13 / 80
第13話
しおりを挟む第13話 人の灯(ともしび)
夜が明けた。
かつて神に支配された世界は、いまや完全に“人のもの”となっていた。
スキルは消え、魔法は失われ、誰もが同じ“無力”の存在。
けれど、その無力さが――人間を、再び強くしていた。
エリスは丘の上から、広がる集落を見下ろしていた。
数十人の人々が、倒れた木で家を作り、火を起こし、畑を耕している。
文明の最初の“灯”がともり始めていた。
リィナが後ろから声をかける。
「おい、賢者さん。今日も働かねぇで眺めてるのか?」
エリスは笑った。
「私は設計担当なの。実務はあなたたち力仕事チームでしょ?」
「へいへい。……まったく、神が消えても頭の回転は変わんねぇな」
リィナは苦笑し、木を肩に担いだ。
彼女の服は粗末な布でできているが、眼差しは凛としている。
その姿は、かつての“傭兵”ではなく、
新しい時代を導く“戦士”のようだった。
「なぁ、エリス。
この村、名前を決めようぜ。
せっかく“最初の街”になるんだ、カッコいいやつをさ」
「ふふ、もう考えてあるわ」
エリスが小さく微笑む。
「“アマギ”――どう?」
リィナが目を瞬いた。
「……蓮の名前、か」
「ええ。
彼がくれた自由の象徴として、この場所に刻みたいの」
リィナはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「いいじゃねぇか。
あいつの名を、最初の灯にする。文句なしだ」
⸻
数日後、
“アマギ”と名付けられた集落には活気が戻り始めた。
火を扱える者、狩りが得意な者、言葉を記録する者――
それぞれが役割を見つけ、助け合いながら暮らしていた。
夜になると、焚き火を囲んで歌が生まれた。
誰かが笛を吹き、子どもたちが踊る。
スキルも魔法もない代わりに、
“心”だけで生きる人間たちの世界が広がっていた。
リィナは焚き火を見つめながら、ぽつりと言った。
「なぁ、エリス。……本当に神が全部いなくなったのか?」
「ええ。
でも、完全に消えたわけじゃない。
“記憶”として、世界の奥に残ってる。
風の流れとか、星の瞬きとか……。
それはもう“信仰”じゃなく、“痕跡”よ」
「なるほどな。
あたしらは、神の亡霊の上に生きてるってわけだ」
エリスは微笑む。
「そうね。でも、それを恐れる必要はないわ。
だって私たちは、“人の灯”を持っているもの」
⸻
その夜。
集落の中央、焚き火の前にエリスが立っていた。
彼女の前には、村の人々が集まっている。
今夜は“誕生祭”――アマギ建国の儀式。
「みんな、静かに聞いて」
エリスの声が夜空に響く。
「ここに集まった私たちは、かつて神に支配されていた者たち。
でも、いまは違う。
この火は、誰の許可もいらない“人間の火”」
焚き火が大きく燃え上がる。
エリスはその光を見つめながら、続けた。
「この灯は、天城蓮――かつて“模倣者”と呼ばれた青年が残してくれた。
彼が神々の力を超え、世界を上書きしたおかげで、
私たちはもう、誰にも支配されない」
人々の中から、ひとりの子どもが声を上げた。
「その人……どこにいるの?」
エリスは少しだけ目を伏せた。
焚き火の炎が彼女の横顔を照らす。
「遠い場所で、きっと世界を見ているわ。
でもね――彼はもう神じゃないの。
私たちと同じ“人”として、生きてる」
人々の間にざわめきが走る。
やがて誰かが言った。
「だったら、また会えるんだね」
エリスは頷き、笑った。
「ええ。いつかきっと」
その瞬間、夜空の星が一つ流れた。
金色の尾を引きながら、遠くの地平に消えていく。
それはまるで――誰かが“見ている”合図のようだった。
⸻
同じ頃、遠い大陸の海辺。
夜の海を背に、ひとりの青年が歩いていた。
月明かりが海面に反射し、波の音が静かに響く。
天城蓮。
彼は、ひとつの村の灯りを遠くに見つけ、足を止めた。
「……アマギ、か」
風が頬を撫でる。
その風の向こうから、懐かしい声が聞こえた気がした。
“ありがとう”――優しく、あたたかい声。
蓮は目を細め、空を見上げた。
星々が瞬き、世界のどこにも“神の名”はもうない。
代わりに、星ひとつひとつが“人の願い”で輝いている。
「……お前ら、ちゃんと生きてるみたいだな」
蓮は微笑み、背を向けた。
新しい朝が来る。
もう誰の模倣でもない、“人間としての一歩”が始まる。
彼の足跡が、砂浜に新しい線を描いた。
それは、未来へと続く――“人の創世の道”。
11
あなたにおすすめの小説
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる