アベレーション・ライフ

あきしつ

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四月:終わりの始まり

第5話:START

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バシャリ、コーヒーが机から落下し職員室の床を茶色く染める。じわじわと色が広がっていく様を鳥束はしばらく眺め、その後慌てて拭いた。こぼれたコーヒーとは無関係だが、先程の通話の内容を思い出す。
(彼らにあんなことをさせるのは心苦しいが…)
鳥束は立ち上がり、再びパソコンの液晶を見る。書類のようなものが表示された画面を一瞥し、茶色に染まったタオルを持ちパソコンを持ったまま職員室を出る。その時、パソコンの画面には、
『地球の今後の変化と対策について』と、表示されていた。職員室は静寂に包まれ、人の気配も完全に消え失せた。


「も~、おそーい!」
怜奈の催促を片耳に快はよたよたと学生寮の正面玄関を出る。
「遅刻しちゃうよー」
「しねーよ、まだ20分あるだろ」
怜奈とは小学校来の仲なので快はこんな会話を小三の時から続けている。快の今の精神状況はあまり良くなくその理由は怜奈も察していた。
「ずっと、考えてたの?」
怜奈が快を覗き込む。小さい頃から見慣れた顔だ。何故か心が落ち着く話し方に快はいつも心を許してしまう。
「ああ、急にあんなこと言われたら考え込む他無いじゃん」
幼稚園から高校生まで、長い付き合いの怜奈だから言える。他には言えない幼なじみとしての言葉。
「ううん、そんなことない。例えあの人が何を求めていても私達は私達だよ、そんなに深く考えなくても良いと思う」
その時快は昔のことを思い出していた。中学の時にテストの点が急落した時に言ってくれた言葉を。快はここで怜奈と自らの過去から勇気を貰った。
「いや、そうだな、そうだよな。悪いな、変なこと聞かせちゃって。にしてもあの人ってどんな授業するんだろうな」
「あー!また気にしてる!」
「そこまで?」
わざとらしい怜奈の心配に快は苦笑いをする。こんな日が永遠に続けばいいと、そう思っていた。だが、数週間後、快は、クラスメイト全員がその甘さに気づくことになる。

「という訳で皆来てくれてありがとう。多少の無断欠席は覚悟していたのだが、昨日の演説?は有効だったことかな?」
相変わらず飄々とした態度で、淡々と話しを進める人だ。昨日同様、真意の読めない鳥束に思わず快を含め二、三人苦笑をする。
「半々ですよ。先生の真意を疑う、ではなくその脅威の存在についてですけどね」
「ああ、なるほどそういうことか。まぁ無理も無いね。僕自身も確証があるわけでもない」
観念したように両手を挙げる。しかしそんなあっけらかんとした態度を一変させ、鳥束は水色の目を鋭くさせ、その一言を放った。
「僕に確証はない、でも、確信はしているよ。何故なら僕は敵の正体を知っているからだ」


一瞬、教室が静寂に包まれた。まるで時間が止まった様に。それほどに鳥束の発言は重く大きなものだった。
「どういうこと?それ。あんたさ、昨日自分で答えを見つけろって言ったよな?」
曖昧な笑顔でヒクヒクと口を吊り上げさせながら電樹が言う。無理もない。あれだけ自分勝手に、詳しい事情も言わずに依頼してきたというのに、その答えを当然のように明かしただから。
「言いたいことは分かるよ、でも事情が変わったんだ。それを踏まえた上で…聞いてくれないかい?」
「んなことできるか!」
何でも自分でやりたがる電樹とは確かに馬が合わない話だ。さらに電樹は鳥束のことを多少なり信用していた。その2つが噛み合い、今の憤慨に至っている。電樹は立ったまま机を蹴り飛ばす。
「落ち着きなさい、宮川電樹。確かに先生は私達を掌で転がす様なやり方をしているけど、仮にそれが本当だとしたら私達より先生の方が圧倒的に情報量が多い。なら話くらい聞いておいた方が良いと思うのだけれど」
「色音の言うとおりです。嘘だった場合でも敵はいないってことでそれはそれで良いと思いますよ」
憤慨した電樹を宥めようと色音と冬真が口を挟む。
「フン!」
倒した机を起こし勢い良く椅子に座る。
「フォローありがとう、でもいいよ。宮川くんの言うことは最もだ。確かに僕は君たちに勝手な依頼をしておいて、そして今、勝手にその答えを打ち明けた。それはすまないと思っている」
そう言って鳥束は頭を下げた。
「ならばなぜ答えを出したのですか?私達にはたどり着けない真実だからですか?」
「いいや、常識的にたどり着けない答えだと思ったからだ。仮にその可能性が提示されたとしても常識的な冬真君に全面否定されていただろう」
祐希の質問を鳥束が返す。
「ならその敵の正体と、その答えに至った経緯を話してくれませんか?」
祐希に続き冬真も質問を重ねる。鳥束はそれにも的確に答える。
「別に構わないが、後者に限っては今は話せないかな。それにHRももう終わってしまうね。帰りなら構わない。先に今日の五、六時間目について連絡しておくね」
授業の内容は快が二番目に気になっていたことだ。当然一番目は鳥束そのものだが。
「突然ですまないが、今日はテストをやろうかと思う。僕は君たちの表面的な成績は知っているけど実際敵対した際にどう動くのかはまだ知らない。そういう意図でのテストだ。筆記はないから安心したまえ」
そんなことか。快は少しがっかりした。突然重すぎる依頼をしてきた人だ。もう少し常軌を逸した授業をするのかと快を含め何人かはそう思っていただろう。
「それじゃあ昼休みの間に着替えを済ませておいてね」
そう言い残して鳥束は教室から出ていった。
「テストか…皆どう思う?」
鳥束が廊下から消えたのを確認し快が全員に聞く。
「どーでもいいだろ。つーかお前らさ、深く考え過ぎ。取り敢えずはあの人の言うこと聞いといて敵が出てきたつうんなら倒すために試行錯誤しましょーってことでいいじゃねえかよ」
飲み干した炭酸飲料のペットボトルをゴミ箱に投げ入れながら運聖が言う。
「あなたもあなたで浅く考え過ぎなのよ。でもその通りだと思う。この件は深く考えることじゃない。ま、あの人に隠れこそこそやるか否かは委員長が決めたら良いと思うわ」望美が祐希を振り替える。
「そうだね。じゃあ今のところはオープンスタンス。受け入れよう。やりたいことがあるなら独断でやって。でもそれが問題になった際には僕は一切の責任を負わないからね☺️」
嫌味ったらしく祐希が全員を見渡す。何でこんな奴が委員長になったのか、快は未だに疑問に思っている。
「ま、僕からはこんなもんかな。あとはまぁ、テスト頑張ろうね」
最後は祐希がそれっぽくまとめて終わった。


