勇者は可愛すぎるキメラたんに夢中です。

勇者の表情

大興奮でお腹いっぱいのキメラはジンクの腕の中でこっくりこっくりと船を漕ぐ。


「疲れた様だな。」

「ええ、後は夕食を買って宿に行くか。」


ライラックとヨシュアは夕食4人分を屋台で購入し、ヴィートは酒と果実酒を選んだ。


宿は最大が4人部屋で、キメラも小さい分その方が割安だったが、ジンクは勝手に1人部屋のダブルベットの部屋を借りたので、仕方無しに3人部屋を選んだ。


「襲うなよ？」

ライラックは一応ジンクに釘を刺す。

人間で言えば、まだ幼児だし心配は無いと思うが…心配だ。


ジンクのあの入れ込み様は只事じゃない。


無言で眠るキメラを見つめるジンク。


「夕食はこちらの部屋で皆で食べましょう。」 


「う？…ごひゃん？」   


ピクリと反応するキメラは眠い目を擦りながら覚醒した。

まだ眠そうではある。


「クスッ。まだ寝ていて大丈夫ですよ？ご飯になったら起こしますね。」


ヨシュアが優しく伝えると、コクリと頷き、また夢の中へと戻っていった。


「王国までの道のり、もう一度くらい街に寄った方がキメラの様子だといいかもね。」

育ち盛りだからか、食欲旺盛であるキメラ。自分達はある程度抑える事は出来るが、キメラに我慢させるのは可哀想だ。

5人分の食料となると持ち歩くのも厳しいし、若干一名荷物を持たない奴がいる。

ヴィートの言葉にヨシュアは頷く。


「では、これからの帰路を確認しましょう。ジンクもキメラ抱いたままで良いのでこちらの部屋に。」


帰路の確認と、キメラの為と言われれば、舌打ちしながらついて行くしかないジンク。


キメラに負担の無い、魔物の目撃情報が無い道をあえて選び、話し合いが終わると同時にキメラが起きた。


「ごあん…」


ポーッとした顔のまま、ぐーっとお腹を鳴らすキメラに和みながら、テーブルの上の地図をどかして、買ってきた食事を並べた。


「あー！！それそれ！」

テーブルに並んだ食べ物の中から、キメラは必死に指を刺す。

「これ？やっぱり果物が好きなのかな？」

オレンジ色のチーカという果物を差し出すと、カプッと頬張るキメラ。

「ご挨拶は？キメラ。」

「たーきましゅ！」

ヨシュアに言われて合わせてご挨拶し、カプッともう一度口をつけた。


お肉も好きな様だが、果物の方が目が無い様だ。

そんなキメラの様子を肴に酒を呑むジンク。


「うまいか？」

ジンクに聞かれ、残りちょっととなったチーカとジンクを交互に見る。

「あい。」
 
キメラはジンクへと小さな手に持った残りにチーカを差し出した。


「…くれるのか？」

戸惑いながら聞くジンクに、にっこりと笑顔で頷く。


ジンクは口を大きく開けて、キメラの小さい手ごと口に含んだ。

「やーん！！てて、ちがう！」

食べられる！っと焦るキメラにクスリと笑い、口内から手を解放してやる。


「…甘酸っぱい。」

ニッと口元を笑わせるジンクにキメラは嬉しそうに頷いた。


「おーしーの！しゅき！」

「ああ、うまいな。」


笑うジンクとキメラのやり取りにポカンと口を開けたまま、固まる3人。


あんなジンクの顔…見たことない。


また一つ知らない表情に、自分の目を疑う一同。


そんな3人の視線に気付き、先程とは打って変わり、ギラリと眉を寄せて睨みつける。

「ああ？…なんだよ。」

いやいや、見ただけで睨むなよ…。


その顔を逆にキメラに見せてやりたいと思う一同だった。