詐欺る

黒崎伸一郎

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詐欺師萩原海人3

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赤ワインを一本飲みきりもう少し飲み足りなかったが、今日は直美の悩みの解決策を出さなければならなかった。
直美は通帳の使い道を私に話した。
とりあえず父親の入院費を払い、がんの手術費を払ったのだ。
病院の支払いは月々、直美が遅れながらでも払っていたが、手術代は三百万円かかると医師が言うので諦めていた。
その金を支払えた為、手術ができることになり来月手術をする日が決まったとのことだった。
どうやって金ができたと親に言ったのかと、私は尋ねた。
すると直美は誰も考えないようなことを親に言ったのだった。
それを聞いた私は「そんなの無理だよ!」と思わず口に出してしまった。
直美の話はこうだった。
中学三年の時県大会優勝、高一の新人戦全国大会ベスト八、二年生の時もベスト八だったがバイトの為、好きなテニスをする事さえ出来なくなっていた。
数校の大学から推薦で入らないかとの話が来ていたのは事実で、親も知っていた。
だが現実にお金がなくて大学には行くことはできない為、その話はもう終わっていたのだ。
そこで直美は高校最後の全国大会で決勝戦に出場できれば、大学の入学金、授業料はもちろん大学に入るまでの生活費全てが出ると親に話した。
しかも父親の手術代も立て替えてもらえるという無茶苦茶な話を作り、親を納得させたらしい。
私は話を聞いた瞬間、その話には無理が何個もあることを指摘した。
まずはそんな大学は存在しない事。
そして一番の問題は練習もろくにしないのにインターハイで優勝戦まで残れる可能性は本当にミクロの確率しかない。
しかも練習する時間なんかない筈…。
と話したところで、私はもしかしたら…と思い直美に聞いた。
「バイト辞めた?」
すると直美は間髪入れずに頷いた。
私はそのくらいの練習で勝ち続けることは漫画の世界しかないよ、と直美に言った。
「わかってるわ、そのくらい。
でもそのくらい言わないと両親は納得するわけがないの。
それでも納得はしてないけどね」平然と答える直美に(お前は詐欺師にはなれないな…)と感じた。
すぐ嘘とわかるからであった。
でも実際に萩原海人からのお金とは言えない。
何故なら、両親から二度と会わないとようにと言われた人からのお金とは言える筈はない。
苦肉の策とはこの事であった。
「一生懸命やって駄目だったら仕方ないわ」と直美は割り切ったような口調で私を見た。
「そりゃそうだが…」
私はそれ以上続きの言葉を考えることができずに言葉を濁すことしかできなかった。
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