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21.詰まらぬモノを斬ってしまった?
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城壁町ウェアンの南に親指山があり、そこはイリエ達が山菜摘みや野生の動物を狩る山だ。
10年前は魔の森に覆われた山であった。
聖女アーイシャの活躍で森は焼かれて、山の周りに平原に広がっていた。
それでも3kmほど南に下れば、魔の森が見えてくる。
東に山々から舌が伸びたような舌山があり、この山を越えた所がイリエらと出会った場所になる
討伐が終わり、一ヶ月も経つと魔物が少しずつ戻って来て徘徊するので、本来ならイリエ達は南の森に入る事はない。
聖女アーイシャの討伐隊がいる東側がイリエ達の主戦場なのだ。
「みんな、今日はジュリがいるから罠を準備する時間はないわ。覚悟してね」
リリーがそう声を張ると「おうぉぉぉぉ」と三人が声を上げた。
イリエ達が森に入る前は落とし穴などの罠を多数用意してから森に入る。
しかも安全を確保する為に他の冒険者や傭兵団の後ろに寄生する。
そこまでして森に入るのは、森の薬草は高値で売れるからだ。
今回は無償で護衛役を買って出た。
どうしてこんな事になったのかと言えば、昨日の昼に戻る。
「ジュリ、これ美味しい」
「そうでしょう。お代わりなら沢山あるから自分で取るのよ」
「あ~い」
「わたし、おかわりする」
「おれも」
私がポーションを作っていると孤児院から子供らが湧いて来た。
何をしているのと覗き込む。
子供らは興味津々だ。
牧師見習いシミナが邪魔をしてはいけないと叱ったが、私は見るくらいなら問題ないと許した。
完成したポーションに拍手喝采だ。
気を良くした私は、買ったばかり黍を使って黍粥を振る舞った。
出汁は鯨肉をベースに昆布と鰹節で調整した塩味だ。
ホンノリと油が浮いて美味しさを増してくれる。
出し殻の鯨肉は子供らが頂いていた。
お椀と匙はその場で土の魔法で造り出した。
こちらも大絶賛だ。
「ジュリ。私も魔法使いたい」
「いい心掛けです。では、練習してみましょう」
食欲魔の男の子は残っている黍粥をガツガツと食べる。
魔法に興味を持った女の子が私に声を掛けてきた。
両手を繋いで魔力循環を感じさせる。
まずは魔力を認知する事から始めた。
一人が始めると、他の子も「わたしも」、「わたしも」とやって来る。
人気者は辛いな。
子供らと遊んでいるとイリエ達が帰って来た。
「どうして、ジュリがいるの?」
「ポーションを作る為に場所を借りました」
「これ何だ?」
ソリンは私がいる事が気になったが、イリエはガツガツと食い溜めしている子供らが気になったようだ。
私は女の子と手を繋いで『みどりいろのつばさをぼくらはほしい・・・・・・・・・・・・』と唄を歌いながら魔力を流し、魔力循環の感覚を教えていた。
「感覚が掴めたら、私に魔力を流すイメージをするのよ」
「はい」
「うん。いい感じ、いい感じ」
魔力は私が送ったモノだが感じる感覚が掴めれば、後は一人でもできる。
一曲終わると次の子と交代だ。
私以外とも手を繋いでやっているが、巧くいかない。
1日で掴めたら天才だ。
イリエとヨヌツが黍粥を食べ始めた。
始めて口をする鯨肉に「何の肉だ?」、「馬肉よりやわらくて巧いぞ」とか、食通レポートのような意見を言い合って食べている。
小さな男の子が一杯あったと自慢している。
ヨヌツは「もっと早く帰ってくればよかった」と付き合っているのに対して、イリエは「山盛りの肉があったのか?」と本気で悔しがっていた。
ソリンに笑われているのにも気が付かない。
「私もやっていいかな?」
「いいわよ」
「ソリンの次は私よ。いいわね」
ソリンは魔力の方が気になるようだ。
親分風を吹かせたリリーが自分もやると言い出した。
暇だから良いけどね。
ソリンと両手を繋ぎ、私は右手から左手への魔力循環を始めた。
始めてなので唄を歌わずに手の平に集中して貰う。
「温かく感じたら言って頂戴」
「うん。判った」
ソリンが集中し始めるとリリーが話し掛ける。
どうしてポーションを作っているかだ?
