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第六章・黒槍二双
【第一節・夜市】
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午後二十四時五十二分。夏中旬。この時期の街は、あまり見ない種族の旅人や旅団・芸人・物珍しい商人の往来が増える。避暑地へ向かう中継地点として利用する者、それを狙って露店を開き商売する露店商、酒場で他種族と酒を酌み交わして異文化研究をする学者……穏やかな街のいたるところで、賑わいが生まれる。街の施設利用者も増えるので、町長は率先して歓迎してはいるが、勿論良いことばかりではない。
人混みに紛れ財布を掠め盗る窃盗、文化の違いからの喧嘩による傷害、人気の少ない場所で天幕を張り許可なく開かれる賭博、女子供を狙った奴隷商の人攫い。駐屯する王都兵もおらず、自警団総出で各所を巡回するしかなく、治安が不安定になりやすいのは田舎街故の欠点か。自分達の街は、自分達の手で守らねばならない。
「……またか」
「?」
隣で街道を往来する人々を眺めていたアダムは一言呟くと、腰掛けていた木箱から立ち上がり、足早に人ごみを掻き分け【ある一点】を目指す。彼の姿が見えなくなり、僕は木箱をそのまま踏み台に、アポロもベンチから立ち上がって様子を窺う。だが、真っ先にアダムの動向を確認できたのは、上空へ白い【ミミズク】を飛ばしていた水飴を頬張る新人【天使】だった。
「あ……今、黒いフードの男の人を組み伏せて……財布、でしょうか? 高そうな紫の巾着を、右腕を捻って取り上げました」
「はぁー、またスリかよ。さっきも自警団に突き出して来たばっかだってのに。今日でスリ二人、違法取引三人、人攫い二人……詰所の牢屋足りるんかなぁ」
げんなりした様子でアポロはベンチへ再び腰を下ろし、頭上の夜空を見上げる。人混みに穴ができ、中央にフードを被った男を組み伏せ、背中へ片足を乗せて腕を背面へ捻り上げるアダムの姿が確認できた。その後、財布を盗られたと思われる身なりの良い若い男性が右手を上げて人混みから現れ、アダムは左手で投げ渡して返却した。
「自警団の方々も毎年この時期は参っているようですし、僕らにできることをとは言ったものの……これは大変ですね」
「捕まえた奴らは全員常習犯らしいですから、来年は多少減るかと思いますよ。というか、減ってくれなきゃ困るわけで。俺達だって、露店やら旅芸人やらゆっくり見て回りてぇんだって……」
「すみません。勤務時間外に関わらず、僕の判断で拘束してしまい……」
「あっ、そういう意味でぼやいたんじゃなくて、俺は皆で見て回るの楽しいですし……そもそも、悪いのは常習的に盗みや便乗して犯罪行為してる連中ですっ!! あいつらがいなければ、自警団や俺達が目を光らせる必要もないですもんっ!! 今後の治安維持に繋がる為の選択ですっ!! 俺達も理解してますから頭を下げないで下さいっ!!」
アポロはベンチから勢いよく立ち上がり、箱から降りて頭を下げた僕の両肩を掴んで、強引に上半身を起こす。新人もこちらを見て無言でこくこくと頷き、彼の言葉へ同意している。僕は本当に良い同僚と後輩に恵まれた。だが、彼らの上司らしく振る舞うのは難しい。アダムも「司祭のお前が、簡単に頭を下げるな」と言っていたし、すぐに謝罪するのは直すべきか。
「……二人とも、ありがとうございます。時間外の手当ては給与や休暇など、何かしらの形で出させていただきますので――――」
「――――そういうところだ。私が正したい癖は」
いつの間にか、服へ付いた砂埃を払いながらアダムが戻って来ていた。
「あれ? 先輩、財布盗ったフード男は?」
「たまたま近くを巡回していた自警団へ身柄を預けた。詰所へ引き渡しに行くのも手間だからな」
彼は腕組みをし、眉をしかめ目を細めた表情でこちらを見る。
「私達の上へ立つからには、それに見合った地位と権限も許されるべきだ。多少横暴でも理由があり、前任者の様に傍若無人でなければこちらも不満はない。部下や人々の言葉や気持ちを汲み、判断するのは司祭であるお前に任せてはいるが、気遣い過ぎてはお前の方に支障が出る。勤務だ仕事だと、そう重く考えるな。私達も好きでやっているに等しい」
「そういう事ですっ!! 今は仕事抜きに考えましょうっ!!」
「……ポラリス司祭は……少し、が、頑張り過ぎてるところがありますし……もっと、気を抜いても、いいかと思います」
気を張り過ぎ、か。両肩を上げて息を吸い、吐きながら一気に力を抜く。いつもと違う、通りの入り混じった匂い。露店のランタンや夜光虫のランプの強い明かりで、見えにくくなった夜空の星。はぐれないよう、子供の手を引いて歩く二人の親、老夫婦、友人、恋人。十年間住んできた街を、これほど新鮮に感じたことがあっただろうか。周囲の賑やかな雰囲気に、胸が高鳴る。
「折角の機会です。新人にとっても初めての夜市ですし、はぐれないよう気を付けながら、皆で見て回りましょうか。僕も画材や街では手に入らない画集の露店を覗きたいです」
「おーしっ!! んじゃあ決まりですねっ!! 夜市の案内は俺に任せてくださいっ!! 毎年歩き回ってるんで、何処に何の露店があるか把握してますよっ!!」
アポロが親指を自分の胸へ立て、自信満々に歯を見せて笑う。アダムはそれを鼻で笑い、小さくなった水飴を舐める新人の右手を取った。準備が整ったのを確認し、街道を歩く人々の流れに沿って、率先するアポロの背を見失わないよう移動する。
夜は長い。雰囲気に呑まれている気がしないでもないが、明日は教会も開かない。多少羽目を外して、皆で羽を伸ばすのも悪くない。どんな人や珍しい光景に出会えるか、楽しみだ。
***
先程露店で買った香ばしいタレの付いた焼きトウモロコシを片手に、人の間隔がややまばらな大通りを練り歩く。普段は荷馬車が通るだけあって他の街道よりも広く、人の密度は低いが左右へ立ち並ぶ露店や屋台も多い。中には荷馬車や大きな荷車をそのまま移動式の屋台として活用している者や、僅かなスペースで曲芸を披露する【獣人族】と人間のコンビなど、工夫や発想、息をのむ動きへ目を奪われてしまう。
「この辺りはちょっとしたお祭り会場です。お店だけじゃなく、芸人や他種族の文化交流を目的とした社交場もありますし、買い物の用が無くても楽しめますよ。俺のオススメは【竜人族】の合奏団ですかね。魔物や動物の角・骨・【隕石鋼】を使った楽器の音は、鉄や木の楽器とはまた違ったもんがあります」
「【竜人族】は他種族と交流したがらないと聞いていますが……その方達は、毎年街へ来てくださるのですか?」
「んー、五年くらい前からですかね。彼らとは一度話した事があるんですけど、旅で武芸を磨きながら、ついでに演奏で文化を伝えて回るのが目的みたいです。毎年面子も変わらず同じで、老若男女十人くらいだったような?」
親指に付いたトウモロコシのタレを舐めとりつつ、アポロは答えた。
【竜人族】の文化は、【魚人族】以上に謎が多い。活火山を拠点とする彼らは独自で編み出したと思われる魔術・呪術・加工技術を持っており、魔物を手懐けることにも長け、空を強靭な翼で飛び、硬い燐は剣を通さず、喉の器官で火を吐くことも出来る。純粋な戦闘能力は他種族を凌ぐが、種族全体の数が少ない事や身体の成長も遅く、侵略戦争時に生き残れたのは火口深くへ逃げ込めた者達のみ。
【地上界】で種族全体が絶えかけているのもあり、戦争が終結した今、王都でも補助をすべきか未だに話し合われている。
「興味深いな」
口元に付いたタレを青いハンカチで拭くアダムが呟く。
「アダムは音楽が好きなの?」
「いや……だが、彼らの加工技術や道具はお目にかかりたい。武芸を磨いているとあれば、当然業物も数本所持しているだろう。私の【信仰の力】を磨くのにも生かせる」
「なるほど」
「まあ、【竜人族】の歴史文化へ興味が全くない訳でもない。他人のアポロへも気を許す程寛容なら、歴史書にも記載されていない文化を学ぶ良い機会だ。熱を極めた彼らの扱う精錬道具は美しく、芸術品としての価値も高いと聞く。お前の趣味にもいい刺激になるんじゃないか」
「芸術品かぁ……」
食べ終えたトウモロコシの芯を近くに設置された堆肥化容器へ入れ、ハンカチで手を拭く。身近でこんなにも学べる場があったのに、人混みを敬遠して極力外出を控えていた過去の【私】は、かなり勿体の無い時間を過ごして来たのだと実感する。……過ぎた時間を悔やんでも仕方がない。【僕】は今から多くの事を学べばいいんだ。
ハンカチをポケットへしまい、容器から振り向いて皆の方を見ると、羽音をたてて白い【ミミズク】が新人の前へ降りてくる。手のひらにも乗る小さな体格のそれは左右へ首を傾げ、彼女が手に持った食べかけのトウモロコシを見つめていた。
「ミミズクさん、お腹減ったんですか?」
「きゅー……」
新人は自身の手に持った食べかけのトウモロコシと【ミミズク】を交互に見比べ、悩んでいる様子だった。そもそも、【信仰の力】で作られたアレに、空腹の概念があるのだろうか? 試しに串焼肉の欠片でも与えてみるかと思い、周囲を見回して屋台を探すと、アダムが屈んで食べかけのトウモロコシを【ミミズク】の前へ差し出した。
「私に一本は多い。残飯処理を頼む」
「あ……えっと、すみません。副司祭」
「いい。だが粒を取って手のひらから与えた方が――――」
――――アダムが言いかけた刹那、【ミミズク】は既にトウモロコシへふかふかした羽毛の身体を半分以上めり込ませていた。異変を感じてトウモロコシから手を放し、後ろへ尻餅をつくアダム。口を開けたまま、その光景を見守る二人。咀嚼音も無く、するりと【ミミズク】の羽毛の中へとトウモロコシが消えていき、満足したのかソレは礼も言わず夜空へ飛び立っていった。
「……どぉ、アレの身体は、どう……どうなってるんだ……?」
「わ……私にも、詳しくはわかりません。ただ、身体の中心に【口】があるみたいで……」
「は、はぁ……?」
顔を青くして戸惑いを隠せないアダムの口から漏れた疑問に、新人も困った表情で答える。アポロも苦笑いで飛び立った【ミミズク】を見ていた。僕も驚き立ちすくんでいたが、腰を抜かしたアダムへ駆け寄り右手を差し出す。
「大丈夫?」
「……すまん。少し、深呼吸させてくれ……」
何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、ようやくアダムは僕の手を掴んだ。
勇敢で現実主義の彼だが、幽霊や骸骨のシスターなど、【自分が理解できない存在】に対し強い恐怖心を抱くらしく、教会裏の墓地へも絶対に行こうとしない。最早本人でもどうしようもないので、墓地の清掃は僕ら三人で行っている。グールなど人型に近い魔物は問題ないと話していたが……精神的な問題だ。周りがとやかく言ったとしても、治る事は無いと思う。
「手からの餌付けは危ねぇな。……手まで食う……ってのは、無いと思いたいけど……」
「すみません……一度出すと半日は消えてくれないので、気難しい子なんですぅ」
顔を引きつらせるアポロも、震える両脚で立ち上がったアダムの背を支える。見た目こそ【ミミズク】だが、アレは完全に別物と考えよう。手練れた【上級天使】のサリーでさえ「危ない」と評価する【信仰の力】。新人が制御できるかどうかは、彼女の師であるベファーナの手腕頼みか。
「サァサァッ!! お坊チャンお嬢チャン寄ってらっしゃい見てらっしゃイッ!! こいつはトーシローからトークローまデ、誰にでも扱える魔術道具サッ!! この辺りじゃ絶ッ対に手に入らない一級品だヨォッ!? 風邪薬に胃薬、傷薬から惚れ薬まで豊富な品揃エッ!! 買って損無し買わずに損すル、本物をお求めなら【ベファーナちゃん出張店】までお立ち寄りヲッ!! イーヒッヒッヒッ!!」
「……すまない。遠くから幻聴まで聞こえてきてしまった……もう駄目かもしれん」
「いや……僕も聞こえた。……行ってみよう」
両手で顔を覆うアダムの背を押し、威勢のいい文句と高笑いのする方へ向かう。本日の営業を終了した硝子屋の前。黒い毛並みの赤目馬が繋がれた荷馬車の前で紫の絨毯を敷き、煙の出る小さな黒壺の隣で商品を並べ胡坐をかく、ツギハギ帽子の少女がいた。客はいないが、彼女は僕らが近付くと手を振っていつものニヤニヤ笑いで出迎える。
「ヤァヤァッ!! 何処かで見たことのあるお坊チャンお嬢チャンッ!! ウチの商品を買って行かなイッ!? そっちの胆の小さい青いお坊チャンにハ、【龍髭】と【麒麟草】を煎じて作った【胆力剤】はイカガカナ? カナカナ?」
「……ベファーナさん、何してるんですか?」
胡坐をかいた少女――――【魔女・ベファーナ】はツギハギ帽子を揺らしケタケタ笑う。
「ほーら言わんこっちゃねぇぜぇっ!! 思いっきり見つかってんじゃねぇかっ!! 何が【見えない魔術】だヨォっ!?」
荷馬車に繋がれた赤目の黒馬――――【エポナ】は忌々しげに叫び、太い脚でどすどすと地面を踏み鳴らした。その言葉にアポロは首を傾げ、少し離れて人混みからこちらを見たり、近付いてベファーナやエポナをまじまじと見る。
「遠目で見ると硝子屋と地面しか見えねぇんだけど……俺の目がおかしいのか?」
「んあぁっ!? んな訳ねぇだろぉっ!? だったらどうやって俺様達を見つけたんだデカブツよぉっ!?」
「いやぁ、俺は単純に司祭達に付いて行っただけで……ああ、トウモロコシ食うか? 食いかけだけど」
「野郎の食いかけを誰が食うかっ!! 俺様はこう見えてグルメなんだっ!! 生野菜じゃなきゃ食わねぇぞぉっ!!」
アポロはトウモロコシに齧りつきながら、歯をこすり合わせて睨むエポナの前へ立って見せつける。彼も空腹なのだろうか。
「そりゃあそうだとモ。【客】じゃなけれバ、ウチの店は遠目じゃ見えない聞こえなイ。冷やかしや面倒な奴ハ、最初から相手する必要無イ。実に合理的な【魔術】だと思わないかイ?」
「私達は客じゃないが……どういった基準での選別だ?」
「ベファーナさん、もう少しわかりやすく教えていただいても?」
彼女は左手でパチリと指を鳴らし、右手のひらの上へ自身の隣にある物と全く同じ小さな黒壺を出す。蓋の部分につまみと六つの穴が有ったが、煙は出ていない。
「ウチの事や【魔術】に興味のない奴らを煙に巻くってことサッ!! 脳の仕組みは単純だからネッ!! 最初から【何もない】と思っていれバ、【何もないように見せる】なんて簡単だとモッ!! 数分前にウチの事や【魔術】の事を考えたリ、そのせいで本気で困ったりしなかったかイ? そういう【特異な客】じゃなければ声も姿も認識できないのだヨ」
「お前のせいで困っているのはいつもの事だ。報告書へ落書きするのはいい加減やめてくれないか?」
「イーヒッヒッヒッ!! それは嬉しいネッ!! でもすまないガ、当店サービスはしてもクレームお断りなのだヨッ!!」
「お、押し売り……?」
新人の言葉へ片目を閉じて返すと再び指を鳴らし、彼女の手のひらに乗った壺が煙となって消える。
改めて彼女の前に並ぶ品々を見る。特段禍々しい物は置かれておらず、一見日用品にしか見えない物まであった。薬効の書かれた白い三角包み、艶やかで光沢のある木製咥え煙草、大きめの白い革巾着、【初心者魔術入門書】と手書きで題名を書かれた小冊子数冊、緑の液体が入った透明な硝子子瓶、三角包みと同じ紙で包まれた小さな飴玉数個。【目玉商品】と書かれた札の前には、ベファーナを模した小さな人形が置かれていた。
子供の露店商遊びとも思える商品。だが、全て【魔女】が作った代物だ。間違いなく何かしらの効能がある【本物の魔術道具】なのだろう。
「だろうではなク、アルのだヨッ!! ウチの商品に偽りナシッ!! 薬の効能は確実だシ、咥え煙草は煙が探し物を探してくれルッ!! 巾着は無くしても自分で歩いて帰ってこれるシ、【入門書】を真剣に読み解けば【王都魔術師】くらいにはなれるとモッ!!」
「【王都魔術師】……戦争が終わったとはいえ、志願するのは狭き門だと耳にしていますが……」
「あんなモノ、コネとソコソコの実力あれば誰だってなれるヨ。そしてこっちの小瓶の中身の子ハ、熱を食べる特殊なスライムサ。蓋を開ければ水が凍らない程度にまで周囲を冷やしてくれル、この時期食料保管庫に入れておきたい代物だネッ!!」
