詐欺る

黒崎伸一郎

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萩原海人としての出発③

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直美の家は決して裕福とはいえない感じの家だった。
駅から少し離れていて築三十年くらいの平屋建てだ。
庭も小さく合わせても三十坪あるかないかの家だった。
今日はいろいろ動いていたので時計を見るともう夕方の六時前。
表札を見ると新川五郎と文江、その下に直美の名前が書いてある。
(新川家にはやはり子供はいなかったんだな…)
と思い玄関を覗いた瞬間、「新川さんならまだ病院じゃない?」と買い物から帰ってきたらしい隣の奥さんらしき人が教えてくれた。
「あっ、すいませんどこの病院でしたかね?」私は知り合いみたいな感じで明るく尋ねた。
隣の奥さんらしき人は近くの日赤病院だと教えてくれた。
私は深々と頭を下げ「ありがとうございました、助かりました!」
と礼を言ってその場を離れた。
離れた後、私は考えた。
私は新川家の事は何も知らない。
やはり少し情報があった方が直美に近づきやすい…。
結局その日は出直すことにした。
次の日の朝、サウナのあった街まで出かけ探偵所に新川家の実状を調べてもらうことにしたのだ。
ビルの二階にあった探偵社は依頼に対し三日間で調べ上げる事を約束し、私は調査費として十万円払った。
その十万円が高いか安いかは問題ではない。
自分では調べられない情報を調べてもらわなければちゃんとした形で直美に通帳を渡すことはできないと思ったからである。
私は空いた三日間で運転免許をとりに行くことに決めた。
三日で普通免許などとれるはずはない。原付免許である。
バイクが欲しいのではない。
萩原海人としての顔写真付きの証明証が欲しかったのだ。
保険証だけよりやはり免許証があった方がより萩原海人になり切れる筈…と思ったからである。
すぐに原付の免許を取るために教習所に行き必要書類を揃えて二日後に筆記試験を受け合格した。
免許用の写真を撮り免許証を作った。
これでほんとに萩原海人になった気がした
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