私は良いけれど、ソリンの集中が乱れる。
道具屋の爺さんに頼まれた要件を素直に話した。
「嘘ぉ!? 私らは差額を貰ってないわよ。あの爺を問い詰めてやる」
守銭奴のリリーはポーションの差額を悔しがった。
ポーション1本で銀貨2枚の差額は大きい。
イリエ達も4本を換金したので、銀貨8枚の差額を受け取る権利がある。
それだけの金が手に入れば、ヨヌツは自分を買い戻せた。
私には追加注文を承知させる為に素直に差額を返したが、あの爺さんが素直に渡してくれるとは考えられない。
物の価値を知らない奴が悪いと言うに決まっている。
イリエ達に差額を返す理由がない。
リリーは爪を噛んで頭を巡らす。
がんばれ、リリー。
応援は無償なので送っておこう。
「そうだ。もう薬草はないのよね。私らもジュリが森に取り行くのを手伝って上げるわ」
「一人で大丈夫」
「そう言わずにジュリを手伝わせて。それでジュリが爺さんに頼めば、簡単に返してくれるのよ」
「面倒臭いから嫌ぁ」
あの爺さんは1つお願いすると2つほど条件が増えそうだ。
私に何のメリットもない。
多くの職人が狼の為に門から出られないのに、リリーは商人の手伝いで討伐団の食料を運び日銭を稼いだ。
焦らずともリリーはお金を稼ぐ天才だ。
大丈夫と言って突き放した。
すると、翌朝一番に門前宿を出るとイリエ達が待ち受けていた。
「ジュリ、おはよう。薬草取り日和ね。私達も薬草取りに行こうと思うのよ」
「御免ね。止めたけど止まらなかった」
「安心しろ。ガキ達が世話になった。恩は返す。ジュリは俺が守る」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーが元気に声を掛け、ソリンが謝った。
リリーが世話になった私に恩を返すべきとイリエを唆したのだ。
イリエは本気で私を護る気だ。
ヨヌツは“すまん”と無言で両手を合わせている。
私はお荷物を抱えて薬草取りに森に入った。
◇◇◇
狭い範囲の索敵を行なって薬草を探す。
問題は先行する冒険者パーティーだ。
鑑定と解析を重ねて見ると冒険者パーティーのステータスは騎士の四分の一以下だ。
その低いステータスで魔獣や魔物に挑む。
ここでは魔石を落とすモノを魔獣と呼び、魔石を落とさないモノを魔物と呼ぶそうだ。
強力な付加が掛かった盾や剣で魔獣を狩る。
一頭で金貨数枚になる。
命賭けの仕事だ。
広範囲の索敵をすると魔獣や魔物が逃げて彼らの邪魔になる。
索敵範囲を手短な所に留めた。
「冒険者や傭兵の後ろに付けば、安心よ」
「情けないけど、こうしないと森に入れないの」
「魔物くらいなら、俺がこの剣で護ってやる」
「イリエ。良い所を見せようとして前に出るなよ。一撃目を躱して撤退が俺達の戦術だ」
「判っている。でも、ジュリの防御があれば、俺らでも魔獣を倒して金貨を稼げるかもしれないだろう」
それが目的か。
はっと私は溜息を吐いた。
イリエは私の結界をアテにして魔獣を倒して、私を護るつもりなのだ。
護るという意味を履き違えていない?
