ばかな男は恋で賢くなるのか?

雪うさこ

文字の大きさ
15 / 83
第二幕

04 偽善

しおりを挟む

「野原って、なにしても声あげないんだぜ? 面白いだろう?」

「教科書、こんなにしても黙ってるし……。なあ、雪ちゃん、制服脱がせても黙っていられる訳?」

 蛭田の戯けた様子に、横沢は口元を歪めて意地の悪い顔をしていた。

 ——本当、バカ。黙っているヤツがあるかよ。
 槇は心の中で悪態を吐いた。

 しかし野原はじっと黙っているだけ。横沢の手は彼のワイシャツを手繰り寄せる。白い横腹が露わになった。

「へ~。やっぱり、どこもかしこも白いんだ。それにこの目……なに? コンタクトでも入れてんの?」

「違う……」

 そこで初めて野原は声を上げた。

 ——違う。それは昔から。光にちゃんと当たらないからだって、雪の母さんが言っていた。

 横沢は野原の首の後ろに手を回すと、強引に引き寄せた。

「よく見せろよ」

「横沢、その辺にしておけよ」

 ——触れるなよ。おれの雪に。

 心の中ではそう叫んでいるが、二人とは親友であるということがブレーキをかける。

実篤さねあつは雪ちゃんと幼馴染だって言ったっけ? やっぱり庇うんだな。実篤。お前、雪のこと好きなの?」

 野原から離れた視線は、槇を射すくめた。

「す、好きって、なんだよ」

「だってさ。おれたちが野原を揶揄うと、お前、すぐ間に入るじゃん。それって庇ってるつもり? 嫌なんだろう? おれたちが、こいつに触れるの」

 横沢はいつも寡黙な代わりに色々なことを観察していたというのか。表立って野原を庇護するような態度を取ったつもりはなかったが、全て彼には知られていたということなのだ。

「え? 横沢、どういうこと?」

 蛭田は狐に摘まれたように声を上げた。彼は狡猾であるが、そう頭はよくない。

「実篤はこいつが好きなんだよ。だったら、そばに置いておけっつんだよ。お前さ、本当に胸クソ悪いぞ」

「はあ?」

「いい子ぶって。みんなが気味悪がっている雪のこと本当は心配なくせに、表立って守ることもできない偽善者が」

「おれは、そんなんじゃ……」

「じゃあ、どういうことだ? おれはそういう奴が一番卑怯で嫌いだ。お前はそう悪い奴じゃないと思っていたけどな。お前の腰抜けにはうんざりだぜ」

 彼はそう言い放つと、野原を見下ろした。

「実篤はな。お前の味方しているふりして、おれたちと一緒にいじめる側にも足突っ込んでんだ。お前はそんな中途半端なこいつのこと、信用するのか?」

「横沢!」

 事実だ。それは槇も認識している事実だ。だけど野原には言ってほしくなかった。

 ——知っている。都合がいいって。

 自分の欲のために、横沢や蛭田を切ろうとしている心内も。

 みんなが気味が悪いという野原と距離をとっているのも、人気者の座を守りたいが故。こそこそと野原を救ったって、それも自己満足だったということだ。

 横沢は槇の心中を全て理解しているのだ。図星すぎて言葉に詰まった。

 ふと野原の視線が槇に移った。その横顔は無表情で、なにを考えているかわからない。
 だけど横沢の手の中にいる彼を本気で取り返したいという思いしか浮かばない。苛立って苛立って、どうしようもない衝動に駆られた。

「雪。おれは実篤とは違う。正直な男だ。あんな嘘つきで自分可愛いやつなんて放っておけ」

 横沢の顔が雪の顔に近づく。
 これからなにが起きるのか予感した途端、槇は飛び出していた。

「実篤!」

 蛭田の声が空っぽな教室に響き渡った。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

幼馴染みとアオハル恋事情

有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。 「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。 明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!? 思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。 アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ! 【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定 ※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】 □ショートストーリー https://privatter.net/p/9716586 □イラスト&漫画 https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/ ⇒いずれも不定期に更新していきます

【R18+BL】空に月が輝く時

hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。 そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。 告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。 ★BL小説&R18です。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

恋を諦めたヤンキーがきっかけの男と再会する話

てぃきん南蛮
BL
荒垣は校内で最も悪名高い不良生徒だ。 しかし、ある日突然現れた優等生・寺崎に喧嘩を挑んで返り討ちにされてしまう。 寺崎にリベンジすると決心した荒垣だったが、何故か次第に恋心を抱いてしまい── 8年後。 社会人となった荒垣は偶然行き倒れていた美形を拾ってしまう。 その人物は、かつて恋心を抱いた寺崎本人だった。 冷淡な優等生×バカなヤンキー からの 過労気味国家公務員×家庭系土木作業員

悠遠の誓い

angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。 超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。 ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。 前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)

必要だって言われたい

ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン> 樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。 そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。 ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。 それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。 5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。 樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳 広告代理店のコピーライター、通称タルさん。 妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。 息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。 5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。 春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。 だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。 麝香 要(じゃこう かなめ)30歳 広告代理店の営業マン。 見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。 来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、 タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。 そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。 1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。 この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、 要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。 今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。 舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。

処理中です...