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59.カロリナ、煙を吸う。
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カロリナがカレーを毎日完食している間、ラファウは財務官として忙しくしていた。
馬で冒険者の町に行くと代官を呼び出し、抜き打ちの財務調査をはじめる。
普段、いい加減が管理をしていたか?
代官とその職員が頭を抱えた。
そして、使者が戻ってくる頃合いを計ってクレタに戻った。
南方交易所と大砲100門の契約を結ぶ。
納品は再来月から2門ずつ納めて貰う。
続いて合宿のはじまりだ。
カロリナ達が冒険者の町に馬車で移動するが、ラファウのみ馬で先行して書類をチェックする。
「こことこことこことここ、全然合っていない! どんな管理をしてきた」
代官の財務管理が甘いのは冒険者の町が特別ではない。
急激に発展した町によくあることだ。
クレタ子爵には半年間の猶予を与えて調査をお願いしておいた。
あくまでお願いだ!
半年後に正式な調査団が来て、不正を見つけた時はそれなりの罰を受ける。
そこまで責任は持てない。
冒険者の町は各代官を本気にする人身御供だ。
悪役を買っている。
「10日だけ待ってやる。10日で試算をやり直せ!」
「10日なんて無理です」
「不正を見過ごして来たのではなく、甘い汁でも吸ってきたのか? ならば、一家を上げて絞首刑だな!」
「いいえ、そんなことはありません。
「ならばやれ! できなければ、その首が飛ぶ。死ぬ気でやれ!」
そう言って、ラファウは合宿に合流した。
冒険者の町は王都から遠く、馬車で片道14日も掛かる。
約1100kmだ。
中央の目が届かなくなる。
仕方ないことだった。
今回の目的はイグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールのレベル上げであった。
まさか、カロリナがカレーを食べたいからクレタまで行くとは言えない。
そして、許可を貰う為に裏理由にクレタ領の冒険者町の抜き打ち査察を入れた。
行き往路14日、復路18日、領主へのあいさつが2日、合宿20日の延べ54日と予定が立てられ、合宿の20日間が冒険者の町の査察予定に当てられた。
その結果を持ち帰って、南方領、南方諸領〔ブリタ子爵領、ミレタ子爵領、クレタ子爵領〕の財務検査が6月に発表する。
南の発展は著しいので間違いなく一定数の脱税者が存在する。
6ヶ月の猶予期間を与えて、脱税者の一斉摘発だ。
この計画書を一日で作ってしまうラファウも大概であった。
カロリナがカレーをのんびり食べている間もラファウは精力的に活動した。
◇◇◇
合宿の初日は勢力図の調査を行った。
どこでレベル上げをするのが効率的かを見定める為だ。
しかし、奥地で魔物の奇襲を受け、カロリナの失敗もあって撤退した。
魔の森の魔物はレベル以上に手強い。
結局、町から離れていない場所を狩り場にする。
テントを張って合宿の拠点にした。
想定外だが悪くなかった。
ルドヴィクは大いに賛同した。
野営を教えるのは経験値以上に得難い体験だ。
ゴブリン退治でも体験していたが、大勢なら見張りの一人が居眠りをしても大事には至らない。
しかし、少数なら即、全滅に繋がる。
緊張感が違う。
しかも食糧は干し肉のみ。
流石、カロリナ様、判っておられる。
もちろん、ダイエットの為だ。
町の中は誘惑で一杯。
美味しい物が目に入ってしまう。
それだけ!
皆の経験上げなんて頭の隅にもない。
日程が20日から10日に短縮された。
イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールを鍛え直すには全然足りない。
カロリナは魔力を使うと体重が落ちると聞いて積極的に魔法を消費していた。
合宿が終わっても冒険者の町に戻らず、徒歩でクレタ港町に戻る。
「カロリナ様、私は査察官として監査を行ってきます。くれぐれも予定を変更しませんように!」
「大丈夫よ」
カロリナの大丈夫は当てにならない。
しかし、ラファウは査察官の仕事をしない訳に行かない。
「ルドヴィク、くれぐれも頼む」
「判った」
森を抜けて徒歩で帰るのは、イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールのレベルを少しでも上げる為だ。
四人はレベル20を超えて、12歳と考えれば十分過ぎる。
しかし、カロリナのレベルが高過ぎて、同行者として物足りない。
責めて30近くまで上げておきたかった。
「決めた。王都に戻ってからダンジョンに潜ってレベル上げを再開する」
「来月はカロリナ様の護衛が!」
「その低いレベルでは必要ない」
ルドヴィクは本気だった。
というか、6月の社交界は極力避けたかった。
名誉子爵となって初めての社交シーズンだ。
婚約者がいるが、その身分は低い。
国王から直々に称号を賜った将来期待の財務官。
棚ぼたを狙う王族から横槍が入るのは必然だった。
ラファウのように器用に立ち回る自信もない。
まつわりつくご令嬢を払うのも面倒だった。
よし、ダンジョンに1ヶ月間は籠ろう。
イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールは舞踏会でカロリナと踊る機会を失った。
「嫌なら5日でレベルを上げろ! 上がった奴は免除してやる」
魔の森の魔物は同レベルでも手強かった。
◇◇◇
イグナーツは4人の中で一番レベルが低い。
合宿もイグナーツに合わせて訓練が進められた。
申し訳ないと思った。
帰りはクレタからブリタ港まで馬を使う。
西風の向かい風が吹くので船は足が遅くなる為だ。
船は先にブリタ港に戻り、そこで合流する。
カロリナが馬車で戻る予定だったが、日程が詰まっているので馬を使った。
「よし、ここで休憩する」
「申し訳ございません」
「気にするな! 馬を壊さぬ配慮だ。お前を気遣っている訳ではない」
ラファウはそう言うが、イグナーツの体力に相談しながらペースを決めているのは明らかだった。
情けない。
イグナーツは落ち込む。
「顔を上げないさい。黄金の穂が垂れて美味しいそうよ」
「はぁ?」
「目に焼き付けておきなさい。大豊作よ。農民の顔が嬉しそうでしょう。こういう光景がそう見られないわ」
「何故でしょうか?」
「6公4民、作物の6割は税で回収されるからよ」
カロリナは村人から聞いた話をする。
税は土地の広さで決まってくる。
痩せた土地も肥えた土地も税は同じだ。
ゴブリンの肥料を撒けずに収穫が減っても税は変わらないらしい。
6公4民と言うが、実際7公3民。
7割が税で取られる農民が多い。
「討伐したゴブリンの死体を村に持ってゆくと喜ばれるのよ」
「はぁ?」
カロリナの話は的を得ない。
カロリナが町の子供らと魔物狩りに行っている事を知らない。
イグナーツは生返事をする。
そりゃ、侯爵令嬢が魔物狩りを率先してやっていると思わない。
「判らない?」
「判りません」
「税で納める量は同じ、豊作になると農民の取り分が増える。だから、嬉しそうな顔になる。だから、私は豊作が大好きなのよ」
なるほど、豊作になると村人は笑顔になる。
気前もよくなる。
村に立ち寄ると、パンや果物や捌いた肉を出して歓迎してくれる。
美味しい物が一杯食べられる。
豊作、万歳!
好きと言うカロリナの金色の髪がたなびく。
黄金に輝く穂と一緒に風に揺れる。
カロリナが嬉しそうな顔を覗かせた。
カロリナは食べ物の事を思うと素敵な笑顔を見せる。
イグナーツはカロリナの顔を見上げながら見惚れていた。
「よし、休憩は終わりだ。出発するぞ!」
◇◇◇
お腹空いた!
ブリタ港に着くと町に寄らずに乗船した。
町の中で漂う匂いは悪魔の囁きだ。
ぐるるっるとお腹が鳴り続ける。
町には極力寄らず、夜は村で小屋を借りて移動してきた。
しかし、ブリタ港町を通らずに船に乗れない。
お腹が鳴って、カロリナの決意を砕きそうになっていた。
「カロリナ様、お帰りなさい」
「また、お世話になります」
ぐるるっる、またお腹が鳴った。
もう体形は戻ったのかしら?
エルに言ってドレスで確認…………駄目だ!
王都で新作のドレスを試着するまでは我慢よ。
「どうかしました? 苦しそうですが?」
「そうなのです。今、空腹と戦っているのです」
鳴るお腹、カロリナは船員に愚痴を聞いて船員は笑った。
笑われてカロリナは頬を膨らませる。
「ところで、この変な匂いは何なのです?」
「これは嫌な事が忘れられる薬葉です」
「へぇ~~~、嫌な事が忘れられるのですか? 空腹も?」
「もちろんです。やってみます」
「どうするの?」
簡単だった。
薬の葉を綺麗に洗って乾かす。
それを丸めて反対側に火を付ける。
葉巻と一緒であった。
火が付くと、反対側から煙を吸うだけだ。
ごほん、ごほん、カロリナは咳き込んだ。
「ははは、最初は俺もそうでした」
「美味しくありません。あれ、ふらふらしてきました」
カロリナが千代足になって、その場に倒れた。
エルが慌てて駆けつける。
気が付くと、船内のベッドに寝かされていた。
「私は何をしていたのでしょうか?」
「麻薬を吸って気を失っただけです」
「ま、麻薬ですって!」
「ご安心下さい。麻薬と言っても合法薬です。怪我など痛みを一時的に抑えるのに使われております。ただ、常時吸い続けると中毒になり、最終的に廃人となります」
「それは危険です」
「はい、薬草を輸入しているのですから、薬葉を入って来ているのを把握するべきでした」
「禁止できませんか?」
「光の魔法士が足りません。痛みを緩和する為に薬葉は必要です」
この麻薬は吸うと人を快楽興奮状態になる。
怪我人に吸わせて痛みを緩和するのに使われていた。
だから、合法薬だ。
イースラ諸王国では戦争の前にこれを吸わせる。
兵は痛みを忘れて戦ってくれる。
カロリナの空腹感が消えていた。
「カロリナ様は『エフェアブスト』(状態異常回復)を習得しておられますか?」
「いいえ、光の初歩魔法ですが五層魔術式を使っており、難しくて使えません」
5つ魔法式を同時発動させる難しい魔法であった。
教会の巫女が習得して、冒険者に祝福を与えて小銭を稼いでいる。
麻薬と違って後遺症がない。
「魔法が得意なラファウなら習得しておりますわね」
「いいえ、『光の祝詞』(光の精霊の祝福)を覚えておりますので、それらを覚えるつもりはありません」
なんですと!
効果は同じ、持続時間が違う。
エフェアブストは半日ほど効果が持続するのに対して、ブレェシィンはわずかな時間だけであった。
さっそく、魔法の講義がはじまった。
『光の精霊に感謝を! ブレェシィン(光の祝福)』
カロリナがそう唱えると“快楽興奮状態”が解除されて“空腹状態”に戻った。
ぐるるっるとお腹が鳴った。
だが、意識を逸らすと我慢できる。
空腹から来る餓死への恐怖、“空腹狂気状態”へ移行しない。
効果が切れれば、もう一度魔法をかけ直す。
これがあれば、もう大丈夫ですわ!
そう思った。
平和がやってきた…………が、そんなに甘くなかった。0
眠っていると効果が切れる。
すると空腹感から目が覚める。
長時間眠れない。
だ、駄目じゃない!
王都に戻ったら、『エフェアブスト』(状態異常回復)を習得よ。
寝不足カロリナの苦悩は続いた。
馬で冒険者の町に行くと代官を呼び出し、抜き打ちの財務調査をはじめる。
普段、いい加減が管理をしていたか?
代官とその職員が頭を抱えた。
そして、使者が戻ってくる頃合いを計ってクレタに戻った。
南方交易所と大砲100門の契約を結ぶ。
納品は再来月から2門ずつ納めて貰う。
続いて合宿のはじまりだ。
カロリナ達が冒険者の町に馬車で移動するが、ラファウのみ馬で先行して書類をチェックする。
「こことこことこことここ、全然合っていない! どんな管理をしてきた」
代官の財務管理が甘いのは冒険者の町が特別ではない。
急激に発展した町によくあることだ。
クレタ子爵には半年間の猶予を与えて調査をお願いしておいた。
あくまでお願いだ!
半年後に正式な調査団が来て、不正を見つけた時はそれなりの罰を受ける。
そこまで責任は持てない。
冒険者の町は各代官を本気にする人身御供だ。
悪役を買っている。
「10日だけ待ってやる。10日で試算をやり直せ!」
「10日なんて無理です」
「不正を見過ごして来たのではなく、甘い汁でも吸ってきたのか? ならば、一家を上げて絞首刑だな!」
「いいえ、そんなことはありません。
「ならばやれ! できなければ、その首が飛ぶ。死ぬ気でやれ!」
そう言って、ラファウは合宿に合流した。
冒険者の町は王都から遠く、馬車で片道14日も掛かる。
約1100kmだ。
中央の目が届かなくなる。
仕方ないことだった。
今回の目的はイグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールのレベル上げであった。
まさか、カロリナがカレーを食べたいからクレタまで行くとは言えない。
そして、許可を貰う為に裏理由にクレタ領の冒険者町の抜き打ち査察を入れた。
行き往路14日、復路18日、領主へのあいさつが2日、合宿20日の延べ54日と予定が立てられ、合宿の20日間が冒険者の町の査察予定に当てられた。
その結果を持ち帰って、南方領、南方諸領〔ブリタ子爵領、ミレタ子爵領、クレタ子爵領〕の財務検査が6月に発表する。
南の発展は著しいので間違いなく一定数の脱税者が存在する。
6ヶ月の猶予期間を与えて、脱税者の一斉摘発だ。
この計画書を一日で作ってしまうラファウも大概であった。
カロリナがカレーをのんびり食べている間もラファウは精力的に活動した。
◇◇◇
合宿の初日は勢力図の調査を行った。
どこでレベル上げをするのが効率的かを見定める為だ。
しかし、奥地で魔物の奇襲を受け、カロリナの失敗もあって撤退した。
魔の森の魔物はレベル以上に手強い。
結局、町から離れていない場所を狩り場にする。
テントを張って合宿の拠点にした。
想定外だが悪くなかった。
ルドヴィクは大いに賛同した。
野営を教えるのは経験値以上に得難い体験だ。
ゴブリン退治でも体験していたが、大勢なら見張りの一人が居眠りをしても大事には至らない。
しかし、少数なら即、全滅に繋がる。
緊張感が違う。
しかも食糧は干し肉のみ。
流石、カロリナ様、判っておられる。
もちろん、ダイエットの為だ。
町の中は誘惑で一杯。
美味しい物が目に入ってしまう。
それだけ!