「そこに薬草群があるわよ」
「えっ、嘘ぉ。本当にあった」
「こんなに?」
森に入って5分もしないのに薬草群を発見した。
お目当ての薬草ではない。
毒消し草だ。
薬草に触れて適当に回収すると移動する。
「待って。まだ、取り切れていない」
「魔力草の方が高く売れるよ」
「あっ、そうね。イリエ、ヨヌツ、それ位でいいわ」
「取れる時に取れるだけ取れと言ったのはリリーだろう」
「うぬ」
「状況が変わったのよ。それ位は察しなさい」
幻惑草、体力草、解毒草などを回収する。
肝心の魔力草と治癒草が見当たらない。
魔力草はイリエ達のお目当てだ。
索敵の範囲を広げようかと悩んでいると左手から悲鳴が聞こえた。
「ぐうわぁぁぁ、助けてくれ!」
悲痛な叫び声だった。
木々が邪魔でハッキリと見えないが、気配で判る。
五匹の魔物が冒険者パーティーを襲っていた。
見捨てるのは目覚めが悪そうだ。
「魔物だ。逃げるぞ」
「逃げるなら、こっちがいいわ」
「よし、イリエ。先行しろ。俺が殿だ」
「リリー。臭い消しは?」
「用意している」
ヨヌツがリーダーらしく指示を出した。
他の三人もすぐに反応する。
冒険者パーティーを犠牲にして、自分らだけは生き残るつもりらしい。
「ジュリ。ぼっとするな。俺に付いて来い」
「お構いなく。私は助けに行ってくるわ」
「無茶だ。相手は冒険者パーティーが苦労する魔物だ」
「魔獣は強いわ」
「大丈夫。五匹なら問題ないわ」
そう言うと私は走り出した。
イリエが「糞ぉ」と叫びながら追い掛けて来た。
他の三人も続く。
逃げてくれた方が楽なのに・・・・・・・・・・・・。
「防御と攻撃の付加魔法を掛けておくけど、無茶はしないでよ」
「無茶はジュリだ」
「追い掛けたイリエも一緒だ」
「ヨヌツ。文句あるか?」
「文句ない。文句ないが誰が死んでも文句を言うな」
「俺が護る」
「牧師様。シスターシミナ。先立つ不孝をお許し下さい」
「ソリン。縁起でもない事を言わないで。私らにはジュリの防御があるわ」
「おぉ、そうだった」
私は走りながらジト目を流して正直に言う。
危険に晒す気はないが、安心して突っ込まれても困るからだ。
クゥちゃんの結界はここの魔物の攻撃を防げない。
「先に言っておくけど、この森の魔物には私の防御は利かないわよ」
「嘘でしょう。嘘と言って」
「狼と違って、魔物に噛み付かれたら一撃で死ぬから用心して」
「ジュリ。冗談に聞こえないわ」
「こんな所で冗談を言う必要があるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーがここに来て押し黙る。
森の谷間を抜けて丘に上がると、一人が殺されて、猪に包囲されて冒険者パーティーが崩壊寸前になっていた。
『魔弾』
三発の魔弾が冒険者パーティーを囲んでいる魔物に当たらなかった。
距離があった所為もあるが、三匹とも反応した。
これは厄介な奴だ。
再び、魔弾、魔弾、魔弾と透かさずに打ち込んだが、警戒されたのかすべて避けられた。
それでも猪が後退する。
私は冒険者パーティーと魔物の間に割り込む事に成功した。
「ソリン、リリー。怪我と体力の回復をさせて」
魔力強化を施して先に走り出した私はイリエ達に追い付かれていた。
地味にショックだ。
クゥちゃんの解析は的確だったと証明された。
二人に体力と傷が回復するポーションをいくつか渡した。
私は正面を見据える。
イリエとヨヌツが私の前で魔物と対峙していた。
大きな木の影で見えなかった魔物がイリエに襲い掛かる。
「死んで堪るか!」
火事場の糞力なのか?
イリエが反応できており、自分から飛び込んだ。
ちょっと!?
古びた鉄の剣で魔物が切れるか怪しいと誰もが思っただろう。
私もそう思った。
咄嗟に短槍を取り出して“加速装備”と唱えたが遅かった。
イリエの渾身の一撃に魔物は避ける気もなく、真っ直ぐに飛び込んでいた。
爪がイリエを引き裂こうとした。
刹那!?
瞬間の攻防だ。
イリエの剣が魔物の頭に掠るように入って霧消したのだ。
私の魔力だ。
加えた付加に私の魔力が混在していたのだ。
消えた魔物の体を剣がスカッと通り過ぎて行く。
ハズレの方だ。
私も焦って忘れていた。
ここはハズレがあるのだ。
私は慌てて最大範囲で索敵魔法を展開すると、ソリン側の後ろにいた魔物も霧消した。
周辺の魔物も消滅し、そして、魔獣らは逃げ出して行くだろう。
目の前の三匹も逃げるかもしれない。
だがしかし、すべてが遅すぎた。
逃げるならば、初撃の魔弾で逃げておくべきだったのだ。
