詐欺る

黒崎伸一郎

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悪夢の連鎖(終わりへの始まり)

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葬儀は母の望みもあって質素にした。
その代わりに両親の墓を建てた。
父が眠ってた墓の近くに二人でゆっくり眠って欲しいからと私から直美に立てさせて欲しいと頼んだのだ。
直美は涙を流して喜んだ。
直美の私への愛が一層深まったのは言うまでもない。
私も愛していた。
もちろんそれは今も変わらない。
ただ私にもわからないんだ。
私が幸せになれる訳などないのだから。
葬儀代に墓を建てた金も全部私が出して、私は来週の入院まで金が三十万円あるかないかになった。
直美は私が詐欺師であることは前から知っていたが何をどの様にするかも既に知っていた。
私が母の葬儀の後で話したのだ。
直美はもう驚かなかった。
前から詐欺師だということは知っていたし、私が嘘つきだということも話した。籍を入れていないけど子供がいることさえも全て話した。
極め付けは私の言葉は全て嘘だと思ってくれていいからと言ったのだ。
「分かったわよ、もう!真剣な顔で話があるからって言うから、女の話かと思ったらそんな話?」
(そんな話って…)
「とっくの昔からわかってるし、その話に関連したことはもう百回以上聞いて耳にブタが出来てます。」
(おい!そこはタコだろ)
私はいつもとは違う拗ねた感じで言う直美の耳に顔を近づけ「どこにブタがいるのかな?」と聞いた。
私を指差し「ここにいます」と言いながら笑ってくれた。「もう嘘はつかないから」と嘘を言った。
直美は笑ってそれには答えなかった。
「来週は入院だから甘いものとかカップ麺ばかり食べたら本当に豚に戻っちゃうから食べないでよ!」
と私に顔を近づけながら言ってきたので私はそのままキスをしてベッドに静かに倒れ込んだ。
私は三度目の入院をした。
退院して八ヶ月目だった。
三回目も病名はうつ病である。
担当医はまだ変わっていないが来月から変わるとのことだった。
どうやら地元に帰ってクリニックを開くらしい。
精神科は儲かるのかな?とも思ったがそれよりどんな医師に変わるのか気になる。
今まではわりと優しい医師だったがあまりきつい先生にならない様に祈っていた。
入院して初日に私は今入院しているメンバーとフロアで話をした。
田中明という名の二十五歳だ。
麻雀屋で誘った男だったが何回か飲みに連れて行って話をしたのだった。
麻雀のバイトは思ったよりもきつい。
時給九百円で十二時間働いて日給一万円にはなるはずだが、現実はそこから麻雀で負けたら引かれる。
もちろん勝てればいいのだが基本的に勝てない。
何故なら調子が良くても途中で客が来ると変わらなければいけないし、悪かったら負けて他の従業員と変わらなければならないのでまともに給料をもらっている従業員などほとんどいない。
もちろん金は持ってはいない。
話にはすぐに乗ってきた。
ただ入院前に金を三十万円貸して欲しいとのことだった。
麻雀で負けて三十万円麻雀屋から借りているのだと言った。
私はまだ若いので保険料が安いので四十万貸してやるけどちゃんとマニュアル通りにするのと、私との約束は必ず守ることの条件をつけた。
明はすぐに納得した。
私はその日に三万円をやった。
貸したのではない、やったのだ。ないときの三万円は有難い。
しかも貸してもらったのではなくくれたのだ。
今のご時世、貸してくれる人さえいない。
ありがたかったはずだ。
私はその三万円はもったいないとか思わない。
必ず十倍返しで帰ってくるはずである。
明は自分が入院したことを喜んだ。
入院は初めてで個室で楽だとはいえ、どこも悪くはないのだから暇でしょうがないらしい。
私は何かあればいつでも相談してこいと言った。
後、再来週には飯でも食べに行こうと言ってフロアで別れた。
私は部屋に帰りベッドに横になった。
その時携帯が鳴った。
一村からであった。
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