「あ、それ欲しいっ!!」
「お目が高イッ!! 金貨三十枚だヨッ!!」
「うっ!? ……も、もう少しまけてくれない、ベファーナちゃん?」
エポナをからかっていたアポロは財布の中身を覗き、足りなかったのか彼女へ値引きの交渉をする。金貨三十枚はかなりの大金だ。しかし、猛暑で肉が腐りやすいと悩んでいた彼にとって、喉から手が出るほど欲しい物。ベファーナは左手人差し指で髪をくるくると巻きながら、アポロの顔を見つめる。
「ンンン~……なら銀貨十枚でイイヤッ!!」
「へ? 流石にまけ過ぎじゃないか? 金貨十枚は出せるぜ?」
「今は銀貨が欲しいんだヨ。お金としてじゃなク、素材としてかナ? この前実験で使い切っちゃってネ。純銀って意外と需要高いのサ」
「ん……それでいいならいいんだけど。他に欲しい物はある? 露店の食い物ぐらいは買ってくるよ」
「オヤ、優しイッ!! ならその食べかけのトウモロコシを貰ってもいいかナッ!?」
アポロの返事を聞く前に彼女は指を鳴らし、目の前へ食べかけのトウモロコシが出てくる。するとそのまま宙に浮いたトウモロコシを左右から両手で挟んで叩き潰し、遅れて『ドン』と火薬が爆発したような大きな音を出す。耳鳴りがするほどの音に周囲を見回すも、大通りを練り歩く人々が気付いている様子は無く、僕らの背後を通り過ぎて行く。遠くから賑やかな音が戻ってくると、ベファーナは「手を出し給エッ!!」と合わせたままの両手を上下に振って要求する。
アポロが両手を彼女の両手の下へ差し出し、合わせていた手が徐々に開かれ――――綿のように白い塊が、ぽろぽろと大きな手のひらの皿へ落下していく。皆がその光景に驚く中、あっという間にアポロの両手いっぱいになり、とうとう零れ落ちそうな白い塊の山が出来上がったところで、ベファーナは完全に両手を広げた。彼女は山から三つ摘まみ上げ、そのまま自身の口の中へ放り込む。
「フム、これはナカナカ?」
「……なにこれ」
「【ポップコーン】って料理だネッ!! 本来は【種】を原材料にするんだけド、戻して種を増やした方が早かったかラ、あとは圧と過熱でドンッ!! 君達も食べてみテッ!! 実に面白い食感ダッ!!」
「はぁ……いただきます」
僕と新人は山から一つずつ、【ポップコーン】をつまみ取る。手触りはふわふわと軽く、名残なのかトウモロコシに付いていたタレの香りがした。口へ含むと、もさもさとした……なんと例えればいいか……口の中でも噛んだ時に独特な音が鳴る。軟らかい食感、甘いタレの風味。初めて食べる不思議な料理。訝しげに僕らと【ポップコーン】を見るアダムをよそに、新人は口を開けたアポロの口へ二つ放り込む。
「んん……焼き菓子より軽いし、軟らけぇ。味付けちょっと濃くすりゃ、酒のつまみにもなりそうだ」
「……アダム副司祭は食べないのです?」
「遠慮しておく。元が食いかけなうえ、【魔術】が介入している物など……」
「僕は好きかな。片手で食べ易いし、大皿があれば皆で分けて食べられるのがいいね」
味付けが無いと無味ともさもさした独特の食感だけだが、岩塩で塩味を利かせたり、甘い蜂蜜を付ければ十分食べられる。何処の地域の料理だろう?
「対価は確かに頂いたヨッ!! この子はもう君の物サ、大事に扱ってネッ!!」
「あふぃふぁふぉー、なふふぁにふがくふぁりやふふてふぁー」
「食うか話すかどっちかにしろ」
新人に口の中へ次々と放り込まれ、ポップコーンを頬張った状態で話すアポロをアダムが嗜める。
「イーヒッヒッヒッ!! 馬も食べるかイ?」
「ブルルルゥッ!? 俺様は生のトウモロコシが食いてぇんだっ!! んなよくわかんねぇ綿なんて食ったら喉に詰まらせて死んじまうっ!!」
「ワガママな奴だネェー」
ベファーナは小さくなった【ポップコーン】の山から左手で一つ掴み、右手の指を鳴らしてエポナの前へ放り投げる。彼女の左手から飛び出た物は成熟し、緑の鞘に包まれたトウモロコシ。エポナはそのまま足元へ転がったトウモロコシへぼりぼりと齧りつく。
一本から無数の種を作り、種から一本へと成長させる。何の造作も無く、手のひらのみで行われる【魔術】……か。聖書に書かれている神の一人は、飢えた人々に【一粒の麦】と【植物を育てる知恵】を与え、広大な麦畑を築かせたとある。だが麦の成長速度や、最初に与えられたのが一粒のみと考えれば、広大な畑となるまで多くの人々が飢えに苦しみ、亡くなった筈だ。
一瞬で麦畑を造ることも、一粒を無数に増やすことも出来たろうに、何故そんな遠回りなやり方をさせたのか。それを神が与えた試練だと、聖書で後世へ美化して伝えたとしても、それは本当の救いじゃない。気紛れに弄び、飢えで絶滅するか生き延びるか、はたまた一粒を求めて争うか、【天界】からその様子を眺めていたのだ。
効率を極めれば、ベファーナのような【魔女】や古代人の様に、万人が不便や飢えの無い暮らしへと至れるが、神はそれを良しとせず、また一粒から麦を育てさせる。それを何十、何百と幾度となく繰り返し、今へ繋がる。……僕らが仮に文明ごと消されたとして、後の【地上界】で栄える人々は、神に同じことを強要され苦しめられるのか。
「――――ポーラ君ハ、【魔術】と【魔法】の違いが分かるかネ?」
【ポップコーン】を指先で浮かせて口へ放り込みながら、ベファーナは話し始める。
「【魔術】は【地上界】の法則へ、ある程度乗っ取りながらも逆らった【人の術】。一粒の種から成熟さセ、その種を再び植えて増やス。魔力が無い人でもきちんと学ビ、循環過程と結果さえ理解できれば誰でもできる術ダ。農耕の技術も広く見れば【魔術】だネ」
「そんな広い解釈でいいのですか?」
「一粒の種を時間をかけて増やせる技術と結果が無けれバ、【魔術】はその過程を省略できなイ。火は何があれば起こせル? 綺麗な水はどうすれば精製できル? 雷はどう作られレ、風は何処から吹いてくるカ。理解シ、検証シ、省略すル。【守護魔術】が【高等魔術】に分類されるのハ、過程から結果を否定しているからサ。【死】という結果を否定できれバ、肉一片や髪の毛一本を媒体に再生することも可能ダ」
「………………」
「一方、【魔法】は魔力と【詠唱】ができれば誰でもできル。知識が無くとモ、口や頭の中で唱えれば【最初からそうなるよう結果が出来てしまっている】からネ。ウチはこれが実に気に入らなイ。唱えれば火が起こせるのなラ、火が起こるまでの過程と結果を学ぶことは無くなル。唱えれば死者を何度でも生き返らせられるのなラ、命や死の重さも軽くなル」
「【禁忌の魔術】と……その、ベファーナさんの説明した【魔法】は、また違う物なのですか?」
「労力、対価、知識、魔力量、完成するまでの期間、【詠唱】の有無。……挙げればキリがないヨ。ソモソモ、無から有を作り出したリ、最初から結果が分かってて特定の【詠唱】必須ッテ、気持ちが悪いじゃないカ。まるで神へ頼んだリ、祈ってるみたいでサ」
珍しくつまらなさそうに話すベファーナの言葉を、知識の無い素人のこちらが完全に理解するのは難しい。ただ、全てを学ぶ必要のある【魔術】と違い、【詠唱】さえできれば原理や過程を学ぶ必要のない【魔法】を、彼女は酷く嫌悪している。彼女自身、神を嫌っているのもあるが。
「フム、もっと分かりやすく差別化しようカ。一から一を作れるのが【魔術】。零から一を、人が生まれた時から作れるのが【魔法】。麦一粒も使わず麦畑を造リ、死体も魂も無いのに死者を生者として生き返らせル。そうして生まれてきたモノへ無頓着になった存在ガ、傲りと嫉妬心の塊である神なのかもしれないネ」
「それが真実か?」
背後で会話を聞いていたアダムが割って入り、ベファーナを睨む。彼女はいつものニヤニヤ笑いをしながら両手のひらを天へ向け、顔を左右へ振った。
「可能性の一つとして聴いてくれ給えヨ。簡単に答えが導きだされてハ、君達の商売もあがったりダロォ? 期待してるヨ、【導きの天使】諸君ッ!! イーヒッヒッヒッ!!」
「……【魔女】と会話をすると疲れるな。アポロ、竜人族の演奏が行われる場所へ案内しろ。新人もあまり気を許すんじゃない。こいつは私達の理解の範疇を越えた存在だ」