貴重な魔石を取り逃がす訳がない。
ほとんど止まった世界で私だけが動き出す。
剣にわずかな神力を這わせて振るだけの簡単なお仕事だ。
切れ味は聖剣並だ。
次の瞬間、三匹の猪の首が飛んでいた。
0.1秒の早業だ。
決死の覚悟で身構えていたヨヌツが呆気に取られる。
三匹の猪が倒れ、後ろにいたハズの私が目の前に血の付いた剣を振って血取りしているのだ。
イリエも魔物を倒した。
イリエ、ヨヌツ、ソリン、リリーの脳裏に“???”が走り、冒険者パーティーは唯々呆然とするだけであった。
私は「詰まらぬモノを斬ってしまった」とは言わない。
無駄じゃない。
魔石3個をGETだぜ。
10年前は魔の森に覆われた山であった。
聖女アーイシャの活躍で森は焼かれて、山の周りに平原に広がっていた。
それでも3kmほど南に下れば、魔の森が見えてくる。
東に山々から舌が伸びたような舌山があり、この山を越えた所がイリエらと出会った場所になる
討伐が終わり、一ヶ月も経つと魔物が少しずつ戻って来て徘徊するので、本来ならイリエ達は南の森に入る事はない。
聖女アーイシャの討伐隊がいる東側がイリエ達の主戦場なのだ。
「みんな、今日はジュリがいるから罠を準備する時間はないわ。覚悟してね」
リリーがそう声を張ると「おうぉぉぉぉ」と三人が声を上げた。
イリエ達が森に入る前は落とし穴などの罠を多数用意してから森に入る。
しかも安全を確保する為に他の冒険者や傭兵団の後ろに寄生する。
そこまでして森に入るのは、森の薬草は高値で売れるからだ。
今回は無償で護衛役を買って出た。
どうしてこんな事になったのかと言えば、昨日の昼に戻る。
「ジュリ、これ美味しい」
「そうでしょう。お代わりなら沢山あるから自分で取るのよ」
「あ~い」
「わたし、おかわりする」
「おれも」
私がポーションを作っていると孤児院から子供らが湧いて来た。
何をしているのと覗き込む。
子供らは興味津々だ。
牧師見習いシミナが邪魔をしてはいけないと叱ったが、私は見るくらいなら問題ないと許した。
完成したポーションに拍手喝采だ。
気を良くした私は、買ったばかり黍を使って黍粥を振る舞った。
出汁は鯨肉をベースに昆布と鰹節で調整した塩味だ。
ホンノリと油が浮いて美味しさを増してくれる。
出し殻の鯨肉は子供らが頂いていた。
お椀と匙はその場で土の魔法で造り出した。
こちらも大絶賛だ。
「ジュリ。私も魔法使いたい」
「いい心掛けです。では、練習してみましょう」
食欲魔の男の子は残っている黍粥をガツガツと食べる。
魔法に興味を持った女の子が私に声を掛けてきた。
両手を繋いで魔力循環を感じさせる。
まずは魔力を認知する事から始めた。
一人が始めると、他の子も「わたしも」、「わたしも」とやって来る。
人気者は辛いな。
子供らと遊んでいるとイリエ達が帰って来た。
「どうして、ジュリがいるの?」
「ポーションを作る為に場所を借りました」
「これ何だ?」
ソリンは私がいる事が気になったが、イリエはガツガツと食い溜めしている子供らが気になったようだ。
私は女の子と手を繋いで『みどりいろのつばさをぼくらはほしい・・・・・・・・・・・・』と唄を歌いながら魔力を流し、魔力循環の感覚を教えていた。
「感覚が掴めたら、私に魔力を流すイメージをするのよ」
「はい」
「うん。いい感じ、いい感じ」
魔力は私が送ったモノだが感じる感覚が掴めれば、後は一人でもできる。
一曲終わると次の子と交代だ。
私以外とも手を繋いでやっているが、巧くいかない。
1日で掴めたら天才だ。
イリエとヨヌツが黍粥を食べ始めた。
始めて口をする鯨肉に「何の肉だ?」、「馬肉よりやわらくて巧いぞ」とか、食通レポートのような意見を言い合って食べている。
小さな男の子が一杯あったと自慢している。
ヨヌツは「もっと早く帰ってくればよかった」と付き合っているのに対して、イリエは「山盛りの肉があったのか?」と本気で悔しがっていた。
ソリンに笑われているのにも気が付かない。
「私もやっていいかな?」
「いいわよ」
「ソリンの次は私よ。いいわね」
ソリンは魔力の方が気になるようだ。
親分風を吹かせたリリーが自分もやると言い出した。
暇だから良いけどね。
ソリンと両手を繋ぎ、私は右手から左手への魔力循環を始めた。
始めてなので唄を歌わずに手の平に集中して貰う。
「温かく感じたら言って頂戴」
「うん。判った」
ソリンが集中し始めるとリリーが話し掛ける。
どうしてポーションを作っているかだ?
私は良いけれど、ソリンの集中が乱れる。
道具屋の爺さんに頼まれた要件を素直に話した。
「嘘ぉ!? 私らは差額を貰ってないわよ。あの爺を問い詰めてやる」
守銭奴のリリーはポーションの差額を悔しがった。
ポーション1本で銀貨2枚の差額は大きい。
イリエ達も4本を換金したので、銀貨8枚の差額を受け取る権利がある。
それだけの金が手に入れば、ヨヌツは自分を買い戻せた。
私には追加注文を承知させる為に素直に差額を返したが、あの爺さんが素直に渡してくれるとは考えられない。
物の価値を知らない奴が悪いと言うに決まっている。
イリエ達に差額を返す理由がない。
リリーは爪を噛んで頭を巡らす。
がんばれ、リリー。
応援は無償なので送っておこう。
「そうだ。もう薬草はないのよね。私らもジュリが森に取り行くのを手伝って上げるわ」
「一人で大丈夫」
「そう言わずにジュリを手伝わせて。それでジュリが爺さんに頼めば、簡単に返してくれるのよ」
「面倒臭いから嫌ぁ」
あの爺さんは1つお願いすると2つほど条件が増えそうだ。
私に何のメリットもない。
多くの職人が狼の為に門から出られないのに、リリーは商人の手伝いで討伐団の食料を運び日銭を稼いだ。
焦らずともリリーはお金を稼ぐ天才だ。
大丈夫と言って突き放した。
すると、翌朝一番に門前宿を出るとイリエ達が待ち受けていた。
「ジュリ、おはよう。薬草取り日和ね。私達も薬草取りに行こうと思うのよ」
「御免ね。止めたけど止まらなかった」
「安心しろ。ガキ達が世話になった。恩は返す。ジュリは俺が守る」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーが元気に声を掛け、ソリンが謝った。
リリーが世話になった私に恩を返すべきとイリエを唆したのだ。
イリエは本気で私を護る気だ。
ヨヌツは“すまん”と無言で両手を合わせている。
私はお荷物を抱えて薬草取りに森に入った。
◇◇◇
狭い範囲の索敵を行なって薬草を探す。
問題は先行する冒険者パーティーだ。
鑑定と解析を重ねて見ると冒険者パーティーのステータスは騎士の四分の一以下だ。
その低いステータスで魔獣や魔物に挑む。
ここでは魔石を落とすモノを魔獣と呼び、魔石を落とさないモノを魔物と呼ぶそうだ。
強力な付加が掛かった盾や剣で魔獣を狩る。
一頭で金貨数枚になる。
命賭けの仕事だ。
広範囲の索敵をすると魔獣や魔物が逃げて彼らの邪魔になる。
索敵範囲を手短な所に留めた。
「冒険者や傭兵の後ろに付けば、安心よ」
「情けないけど、こうしないと森に入れないの」
「魔物くらいなら、俺がこの剣で護ってやる」
「イリエ。良い所を見せようとして前に出るなよ。一撃目を躱して撤退が俺達の戦術だ」
「判っている。でも、ジュリの防御があれば、俺らでも魔獣を倒して金貨を稼げるかもしれないだろう」
それが目的か。
はっと私は溜息を吐いた。
イリエは私の結界をアテにして魔獣を倒して、私を護るつもりなのだ。
護るという意味を履き違えていない?
「そこに薬草群があるわよ」
「えっ、嘘ぉ。本当にあった」
「こんなに?」
森に入って5分もしないのに薬草群を発見した。
お目当ての薬草ではない。
毒消し草だ。
薬草に触れて適当に回収すると移動する。
「待って。まだ、取り切れていない」
「魔力草の方が高く売れるよ」
「あっ、そうね。イリエ、ヨヌツ、それ位でいいわ」
「取れる時に取れるだけ取れと言ったのはリリーだろう」
「うぬ」
「状況が変わったのよ。それ位は察しなさい」
幻惑草、体力草、解毒草などを回収する。
肝心の魔力草と治癒草が見当たらない。
魔力草はイリエ達のお目当てだ。
索敵の範囲を広げようかと悩んでいると左手から悲鳴が聞こえた。
「ぐうわぁぁぁ、助けてくれ!」
悲痛な叫び声だった。
木々が邪魔でハッキリと見えないが、気配で判る。
五匹の魔物が冒険者パーティーを襲っていた。
見捨てるのは目覚めが悪そうだ。
「魔物だ。逃げるぞ」
「逃げるなら、こっちがいいわ」
「よし、イリエ。先行しろ。俺が殿だ」
「リリー。臭い消しは?」
「用意している」
ヨヌツがリーダーらしく指示を出した。
他の三人もすぐに反応する。
冒険者パーティーを犠牲にして、自分らだけは生き残るつもりらしい。
「ジュリ。ぼっとするな。俺に付いて来い」
