詐欺る

黒崎伸一郎

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浩司のお願い

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私と明は次の日大阪から新幹線で帰った。
新幹線の中で明と話をした。
たわいもない話だったが明は私について来ると言った。
直美みたいな若くて美人と付き合っている私が羨ましいとも言った。
どうやって付き合い始めることができたのかとも聞いた。
私は「それは私が詐欺師だからだ」と答えた。
明は頭をかしげた。
明にしてみれば答えになっていない様に思えた。
私はその問いには答えなどないからどうでもよかった。
私は直美に会いたくなって夕方前にマンションに帰った。
直美はさっき帰ったみたいでシャワーを浴びていた。
ジムから帰るとすぐにシャワーを浴びるのが直美の日課だった。
汗を流して爽やかな女の匂いがする。
いい匂いだった。
私は我慢ができなくなりご飯を作り出した直美をベッドに倒し唇を押しつけた。明の話が私の頭にあった。
なんで美しい人が私と付き合っているんだろう?私はいつも考える。
答えはいつも同じ、詐欺師だからである……。
おそらく直美は私から離れる。
そんなことばかり考えている。
やはり私は普通の人間ではない。
でもそれでいいのだ。
朝起きて直美の作ったご飯を一人で食べる。
直美は今日は少し早めにジムで仕事があるからと言ってマンションを出た。
私は昨夜は疲れていたのになかなか眠れなくようやく寝付けたのは朝方だった。今日は浩司と会う約束をしていた。
浩司は明日から入院だった。
話があるからと昨日電話があったのだった。
昼前に出て約束の喫茶店に行ったら先に来てコーヒーを飲んでいた。
「早いじゃないか!」
「おはようございます。萩原さん」
浩司は少し眠たそうな顔をしていて、目を手でこすりながら挨拶した。
目の下にクマがある。
(最近あまり寝ていないのかな?)と思い「お前薬でもやってるんじゃないだろうな?」と冗談のつもりで言ったのだ。「そんなもんするわけないですよ」
笑いながら浩司は言ったが、何かおかしい。
私は金なら先週二十万円渡したから、なんの話かわからなかった。
「話ってなんだ?」と私は聞いた。
浩司は私に拝みながら「お願いがあるんだ。
萩原さん!今回退院したら金の取り分をもう少し増やして欲しいんだ。」明は一回入院して保険会社から入る金の総額は四百万円以上あるのは知っている。
私も前もって話していたし、給付金が支払われた後に保険会社からハガキか封書で自宅に郵送が来る。
前もって言ってはいるが、やはり四百万円も受け取って百三十万円では不満を持ったのだろう。
但し残りのお金が全て私の利益ではあるわけがない。
毎月の保険料。
病院の通院入院代それに月に何回かは飯、飲みに連れて行っている。
実質私の利益は百五十万円くらいである。
しかしそれを説明したところで明はどうしても金がいるので今回だけはお願いしますと何度も言うのだった。
この前、一村からの金百五十万円渡して間もないが私は今回だけ渡してやると言って全部で二百万円渡してやる約束をした。
何故なら明日入院が決まっているのに万一入院を断ってきたり入院中に何かの不祥事を起こし強制退院などされたらそれこそ私が動けなくなる可能性も高い。
やはり恩を打っておいた方がここは得だろうと思い約束したのだ。
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