空になった両手を払い、もぐもぐと口を動かすアポロと新人は互いに顔を見合わせ、【魔女】を見る。それに対しベファーナは膝へ肘をのせ、頬杖をついたまま余裕に満ちた笑顔をこちらへ返した。
「そこへ向かう前ニ、この通りの突き当たりまで進むとイイッ!! 質の良いスーツを仕立ててくれる店があるんダッ!!」
***
銀貨を懐へ入レ、新たに作った【ポップコーン】を噛みながラ、次の【客】が来るのを待ツ。ウーム、やっぱ見える認識の範囲が限定的過ぎテ、かえって誰も来ないナァ。今時の子ハ、【魔女】や【魔術】に興味が薄くなっちゃってるのカナ? カナカナ? マァ、本気で神頼みならぬ【魔女頼み】する人なんテ、ロクでもないワケ有くらいなもんだネ。
『ベファーナ嬢。こんなことに何の意味がある? 気紛れに人々をからかい弄んでいるのは、神も君も同じではないかね?』
背後の荷馬車内で瞑想を続けていタ、ザガムの声が聞こえル。彼らが来たら気配を殺して押し黙ってたクセニ、居なくなった途端皮肉をぶつけてくるとハ、相も変わらず女々しいというかネチッコイというカ。
「君の方こソ、彼らと話さなくてよかったのかイ? 積もる話は多いだろうニ」
『元より彼らとは、ただの利害一致による共闘関係。話さずとも相容れぬのは理解している。ならば語るまでもない』
「どうカナ? 軍師として心理や戦術傾向は読めてモ、君が身内に裏切られまいと驕リ、甘かったから負けたんじゃないカ。過去の反省から学ビ、理解しようと努力もしない時点デ、君はこれ以上は前へ進めなイ」
『進まずとも、退かずに維持することは出来よう。私は過去の亡霊。仕えるべき本来の主はこの世にはいないが、その偉大な志と二人への憎しみは決して消える事は無い』
ヤレヤレ、君は本当に面倒な男だヨ。大体、狂王はただの【神の傀儡】でアレ自体に【意思】といものは皆無ダ。魂の無い動く肉人形の首を刎ねたところデ、また新しい火種を作るか程度にしか神は考えていないのサ。【悪魔】の君が【首無し】となって生きていると神が知ったラ、次は君が火種になる番かもネ。ドレドレ、一つ新しい悩みの種でも植え付てやろうカナ。
「ソウダッ!! 面白い噂を聞いたんだけド、興味はあるかイッ!?」
『――――――』
「ダンマリ結構ッ!! 勝手に話すとモッ!! 実はネ、王都近隣の村や街でハ、ザガム君が生きているとの噂がたっているんダッ!!」
「ぶふぅっ!! おっふぇぶえっふぇっ!? それマジかよベファーナちゃぁんっ!?」
トウモロコシで咽るエポナが目を丸くしてこちらを見ル。
「アア、本当だとモッ!! しかもそいつは各地を巡って義勇軍を立ち上ゲ、人々に仇名す他種族、魔物や【機神】、果てには【悪魔】を討伐しているそうナッ!! イヤァ、実に頼もしい存在だと思わないかネッ!?」
「はああぁっ!? どういうことだよぉっ!? 俺様の主殿は間違いなくここに居るぜェッ!? 愛馬の俺様が言うんだっ、そいつが偽者じゃねぇかぁっ!?」
「イーヒッヒッヒッ!! どこぞの堅物と違ッテ、エポナ君は本当に良いリアクションをしてくれてウチは嬉しいヨッ!!」
『――――――』
ランスの柄を強く握る音が聞こえているヨ、ザガム大将。余程腹正しい話題とミタ。オー、大変大変。今直ぐにでも荷馬車を飛び出しテ、自分の名を語るそいつを殺したくて殺したくて仕方ナイ。どうやって殺すかで無い頭がいっぱいダ。
『――――その噂は初耳だ。【悪魔】となってから、昨今の王都周辺の情勢には疎くてな』
「ダロウネ。……マア、この噂自体は一ヶ月前くらいからサ。けどホントにクリソツらしいシ、君と違って頭が有ル」
指を鳴らシ、壺の中から立ち上る香の認識範囲へ【僅かな要素】を付け加エ、銀貨を移動させル。
「サテ、ここで問題ダッ!! 人の身体を二つに分けたとしよウッ!! 一方は頭のみデ、もう一方は首から下全テッ!! 心や感情は何処に宿るかと言われれバ、医学的には脳のある頭の方だソウナッ!? デハデハッ!! 肝心の【魂】はどちらに宿るのが正解でショ~カッ!? 分かるお客様はいらっしゃいますでしょうカ~ッ!?」
「――――当然、脳で考え思考するのだから【頭】だろう。元気な【魔女】さん?」
「ぶるるぅっ!?」
『!?』
目の前に立つのは身体を鋼色の鎧で覆イ、小振りの黒いランスを腰に下げた大男。濃い茶色髪を後ろで短く纏メ、厳しくも穏やかな笑みを見せる青い目と高い鼻、彫りの深い顔立ち。左耳には妻から貰った銀色の涙型イヤリング。ソウ、ウチは君の事を待っていたんダ。
「ホホゥッ、ナルホドッ!? ……アラ? お客様、どっかで見たことアルヨウナ~、ナイヨウナ~? もしかしテ、有名人の方だったリ?」
「ふぅむ……参ったなぁ。ここまで顔や噂が広まっているのは大変喜ばしいが、何分今日は娘と二人で来ているんだ。騒ぎになられても困るし、秘密にしておいてくれるかね。手打ち金として、何か一つ買って行こう」
周囲を軽く見まわした大男は屈み、商品を見定めつつ声を落として呟く。
「ご明察だ、元気な【魔女】さん。私の名前は【ザガム・ランス・ラインハルト】。王都近辺で、ちょっとした義勇軍の部隊長をやっている」
「ア~……アレェ? でも【ザガム大将】は侵略戦争時に亡くなったと聞いてるヨ?」
「確かに。私は魔王城周辺で残党狩りをしている最中、【勇者】に首を刎ねられ死んだ。愛馬のエポナと共に……【表向き】ではそうなっている。だがね、戦場でのやり取りは【勇者】が私の中に憑りついた【悪魔】を払う行為であり、実際に首を刎ねられ死んだわけじゃないんだ。【狂王】の意思が宿った鎧を脱ぎ捨て、彼に担がれて戦場を離れた私は、生き残った仲間と共に静かに養生していたのだよ」
「スゴイッ!! 話が壮大過ぎてウチわからないヤッ!!」
「あっはっはっはっ!! まぁ、私も君の立場であったら信じられないし、理解も追いつかないっ!! ……だが、史実が全てではない事は知っておき給え。現王は酒を酌み交わした我が親友。表立って彼を支えることはできずとも、義勇軍として裏や下から支えることはできる。今では妻や娘、使用人達と穏やかに暮らせているしね。……彼には、感謝してもしきれないよ」
鋼鎧の大男――――【ザガム・ランス・ラインハルト】は【咥え煙草】が気になるらしク、手に取って細部まで見回シ、夜市の明かりに光沢を反射せていル。一方、背後の荷馬車で心臓を含めた全身十ヵ所に銀貨を埋め込まれたザガムは動けズ、【声】も出せずにいタ。馬の方は逆にビビってそっぽ向いてるシ、喧しく無くてチョウドイイ。
シカシマァ、【首無しザガム】は真実を知ってしまっタ。今まで自分自身をザガムだと疑わなかった亡霊ハ、一体どうなるんだろうネ? アア、ニヤニヤが止まらないヨ。こんなに面白そうな展開は今まであったかネ、【観測者】諸君。
「……実に見事な品だ。しかし、妻や娘に煙草を止めるように言われていてね。エポナも……煙草の臭いを、あまり好まなかったなぁ……」
ザガム・ランスは目に涙を溜めて語尾を震わせながラ、荷馬車に繋がれた馬を見ル。ダブって見えるって? ソリャソウダ、だって君の愛馬だもノ。彼は目を閉じて夜空を見上ゲ、涙が収まるのを待ってから【咥え煙草】を元の位置へ戻ス。
「……すまない、つい昔を思い出してしまった。煙草の代わりに飴玉四つ……それから、目玉商品を一つ買おう。どんな効能があるのだね?」
「飴玉は【お守り】だヨッ!! 近頃何かと物騒だからネ、事前に舐めておけば一度は致命傷を防いでくれルッ!! 目玉商品の方は【小さなゴーレム】ッ!! 魔力を注げば主を守る為にピョコピョコ動き出す筈サッ!! 騙されたと思って買っていっちゃってヨッ!!」
「あっはっはっ、それは頼もしい。【魔術】は昔からからっきしなんだが、不思議と君の物は偽りがなさそうだ。さては本物の【魔女】だな?」
「イーヒッヒッヒッ!! バレちゃぁしょうがナイッ!! なら【初心者魔術入門書】もオマケで付けちゃウッ!! これを読んで勉強し給えヨッ!!」
「うぅむ……私もいい歳だ。果たして今から学んでも間に合う物だろうか……」
「ボケ防止にはいいと思うヨ?」
