もふもふ猫は歌姫の夢を見る

雪うさこ

文字の大きさ
44 / 57
第5章 戦禍と平和

第43話 復活した友情?問題

しおりを挟む


 ぼんやりとその様子を眺めていると、ふと隣にいたピスがおれに耳打ちをした。

「太陽の塔から帰還した後のサブライム様は、以前から着々と準備してきたことを求心的に実行した。その手腕は私でも驚くべきものだった。あのお方はずっとこの時を待っていたのだろう。この危機的状況を逆手に取り、貴族院の意見をまとめ上げた。ここから王宮が劇的に変わる。獣人たちも胸を張って歩ける王宮にな——」

 難しい話はわからない。けれどきっと、サブライムは皆が認める王となった、と言うことだ。視線を戻すと、サブライムはスティールに頭を下げたところだった。

「スティール頼む」

(スティールはわかってくれるよね? サブライムの気持ち)

 スティールは咳払いをしてから、博士や先生を見た。二人は大きく頷いた。

「あんたの決定に異論を唱える者がいるもんか」

「まったくだ。お前は立派なおれたちのリーダーだろう」

 二人はスティールの肩を叩く。彼は戸惑った表情をしていたが、二人に背中を押されて、心が決まったようだ。大きくため息を吐いて肩を竦めた。

「わかったよ! わかった。すっごくカッコ悪いじゃないか。革命組なんて作って、王宮を飛び出したのに。なんだよ。戻るのか? あー、カッコ悪いよ。これなら一層のこと、革命組のまま死んだほうがマシだ!」

「そんなことないよ!」

 おれは思わずそう叫んでいた。

「スティールが作った革命組は、人間と獣人が手を取り合っていた。人間だとか、獣人だとか言う人は一人もいなかったし。みんなが自分たちの信念のために命がけで戦える人たちだった。その革命組を作ったスティールは、とってもかっこいいと思う」

「お前——」

 スティールは頬を赤くした。

「王都にはない、あの雰囲気。みんなが生き生きとしていて、とっても輝いていた。スティールとサブライムが仲直りをしたら、きっと……。王都や王宮も、あんな雰囲気に包まれるんじゃないかって思うんだ」

 おれの言葉を受けて、サブライムは笑う。

「あんまり凛空が褒めると、おれとしては面白くないと言いたいところだが。おれからも頼みたい。おれに協力してくれ。お前の力が必要だ。スティール。昔みたいに、三人で夢を叶えよう」

 スティールは口元を緩めると胸に手を当て、深々と頭を下げた。

「王。こんな私をお許しいただけるのであれば。謹んで大臣の銘を賜りたく思います」

 そこにいたみんなが声こそ上げないものの、ほっと安堵の雰囲気に包まれた。これで戦いの準備はできた。サブライムは満足そうに口元を上げると、周囲を見渡して声を張った。

「この危機的状況をみんなで乗り切る。王都民にも通達を出せ。自らできることを考え、そして助力できる者たちを募れ。誰でも構わない。種族や身分は問わない。スティール。それはお前の仕事だ。——やれるか?」

 スティールは一瞬、目を見開いて驚いたような顔をしていたが、すぐに不敵な笑みを見せる。

「荒くれ者たちをここまでまとめてきたんだ。おれにやれないことはない」

「期待しているぞ」

「任せておけ」

 スティールの返答にサブライムは満足したように頷き、それからピスに視線を向けた。

「引き続き各種族の動向を丁寧に監視してくれ」

「承知しました」

 みんなが輝かしい王の言葉に耳を傾け、彼に命を預けようとしているように見えた。

「博士、おれたちは飛空艇が欲しい。防御は魔法省に任せたい。そのために魔法使いたちを乗せて自由に空を飛べる船が欲しいのだ」

「飛空艇はアジトに置きっぱなしさ。人手さえあればすぐに動かせると思うよ」

「それは文化省と自然省に任せる。厚生省と商農省は後方支援だ。籠城戦になる。食糧の確保、治癒体制の拡充を頼む。先生にも助力願いたい」

「アジトに置いてきた薬草を取りに行きたいね」

「厚生省の者たちに行かせよう」

 博士と先生は嬉しそうだ。自分の腕の見せ所、ということだろう。

「司法省は町の中の治安維持だ。カースの間者が紛れているかもしれない。いくら仲間と言えど、よく警戒して振る舞うように注意喚起しろ」

「承知しました」

「それでは、持ち場に戻れ。明日の早朝が勝負だ。それまで役割を果たしつつ休息をとれ。以上、解散——!」

 それぞれの役割分担が決まると、この会合は散会となった。





 みんながいなくなってしまうと、おれはどうしたらいいのかわからなくなった。広い作戦会議室に残されたのは、おれとサブライムの二人きりだった。サブライムは机の上に広げられている王都周囲の地図を熱心に眺めていた。

 なんだか静かすぎて居心地が悪かった。

「あ、あの」

 そっと彼に声をかけると、サブライムは地図から視線を外さずに「なんだ?」と返答した。

「あ、あの。あのね。おれは……おれだって、なにかできるよ。王宮の奥に閉じこもっているなんて嫌だ」

 サブライムは「そうだな~」と呟くと、ふとおれに視線をくれた。サブライムの瞳に見据えられるだけで心臓が跳ね上がった。

 サブライムと再会してから、二人きりになるのは初めてだ。自分が彼を「好きだ」と自覚してしまった今、こうして二人だけになってしまうと、高鳴る心臓をどう抑えたらいいのかわからないのだ。

(恋だ。これが恋っていうもの。切なくて、苦しいけれど、こうして好きな人が目の前にいると、——もう! 恥ずかしくて死んでしまいたい!)

(いやいや嘘だ。死んだらダメだ。死ぬわけにはいかないんだから!)

(でもでもでもー! ど、どうするんだよ。サブライムのこと、ちゃんと見られないじゃないか!!)

 自分の中にいる自分と対話をしながら、耳を両手で押さえる。恥ずかしくて熱くなった顔をサブライムに見せるわけにはいかない。彼がこちらに向かってくる気配に、おれは思わず後ろを向いた。

「お前はなにもするな」

 背後から優しいサブライムの声が響いた。

「でも……みんなが頑張っているのに……」

(おれだけ、なにもしないわけにはいかないじゃない……)

 そう思った瞬間。サブライムの長い腕が伸びてきたかと思うとおれを後ろから抱き締めた。

「ひゃあ! な、ななな。なにをするんだよ!」

 思わず振り返ってしまった。

(だ、か、ら! サブライムの目を見ると、おれ……変な気持ちになるから)

 サブライムは振り返ったおれを更に抱き留めたかと思うと、おれの膝の後ろに腕を差し入れて、ひょいと抱え上げた。おれは慌ててサブライムの首にしがみつく。しっぽがぴんと伸びてから、からだにぺたりと巻きついた。

「やっと二人きりになれたな。凛空」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...