詐欺る

黒崎伸一郎

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詐欺師萩原海人4

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結局直美はすでに親に話していたのだから、私に相談する必要などなかったのだ。しかし、やはりまだ高校生だから誰かに聞いてもらわなければ一人で抱える悩みにしては余りにも大きすぎたのだろう。
そう感じた私は、これからは海人との約束通りに暖かく見守ってやろう、
と素直に思えたのだ。
来週試合があるから終わったらご飯奢って!とメールが来たのはそれから一ヶ月程経ったときだった。
ご飯くらいいつでも食べに行っても構わない。
私には時間はいくらでもあるのだ。
だがあまりそんな気を見せるのはエロオヤジとして見られかねないので(十分エロオヤジだが…)「了解。試合頑張れよ」とメールを送り返した。
たとえ試合に早めに負けたとしても仕方のない。
そんなに世の中は甘くはない。

そんな事を考えているうちに私は保険の二回目の引き落としの日を迎えていた。
来月に入って病院に診察に行くつもりだ。
その病院もすでに決めてある。
決めた病院は精神病院だった。
昔、精神病院といえば精神分裂の人が多く、暗いイメージがあったが、最近の病院はうつ患者が大半を占め、全国のうつの患者数も三百万人とも言われる。
一年間で自殺者も三万人を超える数と記されてあった。
そしてアルコール中毒患者のアルコール依存症も問題化していたのだった。
私の決めた病院は開放病棟と閉鎖病棟とがあった。
閉鎖病棟とは鍵のかかっている病棟で自分の自由が制限されるけれど、開放病棟は鍵がなくわりと自由のきく病棟でしかも個室がある。
外出外泊が可能な病院でもあった。
ここなら自分が入院しても充分我慢ができる病院だった。
九月になり、初めての外来で病院に行くことにした。
医師の診察があり、酒を飲むとブラックアウト状態になって全く訳が分からなくなる。
その度に喧嘩や怪我が後をたたないので酒をやめたいのだが、アパートに一人でいると必ず酒を飲んでしまう。
だから入院して治したいと主治医に話をして任意入院という入院にしてもらった。
任意入院とは自分の意思で入院し、自分の意思で退院できる入院の事だ。
それの逆の強制入院というのがあり、医者が強制的に入退院させる事が出来て自分の意思では何もできない入院の事を示す。
すぐに入院が決まった私は、アパートから入院用の洋服や外出用の洋服などをボストンバッグ二個にそれらを詰めて病室に持って行った。
その病院には一番上の階が全て個室になっていて、個室にはテレビとトイレがついていた。
風呂は大風呂で毎日朝十時から夜九時まで自由に入ることができて、一人三十分の入浴時間がある。
朝、一番風呂で毎日入れる為、私は毎日朝一の大風呂に一人で入ることができた。
個室から出てフロアに行くと広い部屋に何人かいて雑談をしていた。
そんなに重病の人はいるようには見えなかったが、そういう人は部屋で一人でいるみたいだった。
携帯も病室に持ち込み可能で、外出は朝八時から自由にすることが出来て夜八時までに病室に帰ってくれば良かったのである。
そんな夢のような病院が現実にあったのだ。
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