12 / 80
第12話
しおりを挟む第12話 再誕の地
――朝陽が昇る。
だが、それはこれまでのどんな朝とも違っていた。
空は澄み渡り、風は柔らかく、どこまでも静か。
鳥の鳴き声が響き、木々の葉が光を反射している。
世界は確かに“新しく生まれ変わった”のだ。
エリスは草原の丘の上に立ち、遠くの地平を見つめていた。
王都はもう存在しない。
神殿も、スキルも、秩序も――すべてが消えた。
けれど、そこに広がる風景はどこか穏やかで、優しかった。
「……本当に、全部やり直しになったのね」
背後から足音。
リィナがゆっくりと歩いてきた。
髪は短くなり、鎧も失われ、ただ一人の“人間”としての姿になっている。
「信じらんねぇな。
あたしたちのスキルも消えて、ただの女二人になっちまった」
「でも、生きてる。それが一番大事よ」
エリスは微笑み、空を仰いだ。
太陽がまぶしく輝いている。
「……蓮。あなた、本当にやり遂げたのね」
リィナは無言で煙草を取り出しかけ、ふと止めた。
「火も魔法で点けられねぇんだったな」
エリスが手のひらをかざし、小さな火を生み出そうとした。
だが何も起きない。
思わず笑ってしまう。
「ねぇ、これが“普通の人間”ってことなのかもね」
「不便だけど、悪くないさ」
リィナが空を見上げ、ぽつりと呟く。
「神がいないってのは、案外気持ちいい」
⸻
二人は、丘のふもとに作った小さな焚き火の前に座った。
周囲には同じように目を覚ました人々が集まっている。
誰もが記憶の断片を持ち、誰もが“何かを失った”ことだけを知っていた。
「なぁ、エリス。
あの光のあと、あたしらはどれくらい眠ってたんだ?」
「……たぶん、何ヶ月か……いえ、もっとかもしれない。
でも時間の感覚が変わってるの。
この世界では“時間”すら新しいルールで動いてるみたい」
「新しいルール、ね。
つまり蓮のやつ、世界そのものを書き換えちまったのか」
「ええ。
“スキルも、神も、運命も存在しない世界”――
ただ生きることが、すべての力になる世界に」
エリスの言葉に、焚き火の炎が静かに揺れる。
「皮肉だな。
神を倒した結果、人間が“最初の人類”に戻るなんて」
「それでもいいのよ。
これからまた、“私たちの手”で作っていけばいい」
その瞳には、わずかな涙と確かな決意が宿っていた。
⸻
その頃――
別の場所。
黒い海を臨む断崖の上で、一人の青年が目を覚ました。
潮の匂い。
冷たい風。
波が岩を叩く音。
天城蓮は、ゆっくりと上体を起こした。
衣服は破れ、身体中に古い傷跡が残っている。
しかし、痛みはない。
「……俺、生きてんのか」
手を見つめる。
金黒の紋章は消えていた。
もう、“神を上書きする力”も存在しない。
けれど、その手には確かな“温もり”があった。
風、光、波――世界のすべてが、穏やかに息づいている。
「やっと……終わった、のか」
蓮は立ち上がり、遠くの水平線を見つめた。
そこには、かつて見たことのないほど美しい光景が広がっていた。
太陽が昇り、海面に黄金の道を描く。
その光景を前に、蓮は小さく笑った。
「……こんな景色、神ですら創れなかったろ」
波音の中、彼の耳に懐かしい声が響く。
――『次は“人として”また会おう』
その声は、かつての自分――神域で別れた“虚神”の残響だった。
「人として、か。
悪くねぇ……それも、模倣じゃない生き方だな」
風が頬を撫で、空を渡っていく。
蓮は歩き出した。
目指すのは、見知らぬ大地の向こう。
もう誰の命令もない。
誰も導かない。
ただ、自分の意思で生きるだけ。
⸻
一方、エリスたちの集落では、夜の焚き火が再び燃えていた。
リィナが薪をくべ、笑う。
「ねぇエリス。
もし蓮がまだどこかに生きてたら、何してると思う?」
エリスは少し考え、優しく笑った。
「きっと……歩いてるわ。
この新しい世界を、見届けるために」
「だな。あいつ、そういうやつだ」
空を見上げる。
そこには、星が無数に輝いていた。
どれも同じ明るさで、神の象徴だった星座はもう存在しない。
「星が全部“人の光”に見えるわね」
「それも、蓮が残した“世界の再構築”だろ」
エリスは目を閉じ、焚き火に手をかざした。
その炎の揺らぎの中に、彼の笑顔が浮かんだ気がした。
「ありがとう、蓮。
あなたがくれた“自由”――私たちが守るわ」
風が吹き、焚き火の火が夜空に舞い上がる。
それはまるで、消えた神々の魂が再び光となり、
人間の願いを照らすかのように見えた。
⸻
海の果てを旅する男と、草原で夜空を見上げる女。
彼らはもう、スキルも奇跡も持たない。
だがその心には、確かな“意志”があった。
――それこそが、神をも超えた“模倣者の証”。
世界は静かに回り始めた。
誰のためでもなく、人々自身の手で。
そして物語は、新たな章へと続いていく。
11
あなたにおすすめの小説
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~
アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる