54 / 57
最終章 未来へ
第53話 新しい命?問題
しおりを挟むあれから。王宮で各種族の長たちが集まり、和平調停が結ばれた。それから、今後の国政についての話し合いが行われた。
貴族院には、獣人からの代表者も含まれることになった。王宮勤めの規定も変更され、王宮で働いてみたいという獣人たちが、試験を受けるため長蛇の列を成した。
サブライムは開かれた王政を確立することに成功したのだ。誰しもが彼を王として認め、人間だけでなく獣人からも慕われるようになった。
残念ながらスティールのお父さんであるモデスティは、生涯幽閉されることが決まった。正式に軍事大臣に就任したスティールは、革命組の組員たちを軍事省の特別部隊として組み込んだ。彼らは王都の治安を守るために働くことになった。
博士は文化省の研究所長へ就任。先生は厚生省の病院長に就任した。とは言え、やっていることは同じ。二人とも責任ある立場になっても、自分の好きなことをしているようだった。
それよりなにより驚いたのは……。
「え! エピタフが妊娠って……」
エピタフは、目元を赤らめて老虎に視線を送る。老虎は頭を掻いて笑った。最初は喧嘩ばかりだった二人が、途中から、雰囲気が変わったことに気がついていたのだが。まさか。そんなことになっていたなんて思ってもみなかった。
「ついな。出来心ってやつだぜ」
「まあ! 出来心ですって? なんです、その失礼な物言いは」
「なんだよ。本当のことを言っただけだろう?」
「貴方にとったらその程度かも知れませんけれど、私にとったら一大事なのですよ!」
相変わらずだ。つがいになったというのに、二人は口を開けば喧嘩ばかり。
スティールは苦笑いだ。
「老虎~。お前、手が早過ぎるぞ」
「んなことねえよ。たった数回だぜ? まさか子どもができちまうなんて、思ってもみなくてよ。兎族って言うのは、妊娠しやすいんだってよ」
「私のせいだというのですか? ああ、なんということでしょうか。あんな激痛に耐えられるのは私くらいなものですからね」
(なんの話なんだろうか……)
二人の顔を交互に見つめていると、スティールがこっそり説明してくれた。
「兎族っていうのは、高確率で妊娠する種族なんだ。それに引き換え、虎族は一度の交尾の回数が多いって有名でね。しかもどうやら相当痛いらしい。虎族は交尾の後、相手に恨まれて殺される奴もいるって話だからな」
おれは耳まで熱くなった。これは——大人の事情というやつでは。
老虎は「そう怒るなよ」とエピタフをなだめすかしているが、エピタフの表情がこれでもかっていうくらい険しくなっていく。もう余計なことは言わないほうがいいのではないか、と心配になった。
「老虎も物好きだよな。国一凶悪な兎をつがいに選んだんだからな」
スティールはそう言ってから、はったとして口を噤んだ。老虎に気を取られていたかと思ったエピタフはスティールをじろりと睨んだのだ。
「国一凶悪とは、私のことを言っているのではないでしょうね? スティール」
「い、いいえ。言葉の誤りでした……」
「スティール。怒られんぞ」
老虎はエピタフの怒りの対象が自分であるということを棚に上げて、スティールを「こら」と突いた。
(老虎は幸せなんだ)
老虎のはしゃぎようったらない。その顔は今まで見たこともないくらい、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
(これが、幸せな人が見せる『でれでれ』ってやつか!?)
