アベレーション・ライフ

あきしつ

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第3話:俺たちの任務

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冬真にとって考えの読めない人間など存在しない。卓越した、人を超越した頭脳を持つ冬真の知る人間の中にそんな人は存在してはいけなかった。だからこそ、彼の変わらぬ表情、仕草を見て、驚愕にうちひしがれた。今この瞬間も、彼、鳥束にとって突かれたくない論点を突いたつもりだが、普段とその表情はまるで変わらない。
「………やはり…読めませんね。正直驚いています」
「ポーカーフェイスには割と自身があってね」
鳥束は話を濁す。それを理解していても、冬真の口はなぜかそれについてを話そうとしてしまう。
「賭け事などが得意な人種ですか。嫌いではないですけど」
「ああ、まあね。それよりも何だっけ?情報?それが欲しいんだっけ?」
冬真は完全に会話の主導権を握られていることに目を瞑り、頷く。再度話題を切り出したのは鳥束だが、とにかくこれで一歩近づける。
「はい、内容によっては口外しませんのでご安心を」
なんら怯むことのない表情で冬真は鳥束を睨む。そしてその返答は──
「ヤダ」
「えっ」
冬真は思わず目を丸くする。鳥束は真顔で短く告げると、ゆっくりと教室の周りを歩き出す。
「いやなにね?僕も意地悪で言ってるわけではないんだよ?ただね、"内容によっては"なんて言う人には国家機密?ていうのかな?そんなもの預けれないよ。いや、知りたいって気持ちは分かるよ?人は欲望の塊、君の飽くなき探求心を否定したいわけじゃないってことを忘れないでくれ」
鳥束は人差し指を立てながら自慢気に語る。冬真は唇を噛む。こちらが浅はかだったのだ。念のための、保険として放った言葉に今首を絞められている。現状、全員に話すと告げても、真顔で内緒にしておくというのも嘘っぽい。折衷点である"内容によって"という言葉選びをしたことを冬真は後悔する。
「そうですか…いえ、こちらが言葉を選び損じました」
「分かればよろしい」
鳥束はニヤニヤしながら囁く。鳥束はスーッと冬真に詰め寄ると、後ろから肩を掴みながら耳元で囁く。
「いや…どちらにせよ君は判断を誤った…」
背筋に走る寒気と耳に当たる小さな吐息に、冬真が体をピクリと震わせる。
「おや?耳は敏感だったかな?腐女子歓喜ってやつ?」
「耳が生来弱いのは認めますが至ってそういう意味ではありません。それよりも…」
「ハハッ、分かっているよ。君はなんというか…からかいがいがあるなw」
「─っ…!いい加減に…」
冬真はいつまでも煽りの姿勢を忘れない鳥束に腹を立て、勢いよく胸ぐらを掴む。
「おお怖。まぁ落ち着きなよ。場を和ませようとしただけだ。君に判断を誤ったと言ったのは疑う順番を間違えたからだ」
冬真の腕をほどき、Yシャツの襟を直しながら鳥束は半分笑顔で言う。冬真は言われてる意味を瞬時に理解できず、数回瞬きをする。
「世界を破壊出来る程のなにかが迫ってる、なんて言われちゃあまずそっちを疑うでしょ。先に僕を疑ったのは頭良いやつのよくあるミスだ。要は考えすぎってこと。視野を広くってのも良いことだけどさ、1つに集中するっていうのも大事なんだぜ?」
大股に闊歩しながら鳥束は綺麗な笑顔を冬真に見せる。その顔を見ると、勘ぐることをやめようとしてしまう。だがなぜか気持ちの良いものだった。
「……分かりました。善処します。ですが、あなた自身、それについて語らなければならない日がくるはずです。その時は精々、驚かせてくださいよ?」
冬真は似合わない笑顔を鳥束に返す。その微笑を見やった鳥束は冬真の背中に向かって、
「ああ!腰が向けるほど驚かせてやるよ!って…あ……」
鳥束は思わず口を隠す。そして薄い笑みを浮かべる。冬真は振り返らないままだ。聞こえていないのか、いや、そんなはずはないだろう。最後の最後で、落とし穴に嵌まった。全てはこの瞬間のための演技──?鳥束は自嘲と共に呟く。
「ハハ…やるなぁ…まぁ他の生徒達に言いふらすことはないだろう……ん?」
突然、震えた右ポケットに手をやり、小刻みに暴れるスマホを操作し、耳に当てる。
「はい?……ああ…はい……え?」
誰もいない理科室の中に、鳥束のその短い返事だけが響いた。
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