「成程。では、後学の為にゆっくりと学ばせてもらうことにしよう。おいくらかな?」
ザガム・ランスは金貨五枚と銀貨十五枚をウチへ手渡シ、ポラリス達の歩いて行った方向へ自然と足を向けタ。サテサテ、ポーラ君、スピカ君。君らがどういった選択をするカ、見させてもらうヨ。
人混みに紛れ財布を掠め盗る窃盗、文化の違いからの喧嘩による傷害、人気の少ない場所で天幕を張り許可なく開かれる賭博、女子供を狙った奴隷商の人攫い。駐屯する王都兵もおらず、自警団総出で各所を巡回するしかなく、治安が不安定になりやすいのは田舎街故の欠点か。自分達の街は、自分達の手で守らねばならない。
「……またか」
「?」
隣で街道を往来する人々を眺めていたアダムは一言呟くと、腰掛けていた木箱から立ち上がり、足早に人ごみを掻き分け【ある一点】を目指す。彼の姿が見えなくなり、僕は木箱をそのまま踏み台に、アポロもベンチから立ち上がって様子を窺う。だが、真っ先にアダムの動向を確認できたのは、上空へ白い【ミミズク】を飛ばしていた水飴を頬張る新人【天使】だった。
「あ……今、黒いフードの男の人を組み伏せて……財布、でしょうか? 高そうな紫の巾着を、右腕を捻って取り上げました」
「はぁー、またスリかよ。さっきも自警団に突き出して来たばっかだってのに。今日でスリ二人、違法取引三人、人攫い二人……詰所の牢屋足りるんかなぁ」
げんなりした様子でアポロはベンチへ再び腰を下ろし、頭上の夜空を見上げる。人混みに穴ができ、中央にフードを被った男を組み伏せ、背中へ片足を乗せて腕を背面へ捻り上げるアダムの姿が確認できた。その後、財布を盗られたと思われる身なりの良い若い男性が右手を上げて人混みから現れ、アダムは左手で投げ渡して返却した。
「自警団の方々も毎年この時期は参っているようですし、僕らにできることをとは言ったものの……これは大変ですね」
「捕まえた奴らは全員常習犯らしいですから、来年は多少減るかと思いますよ。というか、減ってくれなきゃ困るわけで。俺達だって、露店やら旅芸人やらゆっくり見て回りてぇんだって……」
「すみません。勤務時間外に関わらず、僕の判断で拘束してしまい……」
「あっ、そういう意味でぼやいたんじゃなくて、俺は皆で見て回るの楽しいですし……そもそも、悪いのは常習的に盗みや便乗して犯罪行為してる連中ですっ!! あいつらがいなければ、自警団や俺達が目を光らせる必要もないですもんっ!! 今後の治安維持に繋がる為の選択ですっ!! 俺達も理解してますから頭を下げないで下さいっ!!」
アポロはベンチから勢いよく立ち上がり、箱から降りて頭を下げた僕の両肩を掴んで、強引に上半身を起こす。新人もこちらを見て無言でこくこくと頷き、彼の言葉へ同意している。僕は本当に良い同僚と後輩に恵まれた。だが、彼らの上司らしく振る舞うのは難しい。アダムも「司祭のお前が、簡単に頭を下げるな」と言っていたし、すぐに謝罪するのは直すべきか。
「……二人とも、ありがとうございます。時間外の手当ては給与や休暇など、何かしらの形で出させていただきますので――――」
「――――そういうところだ。私が正したい癖は」
いつの間にか、服へ付いた砂埃を払いながらアダムが戻って来ていた。
「あれ? 先輩、財布盗ったフード男は?」
「たまたま近くを巡回していた自警団へ身柄を預けた。詰所へ引き渡しに行くのも手間だからな」
彼は腕組みをし、眉をしかめ目を細めた表情でこちらを見る。
「私達の上へ立つからには、それに見合った地位と権限も許されるべきだ。多少横暴でも理由があり、前任者の様に傍若無人でなければこちらも不満はない。部下や人々の言葉や気持ちを汲み、判断するのは司祭であるお前に任せてはいるが、気遣い過ぎてはお前の方に支障が出る。勤務だ仕事だと、そう重く考えるな。私達も好きでやっているに等しい」
「そういう事ですっ!! 今は仕事抜きに考えましょうっ!!」
「……ポラリス司祭は……少し、が、頑張り過ぎてるところがありますし……もっと、気を抜いても、いいかと思います」
気を張り過ぎ、か。両肩を上げて息を吸い、吐きながら一気に力を抜く。いつもと違う、通りの入り混じった匂い。露店のランタンや夜光虫のランプの強い明かりで、見えにくくなった夜空の星。はぐれないよう、子供の手を引いて歩く二人の親、老夫婦、友人、恋人。十年間住んできた街を、これほど新鮮に感じたことがあっただろうか。周囲の賑やかな雰囲気に、胸が高鳴る。
「折角の機会です。新人にとっても初めての夜市ですし、はぐれないよう気を付けながら、皆で見て回りましょうか。僕も画材や街では手に入らない画集の露店を覗きたいです」
「おーしっ!! んじゃあ決まりですねっ!! 夜市の案内は俺に任せてくださいっ!! 毎年歩き回ってるんで、何処に何の露店があるか把握してますよっ!!」
アポロが親指を自分の胸へ立て、自信満々に歯を見せて笑う。アダムはそれを鼻で笑い、小さくなった水飴を舐める新人の右手を取った。準備が整ったのを確認し、街道を歩く人々の流れに沿って、率先するアポロの背を見失わないよう移動する。
夜は長い。雰囲気に呑まれている気がしないでもないが、明日は教会も開かない。多少羽目を外して、皆で羽を伸ばすのも悪くない。どんな人や珍しい光景に出会えるか、楽しみだ。
***
先程露店で買った香ばしいタレの付いた焼きトウモロコシを片手に、人の間隔がややまばらな大通りを練り歩く。普段は荷馬車が通るだけあって他の街道よりも広く、人の密度は低いが左右へ立ち並ぶ露店や屋台も多い。中には荷馬車や大きな荷車をそのまま移動式の屋台として活用している者や、僅かなスペースで曲芸を披露する【獣人族】と人間のコンビなど、工夫や発想、息をのむ動きへ目を奪われてしまう。
「この辺りはちょっとしたお祭り会場です。お店だけじゃなく、芸人や他種族の文化交流を目的とした社交場もありますし、買い物の用が無くても楽しめますよ。俺のオススメは【竜人族】の合奏団ですかね。魔物や動物の角・骨・【隕石鋼】を使った楽器の音は、鉄や木の楽器とはまた違ったもんがあります」
「【竜人族】は他種族と交流したがらないと聞いていますが……その方達は、毎年街へ来てくださるのですか?」
「んー、五年くらい前からですかね。彼らとは一度話した事があるんですけど、旅で武芸を磨きながら、ついでに演奏で文化を伝えて回るのが目的みたいです。毎年面子も変わらず同じで、老若男女十人くらいだったような?」
親指に付いたトウモロコシのタレを舐めとりつつ、アポロは答えた。
【竜人族】の文化は、【魚人族】以上に謎が多い。活火山を拠点とする彼らは独自で編み出したと思われる魔術・呪術・加工技術を持っており、魔物を手懐けることにも長け、空を強靭な翼で飛び、硬い燐は剣を通さず、喉の器官で火を吐くことも出来る。純粋な戦闘能力は他種族を凌ぐが、種族全体の数が少ない事や身体の成長も遅く、侵略戦争時に生き残れたのは火口深くへ逃げ込めた者達のみ。
【地上界】で種族全体が絶えかけているのもあり、戦争が終結した今、王都でも補助をすべきか未だに話し合われている。
「興味深いな」
口元に付いたタレを青いハンカチで拭くアダムが呟く。
「アダムは音楽が好きなの?」
「いや……だが、彼らの加工技術や道具はお目にかかりたい。武芸を磨いているとあれば、当然業物も数本所持しているだろう。私の【信仰の力】を磨くのにも生かせる」
「なるほど」
「まあ、【竜人族】の歴史文化へ興味が全くない訳でもない。他人のアポロへも気を許す程寛容なら、歴史書にも記載されていない文化を学ぶ良い機会だ。熱を極めた彼らの扱う精錬道具は美しく、芸術品としての価値も高いと聞く。お前の趣味にもいい刺激になるんじゃないか」
「芸術品かぁ……」
食べ終えたトウモロコシの芯を近くに設置された堆肥化容器へ入れ、ハンカチで手を拭く。身近でこんなにも学べる場があったのに、人混みを敬遠して極力外出を控えていた過去の【私】は、かなり勿体の無い時間を過ごして来たのだと実感する。……過ぎた時間を悔やんでも仕方がない。【僕】は今から多くの事を学べばいいんだ。