「お前が言うなよ。そもそもエピタフに怒られているのはお前だろう?」
老虎とスティールが言い合いになっている中、おれはエピタフの隣に立つ。
「いつ生まれるの?」
「十か月後ですよ」
「そんなにかかるんだ」
「子とは、そうやって親の中で守られ成長していくのです」
(おれもそうだったのかな……)
エピタフのお腹をじっと見つめると、先生がおれの肩をぽんと叩いた。
「そんなに見ても、まだなんにもわからんよ」
「お腹の中で大きくなるんだよね。すごいね」
思わず手を伸ばす。エピタフはその手を取って、自分の腹部におれの手を押し当ててくれた。
「まだ私にもわかりませんが。確かに。ここに熱いものが感じられます。命がここにあるのです」
「命とは不思議だろう?」
先生の言葉に、おれは大きく頷いた。先生は目を細めて笑った。
「よくこの戦いを乗り切ったものだ。この子は強い子になるだろう」
老虎は「おれの子だから、当然だろ?」と言った。しかしエピタフは「なんですって?」と眉間に皺を寄せた。
「そんなはずありません。私が生むのですから、私に似て賢く、礼儀正しい子が生まれてくるに決まっています」
「おれの血も半分は入るんだろう?」
「半分も入りませんよ。ほんの少しです」
「なんなんだよ~。虎族は自分の血だけ残したいって本能が強いんだよ。だから虎族の血は強い! おれの血を濃く受け継ぐ子に決まっている。生まれてくる子は虎の耳を持つな」
「いいえ! 兎です」
「いやいや、虎だ」
周囲が呆れている空気感も物ともせず、二人の争いは続きそうな気配だ。それを察知したのか、サブライムが口を挟んだ。
「老虎は一時、故郷に帰ると聞いたのだが」
老虎は頭を掻いた。
「今回、虎族たちは子を人質にされ、カースの連合軍に組みしていました。子を救出したことで、長は我々に助力してくれましたが。そもそもシーワンが悪いのです」
(どういうこと?)
老虎は更に頭を掻いた。
「実は——。兄貴たちがせっかく学費出してくれたのに。おれは勉強もしねぇで革命組に入っちまったんだ。だから、めちゃくちゃ怒られてさ」
「それは——。致し方ないな」
サブライムは笑った。
「せっかく王宮騎士団の師団長に任命してもらったけどよ。任務の合間、少し故郷に帰らせてもらうことを許してもらいてぇ」
「エピタフは置いていくのか?」
サブライムは愉快そうに笑みを見せたまま二人を見つめている。老虎はエピタフを見た。エピタフは「なんです?」と目元を赤くした。
「私は王都を離れ職務を放棄するわけにはいきませんから」
「なんだよ。一緒に来るつもりだったのか? 連れてかねーよ。あんな獣の群れに、またあんたを連れて行くなんて絶対にしねぇぞ」
「だ、誰が。そんな馬鹿なことを。寝言は寝てから言ってください。行きませんから! 私は忙しいのです。貴方などいなくても……」
エピタフは視線を逸らしたが、老虎はその長くて逞しい腕を伸ばし、エピタフを抱き寄せた。
「心配だな。いいか? おれが王都を離れている間に別の男の子なんか孕むんじゃねえぞ。もしそんなことになったら、おれは相手の男も、そいつの子も殺すぞ」
「なにを寝ぼけたことを。この私が? 貴方と『間違えて』つがいになってしまったのは、怪我をして弱っていたからですよ。あんなこと。今後一切ないでしょう。それに、私がそんなに不埒に見えるのですか? 心外です。いくら『間違えて』つがいになったとしても、つがいはつがい。不本意ですが、貴方以外の人と添い遂げるつもりはありません。私を誰だと思っているのですか」
「だってよお。あんた、綺麗だから……」
「シーワン! これ以上、私を愚弄するのでしたら、地下牢に入ってもらいますよ! 著しく名誉を傷つけられました。司法省に訴えます」
「な、なんだよ。おれはただ……」
老虎の声は小さくなる一方だ。エピタフを相手にして、口で勝てるわけがない。
「老虎。諦めたほうがいいよ」
おれはそっと老虎の肩に手を当てる。彼はがっくりとうなだれていた。エピタフは顔を赤くして否定しているけれども。「『間違えて』つがいになった」と言っている割には、老虎のことをすごく心配しているみたいだ。
「寂しくなるね」
エピタフを見ると、彼は首を横に振った。
「そんなことはありませんよ。せいせいします」
けれど、その瞳は寂し気に見えた。
「頼んだぜ。凛空」
老虎の言葉に、おれは大きくうなずいた。
「おれにできることは、なんでもする。だって、エピタフは家族だもの」
「頼もしいな」
エピタフと老虎の子って、どんな子が出てくるのだろか。兎になるのだろうか。虎になるのだろうか。どっちが生まれても、喧嘩になるのかな? そんなことを考えていると、サブライムが笑った。
「次は凛空の番だな」
「お、おれ? えっと。そう約束したけれど。でも……。サブライムにはつがい候補の人がいたんでしょう? その人はどうするの?」
言葉を濁す。すると、スティールとエピタフ、そしてサブライムは顔を見合わせてから笑い出した。エピタフがこんなに笑うのは見たことがなかった。おれはなんだか変なことを聞いてしまったのかと思うと、どうしたらいいかわからなくなって、耳が垂れた。
3
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる