵士に連れて行かれるまで、あと1年半。やっとまともな武器が買えるようになって来た。これから山の魔物を狩って稼ぐしかない」
「その通りだ。儂が買い取らなければ、お前らは自分を買うチャンスも与えられない」
「そう言って、これまでどれだけの孤児からぼったくって来たのかしら?」
「生きる糧をやっている。感謝されても恨まれる事はやっておらん」
爺さんは目を逸らした儘でリリーの話に答えた。
私には話が見えない。
リリーが恫喝し、爺さんが負けた?
「リリー。私にも判るように言ってくれない」
「簡単な話よ。私らは買って売り買いができない。冒険ギルドか、商業ギルドに買い取って貰わないといけないのよ。孤児はギルドに登録できないので、爺さんが買い取ってくれないと儲ける事がほとんど何もできない」
「なるほど。爺さんは適正価格より安い値で引き取っていたのね」
違法行為だから、引き取り値が下がるのは仕方ない。
孤児達は必死に沢山の薬草などを採って来てくれただろう。
孤児を食い物にして来たのは嘘ではないらしい。
リリーもそれを承知していた。
だから、ポーションの差額である小金貨8枚を出来ないと言っていた。
でも、今は請求した。
イリエが小金貨9枚を手に入れた事で状況が変わったからだ。
「ヨヌツが冒険者になって、この傷回復ポーションを換金すれば大騒ぎでしょうね。安値の小金貨2枚ではなく、最低価格の小金貨5枚で引き取ってくれる。それでこれをどこで手に入れたか問い詰められる。冒険者なったヨヌツは黙秘もできない。道具屋と裏取引所の頭領は大変な事に・・・・・・・・・・・・」
「軍の偉いさんが何とかする」
「まだ、正式な書類が出ていない。ギルドが付け入る隙がありそうよね」
「お前に何の得がある」
「私はジュリを抱えている。一か八か交渉する価値はあるわ」
「いくらだ?」
「ポーションの代金、差額分、口止め料を含めて、金貨1枚と小金貨4枚よ」
爺さんが何も言わず、それを出してリリーが受け取った。
リリーは「毎度」と言って受け取った。
爺さんが首を横に振った。
「リリー。よくここまで成長した。立派になった」
「ありがとうございます」
「だが、足下が疎かになっていたな」
「足下?」
「言っておくが、お前らが小金貨9枚を稼いだのは知っておったさ。儂を脅してくるとは思っておらなんだがな」
「じゃあ、何に驚いたのよ?」
「お前の目が節穴になっていた事だ」
手を振ってもう帰れと追い出された。
今度はリリーが怒っている。
私は帰ろうとしたが、ソリンにヨヌツが自由民になる立会人になって欲しいと言われたので教会に向かった。
「爺さんの嫌みなんて、もう忘れましょう。余裕も出来たから武器を買い直すわよ」
「いいのか?」
「ここから一気に稼いで、私達の分も貯めるわ」
「任せろ。魔物は俺が倒してやる」
「させる訳ないでしょう。死にたいの?」
「イリエ。確実に行きましょう」
「うぬ。生き残るのが大事だ」
あれはマグレだ。
魔獣に挑めば、イリエは死ぬ。
間違えなく。
リリーも承知しており、山の獲物を狙うと言う。
ソリンもヨヌツも同じ意見で安心した。
教会の玄関には牧師様と役人と二人の兵士が立っていた。
「お前がイリエか」
少し小太りの目が腐った蛙顔の役人がイリエ達を舐め回すように見た。
ヨヌツの体格の良さ、イリエの覇気などではなく、ソリンとリリーに注目し、これをどう調理しようかと言う嫌らしい目つきだ。
給付の指導という名のレイプが待っていそうだ。
「くくく、ありがたく拝命しろ。お前らは今日から兵士として徴用される事が決まった」
「待って下さい。我々は毎日銅貨10枚を支払っております」
「それは特例に過ぎん。こちらが命じれば、出頭する義務がある」
「横暴だ。俺は行かないぞ」
「逃亡罪は死罪と決まっておる」
「徴兵には応じない。俺は兵に志願するつもりだ。待って欲しい」
「孤児にそんな権利などあるモノか」
「牧師様。事実ですか?」
「明日付けで出頭するようにと書かれている」
リリーは手を握り絞め、歯を食いしばるように怖い顔で俯いた。
呟くように「失敗した。爺の言っていたのはこれか」と吐き捨てた。
魔物を討伐できる孤児を放置する訳がなかった。
「ソリン。御免。金貨2枚。ヨヌツとイリエを買うには、少しお金が足りないの。私と一緒に売られてくれる」