ハンカチをポケットへしまい、容器から振り向いて皆の方を見ると、羽音をたてて白い【ミミズク】が新人の前へ降りてくる。手のひらにも乗る小さな体格のそれは左右へ首を傾げ、彼女が手に持った食べかけのトウモロコシを見つめていた。
「ミミズクさん、お腹減ったんですか?」
「きゅー……」
新人は自身の手に持った食べかけのトウモロコシと【ミミズク】を交互に見比べ、悩んでいる様子だった。そもそも、【信仰の力】で作られたアレに、空腹の概念があるのだろうか? 試しに串焼肉の欠片でも与えてみるかと思い、周囲を見回して屋台を探すと、アダムが屈んで食べかけのトウモロコシを【ミミズク】の前へ差し出した。
「私に一本は多い。残飯処理を頼む」
「あ……えっと、すみません。副司祭」
「いい。だが粒を取って手のひらから与えた方が――――」
――――アダムが言いかけた刹那、【ミミズク】は既にトウモロコシへふかふかした羽毛の身体を半分以上めり込ませていた。異変を感じてトウモロコシから手を放し、後ろへ尻餅をつくアダム。口を開けたまま、その光景を見守る二人。咀嚼音も無く、するりと【ミミズク】の羽毛の中へとトウモロコシが消えていき、満足したのかソレは礼も言わず夜空へ飛び立っていった。
「……どぉ、アレの身体は、どう……どうなってるんだ……?」
「わ……私にも、詳しくはわかりません。ただ、身体の中心に【口】があるみたいで……」
「は、はぁ……?」
顔を青くして戸惑いを隠せないアダムの口から漏れた疑問に、新人も困った表情で答える。アポロも苦笑いで飛び立った【ミミズク】を見ていた。僕も驚き立ちすくんでいたが、腰を抜かしたアダムへ駆け寄り右手を差し出す。
「大丈夫?」
「……すまん。少し、深呼吸させてくれ……」
何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、ようやくアダムは僕の手を掴んだ。
勇敢で現実主義の彼だが、幽霊や骸骨のシスターなど、【自分が理解できない存在】に対し強い恐怖心を抱くらしく、教会裏の墓地へも絶対に行こうとしない。最早本人でもどうしようもないので、墓地の清掃は僕ら三人で行っている。グールなど人型に近い魔物は問題ないと話していたが……精神的な問題だ。周りがとやかく言ったとしても、治る事は無いと思う。
「手からの餌付けは危ねぇな。……手まで食う……ってのは、無いと思いたいけど……」
「すみません……一度出すと半日は消えてくれないので、気難しい子なんですぅ」
顔を引きつらせるアポロも、震える両脚で立ち上がったアダムの背を支える。見た目こそ【ミミズク】だが、アレは完全に別物と考えよう。手練れた【上級天使】のサリーでさえ「危ない」と評価する【信仰の力】。新人が制御できるかどうかは、彼女の師であるベファーナの手腕頼みか。
「サァサァッ!! お坊チャンお嬢チャン寄ってらっしゃい見てらっしゃイッ!! こいつはトーシローからトークローまデ、誰にでも扱える魔術道具サッ!! この辺りじゃ絶ッ対に手に入らない一級品だヨォッ!? 風邪薬に胃薬、傷薬から惚れ薬まで豊富な品揃エッ!! 買って損無し買わずに損すル、本物をお求めなら【ベファーナちゃん出張店】までお立ち寄りヲッ!! イーヒッヒッヒッ!!」
「……すまない。遠くから幻聴まで聞こえてきてしまった……もう駄目かもしれん」
「いや……僕も聞こえた。……行ってみよう」
両手で顔を覆うアダムの背を押し、威勢のいい文句と高笑いのする方へ向かう。本日の営業を終了した硝子屋の前。黒い毛並みの赤目馬が繋がれた荷馬車の前で紫の絨毯を敷き、煙の出る小さな黒壺の隣で商品を並べ胡坐をかく、ツギハギ帽子の少女がいた。客はいないが、彼女は僕らが近付くと手を振っていつものニヤニヤ笑いで出迎える。
「ヤァヤァッ!! 何処かで見たことのあるお坊チャンお嬢チャンッ!! ウチの商品を買って行かなイッ!? そっちの胆の小さい青いお坊チャンにハ、【龍髭】と【麒麟草】を煎じて作った【胆力剤】はイカガカナ? カナカナ?」
「……ベファーナさん、何してるんですか?」
胡坐をかいた少女――――【魔女・ベファーナ】はツギハギ帽子を揺らしケタケタ笑う。
「ほーら言わんこっちゃねぇぜぇっ!! 思いっきり見つかってんじゃねぇかっ!! 何が【見えない魔術】だヨォっ!?」
荷馬車に繋がれた赤目の黒馬――――【エポナ】は忌々しげに叫び、太い脚でどすどすと地面を踏み鳴らした。その言葉にアポロは首を傾げ、少し離れて人混みからこちらを見たり、近付いてベファーナやエポナをまじまじと見る。
「遠目で見ると硝子屋と地面しか見えねぇんだけど……俺の目がおかしいのか?」
「んあぁっ!? んな訳ねぇだろぉっ!? だったらどうやって俺様達を見つけたんだデカブツよぉっ!?」
「いやぁ、俺は単純に司祭達に付いて行っただけで……ああ、トウモロコシ食うか? 食いかけだけど」
「野郎の食いかけを誰が食うかっ!! 俺様はこう見えてグルメなんだっ!! 生野菜じゃなきゃ食わねぇぞぉっ!!」
アポロはトウモロコシに齧りつきながら、歯をこすり合わせて睨むエポナの前へ立って見せつける。彼も空腹なのだろうか。
「そりゃあそうだとモ。【客】じゃなけれバ、ウチの店は遠目じゃ見えない聞こえなイ。冷やかしや面倒な奴ハ、最初から相手する必要無イ。実に合理的な【魔術】だと思わないかイ?」
「私達は客じゃないが……どういった基準での選別だ?」
「ベファーナさん、もう少しわかりやすく教えていただいても?」
彼女は左手でパチリと指を鳴らし、右手のひらの上へ自身の隣にある物と全く同じ小さな黒壺を出す。蓋の部分につまみと六つの穴が有ったが、煙は出ていない。
「ウチの事や【魔術】に興味のない奴らを煙に巻くってことサッ!! 脳の仕組みは単純だからネッ!! 最初から【何もない】と思っていれバ、【何もないように見せる】なんて簡単だとモッ!! 数分前にウチの事や【魔術】の事を考えたリ、そのせいで本気で困ったりしなかったかイ? そういう【特異な客】じゃなければ声も姿も認識できないのだヨ」
「お前のせいで困っているのはいつもの事だ。報告書へ落書きするのはいい加減やめてくれないか?」
「イーヒッヒッヒッ!! それは嬉しいネッ!! でもすまないガ、当店サービスはしてもクレームお断りなのだヨッ!!」
「お、押し売り……?」
新人の言葉へ片目を閉じて返すと再び指を鳴らし、彼女の手のひらに乗った壺が煙となって消える。
改めて彼女の前に並ぶ品々を見る。特段禍々しい物は置かれておらず、一見日用品にしか見えない物まであった。薬効の書かれた白い三角包み、艶やかで光沢のある木製咥え煙草、大きめの白い革巾着、【初心者魔術入門書】と手書きで題名を書かれた小冊子数冊、緑の液体が入った透明な硝子子瓶、三角包みと同じ紙で包まれた小さな飴玉数個。【目玉商品】と書かれた札の前には、ベファーナを模した小さな人形が置かれていた。
子供の露店商遊びとも思える商品。だが、全て【魔女】が作った代物だ。間違いなく何かしらの効能がある【本物の魔術道具】なのだろう。
「だろうではなク、アルのだヨッ!! ウチの商品に偽りナシッ!! 薬の効能は確実だシ、咥え煙草は煙が探し物を探してくれルッ!! 巾着は無くしても自分で歩いて帰ってこれるシ、【入門書】を真剣に読み解けば【王都魔術師】くらいにはなれるとモッ!!」
「【王都魔術師】……戦争が終わったとはいえ、志願するのは狭き門だと耳にしていますが……」
「あんなモノ、コネとソコソコの実力あれば誰だってなれるヨ。そしてこっちの小瓶の中身の子ハ、熱を食べる特殊なスライムサ。蓋を開ければ水が凍らない程度にまで周囲を冷やしてくれル、この時期食料保管庫に入れておきたい代物だネッ!!」
「あ、それ欲しいっ!!」
「お目が高イッ!! 金貨三十枚だヨッ!!」
「うっ!? ……も、もう少しまけてくれない、ベファーナちゃん?」
エポナをからかっていたアポロは財布の中身を覗き、足りなかったのか彼女へ値引きの交渉をする。金貨三十枚はかなりの大金だ。しかし、猛暑で肉が腐りやすいと悩んでいた彼にとって、喉から手が出るほど欲しい物。ベファーナは左手人差し指で髪をくるくると巻きながら、アポロの顔を見つめる。
「ンンン~……なら銀貨十枚でイイヤッ!!」
「へ? 流石にまけ過ぎじゃないか? 金貨十枚は出せるぜ?」
「今は銀貨が欲しいんだヨ。お金としてじゃなク、素材としてかナ? この前実験で使い切っちゃってネ。純銀って意外と需要高いのサ」
「ん……それでいいならいいんだけど。他に欲しい物はある? 露店の食い物ぐらいは買ってくるよ」
「オヤ、優しイッ!! ならその食べかけのトウモロコシを貰ってもいいかナッ!?」
アポロの返事を聞く前に彼女は指を鳴らし、目の前へ食べかけのトウモロコシが出てくる。するとそのまま宙に浮いたトウモロコシを左右から両手で挟んで叩き潰し、遅れて『ドン』と火薬が爆発したような大きな音を出す。耳鳴りがするほどの音に周囲を見回すも、大通りを練り歩く人々が気付いている様子は無く、僕らの背後を通り過ぎて行く。遠くから賑やかな音が戻ってくると、ベファーナは「手を出し給エッ!!」と合わせたままの両手を上下に振って要求する。
アポロが両手を彼女の両手の下へ差し出し、合わせていた手が徐々に開かれ――――綿のように白い塊が、ぽろぽろと大きな手のひらの皿へ落下していく。皆がその光景に驚く中、あっという間にアポロの両手いっぱいになり、とうとう零れ落ちそうな白い塊の山が出来上がったところで、ベファーナは完全に両手を広げた。彼女は山から三つ摘まみ上げ、そのまま自身の口の中へ放り込む。
「フム、これはナカナカ?」
「……なにこれ」
「【ポップコーン】って料理だネッ!! 本来は【種】を原材料にするんだけド、戻して種を増やした方が早かったかラ、あとは圧と過熱でドンッ!! 君達も食べてみテッ!! 実に面白い食感ダッ!!」
「はぁ……いただきます」
僕と新人は山から一つずつ、【ポップコーン】をつまみ取る。手触りはふわふわと軽く、名残なのかトウモロコシに付いていたタレの香りがした。口へ含むと、もさもさとした……なんと例えればいいか……口の中でも噛んだ時に独特な音が鳴る。軟らかい食感、甘いタレの風味。初めて食べる不思議な料理。訝しげに僕らと【ポップコーン】を見るアダムをよそに、新人は口を開けたアポロの口へ二つ放り込む。
「んん……焼き菓子より軽いし、軟らけぇ。味付けちょっと濃くすりゃ、酒のつまみにもなりそうだ」
「……アダム副司祭は食べないのです?」
「遠慮しておく。元が食いかけなうえ、【魔術】が介入している物など……」
「僕は好きかな。片手で食べ易いし、大皿があれば皆で分けて食べられるのがいいね」
味付けが無いと無味ともさもさした独特の食感だけだが、岩塩で塩味を利かせたり、甘い蜂蜜を付ければ十分食べられる。何処の地域の料理だろう?
「対価は確かに頂いたヨッ!! この子はもう君の物サ、大事に扱ってネッ!!」
「あふぃふぁふぉー、なふふぁにふがくふぁりやふふてふぁー」
「食うか話すかどっちかにしろ」
新人に口の中へ次々と放り込まれ、ポップコーンを頬張った状態で話すアポロをアダムが嗜める。
「イーヒッヒッヒッ!! 馬も食べるかイ?」
「ブルルルゥッ!? 俺様は生のトウモロコシが食いてぇんだっ!! んなよくわかんねぇ綿なんて食ったら喉に詰まらせて死んじまうっ!!」
「ワガママな奴だネェー」
ベファーナは小さくなった【ポップコーン】の山から左手で一つ掴み、右手の指を鳴らしてエポナの前へ放り投げる。彼女の左手から飛び出た物は成熟し、緑の鞘に包まれたトウモロコシ。エポナはそのまま足元へ転がったトウモロコシへぼりぼりと齧りつく。
一本から無数の種を作り、種から一本へと成長させる。何の造作も無く、手のひらのみで行われる【魔術】……か。聖書に書かれている神の一人は、飢えた人々に【一粒の麦】と【植物を育てる知恵】を与え、広大な麦畑を築かせたとある。だが麦の成長速度や、最初に与えられたのが一粒のみと考えれば、広大な畑となるまで多くの人々が飢えに苦しみ、亡くなった筈だ。
一瞬で麦畑を造ることも、一粒を無数に増やすことも出来たろうに、何故そんな遠回りなやり方をさせたのか。それを神が与えた試練だと、聖書で後世へ美化して伝えたとしても、それは本当の救いじゃない。気紛れに弄び、飢えで絶滅するか生き延びるか、はたまた一粒を求めて争うか、【天界】からその様子を眺めていたのだ。
効率を極めれば、ベファーナのような【魔女】や古代人の様に、万人が不便や飢えの無い暮らしへと至れるが、神はそれを良しとせず、また一粒から麦を育てさせる。それを何十、何百と幾度となく繰り返し、今へ繋がる。……僕らが仮に文明ごと消されたとして、後の【地上界】で栄える人々は、神に同じことを強要され苦しめられるのか。
「――――ポーラ君ハ、【魔術】と【魔法】の違いが分かるかネ?」
【ポップコーン】を指先で浮かせて口へ放り込みながら、ベファーナは話し始める。
「【魔術】は【地上界】の法則へ、ある程度乗っ取りながらも逆らった【人の術】。一粒の種から成熟さセ、その種を再び植えて増やス。魔力が無い人でもきちんと学ビ、循環過程と結果さえ理解できれば誰でもできる術ダ。農耕の技術も広く見れば【魔術】だネ」
「そんな広い解釈でいいのですか?」
「一粒の種を時間をかけて増やせる技術と結果が無けれバ、【魔術】はその過程を省略できなイ。火は何があれば起こせル? 綺麗な水はどうすれば精製できル? 雷はどう作られレ、風は何処から吹いてくるカ。理解シ、検証シ、省略すル。【守護魔術】が【高等魔術】に分類されるのハ、過程から結果を否定しているからサ。【死】という結果を否定できれバ、肉一片や髪の毛一本を媒体に再生することも可能ダ」
「………………」
「一方、【魔法】は魔力と【詠唱】ができれば誰でもできル。知識が無くとモ、口や頭の中で唱えれば【最初からそうなるよう結果が出来てしまっている】からネ。ウチはこれが実に気に入らなイ。唱えれば火が起こせるのなラ、火が起こるまでの過程と結果を学ぶことは無くなル。唱えれば死者を何度でも生き返らせられるのなラ、命や死の重さも軽くなル」
「【禁忌の魔術】と……その、ベファーナさんの説明した【魔法】は、また違う物なのですか?」
「労力、対価、知識、魔力量、完成するまでの期間、【詠唱】の有無。……挙げればキリがないヨ。ソモソモ、無から有を作り出したリ、最初から結果が分かってて特定の【詠唱】必須ッテ、気持ちが悪いじゃないカ。まるで神へ頼んだリ、祈ってるみたいでサ」
珍しくつまらなさそうに話すベファーナの言葉を、知識の無い素人のこちらが完全に理解するのは難しい。ただ、全てを学ぶ必要のある【魔術】と違い、【詠唱】さえできれば原理や過程を学ぶ必要のない【魔法】を、彼女は酷く嫌悪している。彼女自身、神を嫌っているのもあるが。
「フム、もっと分かりやすく差別化しようカ。一から一を作れるのが【魔術】。零から一を、人が生まれた時から作れるのが【魔法】。麦一粒も使わず麦畑を造リ、死体も魂も無いのに死者を生者として生き返らせル。そうして生まれてきたモノへ無頓着になった存在ガ、傲りと嫉妬心の塊である神なのかもしれないネ」
「それが真実か?」
背後で会話を聞いていたアダムが割って入り、ベファーナを睨む。彼女はいつものニヤニヤ笑いをしながら両手のひらを天へ向け、顔を左右へ振った。
「可能性の一つとして聴いてくれ給えヨ。簡単に答えが導きだされてハ、君達の商売もあがったりダロォ? 期待してるヨ、【導きの天使】諸君ッ!! イーヒッヒッヒッ!!」
「……【魔女】と会話をすると疲れるな。アポロ、竜人族の演奏が行われる場所へ案内しろ。新人もあまり気を許すんじゃない。こいつは私達の理解の範疇を越えた存在だ」
空になった両手を払い、もぐもぐと口を動かすアポロと新人は互いに顔を見合わせ、【魔女】を見る。それに対しベファーナは膝へ肘をのせ、頬杖をついたまま余裕に満ちた笑顔をこちらへ返した。
「そこへ向かう前ニ、この通りの突き当たりまで進むとイイッ!! 質の良いスーツを仕立ててくれる店があるんダッ!!」
