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第一幕
07 邪悪な男
しおりを挟む数日後。午後のまどろみの時間。自席で書類を精査していると、突然不躾な低い声が響いた。
少々眠気を催す時間だったので、それは妙に大きく聞こえて、心臓が跳ねた。
「失礼する」
古びた木製の重々しい扉は、やすやすと開かれて大柄な男が顔を出した。身長は180センチメートル後半だろうか。長身である上に厚みもある。見るからに邪悪なオーラを纏う男は、この部屋の主よりも大きな存在感を放っていた。
「澤井君」
大きなデスクに座っていた市長の安田は、副市長である澤井を認めると嬉しそうに笑顔を見せた。
店先で待ちぼうけしていた飼い犬が店から出てきた主を見つけて嬉しそうに尻尾を振っているみたいだ。
「市長、お忙しいとは思いますが少しお時間いただけますかね?」
丁寧な物言いの中には有無を言わせぬ力がある。
安田はにこにこと表情を崩しながら頷いた。
「忙しくなんかないよ。どうぞ」
どちらが主導権を握っているのか全く理解できない。槇は自分の席に座ったまま、応接セットに澤井を案内する叔父の姿を眺めた。
「先日の例の件ですが、さっそく人事と相談しております」
どっかりと座り込む澤井の目の前で、小太りの安田は小さく座る。
「あの件は澤井くんに任せたじゃない。わざわざ報告してくれなくてもいいんだけど」
「そうですか? それは逆にお手間を取らせました」
「ううん。いや。いいんだ。話を聞かせてくれるなら嬉しいよ」
槇は内心面白くないが、今日の相談は少し違っていた。
「人事課長の久留飛は随分と渋っているが、時間の問題でしょう。これ以上の策はないからです。しかし、滞りなく進めるためには、市長のお力は必要なんです」
澤井が安田に助力を求めてくるということは、久留飛が思っている以上にゴネていると言うことだ。いつもだったら、一人で飄々とこなす男なのに……澤井が困っているということだ。
久留飛は今の澤井に唯一対抗できる人間なのかもしれない。槇は「覚えておこう」と内心思った。
「槇、久留飛を呼んでちょうだい」
安田は澤井の意図をくみ取ったのか、槇に声をかけた。それを受けて受話器を持ち上げ、人事課の内線番号を押した。
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