「うん、いいよ。夢が見られて楽しかった」
「御免ね」
リリーは牧師を見上げた。
「牧師様。今日中に二人を買い上げます。宜しいでしょうか」
「しょうち・・・・・・・・・・・・『待て』」
蛙顔の役人が牧師の言葉を遮った。
「魔物が倒せる孤児だぞ。金貨一枚で下げ渡すなど許せるか。軍は優秀な兵を求めている。最低でも金貨2枚だ。それ以上でなければ、軍の損失が大きすぎる」
「寮長様。それに余りにも理不尽な申し出でございます」
「態々出向いて、儂の目の前で売れましたと報告させるつもりか」
自分の面子を盾に蛙顔が滅茶苦茶な事を言った。
魔物の来襲や戦闘の結果、親を亡くした孤児も多い。
孤児を養いのは領主の義務だろう。
こんな欲望まみれの役人を満足させる為ではない。
ちょっと私もムカっと来た。
「ジュリ。虫のいいのは判っています。お願いします。私らを助けて下さい」
「リリー。本気?」
「この通りです。いつかお金は返します」
リリーが大きく頭を下げた。
続いてソリンが下げ、ヨヌツも続く。
状況が理解できていないイリエはヨヌツに無理やり下げられた。
蛙顔と目が合った。
貰った金貨10枚が入った小袋を取り出すと牧師に投げた。
「確かに金貨10枚を頂きました」
「待て。やはり金貨3枚だ」
「寮長様。孤児の価格を決めるのは寮長様の権限ではないと思います。人事課長様に手紙を書かせて頂きます」
「黙れ。儂の面目を潰すつもりか」
「子供らの一生が掛かっております。お許し下さい」
牧師も寮長の意見を蹴った。
兵を預かるのは寮長かもしれないが、兵の価値を決めるのは寮長ではない。
寮長は兵を預かっているだけだ。
「牧師様。軍の偉いさんからポーションの納品を頼まれていますが、助手を奪われると納品が滞ると書いて下さい。その場合、その責任はこの蛙顔にとって下さいとも」
「蛙顔とは、儂の事か」
「他に誰がいます。私は帰ります。じゃあね」
「覚えておれ」
覚えておくほど暇ではない。
その日も内に兵が門前宿に送られてくる事はなかった。
◇◇◇
数日後、イリエ達が正式に従者となった。
奴隷ではない。
因みに、町の者が孤児を引き取る場合は、小金貨1枚から3枚位だ。
身元保証人がいるかいないかで価格が10倍も変わってくる。
私が名乗り出なければ、貴族が家臣に欲しいと名乗り出るケースだった。
助官の一部が貴族に取られる前に確保しようと先走ったのだ。
「あの蛙。小隊長に降格の上に最前線に送られるそうよ」
「小隊長?」
「あの蛙。あれでも大尉だったのよ」
「大尉って偉いの?」
「騎士になる一つ手前よ。120人を束ねる中隊長の資格を持っていたらしいわ」
「へぇ~、偉いのね」
寮長を含む一派は一階級降格の上に現場に派遣される事になったらしい。
あの肉付きを見れば、傭兵より強そうに見えない。
領主に仕える従者なら文官として出世する道もあるのだろう。
イリエらは武具を新たに買い直し、冒険ギルドに行って冒険者の登録を終えてから門前宿にやって来ていた。
「準備完了よ。これで狩った獲物をギルドに売れるわ」
「狩って、狩って、狩りまくるぞ」
「(うおぉ~~~)」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーもイリエもヤル気満々だ。
ソリンは控え目に、ヨヌツは無言だった。
でも、今日はお休みだ。
孤児らの子らと土いじりで遊ぶ約束をしていた。
私はホワイトなご主人様だ。
討伐報酬が金貨1枚の大物らしい。
この森には大物しかいない。
爪、牙、毛皮が貴重品であり、肉もそれなりの高値で売られ、諸々を併せて小金貨5枚で冒険ギルドが引き取ってくれた。
一番高い魔石は私が貰った。
報酬は私が6割で、イリエが2割、残る2割は運び代として冒険者の頭割と決まった。
金貨3枚の荒稼ぎだ。
イリエは小金貨9枚を受け取って震える。
リリーは明日も討伐よと、その金額の多さに変になっていた。
しばらく魔物は出ない。
索敵を最大に行なったので南に魔物は寄りつかない。
翌日、ピンポイントに傷回復ポーションの薬草を探して採取すると、次の日にポーションを制作して、その日の内に100本を納品した。
「随分と早かったな」
「特急料金が欲しいくらいね」
「残念だが、それは出せん」
言っただけだ。
領軍の被害が少なかったのか?
急いで納品する必要がないと連絡が来たそうだ。
秋の討伐もあるので納品は受け取られる。
「魔物が徘徊するのはこの領地だけはない。余裕があれば、他の領主に売る事もできる。幾らでも買い取ってくれるさ」
「じゃあ、次から20本ずつでいいわね」
「あぁ、十分だ」
「爺さん。これも買ってくれる」
リリーが出したのは薬草の運び代として払ったポーション一瓶だ。
リリーは30日分の手伝い賃をポーション一瓶で払って欲しいと頼んで来た。
命賭けで森に入っても、1日の儲けが小銀貨1枚だ。
1月頑張っても銀貨3枚にしかならない。
小金貨2枚のポーションと交換は厚かましいと思うけど・・・・・・・・・・・・と言って頭を下げた。
ポーションなんて材料費がタダだ。
問題なかった。
そして、リリーが頭を下げた理由がここで判った。
「ポーションか。小銀貨1枚と銅貨50枚でいいか」
「口止め料を含めて金貨3枚よ」
「ははは、気が触れたか?」
「至って正気よ。前回は騙されたので元を取り返したいのぉ」
人差し指を頬に当てて、軽く首を捻ったリリーの目が妖艶に光る。
逆に爺さんの顔が怒りで赤くなった。
見えない火花が散っている。
「儂に喧嘩を売る気か? これから商品の買い取りをどうするつもりだ。黙って小銀貨2枚を受け取って帰れ。それがお前らの為だ」
「私らから小金貨8枚もぼったくって、謝罪の1つもないのかしら?」
「小銭に目が眩んで、ここまで育ててやって恩も忘れたか」
「もちろん、恩を感じている。これは恩返しよ」
イリエとヨヌツが差額の事を初めて聞いたように驚いていた。
リリーは何度も下取り価格を聞いていた。
聞こえた言葉が聞こえないのは、二人の耳が難聴なのか?
ソリンは喧嘩越しのリリーの態度にオロオロしている。
「口止め料に金貨3枚など出せる訳がないだろう」
「じゃあ、2枚でいいわ。そろそろ察してくれないかしら」
「気が触れたのは察した」
「情報屋が情報を取り忘れているなんて、もう引退ね」
「何が言いたい?」
「イリエが魔物を退治して小金貨9枚を手に入れた。これまでの貯めた金を合わせれば、ヨヌツを自由民にして、冒険ギルドに登録する費用を出してもお釣りがくるのよ」
「まぁ、まさか!?」
何を察したのか知らないが、道具屋の爺さんが慌てた。
金貨1枚は1,000万円に相当する。
子供が稼げる金額ではない。
普通にしていては決して貯まらない。
1日で小銀貨1枚を稼ぐのが精一杯の子供らが稼げるお金ではない。
「ヨヌツが兵士に連れて行かれるまで、あと1年半。やっとまともな武器が買えるようになって来た。これから山の魔物を狩って稼ぐしかない」
「その通りだ。儂が買い取らなければ、お前らは自分を買うチャンスも与えられない」
「そう言って、これまでどれだけの孤児からぼったくって来たのかしら?」
「生きる糧をやっている。感謝されても恨まれる事はやっておらん」
爺さんは目を逸らした儘でリリーの話に答えた。
私には話が見えない。
リリーが恫喝し、爺さんが負けた?