***
銀貨を懐へ入レ、新たに作った【ポップコーン】を噛みながラ、次の【客】が来るのを待ツ。ウーム、やっぱ見える認識の範囲が限定的過ぎテ、かえって誰も来ないナァ。今時の子ハ、【魔女】や【魔術】に興味が薄くなっちゃってるのカナ? カナカナ? マァ、本気で神頼みならぬ【魔女頼み】する人なんテ、ロクでもないワケ有くらいなもんだネ。
『ベファーナ嬢。こんなことに何の意味がある? 気紛れに人々をからかい弄んでいるのは、神も君も同じではないかね?』
背後の荷馬車内で瞑想を続けていタ、ザガムの声が聞こえル。彼らが来たら気配を殺して押し黙ってたクセニ、居なくなった途端皮肉をぶつけてくるとハ、相も変わらず女々しいというかネチッコイというカ。
「君の方こソ、彼らと話さなくてよかったのかイ? 積もる話は多いだろうニ」
『元より彼らとは、ただの利害一致による共闘関係。話さずとも相容れぬのは理解している。ならば語るまでもない』
「どうカナ? 軍師として心理や戦術傾向は読めてモ、君が身内に裏切られまいと驕リ、甘かったから負けたんじゃないカ。過去の反省から学ビ、理解しようと努力もしない時点デ、君はこれ以上は前へ進めなイ」
『進まずとも、退かずに維持することは出来よう。私は過去の亡霊。仕えるべき本来の主はこの世にはいないが、その偉大な志と二人への憎しみは決して消える事は無い』
ヤレヤレ、君は本当に面倒な男だヨ。大体、狂王はただの【神の傀儡】でアレ自体に【意思】といものは皆無ダ。魂の無い動く肉人形の首を刎ねたところデ、また新しい火種を作るか程度にしか神は考えていないのサ。【悪魔】の君が【首無し】となって生きていると神が知ったラ、次は君が火種になる番かもネ。ドレドレ、一つ新しい悩みの種でも植え付てやろうカナ。
「ソウダッ!! 面白い噂を聞いたんだけド、興味はあるかイッ!?」
『――――――』
「ダンマリ結構ッ!! 勝手に話すとモッ!! 実はネ、王都近隣の村や街でハ、ザガム君が生きているとの噂がたっているんダッ!!」
「ぶふぅっ!! おっふぇぶえっふぇっ!? それマジかよベファーナちゃぁんっ!?」
トウモロコシで咽るエポナが目を丸くしてこちらを見ル。
「アア、本当だとモッ!! しかもそいつは各地を巡って義勇軍を立ち上ゲ、人々に仇名す他種族、魔物や【機神】、果てには【悪魔】を討伐しているそうナッ!! イヤァ、実に頼もしい存在だと思わないかネッ!?」
「はああぁっ!? どういうことだよぉっ!? 俺様の主殿は間違いなくここに居るぜェッ!? 愛馬の俺様が言うんだっ、そいつが偽者じゃねぇかぁっ!?」
「イーヒッヒッヒッ!! どこぞの堅物と違ッテ、エポナ君は本当に良いリアクションをしてくれてウチは嬉しいヨッ!!」
『――――――』
ランスの柄を強く握る音が聞こえているヨ、ザガム大将。余程腹正しい話題とミタ。オー、大変大変。今直ぐにでも荷馬車を飛び出しテ、自分の名を語るそいつを殺したくて殺したくて仕方ナイ。どうやって殺すかで無い頭がいっぱいダ。
『――――その噂は初耳だ。【悪魔】となってから、昨今の王都周辺の情勢には疎くてな』
「ダロウネ。……マア、この噂自体は一ヶ月前くらいからサ。けどホントにクリソツらしいシ、君と違って頭が有ル」
指を鳴らシ、壺の中から立ち上る香の認識範囲へ【僅かな要素】を付け加エ、銀貨を移動させル。
「サテ、ここで問題ダッ!! 人の身体を二つに分けたとしよウッ!! 一方は頭のみデ、もう一方は首から下全テッ!! 心や感情は何処に宿るかと言われれバ、医学的には脳のある頭の方だソウナッ!? デハデハッ!! 肝心の【魂】はどちらに宿るのが正解でショ~カッ!? 分かるお客様はいらっしゃいますでしょうカ~ッ!?」
「――――当然、脳で考え思考するのだから【頭】だろう。元気な【魔女】さん?」
「ぶるるぅっ!?」
『!?』
目の前に立つのは身体を鋼色の鎧で覆イ、小振りの黒いランスを腰に下げた大男。濃い茶色髪を後ろで短く纏メ、厳しくも穏やかな笑みを見せる青い目と高い鼻、彫りの深い顔立ち。左耳には妻から貰った銀色の涙型イヤリング。ソウ、ウチは君の事を待っていたんダ。
「ホホゥッ、ナルホドッ!? ……アラ? お客様、どっかで見たことアルヨウナ~、ナイヨウナ~? もしかしテ、有名人の方だったリ?」
「ふぅむ……参ったなぁ。ここまで顔や噂が広まっているのは大変喜ばしいが、何分今日は娘と二人で来ているんだ。騒ぎになられても困るし、秘密にしておいてくれるかね。手打ち金として、何か一つ買って行こう」
周囲を軽く見まわした大男は屈み、商品を見定めつつ声を落として呟く。
「ご明察だ、元気な【魔女】さん。私の名前は【ザガム・ランス・ラインハルト】。王都近辺で、ちょっとした義勇軍の部隊長をやっている」
「ア~……アレェ? でも【ザガム大将】は侵略戦争時に亡くなったと聞いてるヨ?」
「確かに。私は魔王城周辺で残党狩りをしている最中、【勇者】に首を刎ねられ死んだ。愛馬のエポナと共に……【表向き】ではそうなっている。だがね、戦場でのやり取りは【勇者】が私の中に憑りついた【悪魔】を払う行為であり、実際に首を刎ねられ死んだわけじゃないんだ。【狂王】の意思が宿った鎧を脱ぎ捨て、彼に担がれて戦場を離れた私は、生き残った仲間と共に静かに養生していたのだよ」
「スゴイッ!! 話が壮大過ぎてウチわからないヤッ!!」
「あっはっはっはっ!! まぁ、私も君の立場であったら信じられないし、理解も追いつかないっ!! ……だが、史実が全てではない事は知っておき給え。現王は酒を酌み交わした我が親友。表立って彼を支えることはできずとも、義勇軍として裏や下から支えることはできる。今では妻や娘、使用人達と穏やかに暮らせているしね。……彼には、感謝してもしきれないよ」
鋼鎧の大男――――【ザガム・ランス・ラインハルト】は【咥え煙草】が気になるらしク、手に取って細部まで見回シ、夜市の明かりに光沢を反射せていル。一方、背後の荷馬車で心臓を含めた全身十ヵ所に銀貨を埋め込まれたザガムは動けズ、【声】も出せずにいタ。馬の方は逆にビビってそっぽ向いてるシ、喧しく無くてチョウドイイ。
シカシマァ、【首無しザガム】は真実を知ってしまっタ。今まで自分自身をザガムだと疑わなかった亡霊ハ、一体どうなるんだろうネ? アア、ニヤニヤが止まらないヨ。こんなに面白そうな展開は今まであったかネ、【観測者】諸君。
「……実に見事な品だ。しかし、妻や娘に煙草を止めるように言われていてね。エポナも……煙草の臭いを、あまり好まなかったなぁ……」
ザガム・ランスは目に涙を溜めて語尾を震わせながラ、荷馬車に繋がれた馬を見ル。ダブって見えるって? ソリャソウダ、だって君の愛馬だもノ。彼は目を閉じて夜空を見上ゲ、涙が収まるのを待ってから【咥え煙草】を元の位置へ戻ス。
「……すまない、つい昔を思い出してしまった。煙草の代わりに飴玉四つ……それから、目玉商品を一つ買おう。どんな効能があるのだね?」
「飴玉は【お守り】だヨッ!! 近頃何かと物騒だからネ、事前に舐めておけば一度は致命傷を防いでくれルッ!! 目玉商品の方は【小さなゴーレム】ッ!! 魔力を注げば主を守る為にピョコピョコ動き出す筈サッ!! 騙されたと思って買っていっちゃってヨッ!!」
「あっはっはっ、それは頼もしい。【魔術】は昔からからっきしなんだが、不思議と君の物は偽りがなさそうだ。さては本物の【魔女】だな?」
「イーヒッヒッヒッ!! バレちゃぁしょうがナイッ!! なら【初心者魔術入門書】もオマケで付けちゃウッ!! これを読んで勉強し給えヨッ!!」
「うぅむ……私もいい歳だ。果たして今から学んでも間に合う物だろうか……」
「ボケ防止にはいいと思うヨ?」
「成程。では、後学の為にゆっくりと学ばせてもらうことにしよう。おいくらかな?」
ザガム・ランスは金貨五枚と銀貨十五枚をウチへ手渡シ、ポラリス達の歩いて行った方向へ自然と足を向けタ。サテサテ、ポーラ君、スピカ君。君らがどういった選択をするカ、見させてもらうヨ。
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