「お構いなく。私は助けに行ってくるわ」
「無茶だ。相手は冒険者パーティーが苦労する魔物だ」
「魔獣は強いわ」
「大丈夫。五匹なら問題ないわ」
そう言うと私は走り出した。
イリエが「糞ぉ」と叫びながら追い掛けて来た。
他の三人も続く。
逃げてくれた方が楽なのに・・・・・・・・・・・・。
「防御と攻撃の付加魔法を掛けておくけど、無茶はしないでよ」
「無茶はジュリだ」
「追い掛けたイリエも一緒だ」
「ヨヌツ。文句あるか?」
「文句ない。文句ないが誰が死んでも文句を言うな」
「俺が護る」
「牧師様。シスターシミナ。先立つ不孝をお許し下さい」
「ソリン。縁起でもない事を言わないで。私らにはジュリの防御があるわ」
「おぉ、そうだった」
私は走りながらジト目を流して正直に言う。
危険に晒す気はないが、安心して突っ込まれても困るからだ。
クゥちゃんの結界はここの魔物の攻撃を防げない。
「先に言っておくけど、この森の魔物には私の防御は利かないわよ」
「嘘でしょう。嘘と言って」
「狼と違って、魔物に噛み付かれたら一撃で死ぬから用心して」
「ジュリ。冗談に聞こえないわ」
「こんな所で冗談を言う必要があるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
リリーがここに来て押し黙る。
森の谷間を抜けて丘に上がると、一人が殺されて、猪に包囲されて冒険者パーティーが崩壊寸前になっていた。
『魔弾』
三発の魔弾が冒険者パーティーを囲んでいる魔物に当たらなかった。
距離があった所為もあるが、三匹とも反応した。
これは厄介な奴だ。
再び、魔弾、魔弾、魔弾と透かさずに打ち込んだが、警戒されたのかすべて避けられた。
それでも猪が後退する。
私は冒険者パーティーと魔物の間に割り込む事に成功した。
「ソリン、リリー。怪我と体力の回復をさせて」
魔力強化を施して先に走り出した私はイリエ達に追い付かれていた。
地味にショックだ。
クゥちゃんの解析は的確だったと証明された。
二人に体力と傷が回復するポーションをいくつか渡した。
私は正面を見据える。
イリエとヨヌツが私の前で魔物と対峙していた。
大きな木の影で見えなかった魔物がイリエに襲い掛かる。
「死んで堪るか!」
火事場の糞力なのか?
イリエが反応できており、自分から飛び込んだ。
ちょっと!?
古びた鉄の剣で魔物が切れるか怪しいと誰もが思っただろう。
私もそう思った。
咄嗟に短槍を取り出して“加速装備”と唱えたが遅かった。
イリエの渾身の一撃に魔物は避ける気もなく、真っ直ぐに飛び込んでいた。
爪がイリエを引き裂こうとした。
刹那!?
瞬間の攻防だ。
イリエの剣が魔物の頭に掠るように入って霧消したのだ。
私の魔力だ。
加えた付加に私の魔力が混在していたのだ。
消えた魔物の体を剣がスカッと通り過ぎて行く。
ハズレの方だ。
私も焦って忘れていた。
ここはハズレがあるのだ。
私は慌てて最大範囲で索敵魔法を展開すると、ソリン側の後ろにいた魔物も霧消した。
周辺の魔物も消滅し、そして、魔獣らは逃げ出して行くだろう。
目の前の三匹も逃げるかもしれない。
だがしかし、すべてが遅すぎた。
逃げるならば、初撃の魔弾で逃げておくべきだったのだ。
貴重な魔石を取り逃がす訳がない。
ほとんど止まった世界で私だけが動き出す。
剣にわずかな神力を這わせて振るだけの簡単なお仕事だ。
切れ味は聖剣並だ。
次の瞬間、三匹の猪の首が飛んでいた。
0.1秒の早業だ。
決死の覚悟で身構えていたヨヌツが呆気に取られる。
三匹の猪が倒れ、後ろにいたハズの私が目の前に血の付いた剣を振って血取りしているのだ。
イリエも魔物を倒した。
イリエ、ヨヌツ、ソリン、リリーの脳裏に“???”が走り、冒険者パーティーは唯々呆然とするだけであった。
私は「詰まらぬモノを斬ってしまった」とは言わない。
無駄じゃない。
魔石3個をGETだぜ。
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「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
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