「リリー。私にも判るように言ってくれない」
「簡単な話よ。私らは買って売り買いができない。冒険ギルドか、商業ギルドに買い取って貰わないといけないのよ。孤児はギルドに登録できないので、爺さんが買い取ってくれないと儲ける事がほとんど何もできない」
「なるほど。爺さんは適正価格より安い値で引き取っていたのね」
違法行為だから、引き取り値が下がるのは仕方ない。
孤児達は必死に沢山の薬草などを採って来てくれただろう。
孤児を食い物にして来たのは嘘ではないらしい。
リリーもそれを承知していた。
だから、ポーションの差額である小金貨8枚を出来ないと言っていた。
でも、今は請求した。
イリエが小金貨9枚を手に入れた事で状況が変わったからだ。
「ヨヌツが冒険者になって、この傷回復ポーションを換金すれば大騒ぎでしょうね。安値の小金貨2枚ではなく、最低価格の小金貨5枚で引き取ってくれる。それでこれをどこで手に入れたか問い詰められる。冒険者なったヨヌツは黙秘もできない。道具屋と裏取引所の頭領は大変な事に・・・・・・・・・・・・」
「軍の偉いさんが何とかする」
「まだ、正式な書類が出ていない。ギルドが付け入る隙がありそうよね」
「お前に何の得がある」
「私はジュリを抱えている。一か八か交渉する価値はあるわ」
「いくらだ?」
「ポーションの代金、差額分、口止め料を含めて、金貨1枚と小金貨4枚よ」
爺さんが何も言わず、それを出してリリーが受け取った。
リリーは「毎度」と言って受け取った。
爺さんが首を横に振った。
「リリー。よくここまで成長した。立派になった」
「ありがとうございます」
「だが、足下が疎かになっていたな」
「足下?」
「言っておくが、お前らが小金貨9枚を稼いだのは知っておったさ。儂を脅してくるとは思っておらなんだがな」
「じゃあ、何に驚いたのよ?」
「お前の目が節穴になっていた事だ」
手を振ってもう帰れと追い出された。
今度はリリーが怒っている。
私は帰ろうとしたが、ソリンにヨヌツが自由民になる立会人になって欲しいと言われたので教会に向かった。
「爺さんの嫌みなんて、もう忘れましょう。余裕も出来たから武器を買い直すわよ」
「いいのか?」
「ここから一気に稼いで、私達の分も貯めるわ」
「任せろ。魔物は俺が倒してやる」
「させる訳ないでしょう。死にたいの?」
「イリエ。確実に行きましょう」
「うぬ。生き残るのが大事だ」
あれはマグレだ。
魔獣に挑めば、イリエは死ぬ。
間違えなく。
リリーも承知しており、山の獲物を狙うと言う。
ソリンもヨヌツも同じ意見で安心した。
教会の玄関には牧師様と役人と二人の兵士が立っていた。
「お前がイリエか」
少し小太りの目が腐った蛙顔の役人がイリエ達を舐め回すように見た。
ヨヌツの体格の良さ、イリエの覇気などではなく、ソリンとリリーに注目し、これをどう調理しようかと言う嫌らしい目つきだ。
給付の指導という名のレイプが待っていそうだ。
「くくく、ありがたく拝命しろ。お前らは今日から兵士として徴用される事が決まった」
「待って下さい。我々は毎日銅貨10枚を支払っております」
「それは特例に過ぎん。こちらが命じれば、出頭する義務がある」
「横暴だ。俺は行かないぞ」
「逃亡罪は死罪と決まっておる」
「徴兵には応じない。俺は兵に志願するつもりだ。待って欲しい」
「孤児にそんな権利などあるモノか」
「牧師様。事実ですか?」
「明日付けで出頭するようにと書かれている」
リリーは手を握り絞め、歯を食いしばるように怖い顔で俯いた。
呟くように「失敗した。爺の言っていたのはこれか」と吐き捨てた。
魔物を討伐できる孤児を放置する訳がなかった。
