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第4章 友情と恋心
第32話 カースという男?問題
しおりを挟むアジトにやってきて五日が経過した。朝から晩まで、博士と古文書の解析を行っていたから、時間が過ぎるのはあっという間だった。
革命組の人たちは、とても気さくな人ばかりだった。人間もいたけれど、出会ったこともない獣人も多くて、驚くことばかりだった。猫の町で一生を終えたい——なんて思っていたのが嘘みたいだ。
王国は広い。まだまだ見たこともない場所がたくさんあるし、まだまだ出会ったことのない種族の人たちもいっぱいいるということだ。
特に興味を引かれるのは老虎だ。おれと同じ猫科なのに、体格も気質もまるで違った。魚も野菜もなんでも食べるおれとは違い、老虎は肉しか食べない。仕草や生活習慣は似ているのに、なんだか随分と違った種族のような気がした。
老虎はおれと話すことはしないけれど、狐族のシェイドが色々と教えてくれた。彼は、老虎とは学生時代からの親友で、老虎に誘われて革命組に入ったと言っていた。
今日も朝食を摂ってからすぐに、博士の部屋に足を運ぶ。博士はおれを笑顔で迎え入れてくれた。
「月の神殿というのは、太陽の塔と対になるものだ」
博士はそう説明してくれた。
歌姫の覚醒の儀が行われる場所は「月の神殿」と呼ばれる場所ではないかと、博士は予測した。千年前、歌姫はカースをその腕に抱き、月の神殿に眠ったと記載されていたからだ。
「カースは月の神殿で目覚め、そして今ここにある。——ということは、カースは月の神殿の場所を知っているわけだろう。知らないのは私たちだけ。これは圧倒的に不利だね。情報量が不足している」
博士は両腕を組んで唸り声をあげた。おれは、今まで読んできた内容を振り返った。
「カースって人は、本当だったら獣人たちの英雄だよね」
博士は首を横に振った。
「戦争とは、勝者だけが正義を語れるものさ。カースは敗北し、悪の象徴にされてしまった。彼が蘇ったのは、過ちを是正するために必要なことだったのかもしれないね」
古文書を追っていく作業中。おれの気持ちは揺れ動いていた。
カースは、とても優秀な魔法使いだった。ところが、詳しい理由は書かれていなかったが、周囲から忌嫌われ、そして魔法省から追放されてしまった。
しかし、細かいことは書かれていないけれど、カースは王宮を追い出される寸前で、内務省の書記官に配置換えされていた。
「カースはじいさんやエピタフに恨みがありそうだったよ。それって、魔法省を追放されたことに起因しているんだね」
「性格的に問題でもあったんじゃないかい。獣人の権利を主張するような男だ。王宮からは反乱分子として見られていたのだろうね」
「そうかも知れないけれど……。ねえ、この古文書は、随分とカースを優しい人物に書いているね」
「当時は、重版する技術はなかったから、一冊一冊手書きなのだよ。明らかに王宮の禁書とは著者が違っているのだろうね」
「信用できる?」
「ここまで読み進めてみての感触としては、ある程度は信用していいのではないかってところだね。ここまで詳細に書くということは、記録用である可能性が高い。想像物だったら、もっと面白おかしく書かれているはずだからね」
博士は握っていた万年筆を放り投げると、腕を組んだ。
「カースは元々は周囲から忌み嫌われる存在だったけれど、心優しい獣人だったって。花を愛で、音楽を愛していたって書いてあるよ」
「奴にもそんな穏やかだった時期があったってことだ。忌み嫌われる存在っていうのが引っかかるね。そんな存在を王宮が置いておくだろうか。心優しいという記述と矛盾しているね」
「変だね。心優しいのに、どうして嫌われていたんだろう……。書いた人の間違いなのかな?」
「いいや」と博士は首を横に振った。
「読んでいって矛盾がある場所こそ、大事なことを言わんとしているのかも知れないね。カースって奴は、一体何者なんだろうね。いるだけで忌み嫌われるなんて、そうそういないはずだけどね」
(カースって人そのものが、周囲の人たちに嫌な気持ちを与えていたってこと?)
カースの白縹色の瞳を思い出した。憎しみなのか、悲しみなのか。あの瞳は、なにを映し出しているというのだろうか。
「しかし、月の神殿の場所は、どこにも書いていないねえ。月の神殿には、歌姫の遺骸が眠っているのだろう。本体と魂が触れて、歌姫が覚醒するのではないかと思うんだ」
「歌姫の遺骸って残っているのかな?」
博士は笑った。
「残っていることを祈るしかないだろう? じゃなきゃ、お前さんのからだを使うしかなくなる」
博士は古文書を閉じた。
「昼になる。続きは食事の後にしようか」
「はい」
おれは博士の部屋を後にした。通路に出ると、ふと目の前を老虎が横切って行った。彼は手にお盆を抱えている。
彼はエピタフのところに行くに違いない。そう思った。アジトに来てから、エピタフに会いたいと、何度かスティールに頼み込んだが、彼は「うん」とは言ってくれなかった。
エピタフとおれが出会えば、おれが王宮に戻ってしまうと心配しているのだろう。
けれど、おれはここに残ると決めたんだ。そんな心配は無用だ。それよりも、彼の容体が気になっているのだ。
おれは足音を忍ばせて、老虎の後をくっついていった。
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