五時間目始まりのチャイムが校内に鳴り響いた。その頃には全員が戦闘訓練用のグラウンドに集まっていた。しばらく待っていると鳥束がやって来た。
「さ、取り敢えずは集まってくれて良かったよ。それじゃあ簡単なルール説明をさせてもらおうかな。まぁそんな難しいことでもないよ。このグラウンドにいくつかの訓練用ロボットを設置した。君らは今出せる最速でそれらを片付けてもらう」
存外単純な内容に快は少し安堵した。
「出席番号順だから、怜奈さんはもう準備していてくれ」
「はーい」
怜奈は小走りで控え室に向かう。他のメンバーも各々準備体操を始める。
(永劫の二十三家とはいえまだ高校生だからな。恐らくは発展途上な部分もあるだろう)
鳥束は眼鏡をかけ直す。成績簿を取り出しメモの準備を始めた。鳥束と出番でない生徒はガラスで囲まれたグラウンドを一瞥できる別館に向かう。中に入っている怜奈は「いいですか?」といった雰囲気の合図を送る。鳥束もその合図に「いいよ!」という様に親指を立てて見せる。頷いた怜奈は表情を一変させ大きく足を踏み込んで飛び出す。

出席番号一番 甘海怜奈 異能力【模写】
他人の異能力をコピーし、自由に使用できる能力。能力的には協力なことこの上ない。が、その力を上手く使いこなせていない。

出席番号二番 天宮龍聖 異能力【ジェット】
背中についている翼から生えたジェットエンジンで高速飛行が可能。勢いを活かした体当たりや、翼をブン回して戦う。速さに体がついていけてない。

出席番号三番 有都色音 異能力【音波】
叫ぶことで簡単に鼓膜を破壊できる程の大声量を出せる異能力。多対一に向いているがデメリットとしては仲間への影響が大きいこと。

出席番号四番 糸永繭 異能力【繊維】
指先から固く細い糸をだし、その汎用性はかなり高い。拘束だけでなく移動にも長けているが破壊力が足りていない。

出席番号五番 撃方一 異能力【手銃】
手が銃器になる異能。その銃弾の属性(火傷を負わせる弾など)も様々で銃器の種類もいくらでも体現可能。命中率が低めなのが玉に傷。

出席番号六番 小塚大也 異能力【宝石】
体から純度の高い鉱石を生やせる。その固さ故、攻防共に特化している異能。だが鉱石の体現時間の短さがネック。

出席番号七番 小林身強 異能力【増強】
身体能力を一時的に爆上げさせるシンプルにして強大無比の異能。攻撃、防御、スピード、テクニック、体力は文句なしの安定感。

出席番号八番 先取未来 異能力【予知】
数秒後の未来を見ることができる能力。敵のする事がわかるとなるとこれ程強いものはないが能力者本人の戦闘力が低め。

出席番号九番 笹草菜々 異能力【緑草】
体の一部の根、葉、茎にすることができる。それぞれで使い方が変わる癖のある異能だが本人は上手く使いこなせている。曇りの日が問題。

出席番号十番 幸城運聖 異能力【運勢】
その日によって強さ、スピードあらゆる能力が変わる。その能力の名の通り日によって運も変わるため強いか弱いかの格差がすごい。

出席番号十一番 毒霧黒雨 異能力【劇毒】
体内で死に至るレベルの毒を生成する。戦闘時には相手を殺さないよう、麻痺毒程度の毒しか使わない。周りへの影響が問題。

出席番号十二番 永野望美 異能力【夢想】
自分の願いを制限なく叶えることが可能。他人の願いは一日三回まで。己の発想力がものをいう。

出席番号十三番 伸代柔也 異能力【軟体】
体がゴムの様に伸びる。機動性に特化している。軟体故に物理攻撃が無効なのが何よりの利点。ただ何もない場所ではその機動性は全く活かされない。

出席番号十四番 灰崎黒志 異能力【陰影】
影の中に入り込め、影を自在に操ることができる。影は扱い次第で実体ある武器になったりもする。日光を浴びると多少弱るのが弱点。

出席番号十五番 墓場霊太 異能力【霊体】
体の実体の有無を自分の意思でオンオフすることができる。体の実体がないので物理攻撃は効かない。ただし幽霊からの攻撃は通る。

出席番号十六番 花形桜 異能力【紅花】
周囲にある花を操ることができる。花びらの固さ鋭さその他諸々何でも変えられる。自分で花を咲かせることはできない。

出席番号十七番 薔薇解華 異能力【解体】
自分の体をバラバラに分解することができる。肉の断面は出血が無いだけで案外ちゃんとしてるのでトラウマを植え付けることも。少し痛い。

出席番号十八番 光谷祐希 異能力【閃光】
人を苦しめることなく、命を奪う脅威的な異能力。異能力そのものが強力な為、戦闘中の発展技が数少ない。

出席番号十九番 桧山快 異能力【焦熱】
体から高熱の炎を吹き出す。広範囲放射を得意とし、敵を懐に潜らせない。逆に間合いに入られてしまうと弱い。

出席番号二十番 宮川電樹 異能力【雷電】
体内の発電器官から全身に電気を張り巡らせて帯電する。その間機動力が大幅に上昇する。帯電の持続時間が短め。

出席番号二十一番 結城界都 異能力【結界】
様々な形の半透明のバリアを張る。硬度はかなり高く身強の増強の異能力で五十回ほど殴ってようやく一枚割れるほど。上限はほとんどない。

出席番号二十二番 雪原冬真 異能力【氷結】
触れた場所を凍らせる。発動箇所は全身で足でも凍らせることができる。さらにその場にある氷を操ることができる。

出席番号二十三番 遊佐疏賦斗 異能力【ゲーム】
人生のリセットとセーブなどゲームの性能を再現出来る。他にもチートとバグなどといった奥の手もいくつか持っているがどちらも自我を失ってしまう。


こんなところか、鳥束はペンの動きを止め、ノートを閉じた。生徒達の結果を改めて見てみると鳥束は思わず笑みを溢す。ほとんど全員、長所と短所が分かたれている。
「成る程、これは実に面白い。出だしはまあまあといったところかな」
鳥束はそう呟くと快達の方へ振り替える。表情で納得いっているか否か。それは明らかだった。
「皆お疲れ様、突然だったけど対応してくれてありがとう。着替えて教室に戻っててくれ、結果と今朝の質問はその時に」
鳥束の意味ありげな微笑みに冬真はもちろん、快も目をしかめていた。


教室に戻ってきたのはそれから十分後だった。
「あー、ちかれたー」
片側だけ長く伸びた前髪、三白眼に似合わない大きな目、煌めくピアスを耳にぶら下げた少年、小塚大也こづかだいやが疲労を露にする。
「結局どうだったのかね、あたしらは。あの人のお眼鏡にかかれたのかしら」
その横で糸永も両手を挙げてため息を吐く。教室の開閉音が聞こえ全員が席に着く。
「さて、改めてお疲れ様。結果はまあ良かった方だよ。さすが高校生最強の集団だね。平均のタイムが一般の次元を越えている。君たちならやはり世界を救う器に相応しい、さて」
成績簿をパタンと閉じ、眼の色を変えて話題を切り替える。そう、お待ちかねの、だ。安堵の雰囲気に満ちた教室もクラスメートも冷えた雰囲気に変わる。
「よく聞いておいてくれよ」
鳥束は少し前のめりになって快達に念を押す。ゆっくりと鳥束の口が動く。少し長く感じた。最初の文字は何だろうか、そう考察出来る余裕すらあるように。そして告げる。これから高校生二十三人が命を燃やし、戦わなければならない、その相手を。



「君たちがこれから敵として見る相手は、ざっくり言うと宇宙人だ」
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