アベレーション・ライフ

あきしつ

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四月:終わりの始まり

第6話:宇宙人って…

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拍子抜け、にも程があるレベルだった。確かに冬真は否定するだろう。実際、昨日の夜に電樹がその説を唱えた際に否定していた。想定外の枠を越えたその答えに快は思わず吹き出しそうになる。
「宇宙人って…何ですかそれ草」
薄暗い紫色の頭髪を持ち、前髪を斜めに切り揃えた、エルフの様な尖った耳が特徴の少女、薔薇解華ばらときかが鳥束の主張を鼻で笑う。
「いったろう?ざっくりだよざっくり」
冬真も一瞬目を丸くしていたが、すぐにいつもの調子に戻り、鳥束に質問をする。
「言ってる意味が分かりません。あなたは少し賢い人かと思ってましたが、まさかこの単細胞と同じことを言うとは」
冬真は隣の電樹に指を差して言う。
「おい誰が単細胞だ!」
電樹も立ち上がる。こうなっては二人の争いは誰にも止められない。
「無論あなたですが?むしろそれ以外のどこに単細胞がいると?」
「おい!!」
荒れる二人の間に鳥束が割って入る。
「はいストップストップ、まったく…仲良いなあ。もう一度言うがあくまでざっくりだ。それに近しい生命体とでも思っておいてくれ。で、本題にさらに入り込む前に一つ問題」
鳥束が人差し指を立てる。
「異能力とはなんだと思う?」
快は心の中で手を挙げた。授業で齧ったことはある。異能力とは何か。その答えはいたって簡単だ。すぐに冬真が口を開く。
「単純です。ある特定の人に発現する特殊能力。今この世に生きてる異能力者は全人類の四割程度と言われています。」
「そう、そして異能力は様々な種類がある。このクラスの大半を占めるであろう異能力放出型、解華さんの様な異能力変形型、灰崎君の様な異能力常時発動型等々色々ある。これで何が言いたいのかというと」
というと?快にはあまりイメージが沸かなかった。そもそもこの男自体が謎な為、どうもそちらに意識がいってしまう。
「僕は僕らが持つ異能力自体がその敵に深く関与していると睨んでいる」
成る程、快は小さく頷いた。この男はやはり、どこまでが真実なのか、はたまた虚言なのか、全く分からない。いや、分からせてくれない。もしかすると今までのこと全てが嘘なのかもしれない。
「そう思ったは根拠は何です?」
祐希が少し前のめりになる。珍しく興味を持ったらしい。
「そもそも異能力自体が謎だからだよ。最初に発現したのは誰なのか。またその人物は何故発現したのか、異能力に関しての歴史は全く明らかにされていない。確定として異能力の発現が明らかになっている歴史は鎌倉時代、一人の武士が"人離れの力"を持った逸話が全ての起源となっているがそれ以前は不明。"有った"とも言い切れない、同時に"無い"とも言い切れない。そうだろ?」
つまり、その敵も見たことがないから否定も肯定も出来ないということだろうか。
「だからつまり、謎めいた異能力は謎めいたものから生まれた。だから僕はその宇宙人が異能力を産み出したと見ているんだ。まあ根拠は他にもあるが、今はもうこれだけで充分だ」
「今朝、後者については答えられないと言っていましたが何故ですか?」
冬真が質問を重ねる。後者というのは朝のHRで冬真が質問した"敵の正体を根拠"のことだ。
「その事だけは話せない。すまない。これだけはどうしても打ち明ける訳にはいかないんだ。でも、僕が話さずともいずれ分かるはずだ」
「いえ…別に無理ならいいですけど」
撃方は椅子に座る。納得していない顔だが気持ちを察したのか、割りとすぐに諦めた。
「じゃ、他に質問とかある人はいる?答えられる限り答えるけど」
教室内は静寂。質問はない。その空気を察した鳥束はその後いつも通り、といってもまだ二日目だが明日の連絡をして教室を去っていった。暫くして菜々と怜奈が廊下の様子を見に行く。
「いなく…なった…よ?」
度々廊下を見ながら怜奈が恐る恐る言う。そう彼女が言うと静けさに包まれていた教室は少しずつ騒がしくなる。
「実際どうだった?」
快が隣の祐希に聞く。
「何が?」
「鳥束翼のことだよ、それ以外何があんだよ」
「いやー、別にどうでもいいっしょ。いちいち気に止めてると禿げるよ皆。疑いこそ余計だろ」
祐希はあくまでも興味無しといった反応だ。だがそれも正しいのかもしれない。試行錯誤は大切。でも今じゃなくてもいい。
「お前なぁ…」
電樹は呆れ顔で祐希を睨む。無駄なことはしない主義の祐希と好奇心旺盛な電樹じゃ死ぬほど気が合わないことはクラスの誰もが知っている。
「いや、俺は祐希の言ってることが最善だと思う。ともかく今情報が少なすぎる。でも、言ってたろ?いずれ分かるって。だから言われたことをやっていくうちに自ずと真実は見えてくるんじゃないか?」
全員に届くように快は少し声量を上げる。今はまだ。快達が何か聞くたび、鳥束はそう答えることが多い。焦らず慎重に。多分鳥束はそれを伝えたかったのだろうか。快の一言で教室内が再度静まり帰る。その静寂を裂く様に祐希が手を叩いた。
「ハイハイ、注目。今朝も言ったが何かこそこそやりたい人は。独断で。とにかく今は気にしない。あの人を教師として受け入れよう。少なくともあの人から悪意的なものは感じられない。だから僕は信じる」
今までも意見が割れ、対立してきたことは何度もあった。そんな時にいつも祐希がまとめてくれる。快もまた、祐希を信用していた。だから祐希の言ったことは基本皆信じる。知らなかったことを知った今日の授業も終了し、快達は寮に戻る。

「とは言ったけどなー、やっぱ気になっちゃうもんはなっちゃうよな」
心の奥に残るモヤモヤがどうしても消えない。快はぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。
「気にしないって言ったの快じゃない」
苦悩する快を横目に怜奈は近くの店を指差す。この学校は町をもその一部としている為、学園都市的なものとなっている。学校が所有している都市だが、一般市民も住んでいる。だがその大半は教師陣の家族だ。
「あそこ行こうよ。夕食まで持たない気がするからさー」
「良いけど寮のご飯どうすんだよ。それに奢らねーぞ俺は」
「一日停止させればいいじゃん、さ、行こ」
怜奈はスキップをしながら歩道を進む。
「はぁ、分かったよ。って、あれ?」
渋々了承した快は肩落として怜奈を追う。そこで違和感に気づく。
「っておい!まて!二つ目の質問はどうした!」
奢るのか否か、怜奈はまだそれに答えてない。そして怜奈は止まらない。
「話を聞けぇぇぇぇぇぇ!!」
市内に快の叫び声が響いた。


夜、全員が眠りについてるであろう丑三つ時。寮内のパソコン室に光が灯された。一つの影がパソコンの前に座る。パソコンの液晶がその影を照らす。影は冬真だった。画面に写るゲージが100%に達成する。
「よし…」
冬真はそう呟くとエンターキーを押す。書類の様な物が次々と提示される。冬真はその一つに目を向ける。「なっ…」
冬真は目を見開いた。そこに書いていた内容を見てより一層顔をしかめる。
「これが本当だとしたら…一体どうなっているのでしょうか…」
独り言を呟く。そのままシャットダウンをする。そして椅子から立ち上がる。
「これを今公表するのは場が混乱しますね…確証を得てから皆に伝えるとしますか」
画面が暗転する。冬真は電気を消し、自室へと戻っていく。再びパソコン室は闇に包まれる。

冬真の使っていたパソコンが再び起動するまでは、

そしてそこには、防衛省の構成員一覧が表示されていた



朝、自分の財布が空になっていく感覚を充分に覚えたまま起床した。
「くっそ、あの野郎」
怜奈に大半を奢らされた忌まわしい記憶は脳を支配している。恐らく脳の半分を鳥束、もう半分を金が埋め尽くしているだろう。
「おっはよー、かーい!昨日は楽しかったね」
「罪悪感とかねえのかよ、お前は」
「罪悪感?あるわけないでしょ、あるのは感謝だけだよ」
「え?あ、そう」
割りと予想外の答えに快は驚いた。彼女とはもうかなりの年数を共にしているが、未だこうゆう、不意の感謝や謝罪は読めない。
「よう、寝不足か?」
「当たり前ですよ、機械仕掛けなのは頭だけですから」
快と怜奈の横で珍しく大きなあくびをする冬真を電樹はじろじろと見ている。
「?なんです?」
「お前さ、人間の脳になってみたいとか思ったことないの?」
電樹のこれもまた珍しい質問に冬真も目を丸くする。
「興味はありますよ、多彩な感情というものを理解してみたかった」
その答えを受けた電樹は一瞬、悲しそうな顔をして、聞こえようもないほど小さな声で呟いた。
「そうか…ホントに忘れちまったんだな…」
「何ですか?」
「いや、何でもねぇ。お前って案外頭悪いよな」
「は?何なんですか?私だって怒りぐらいなら覚えますよ!」
そうして二人はいつも通りになる。そんな二人を微笑ましそうに見てる祐希の後ろで解華が「ごめんなさい」と小さく言ったのは誰にも聞こえていなかった。


「おはよー」
教室に鳥束が入ってくれる。以前と違う鳥束には快もすぐに気づいた。が、快が言う前に運聖が言った。
「お!せんせー眼鏡じゃん!おそろー!」
長身で眼鏡、それを満たすのはこの学校で運聖しかいない。そんな運聖を見て、望美は吐き捨てる。
「何よそれ、気持ち悪い」
「ああ?んだとコラもう一回言ってみやがれ!」
二人を見て、鳥束は笑う。そして近くにいる大也に聞く。
「あの二人、付き合ってるんだっけ?いつもあんななの?」
「気にしなくていいですよ、あれはもう習性みたいなもんですから」
「そうか…いいね。ザ・青春って感じで」
鳥束の本心の様にも聞こえたそれは何か深みを感じられた気がした。
「さて、今日だけど。さっき校長に連絡があった。君たちに依頼だ」
「へぇ、なんです?」
「異能力者が誘拐事件を起こした様だ。手がつけられないから君たちに頼みたいらしい」
異能力者が起こす事件、世間では頻繁に起きている。たまにプロのファイターが手の回らない事件を快達が解決することがある。
「ただの誘拐事件なら断っていたけど、異能力者が相手なら放ってはおけないね」
祐希が立ち上がる。それに続いて皆も立ち上がる。
「久しぶりの暇潰しだ」


「さぁ皆、行こうか!!」
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