「ソリン。御免。金貨2枚。ヨヌツとイリエを買うには、少しお金が足りないの。私と一緒に売られてくれる」
「うん、いいよ。夢が見られて楽しかった」
「御免ね」
リリーは牧師を見上げた。
「牧師様。今日中に二人を買い上げます。宜しいでしょうか」
「しょうち・・・・・・・・・・・・『待て』」
蛙顔の役人が牧師の言葉を遮った。
「魔物が倒せる孤児だぞ。金貨一枚で下げ渡すなど許せるか。軍は優秀な兵を求めている。最低でも金貨2枚だ。それ以上でなければ、軍の損失が大きすぎる」
「寮長様。それに余りにも理不尽な申し出でございます」
「態々出向いて、儂の目の前で売れましたと報告させるつもりか」
自分の面子を盾に蛙顔が滅茶苦茶な事を言った。
魔物の来襲や戦闘の結果、親を亡くした孤児も多い。
孤児を養いのは領主の義務だろう。
こんな欲望まみれの役人を満足させる為ではない。
ちょっと私もムカっと来た。
「ジュリ。虫のいいのは判っています。お願いします。私らを助けて下さい」
「リリー。本気?」
「この通りです。いつかお金は返します」
リリーが大きく頭を下げた。
続いてソリンが下げ、ヨヌツも続く。
状況が理解できていないイリエはヨヌツに無理やり下げられた。
蛙顔と目が合った。
貰った金貨10枚が入った小袋を取り出すと牧師に投げた。
「確かに金貨10枚を頂きました」
「待て。やはり金貨3枚だ」
「寮長様。孤児の価格を決めるのは寮長様の権限ではないと思います。人事課長様に手紙を書かせて頂きます」
「黙れ。儂の面目を潰すつもりか」
「子供らの一生が掛かっております。お許し下さい」
牧師も寮長の意見を蹴った。
兵を預かるのは寮長かもしれないが、兵の価値を決めるのは寮長ではない。
寮長は兵を預かっているだけだ。
「牧師様。軍の偉いさんからポーションの納品を頼まれていますが、助手を奪われると納品が滞ると書いて下さい。その場合、その責任はこの蛙顔にとって下さいとも」
「蛙顔とは、儂の事か」
「他に誰がいます。私は帰ります。じゃあね」
「覚えておれ」
覚えておくほど暇ではない。
その日も内に兵が門前宿に送られてくる事はなかった。
◇◇◇
数日後、イリエ達が正式に従者となった。
奴隷ではない。
因みに、町の者が孤児を引き取る場合は、小金貨1枚から3枚位だ。
身元保証人がいるかいないかで価格が10倍も変わってくる。
私が名乗り出なければ、貴族が家臣に欲しいと名乗り出るケースだった。
助官の一部が貴族に取られる前に確保しようと先走ったのだ。
「あの蛙。小隊長に降格の上に最前線に送られるそうよ」
「小隊長?」
「あの蛙。あれでも大尉だったのよ」
「大尉って偉いの?」
「騎士になる一つ手前よ。120人を束ねる中隊長の資格を持っていたらしいわ」
「へぇ~、偉いのね」
寮長を含む一派は一階級降格の上に現場に派遣される事になったらしい。
あの肉付きを見れば、傭兵より強そうに見えない。
領主に仕える従者なら文官として出世する道もあるのだろう。
イリエらは武具を新たに買い直し、冒険ギルドに行って冒険者の登録を終えてから門前宿にやって来ていた。
「準備完了よ。これで狩った獲物をギルドに売れるわ」
「狩って、狩って、狩りまくるぞ」
「(うおぉ~~~)」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーもイリエもヤル気満々だ。
ソリンは控え目に、ヨヌツは無言だった。
でも、今日はお休みだ。
孤児らの子らと土いじりで遊ぶ約束をしていた。
私はホワイトなご主人様だ。
10
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる