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第4話
しおりを挟む第4話 覚醒者抹殺命令
白い石畳が、朝陽にまぶしく光っていた。
城壁の巨大な門をくぐると、王都アステルの空気が一気に変わる。
香草の匂い、屋台の喧騒、鐘の音、そして――人の多さ。
天城蓮は圧倒されていた。
異世界の都市というより、まるで中世ヨーロッパの首都を魔法で拡張したような街並みだ。
通りを行く人々は、獣人、エルフ、ドワーフ、人間――多種多様。
異世界の“本気”を、初めて肌で感じる。
「ここが……王都か。でけぇ……」
「ふふっ、口が開いてるわよ」
隣でエリスが微笑んだ。
彼女の白いローブは陽光を反射し、街の人々からも注目を集めている。
護衛のレインは周囲を鋭く見回しながら言った。
「人混みが多すぎる。警戒を怠るな」
「お前、警戒してない時間あるのか?」
蓮が呆れ半分で言うと、レインは淡々と返した。
「お前の存在自体が危険なんだよ、転移者」
「はいはい、ありがとよボディーガード」
軽口を交わしながら三人は進む。
向かう先は、王都中央区――“スキル研究塔”。
転移者や高位スキル保持者の鑑定を行う、王立最高機関だ。
⸻
塔はまるで天を貫くようにそびえ立っていた。
白い魔石で構成された円柱構造、上部は雲に隠れて見えない。
近づくだけで空気が変わる。魔力が濃い。
建物全体が一つの巨大な魔導具のようだった。
「ここでお前のスキルを正式に鑑定する。
進化待機状態のままでは、正確な数値が出ない」
エリスが説明する。
「つまり、俺の“模倣”が本当に化けるかどうか、ここでわかるってことか」
「そう。……ただし、慎重にね」
その言葉には、わずかな不安が混じっていた。
⸻
塔の内部は荘厳だった。
天井には魔法陣が浮かび、魔力の流れが網のように張り巡らされている。
受付の女性がエリスを見るなり姿勢を正した。
「ヴァンデル様! お戻りでしたか」
「転移者を保護したの。スキル鑑定をお願いします」
女性は蓮を一瞥し、わずかに眉をひそめた。
だがすぐに書類を取り出し、部屋の奥へ案内する。
⸻
鑑定室。
中央に円形の魔法陣が描かれ、その上に黒曜石の台座が置かれている。
台座の中心には青く光る宝玉。
「その宝玉に手をかざして。魂の波長とスキル構造を解析するわ」
エリスが言った。
「わかった」
蓮は深呼吸し、右手を宝玉の上に置く。
途端に魔法陣が光を放ち、部屋全体が青白く染まった。
体の奥から、何かが引きずり出されるような感覚――。
《スキル鑑定開始》
《対象:天城蓮》
《固有スキル:“模倣(コピー)” 進化待機中》
《解析中……》
次の瞬間、青だった光が“金”に変わった。
エリスの目が見開かれる。
「金色の反応……!? そんなはずは……!」
ウィンドウが次々と展開される。
見慣れた文字列ではない。
文字が自動的に変換され、蓮の脳に意味が流れ込む。
《分類:神格権限候補スキル》
《上位形態:“超越模倣(オーバーライド)” 確認》
《警告:神域コード干渉》
「……なんだこれ」
蓮が呟いた瞬間、警報音が鳴り響いた。
部屋中に赤い光が点滅し、魔法陣が制御不能に陥る。
「警戒レベルA! 神格干渉スキルを検出!」
外の廊下から兵士たちの足音が押し寄せる。
エリスが叫ぶ。「停止! 彼は敵じゃないわ!」
だが、兵士たちは一斉に剣を構えた。
「命令が下った! “覚醒者”を拘束せよ!」
「……は?」
蓮の心が冷える。
まるでゲームのバグを見つけたプレイヤーを、運営が強制BANするような光景だった。
レインが前に出る。「陛下の命令か?」
「違う。上位神殿の“神託”だ!」
その言葉に、エリスが顔色を変えた。
“神託”――それはこの世界の絶対命令。
王でさえ逆らえない、神からの宣告だ。
「……まさか、もう動いたのね」
エリスが唇を噛む。
「どういうことだよ!?」
「あなたのスキルは“神の支配構造”を破壊しうる。
だから神々が恐れたの。――あなたを消そうとしてる!」
「ふざけんな!」
蓮が叫ぶより早く、兵士たちが魔法弾を放った。
閃光が走り、床が爆発する。
エリスが防御魔法を展開した。
「《プロテクション・シェル》!」
透明な障壁が衝撃を弾く。
だが数が多すぎる。
十人、二十人――完全に包囲されていた。
「レイン、右側を!」
「了解!」
剣の軌跡が閃光を描き、兵士の槍を弾き飛ばす。
蓮も立ち上がり、スキルウィンドウを開いた。
《対象:“王都兵士C”
スキル:“剣術E” “集中F” “防御姿勢E-”》
「模倣――“剣術E”!」
瞬間、蓮の体が軽くなる。
頭の中に、剣の重心と軌道が流れ込む。
倒れていた兵士の剣を拾い上げ、目の前の男を切り返す。
鋭い斬撃。
兵士が驚いた顔のまま吹き飛ぶ。
「チート野郎が、本当に……!」
蓮は息を荒げながら笑う。
「そうだよ。俺はチートで上等だ!」
その声に、エリスが苦笑する。
しかし戦況は悪化していた。
塔の上階から魔法師部隊が降りてくる。
空気が震え、上空に巨大な魔法陣が浮かぶ。
「……高位拘束術式、来るわ!」
エリスの声が悲鳴に変わる。
逃げ場がない。
このままでは全員、拘束か――処分。
その瞬間、蓮の視界が金色に染まった。
脳の奥に声が響く。
《進化条件すべて達成》
《スキル進化を開始します》
「今かよっ!?」
身体が光に包まれる。
金の魔法陣が足元に展開し、風が渦を巻く。
兵士たちが驚きの声を上げる。
《固有スキル:“模倣(コピー)” → “超越模倣(オーバーライド)”》
《神格領域を部分的に解放》
蓮の瞳が淡い金色に変わった。
周囲の魔法陣がすべて停止する。
兵士たちの放った魔法弾が空中で静止した。
「なっ……動かない……!?」
「な、なんだこれは!」
蓮は低く呟く。
「“模倣”じゃない。“上書き(オーバーライド)”だ」
手を伸ばす。
停止した魔法弾が一瞬で反転し、放った兵士たちに向けて撃ち返された。
爆炎。悲鳴。
魔法陣の制御を“奪う”。――それが新しいスキルだった。
エリスが息をのむ。
光の中で、蓮の姿がゆっくりと沈んでいく。
「天城蓮……あなた、もう人間じゃ――」
視界が再び金に染まり、音が遠のいていく。
蓮の意識が途切れる直前、システムボイスが響いた。
《覚醒段階:第一位 “神を模倣する者”》
そして、世界が――静かに崩れた。
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