皆の経験上げなんて頭の隅にもない。
日程が20日から10日に短縮された。
イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールを鍛え直すには全然足りない。
カロリナは魔力を使うと体重が落ちると聞いて積極的に魔法を消費していた。
合宿が終わっても冒険者の町に戻らず、徒歩でクレタ港町に戻る。
「カロリナ様、私は査察官として監査を行ってきます。くれぐれも予定を変更しませんように!」
「大丈夫よ」
カロリナの大丈夫は当てにならない。
しかし、ラファウは査察官の仕事をしない訳に行かない。
「ルドヴィク、くれぐれも頼む」
「判った」
森を抜けて徒歩で帰るのは、イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールのレベルを少しでも上げる為だ。
四人はレベル20を超えて、12歳と考えれば十分過ぎる。
しかし、カロリナのレベルが高過ぎて、同行者として物足りない。
責めて30近くまで上げておきたかった。
「決めた。王都に戻ってからダンジョンに潜ってレベル上げを再開する」
「来月はカロリナ様の護衛が!」
「その低いレベルでは必要ない」
ルドヴィクは本気だった。
というか、6月の社交界は極力避けたかった。
名誉子爵となって初めての社交シーズンだ。
婚約者がいるが、その身分は低い。
国王から直々に称号を賜った将来期待の財務官。
棚ぼたを狙う王族から横槍が入るのは必然だった。
ラファウのように器用に立ち回る自信もない。
まつわりつくご令嬢を払うのも面倒だった。
よし、ダンジョンに1ヶ月間は籠ろう。
イグナーツ、イェネー、クリシュトーフ、カールは舞踏会でカロリナと踊る機会を失った。
「嫌なら5日でレベルを上げろ! 上がった奴は免除してやる」
魔の森の魔物は同レベルでも手強かった。
◇◇◇
イグナーツは4人の中で一番レベルが低い。
合宿もイグナーツに合わせて訓練が進められた。
申し訳ないと思った。
帰りはクレタからブリタ港まで馬を使う。
西風の向かい風が吹くので船は足が遅くなる為だ。
船は先にブリタ港に戻り、そこで合流する。
カロリナが馬車で戻る予定だったが、日程が詰まっているので馬を使った。
「よし、ここで休憩する」
「申し訳ございません」
「気にするな! 馬を壊さぬ配慮だ。お前を気遣っている訳ではない」
ラファウはそう言うが、イグナーツの体力に相談しながらペースを決めているのは明らかだった。
情けない。
イグナーツは落ち込む。
「顔を上げないさい。黄金の穂が垂れて美味しいそうよ」
「はぁ?」
「目に焼き付けておきなさい。大豊作よ。農民の顔が嬉しそうでしょう。こういう光景がそう見られないわ」
「何故でしょうか?」
「6公4民、作物の6割は税で回収されるからよ」
カロリナは村人から聞いた話をする。
税は土地の広さで決まってくる。
痩せた土地も肥えた土地も税は同じだ。
ゴブリンの肥料を撒けずに収穫が減っても税は変わらないらしい。
6公4民と言うが、実際7公3民。
7割が税で取られる農民が多い。
「討伐したゴブリンの死体を村に持ってゆくと喜ばれるのよ」
「はぁ?」
カロリナの話は的を得ない。
カロリナが町の子供らと魔物狩りに行っている事を知らない。
イグナーツは生返事をする。
そりゃ、侯爵令嬢が魔物狩りを率先してやっていると思わない。
「判らない?」
「判りません」
「税で納める量は同じ、豊作になると農民の取り分が増える。だから、嬉しそうな顔になる。だから、私は豊作が大好きなのよ」
なるほど、豊作になると村人は笑顔になる。
気前もよくなる。
村に立ち寄ると、パンや果物や捌いた肉を出して歓迎してくれる。
美味しい物が一杯食べられる。
豊作、万歳!
好きと言うカロリナの金色の髪がたなびく。
黄金に輝く穂と一緒に風に揺れる。
カロリナが嬉しそうな顔を覗かせた。
カロリナは食べ物の事を思うと素敵な笑顔を見せる。
イグナーツはカロリナの顔を見上げながら見惚れていた。
「よし、休憩は終わりだ。出発するぞ!」
◇◇◇
お腹空いた!
ブリタ港に着くと町に寄らずに乗船した。
町の中で漂う匂いは悪魔の囁きだ。
ぐるるっるとお腹が鳴り続ける。
町には極力寄らず、夜は村で小屋を借りて移動してきた。
しかし、ブリタ港町を通らずに船に乗れない。
お腹が鳴って、カロリナの決意を砕きそうになっていた。
「カロリナ様、お帰りなさい」
「また、お世話になります」
ぐるるっる、またお腹が鳴った。
もう体形は戻ったのかしら?
エルに言ってドレスで確認…………駄目だ!
王都で新作のドレスを試着するまでは我慢よ。
「どうかしました? 苦しそうですが?」
「そうなのです。今、空腹と戦っているのです」
鳴るお腹、カロリナは船員に愚痴を聞いて船員は笑った。
笑われてカロリナは頬を膨らませる。
「ところで、この変な匂いは何なのです?」
「これは嫌な事が忘れられる薬葉です」
「へぇ~~~、嫌な事が忘れられるのですか? 空腹も?」
「もちろんです。やってみます」
「どうするの?」
簡単だった。
薬の葉を綺麗に洗って乾かす。
それを丸めて反対側に火を付ける。
葉巻と一緒であった。
火が付くと、反対側から煙を吸うだけだ。
ごほん、ごほん、カロリナは咳き込んだ。
「ははは、最初は俺もそうでした」
「美味しくありません。あれ、ふらふらしてきました」
カロリナが千代足になって、その場に倒れた。
エルが慌てて駆けつける。
気が付くと、船内のベッドに寝かされていた。
「私は何をしていたのでしょうか?」
「麻薬を吸って気を失っただけです」
「ま、麻薬ですって!」
「ご安心下さい。麻薬と言っても合法薬です。怪我など痛みを一時的に抑えるのに使われております。ただ、常時吸い続けると中毒になり、最終的に廃人となります」
「それは危険です」
「はい、薬草を輸入しているのですから、薬葉を入って来ているのを把握するべきでした」
「禁止できませんか?」
「光の魔法士が足りません。痛みを緩和する為に薬葉は必要です」
この麻薬は吸うと人を快楽興奮状態になる。
怪我人に吸わせて痛みを緩和するのに使われていた。
だから、合法薬だ。
イースラ諸王国では戦争の前にこれを吸わせる。
兵は痛みを忘れて戦ってくれる。
カロリナの空腹感が消えていた。
「カロリナ様は『エフェアブスト』(状態異常回復)を習得しておられますか?」
「いいえ、光の初歩魔法ですが五層魔術式を使っており、難しくて使えません」
5つ魔法式を同時発動させる難しい魔法であった。
教会の巫女が習得して、冒険者に祝福を与えて小銭を稼いでいる。
麻薬と違って後遺症がない。
「魔法が得意なラファウなら習得しておりますわね」
「いいえ、『光の祝詞』(光の精霊の祝福)を覚えておりますので、それらを覚えるつもりはありません」
なんですと!
効果は同じ、持続時間が違う。
エフェアブストは半日ほど効果が持続するのに対して、ブレェシィンはわずかな時間だけであった。
さっそく、魔法の講義がはじまった。
『光の精霊に感謝を! ブレェシィン(光の祝福)』
カロリナがそう唱えると“快楽興奮状態”が解除されて“空腹状態”に戻った。
ぐるるっるとお腹が鳴った。
だが、意識を逸らすと我慢できる。
空腹から来る餓死への恐怖、“空腹狂気状態”へ移行しない。
効果が切れれば、もう一度魔法をかけ直す。
これがあれば、もう大丈夫ですわ!
そう思った。
平和がやってきた…………が、そんなに甘くなかった。0
眠っていると効果が切れる。
すると空腹感から目が覚める。
長時間眠れない。
だ、駄目じゃない!
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