詐欺る

黒崎伸一郎

文字の大きさ
上 下
68 / 80

タブーな保険

しおりを挟む
一村は私に落しをする人を入れないかと話を持ってきたのだ。
私は落しなんて詐欺の話は聞いたことがなかった。
一村の言う詐欺はこうだ。
私には詐欺メンバーは七人いたが実際に保険に入っているのは五人である。
一人は一度だけの約束。
一人は二度やったがもう入院のために仕事を休むことができなくなって仕事を辞めるつもりはなかったので詐欺のメンバーも辞めた。
その五人のうち退院した人は半年間は同じ病名での入院では保険金がおりないので半年間は別の仕事をさせる必要があった。
しかし全く別の病気、怪我なら話は別だ。
退院した病気に付随しなければ大丈夫である。
つまりうつで入院してそれから退院して交通事故で入るということである。
それならば半年間待つ必要はなく次の日からでも入院しても保険金は出るのだ。半年の間に手短に稼ぐ、一村の言う落しとはそういった詐欺であった。
一村は解体の会社もやっていた。
その工事で今度三回建てのビルを解体するという。
ビルの三階に細工をして解体途中の足場を崩すのだ。
つまり三階からメンバーを一階まで落下させるというやり方だ。
バラシとも言うらしい。
三階からの転落なら死なないから大丈夫だと言うのだ。
何が大丈夫か分からないが、打ち所が悪ければ死もありうる。
もちろんメンバーに「落しをやらないか?」などと言って「オッケー!」と言う奴などいる訳がない。
一村は保険会社の知り合いとも組んで詐欺をやっていた。
一村のやっていた解体会社はメンバーひとりを社長にして他のメンバーを従業員にするのだ。
もちろん落しをすることなどメンバーには言わない。
保険は労働災害保険と上乗せ保険と呼ばれる保険で死亡した時は三千万円は出る保険である。
但しこれをやるのは四年から五年に一度くらいしかやらないらしい。
オリンピックじゃああるまいしなんだその間の空け方は…。
何度もやると足がつくと言ったが一度でも十分足がつく可能性は高い。
落しを一度すれば会社は一千万円は入るらしいが会社を潰さなければいけなくなるから一千万円で危険なことをしなくてはいけないのならしたくはない。
一村にとっては死亡保証の受け取りも会社にしているので死んでくれたほうがいいと一村は言った。
やはりメンバーを虫くらいにしか思っていないのが良く分かって、私は考えておくとだけ言って一村と別れホテルの部屋に帰った。
帰ってから明から電話があり話ってなんだったのかと聞かれたがつまらない話だったと濁した。
まさか明に落しの話など出来る筈もなく遅くなったから「おやすみ」と言ってシャワーを浴びベッドに横になった。
よくよく考えると一村にはついていけない。
ついていけば必ず私も捕まるか、一村のメンバーの様になる。
そう思うとゾクッと寒気がきて首を二度振って横を向いた。
しおりを挟む

処理中です...