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第7話
しおりを挟む第7話 虚神の囁き
風が鳴いていた。
いや、風ではない。空気そのものが呻いている。
黒い霧が地平線いっぱいに広がり、空を食いちぎるように渦巻いていた。
それは煙でも雲でもなく――“存在の欠片”。
世界の外側へ続く“裂け目”だった。
天城蓮たちは、裂け目の手前で足を止めた。
周囲の草木はすべて枯れ、地面は灰色に変色している。
この先に“神々が封じた何か”がある。
「……これが、“外”」
エリスが呟く声は、かすかに震えていた。
魔力を帯びた空気が肌を刺す。息を吸うだけで喉が痛む。
リィナは銃を構えたまま、口笛を吹く。
「こりゃすげぇ。空気の密度が違う。まるで世界そのものが拒んでるみたい」
「正確には、“神が”拒んでるんだろうな」
蓮は静かに答えた。
金色の紋章が腕で微かに脈動している。
近づくほどに、スキルの反応が強まっていた。
その時――
空が鳴った。
音ではない。脳の奥を叩く“声”。
《……オマエ……ナノカ》
蓮が顔を上げた。
黒い霧の奥から、光がゆらめく。
声は形を持たず、直接心に染み込んでくる。
「誰だ……?」
《ワレハ……虚神。
かつて、万象を喰ラウ者。
神ニ封ジラレシ……始原ノ影》
エリスが蒼白になった。
「虚神が……話してる……? 伝承では封印されたはずなのに!」
リィナが銃口を霧に向ける。
「撃ち抜けるもんなら撃ち抜いてやる……!」
だが、蓮は手を上げて止めた。
「待て。……聞こえる」
霧の奥から、再び声が響く。
《模倣者ヨ。
ナゼ“内側ノ神”ノ枷ヲ破ッタ》
「内側の神……あの黒い影のことか?」
《ソウ。
ソノ神ハ、我ノ力ヲ奪イ、世界ノ形ヲ作ッタ。
人ノ魂ニ鎖ヲ巻キ、運命ト名ヅケタ》
エリスが唇を噛む。
「そんな……やっぱりこの世界の“秩序”は……虚神の力を奪って作られた……」
蓮は霧の奥を睨んだ。
「じゃあ、お前は神に復讐したいのか?」
《復讐……? 否。
我ハ“均衡”ヲ求ム。
奪ワレシ力ヲ、奪イ返スノミ》
「つまり、俺を利用したいってことか」
《利用デハナイ。共鳴ダ。
オマエノ中ニアル“欠片”ハ、我ノ分身。
ソノ力ヲ完全ニ取り戻セバ――オマエハ真ノ模倣者トナロウ》
声が低く、甘い。
誘惑のように脳を包む。
金色の紋章が熱を持ち、腕が焼ける。
霧の中から、一本の黒い光が伸び、蓮の胸に触れた。
瞬間、視界が反転する。
⸻
見知らぬ記憶が流れ込んできた。
無数の神々。光の都市。スキルの誕生。
そして――人間たちが作られる瞬間。
“神々が管理する魂の図書館”
“模倣”という名の禁断コード。
蓮は息を呑んだ。
見えた。
この世界の裏側が。
人間たちは生まれる前にスキルを与えられ、神の観察下で生涯を終える。
その記録を“魂データ”として保存し、神々が再利用する。
輪廻も転生も――ただのシステム再起動。
「……そういうことか。
俺たち、人間は、神の実験材料ってわけだな」
《理解シタカ。
ダガ、オマエハ違ウ。
オマエハ、外部カラ流レ込ンダ“バグ”》
「バグ……?」
《神ノ図書館ニ存在シナイ魂。
故ニ、世界ヲ書キ換エル権限ヲ持ツ》
蓮の背筋が凍った。
それは誇りでも祝福でもない。
――呪いだ。
そのとき、後ろから声がした。
「蓮! 離れて!」
エリスの叫び。
次の瞬間、霧の奥から黒い腕が伸びてきた。
リィナが即座に銃を撃つ。
光弾が腕を貫き、黒い液体が飛び散った。
蓮は跳び退きながら息を吐く。
霧の中から、人型の影が浮かび上がってくる。
人でも獣でもない。空洞のような存在。
《我ガ力ヲ、思イ出セ……模倣者ヨ……》
「思い出せ、ねぇ……?」
蓮の脳裏に、過去の光景がフラッシュバックした。
体育館、悠斗、転移の光。
“現実世界”での記憶。
――いや、それだけじゃない。
不意に、別の記憶が流れ込んだ。
それは、リィナの過去だった。
焼け落ちる村。泣き叫ぶ子ども。
神殿兵に捕まる家族。
少女の絶叫。
「な……なんだ、これ……!」
蓮は頭を押さえた。
リィナが驚いて振り向く。
「おい、何した!? なんであたしの記憶が――!」
エリスが叫ぶ。
「蓮、スキルを止めて! 今、あなた……“心”を模倣してる!」
《……ソレダ。
模倣者ハ、“能力”ノミナラズ、“魂”モ写ス》
虚神の声が満ちる。
蓮の中で、リィナの怒りと悲しみが混ざる。
胸が締めつけられ、涙が勝手にこぼれた。
「……こんな……重ぇもん、よく一人で背負ってたな……」
リィナが目を見開く。
「やめろ……! 見るな!」
「悪い。見たくて見たわけじゃねぇ。
でも、今わかった――お前、神殿に全部奪われたんだな」
蓮の声が低くなる。
金色の光が再び腕に集まり、霧を押し返した。
「虚神。
もし俺が“真の模倣者”になるってんなら――
その力、全部奪ってやる」
《フ……望ムナラバ、全テヲ与エヨウ》
光と闇が衝突する。
地面が割れ、空が揺れる。
金と黒の渦が蓮の体を包み込んだ。
エリスとリィナは手を伸ばしたが、光に弾かれた。
「蓮ッ!!」
世界がひっくり返る。
耳鳴り、眩暈、そして――静寂。
次に蓮が目を開けたとき、そこはもう霧の中ではなかった。
見上げる空には星が一つもない。
ただ、黒と金の境界線。
そして、目の前には、もう一人の“自分”が立っていた。
同じ顔、同じ声。
けれど、その瞳は完全な闇だった。
「よう。
“俺”を写す準備はできたか?」
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